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小島健輔が絶句『無印良品よ、大丈夫か…?』
(2020年07月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

良品計画が100%出資する米国子会社MUJI U.S.A.が7月10日、連邦破産法を申請し、東証の良品計画株価も引け際に急落した。

同時に発表した3〜5月期四半期決算もコロナ危機で売上が前年同期比29.9%減少し、28億9900万円の営業損失、41億1600万円の純損失を計上。20年8月期予想(決算期変更による3〜8月の6ヶ月決算)も19.4%の売上減少、20億円の営業損失、39億円の純損失を見込み、『良品計画は大丈夫か』という懸念が広がった。

米国子会社「破綻」の舞台裏

06年に進出した米国の売上は20年2月期で1億105万ドル(110億2000万円)と同期の良品計画全体の売上4387億1300万円の2.5%に過ぎないが、各地の一等地に出店して家賃負担がかさむ一方で売上が伸び悩み、18億4800万円の純損失を計上して7億2300万円の超過債務に陥っていた。

前期で226億9300万円の純利益を稼ぎ、前期末で純資産が2084億9200万円、株主資本が2032億4600万円もあった良品計画にとって、如何にコロナ危機で打撃を受けたとはいえ米国子会社を見切らねばならないほど追い詰められているようには見えない。そこにどんな事情があったのだろうか。

まず、米国子会社が今後、どれほどの損失を出すかだ。大半の店舗が営業を再開してもコロナ感染の第二波が荒れ狂う中では日本のような売上の回復は見込めず、このまま営業を続ければ今期の純損失は40億円を超えると推察される。

家賃切り下げ交渉も難航しており、不採算店舗を放置しては傷が広がるばかりだから閉店を急ぐことになるが、ここに大きな罠がある。

米国の定期借家契約は10〜15年と長く、契約期間中にテナント側の都合で退店すれば残存期間の家賃全額を一括払いしなければならない。我が国の判例では当該テナントのために特別の建築や設備を投じた場合を除き12ヶ月分を限度とするようだが、米国では全額請求が定着している。

ラルフローレンは17年4月にニューヨーク五番街の旗艦店を閉店するのに3億7000万ドル(当時のレートで410億円)を要したが、そのうち300億円超が13年に締結した15年間の定期借家契約の残存期間家賃だったと推計される。

MUJI U.S.A.の18店舗のうちショッピングセンター内は3店舗だけで、15店舗は各地の目抜き通りに出店しており、それらを閉店すると残存期間家賃の全額が請求される。20年2月期の家賃総額が2020万ドルだったとすれば(もっと高いかも知れない)、目抜き通り店8店舗を閉店すれば、平均残存期間を5年と見て4490万ドル(48億9400万円)が流出する計算になる。

良品計画本体もコロナ前から翳っていた…?

良品計画はMUJI U.S.A.への58億600万円の貸付金と債権を失うリスクを抱え、今期の損失と退店のペナルティを合わせると最大150億円の損失を覚悟しなければならない。ならば連邦破産法を申請して良品計画本体から切り離し、債務を整理し破産法管理下で家賃を切り下げ、退店のペナルテイも圧縮するという選択もやむを得なかったのではないか。

米国子会社の立て直しだけ見れば連邦破産法申請は合理的な選択だが、良品計画本体の信用に波及するデメリットは大きい。

それでも米国子会社を見切らざるを得ない事情が良品計画に在ったのだろう。コロナに直撃された3〜5月期四半期決算は売上が前年同期比29.9%減の787億5300万円、営業利益が28億9900万円の損失、当期純利益が41億1600万円の損失と深手を負ったが、コロナ以前から良品計画の経営には翳りが見えていた。

足を引っ張る「在庫問題」

良品計画の国内事業は19年2月期こそファミリーマートへの商品供給終了もあって5.9%増と減速したが、16年(2月期、以下同)は9.8%増、17年は8.6%増、18年も9.5%増、20年も8.8%増と順調に売上を伸ばして来た。

