小島健輔の最新論文

ファッション販売2003年7月号掲載
『巨艦オンワードが飛翔する時』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

増収増益も成長力がいまひとつ

 オンワード樫山の2003年2月期決算は売上が単体で2.29%増、連結で2.37%増、営業利益は単体で4.07%増、連結で8.21%増、経常利益が単体で3.10%増、連結で5.72%増、当期純利益は連結で88.3%増と、2期連続しての増収増益となった(連結売上は3期連続)。単体の営業利益率は9.6%、経常利益率は11.3%と+0.1ポイント改善され、大手アパレルではファイブフォックスに次ぐ高水準を維持。経常利益額は単体で197億円強、連結で約219億円を計上し、期末の利益剰余金残高は1148億円に達した。
 前期決算で過去の膿みを出し切り、磐石の財務体質を誇るオンワード樫山だが、同社を追撃するファイブフォックスやワールドと較べれば成長力はいまひとつ。連結売上こそ大手アパレル首位の座を保っているものの、二位のファイブフォックスグループとの差はわずか数十億円であり、単体売上では既にワールド、ファイブフォックスに次ぐ第三位に甘んじている。但し、他2社は百貨店売上を小売計上しており、オンワードの百貨店売上を同様に小売換算すれば同社の総売上は約2600億円弱と依然、断突の首位に在る。
 とは言え、ファイブフォックスやワールドが現在のようなペースで成長を続け、オンワードが現在のような低成長を継続するとすれば、やがては逆転が避けられない。オンワードは座して逆転を許すのか、はたまた潜在する巨大な力を斬新なビジネスモデルに変貌させてライバルの追撃を引き離すのか。大手アパレルのシェア争いを占うばかりでなく、日本の百貨店産業の将来を左右する重大な局面として注目したい。 

支店営業体制と『ブランド軸経営』の融合で最強のビジネスモデルが誕生する

 オンワードがライバルの追撃を許してしまった要因は、ライバル企業が着々とブランド軸のSPA事業を拡張し、百貨店はもとよりファッションビルや駅ビル、そして郊外SCにまで店舗を広げていった一方で、かつての成長を支えた支店営業体制に固執してブランド軸SPA事業への本格参入が遅れた事にある。
 オンワードとてブランド軸SPA事業を軽視していた訳ではない。廣内社長も事あるごとに『ブランド軸経営』を強調して来たし、99年の「XXY」や「ダリルK」に続いて、2001年には「プラスA ヴィア バス」や「フィールドドリーム」といった別会社方式によるブランド軸SPA事業が試みられたが、いずれも離陸するに至らなかった。その一方で従来の支店営業体制に乗せた「自由区」は短期でメジャーブランドの地位を確保し、新規開発ブランドの明暗ははっきりと分かれた。
 いったい何故、オンワードのSPA型ブランドは上手く離陸出来なかったのか。まず指摘されるべきは店舗開発や百貨店での売場取り、商品供給や売場運営の稚拙さであり、企画先行で売場ポジションやディストリビューション、売場運営といった営業体制を軽視したギャップが売上の低迷を招いたと推察される。
 支店営業体制下での新ブランド開発であれば、売場ポジションと売場運営を想定したマーチャンダイジングが最優先される。その分、企画のシャープさは損なわれるものの、売場で確実にポジションを得て短期に顧客も付き、売上も確保出来る。このオンワード本来の強さが、何故かSPAブランド開発では発揮されなかった。と言うより、『ブランド軸経営』を標榜しながらも、オンワードの中ではSPAブランド事業は従来の支店営業体制と対立するものと認識されていた嫌いがある。それゆえ、SPAブランド事業は強力な支店営業体制の支援を欠いたまま、別事業あるいは別会社方式で強行された。
 如何にシャープなコンセプトを打ち出して効率的な垂直事業体制を目指しても、その運営経験のほとんどないオンワードが、SPAブランド事業で先行する強力なライバルに伍してポジションを確保し体制を確立するのは容易な事ではなかった。もし支店営業体制のフルサポートがあったとすれば、結果は違っていたかも知れない。
 幾つかの挫折を経て、オンワードは確実に学んだはずだ。『ブランド軸経営』と支店営業体制はビジネスの縦糸と横糸であり、決して対立するビジネスモデルなどではない。それはSPA型ブランド事業でも新流通と言われるストア型SPA事業でも同様であり、ITとVMDの革新によって従来の支店営業体制と『ブランド軸経営』を一体化させる事が出来れば情況は一変する。すなわち、新旧の対立図式から両者が融合した最強のビジネスモデル誕生へと、オンワードの命運は一気に開花する事になる。 

