小島健輔の最新論文

販売革新2006年6月号掲載
『イオン vs. IY PBウォーズを総括する』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 ナゴヤドーム前SCを皮切りに浦和美園SC、柏SCと、新設SCに次々と新生AEONファッション部門たるAEONSTYLE STOREがお目見えしているが、肝心の新開発/刷新PBの出来は如何であろうか。前後して立ち上がったイトーヨーカ堂の新PB群と売場展開も同時に評価し、両社のファッション部門革新を採点してみた。

AEONSTYLE STOREとPB群

 企画・開発からロジスティクス、売場運営まで一貫したSPA体制を標榜して開発・刷新されたPB群とその売場展開たるAEONSTYLE STOREは、量販店らしからぬ派手な米国デパートメントストア的VMD手法もあいまって業界に大きな衝撃を与えた。
 新規投入はレディスでは団塊ジュニア世代向けタウンカジュアルの「persodea」とパーティドレスの「Bo・ Dre」、団塊世代向けお出掛け着の「ESSEME」、メンズでは団塊ジュニア世代向けカジュアルの「sortisso casual」とシティカジュアルの「sortisso」。刷新したのはレディスではミッシー〜ニューミセス向けタウンエレガンスの「EMMA JAMES」、メンズではポスト団塊〜団塊世代向けクラシコイタリア系シティカジュアルの「Full House」と団塊世代向けイタトラ調ビジカジの「inteante」(KEN’S EYE)。基幹PBの「TOP VALU」は永澤陽一を起用してレディス/メンズともファッション性を高め、従来の価格志向から大きく転換した。
 「persodea」「ESSEME」「TOP VALU」「sortisso casual」「sortisso」は平場での大型コーナー展開、「Full House」はインショップ展開、「Bo・ Dre」「EMMA JAMES」「inteante」は専用レジまで備えてブティック展開されている。
 フロア全体の印象はこれまでの雑然とした体育館的安っぽさが払拭され、PDS(米国の大衆百貨店)的な洗練感さえ漂っている。それには什器規格の統一とコーナー括りの明確さに加え、VP/IPの計画的な配置、壁面の陳列レンジ/VPレンジの区分統一、色配列ルールの統一、スポット照明の多用といったVMD体系の刷新が大きく寄与しているのではないか。それは15年間一貫して私がイオンに提唱して来た姿に近似している(ずっと拒絶されて来たが)。
 前世紀末からのスーパーセンター志向から一転してのPDS志向を目にして、それではあの6〜7年間はいったい何だったのかと言いたくなる。SC核店舗とは相容れないスーパーセンター幻想に囚われ、顧客の不便も顧みず集中レジに固執し、体育館然とした売場構成と価格志向に走ったのは単なるトレンドだったのか。であれば今回のAEONSTYLE STOREもまた一時のトレンドという事になる。世界の巨人と覇を争う寡占巨大企業にしてはプリンシプルを欠くと指摘せざるを得ない。
 ちなみに、AEONSTYLE STOREはVMD的にはPDSを志向してもMD的には決してPDSを志向していない。なぜならPDSは著名NBのセカンドラインNPBを中核に構成されるものであリ、価格帯もロワーモデレートのPB平場とアパーモデレートのNPBインショップという巾になる。AEONSTYLE STOREはアパーポピュラー〜ロワーモデレートのPBを中核に構成されており、あくまでPDS的VMD環境のGMSと位置付けられる。AEONの意図する所も同じであろう。