直営店売上も16年は11.1%増、17年は8.2%増、18年は11.4%増、減速した19年も6.8%増、20年も11.1%増と堅調で、売上に翳りは見られなかった

ただし国内WEB事業(EC)は16年が18.1%増、17年が11.6%増、18年が3.9%増と減速しており、やや回復した19年も10.1%増と大手アパレルチェーンと比べると伸びが鈍い。EC比率も17年の7.0%(174.9億円)が18年は6.5%(181.7億円)、19年も6.6%(200.0億円)、20年も6.8%(222.4億円)と伸び悩んでおり、中国事業の11%とは格差がある。

海外事業は15年の775億4600万円(売上シェア29.86%/営業利益シェア36.1%)から19年は1634億2500万円(同39.9%/42.9%)と大きく伸ばしたものの、20年は1708億4600万円(同38.9%/36.7%)と、売上も利益も壁に当たっていた。東アジアは好調でも欧米は苦しく、コロナ危機の3〜5月も欧米だけが損失を計上している。

国内・海外とも足を引っ張ったのが在庫の肥大で、店頭在庫はコントロール出来てもサプライ(生産)のコントロールが出来ずに国内倉庫と生産地倉庫の在庫が積み上がり、在庫回転は15年の3.1回転から年々低下して20年は2.28回転まで落ち、粗利益のみならず運転資金も圧迫している。

国内直営店の坪あたり販売効率は過去三期間、232万円台を維持しているが、坪あたり実質在庫(国内倉庫在庫含む)は18年の45.16万円から20年は53.70万円に積み上がっている。

店頭こそ18万円前後を保っているが、倉庫在庫比率が15年の50.6%から18年は59.3%、20年は67.0%まで肥大しており、コストを下げるべくの大ロット生産と販売力の乖離が経営効率を狂わせている。

コロナ危機を深手にした「運転資金肥大」

コロナ危機のダメージを大きくしてしまった、もう一つの問題点が運転資金の肥大だ。

良品計画は売上債権回転が18.0日と大型店としては異例に長く、棚資産回転もほぼ160日と過剰在庫に陥っているのに、買掛債務回転は46.5日と短く、運転資金回転が131.4日と長く、1600億円近い運転資金を要している(20年2月期)。そのため、コロナ危機で3〜5月の売上が前年同期から30%減少しただけで、700億円近く借り入れを増やしている。

ファーストリテイリングの9.6日、H&Mの9.2日、インディテックス(ZARA)の10.1日と比べれば良品計画の売上債権回転18.0日は異例に長く、売上金を直接収納できていないテナント店舗や卸取引が要因と思われる。棚資産回転は小ロットで短サイクル生産するインディテックスの72.9日やVMI(VendorがEOSで自動補充分納)活用のワークマンの65.7日とは格差があるが、H&Mの125.0日、ファーストリテイリングの147.9日とは大差なく、リードタイムの長い大ロット生産SPAの宿命だ。

ファーストリテイリングは生産地在庫の管理・運用を大手商社に委託(18年8月期上期までは国内倉庫在庫も委託)しているから買掛債務回転が64.9日と長いが、良品計画はソーシング子会社が商品の生産・調達を担っているため46.5日と短い。

結果、良品計画の運転資金回転は131.4日と、ワークマンの60日、ファーストリテイリングの92.7日に比べて長く、売上が急激に減少すると資金繰りが圧迫される。この問題を是正出来ていれば、コロナ危機に慌てることもなかったし、米国子会社を見捨てることもなかったのではないか。

経営体制の「抜本転換」が問われている

コロナ危機に直撃された20年第1四半期(3〜5月)決算では、長期借入金が699億2500万円も増えて負債は581億円2300万円増加したが、純資産は113億8200万円減少しても1971億1000万円も有り、自己資本比率も前期末の66.6%から54.7%に落ちたとは言え依然、水準は高く、“経営危機”という状態には遠い。

それでも資金繰りを逼迫させた運転資金体質と子会社依存の生産・調達体制には終止符を打つべきで、コロナ危機を契機に良品計画は経営体制の抜本転換を問われている

 

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