百貨店における覇権争いでも優位に

 SPAブランド事業で先行するライバルがオンワードの首位を脅かすと言っても、彼等とてビジネスモデルの同質化と過剰出店によるブランドイメージの希薄化、特定有望マーケットへの集中による食い合いで成長力に翳りが見えている。
 百貨店のOLフロア(ヤングキャリア〜トランスキャリア)では類似したアウトソーシング型ビジネスモデルのSPAブランドが集中して同質化が激しく、売上が伸び悩むブランドが大半だ。そこにSPAブランド事業にもOLフロアにも出遅れたオンワードが、インソーシング型開発体制と支店営業体制という先住民とは異質なビジネスモデルで新ブランド攻勢をかければ、形勢は一気に逆転してしまう。
 シャープなコンセプトと洗練されたMD、ブリッジ級ブランドに匹敵する高質な面感とVMDという必須条件をクリアしなければならないが、欧米の一流クリエイターやラグジュアリーブランドとの取り組み経験を積んだオンワードの開発体制と支店営業体制が融合すれば、容易にクリア出来る課題のはずだ。
 その強力な融合体制が在れば、元来から強みを発揮してきたニューミセス〜ミセスのフロアはもちろん、欧米ブランドや三陽商会が覇権を争うキャリア・ブリッジのフロアでもオンワードの優位は高まるに違いない。エルビスから譲り受けた4ブランドを中核としてのラグジュアリー事業も、ブランド軸と融合した支店営業体制に乗せてキャリア・ブリッジフロアでの実績を積み上げれば、世界のパワーブランドが競う特選フロアの一角を占める日も来るだろう。
 百貨店におけるシェア争いの現実に目を転ずれば、婦人服ではオンワードが三陽商会に追い付き、レナウンは凋落、東京スタイルもジリ貧を否めない。シェアを伸ばして来たワールドとてオンワードに迫る勢いはなくなったし、ファイブフォックスは百貨店外に主力を転じてしまった。百貨店バイヤー座談会で指摘された『地方店に強く都心店に弱いオンワード』という実態はあるにしても、百貨店が収益性を追求して地方店や郊外店の効率化を急がざるを得ない以上、全国レベルの覇権争いではオンワードの優位がさらに高まる事が確実だ。
 とは言え、紳士服ではオンワードの長期低落傾向が止まらず、シェアを伸ばす三陽商会に逆転寸前まで迫られている。オンワードの決算を見ても紳士服のシェアはジリジリと下がっており、今2月の最新決算では婦人服の六掛けにまで落ち込んでいる。紳士服では婦人服ほどブランド軸化が進んでおらず、支店営業体制との融合以前の状態に留まっている事が災いしているようだ。ブランド軸を強化した融合体制でブリッジゾーンに攻勢をかけ、三陽商会の追撃を振り切るべきであろう。

 