AEONSTYLE STOREのレディスPBを採点する

 「persodea」は団塊ジュニアを対象に、ナチュラルフェミニン〜フェミニンモード軸とナチュラルモード軸のタウンカジュアルをナチュラル面のニート・フィットで展開。アパーポピュラー中心にロアーモデレートにかかる価格帯で、フォークロア/ロマンティック/ワーク感覚ディティールやウォッシュ加工を施して味を出している。部分的ながらカラーMD手法を取り入れているものの企画は凡庸で、面感も平場商品と大差ない。ニット/カットソー/ブラウス等の完成度と比較してジャケット/ボトムはサイズ感が大きく、団塊ジュニア向けにしては野暮ったい印象。全アイテムのサイズバランス/パターンを見直して統一を図るべきではないか。
 「Bo・ Dre」は団塊ジュニアを対象に、フェミニンモード〜エレガンス軸のオケージョンドレスをアパーモデレート〜ボリュームベターの価格帯で展開。従来のカラーフォーマルを単品アイテムまで拡げたものの量販アパレルとのタイアップMDの域を出ず、売場VMD環境を除けば新鮮味を欠くが、オケイジョンニーズをきちんと捉えようという姿勢は高く評価される。
 「EMMA JAMES」はミッシー〜ニューミセスを対象に、フェミニンモード〜ナチュラルカジュアル軸のタウンエレガンス/タウンカジュアルをキレイ目ナチュラル面のスタイリッシュ寄りニート・フィットで展開。素材/仕立ての完成度の高い商品を打ち出しながらも安価な特売商品や薄味商品等も混在している為、アパーポピュラー〜アパーモデレートと価格帯が幅広くポジションが不明確。完成度の低い低価格アイテムを削除しないとNPBの格を保てない(元々は「リズ・クレイボーン」のセカンドラインだった)。ややスタイリッシュにより過ぎたフィットも顧客の間口を限定しているのではないか。
 「ESSEME」は団塊世代を対象に、フェミニンモード/ナチュラルモード軸のタウンエレガンス/タウンカジュアルをキレイ目ナチュラル面のニート〜コンフォート・フィットで展開。価格帯はロアーモデレート〜アパーモデレートとやや高めだが、素材感/仕立ての良い百貨店感覚の上品服は割安感がある。色が地味めでインパクトを欠く凡庸な企画だが、郊外ミセス層のお出掛け服ブランドというポジションは明確だ。
 「TOPVALU」は団塊ジュニアを中心に20代後半〜40代半ばをカバーする、ナチュラルフェミニン/ナチュラルモード軸のカジュアルをナチュラル面のニート〜コンフォート・フィットで展開。ワンウォッシュ加工した肌触り良い綿/綿麻素材のベーシックアイテムを軸に、ヘルシーなフェミニンレイヤード/ワークカジュアルをアパーポピュラー中心の価格で提案している。価格の割に縫製がキレイで「persodea」よりはアウターのパターンも詰められているが、薄味な単品平場感覚のMDから抜けきれておらず、コーディネイト提案の他PBと比較するとやや割高感がある。
 「Emom」(美濃屋のNBだがNPB的位置付け)はミッシー層を対象に、ナチュラルフェミニン/ナチュラルモード軸のタウンカジュアルをナチュラル面のコンフォート寄りニート〜コンフォート・フィットで展開。価格はアパーポピュラー中心で、素材/縫製/シルエットが不安定な上に凡庸な企画で平場と同化してしまい、せっかくのキャラクター(菊池桃子)が活かされていない。価格をワンレンジ上げて生産背景を格上げし、NBらしい完成度を追求すべきではないか。
 平場は従来通りのアイテム別編成だが、ナチュラルカジュアルの「サラブランド」、スポーツモードの「マリ・クレール」、ソフトトラッドの「キャンパスライフ」等のNBをコーナー展開してPBが手薄な領域をカバーしている。PB売場と「ルート80」などのテイスト編集売場だけでもヤング〜団塊ジュニア、ミセス〜シニアと客層が広く、トラッドミックス〜フェミニンモードのフェミニン軸、ナチュラルカジュアル〜ナチュラルモードのカジュアル軸で量販客層をしっかり捉えている。
 PBは売場環境やVMD手法で差別化を図っているものの平場商品と同価格でテイスト/仕上げ面も類似しており(恐らく生産背景も大差ない)、平場との同質化を否めない。開発体制は刷新しても肝心の生産背景が大差なくては商品の“格”は変わらず、ブランディングの根幹が崩れてしまう。「まず価格在りき」から「まず品質“格”在りき」に基本スタンスを改めるべきではないか。それでも価格差はトップス千円〜アウター弐千円でしかないのだから。

AEONSTYLE STOREのメンズPBを採点する

 「sortisso casual」は団塊ジュニアを対象に、プレップ〜ユーロワーク軸のカジュアルをナチュラル面のニート・フィットで展開。加工/こなしを含めた完成度から見てアパーポピュラー中心の価格帯は値頃感がある。「sortisso」と重複するナチュラルモードアイテムをカットしてお兄ごなしのサーフ・アメカジを加え、団塊ジュニア向けの総合カジュアルブランドとして位置付けるべきであろう。
 「sortisso」は団塊ジュニアを対象に、ナチュラルモード軸のシティカジュアルをキレイ目ナチュラル面のニート・フィットで展開。アパーポピュラー〜ロアーモデレート価格とは思えない良質な商品を揃えているが、フィット/パターンにムラがあるのは残念だ。お兄系のモードな艶を抑えてラテン/リゾート味を加え、ナチュラル感を強めた方が顧客の巾が拡がるのでは。
 「Full House」はポスト団塊〜団塊世代を対象に、ユーロワーク〜クラシコイタリア軸のシティカジュアルをややキレイ目面のニート〜コンフォート・フィットで展開。商品の完成度からみればロアー〜アパーモデレートの価格は割安で、カラーVMD/店舗環境も含めたブランディングは百貨店ブランドと比較しても遜色ないが、生産背景への踏み込みが補給の硬直化に繋がるリスクが指摘される。NB級に洗練されたMDだけにVMD運用と連動したコーディネート提案が不可欠だが、早くもカラー陳列の混乱が見られるのは残念だ。
 「inteante」(従来のNPB「KEN’S EYE」をショップ化したもの)は団塊世代を対象に、イタリアン・トラッド寄りのビジカジをキレイ目面のコンフォート・フィットで展開。品質から見ればロアー〜アパーモデレートの価格は妥当だが、凡庸な企画ばかりでNPBとしてインパクトを欠く。団塊世代の多様なライフシーンを考えれば、小紋柄シャツやジャカードニット等のアクセント・アイテムやキャラのある雑貨も必要なのでは。ショップ化するのなら企画から生産背景まで同時に刷新し、「Full House」並みに企画段階からVMDを仕組むべきであった。
 「TOP VALU」はノンエイジ感覚のフレンチ寄りベーシックカジュアルをナチュラル面のニート〜コンフォート・フィットで展開。品質から見ればアパーポピュラーの価格帯は妥当だが、薄味な上にテイスト/フィットにまとまりを欠いて平場に埋没している。中間世代向けウイークエンドカジュアルとノンエイジなベーシックパーツという二兎を追って性格が曖昧になったのではないか。前者をカバーするワンランク上の新たなPBを開発し、「TOP VALU」はもっと「ユニクロ」よりのベーシックパーツに徹するべきであろう。
 生産背景も面仕上げも平場と大差ないレディスとは異なり、二格上のNB的ものづくりも一部に見られるなど総じて品質と感性の向上は著しく、ターゲットの明確化と売場構成のまとまりも評価できる。手薄な20〜30代向けのストリート&サーフアメカジ、中間世代(40〜50代)向けのウイークエンドカジュアルをカバーすれば、構成上は一応の完成が見えるのではないか。