新流通分野ではメガストアで大逆転

 SCやファッションビル等の新流通分野では先行するファイブフォックスが同質業態の過剰露出で頭を打ち、急拡大しているワールドとて年間で数十億円を積み上げているに過ぎない。ファイブフォックスの体制立て直しには踊り場が必要だし、ワールドとてSPAブランド事業から移植した高効率志向のビジネスモデルでは投資収益性に限界があり、一気に加速出来る情況ではない。
 大手アパレルのストア型SPAはビジネスモデルのみならず、団塊ジュニアファミリー狙いのボリューム価格業態という点でも共通しており、これらがモールに集結しても同質化で食い合うだけで、来店客の多様な期待に応える訳ではない。
 リージョナルSCを志向して開発された郊外大型SCのほとんどは採算性が読めないため百貨店が出店しておらず、多様なブランド商品を求める来店客の期待を裏切るばかりか、広域集客にも支障を来している。最近の大型モールではニューミセス〜ミセス層、アダルト〜シニア層も数多く来店しており、ベター〜ブリッジ級のブランドを求める声も高まっている。彼等の期待に応えるブランド商財の結集が急務となっているのに、百貨店のSC進出は二〜三の例外を除いてほとんど目処が立っていないのが実情だ。
 百貨店のファッションフロアを構成する多様なブランドを抱えるオンワードがそれらを結集したメガストアをモールに出店すれば、この課題は一気に解決する。オンワードにはそれを可能とするだけのブランド商財群と膨大な資金力、エリア毎に面を効率的にカバーする粘り腰の支店営業体制が在るからだ。
 恐らくは大型SCを抱えるデベロッパーの総てがこの構想に飛びつき、熱いラブコールを送る事になるだろう。地域の百貨店にしてもオンワードに運営を依託されれば、投資のリスクなしに人員配置を効率化出来、人件費問題を解決して新たな発展チャンスを掴む事が出来る。オンワードにとっても、これは決定的な急成長チャンスとなるはずだ。
 これまでブランド軸で百坪単位の出店を重ねて来たライバル企業にとって、オンワードの千坪級メガストアの攻勢は決定的なダメージと成らざるを得ない。新流通分野の勢力図は瞬く間に書き換えられてしまう事になる。 

百貨店を支える巨大窓口問屋に化けるオンワード

 百貨店業界は流通革新にも郊外SC時代にも乗り遅れ、高コスト体質を是正出来ないまま取引業者にコストを転嫁し続けて来た。消費低迷が深刻化する中、それらの延命策も限界に近付き、高労働コストという聖域に手を付けて非効率な地方店や郊外店の運営を抜本的に低コスト化するか、撤収するかの決断を迫られている。
 量販店や米国のデパートメントストアのようにチェーン・マネジメントによるコストダウンを追求する百貨店もあるが、個店対応力を損なって売上を落とすケースがほとんどだ。売上ダウン以上にコストを下げられれば利益は増えるはずだが、現実にはチェーン化への店舗標準化投資とチェーン・ロジスティックスへの物流投資/IT投資が嵩んで、利益はかえって圧迫されざるを得ない。その分を人員削減によって埋め合わせているというのが実情ではなかろうか。
 多様な調達手法を活用し個店対応力が営業成績を左右する百貨店では、24店舗程度までは個店対応を優先したジュニアチェーン体制のほうが効率的。店舗の標準化やロジスティックスにまで踏み込むナショナルチェーン体制のメリットが個店対応メリットを上回るのは一般に百店舗以上で、少なくとも48店舗が分かれ目となる。それは米国ノードストロム社の業績史を見ても明らかだ。
 残念ながら、今日の日本ではナショナルチェーン体制が活きるほど多店舗を展開する百貨店は存在しないから、チェーン化を志向しても結局は支店サポート的な商品本部制に留まり、個店対応のディストリビューションやロジスティックスは全国ネットの体制を持った大手納入業者に依存せざるを得ない。ましてや支店経営や単独の地方百貨店は、そのようなサポートを欠いては営業の継続も困難になるだろう。
 にも拘わらず、大手アパレルのほとんどはリストラとブランド軸経営への転換過程で、地方の営業拠点を閉鎖しディストリビューションとロジスティックスの機能を放棄しつつある。今や、全国ネットでこれらの機能を果たし得る大手はオンワードしか存在しないのだ。
 今後ともオンワード以外の大手アパレルは効率的なビジネスモデルへの集中を志向して支店営業機能を放棄していくだろうから、地方百貨店はもちろん、大手百貨店とて地方店や郊外店はオンワードなしには運営が困難になっていく。となれば、ブランド軸で独自に運営するSPA型ブランドを除いて、平場ブランドや地方や郊外までカバー出来ないブランドは、ロジスティックスばかりか帳合機能までオンワードに依存せざるを得なくなるも知れない。また、それをオンワードが引き受けない限り、閉店を余儀無くされる地方店や郊外店が続出しかねない。
 衰退の一途に在る日本の地方百貨店を存続させ郊外店の発展を図るには、オンワードは巨大窓口問屋に化けざるを得ない。他の大手アパレルが負の資産として放棄しつつある支店営業機能が、オンワードにとっては独占的な核兵器となるのだ。その実現のためにも、オンワードは支店営業体制と『ブランド軸経営』の融合を急がねばなるまい。 

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