ニューイトーヨーカドーとPB群

 百貨店やアパレルから多くの人材を招いてセブン&アイ生活デザイン研究所を設立し、イトーヨーカ堂衣料事業部と連係して企画・開発から売場運営、プロモーションまで一貫したSPA体制とブランディングを志向。既存PBを再編して「pbi」など12ブランドに集約し、来年中にイトーヨーカドー全店の衣料売場を刷新する計画だが、「AEONSTYLE STORE」のような“業態”コンセプトを欠いているのは残念だ。
 新規投入PBは団塊ジュニアファミリー向け基幹ブランドの「pbi」、キャンパスカジュアルの「pbiBis」、レディスではティーズ〜20代向けカジュアルの「Ripe」「G.D.H」、50代向けタウンカジュアルの「L&Beautiful」。30〜40代向けカジュアルは既存の「エスプローズ」「Xモア」が世代別にカバーする。メンズではポスト団塊世代向けカジュアルの「epom」、シニア向けカジュアルの「マッキオ」、20代前半から30代半ば/30代後半から40代/40代中ばから50代向けビジカジとしてそれぞれ「gentlino」「Ischia」「SAVOIA」を設定している。
 いずれのPBも大小はともかく大型平場でコーナー展開されており、ジャスコのようなインショップ/ブティック展開は見られない。解りにくいブランド名や独りよがりな世代切りコンセプトとあいまってブランディング上は好ましくないが、運営上は無理が無く現実的な売場構成と言えよう(消長も容易)。
 フロア全体の印象は什器規格の統一によって整然としたものになったが派手なVPもなくIPも抑制気味で、AEONSTYLE STOREのような華やかさはない。どこから見てもよく出来たGMS衣料売場であって、NBショップは並んでいてもPDSと見紛う人はいないだろう。衣料売場総体の規模もAEONSTYLE STOREの6掛け程度とコンパクトで、SC核店舗としてはスケール感も華も欠く。
 AEONSTYLE STOREがSC核店舗としての戦略性を明確に現しているのに対し、ニューイトーヨーカドーはGMS衣料部門の革新に留まっており、両者の戦略次元は大きく異なる。セブン&アイホールディングはミレニアムリテイリングという都市百貨店部隊を有しており、GMSに求める戦略性がAEONとは異なるからであろう。  

イトーヨーカドーのレディスPBを採点する

 「pbi」は団塊ジュニアを中心に20代後半〜40代前半をカバーする、トラッドミックス/フェミニンモード/ナチュラルモード軸のタウンカジュアルを展開。キレイ目ナチュラル面のニート・フィット中心だが、トップスがやや細身のスタイリッシュ寄りに対してアウター/ボトムスはコンフォート寄りと統一を欠く。価格はアパーポピュラー中心にロアーモデレートまでだが、アイテムによってクオリティのバラつきがある。
 ニットは長超綿/高質ハイゲージ天竺ニット等を多用してインターシャや減らし目等にこだわり、ブラウスは綿オックス/フランス綾等の良質素材でピンタックやフリル使いに凝る等、完成度が高く割安感を感じる。対してアウターはコンパクトシルエットやマリンディティール等のトレンドを取り入れているものの、身幅に対して袖幅が太すぎてシルエットが野暮く、素材の粗悪さや縫製のピリつき等も目立ち、価格と見合わない商品が多い。アイテム毎のスペック/生産背景の格差を是正してフィットやクオリティの統一を急ぐべきであろう。
 「L&Beautiful」は30代半ば〜40代のニューミセスを対象として、フェミニンモード軸に一部トラッドフェミニンも加えたタウンカジュアルを展開。キレイ目モード寄りのナチュラル面で、アウター/トップス/ボトム共にややコンフォート寄りのニート・フィットでまとまっている。価格はアパーポピュラーからロアーモデレートに収まっているが、一部展開されていた「L&Beautiful black」(素材/仕立てがワンランク上)はアパーモデレート中心の設定で、大きな価格差には違和感があった。
 ジャケットはステッチの波うちやピリ付き、袖幅/ウエストのダボつきが目立ってシルエットが汚く、パンツは股上が深い5ポケットタイプばかりでおばさんぽさが際立っていた。クオリティの低さやアイテムの重複が目立ち、凡庸な企画でインパクトを欠いていたのは残念だ。
 総じてPBは百貨店感覚の洗練されたテイストに絞り込まれ、大衆向けのくだけたカジュアル商品は一切排除されている。百貨店感覚の洗練された商品を量販価格で提供している点は評価出来るが、GMS衣料品のカバーすべき領域の5割程度しか押さえておらず、NBと平場を加えても6割程度に留まる。カバー率が8割に達するAEONSTYLE STOREと較べればSC核店舗としての集客力には大差があり、独りよがりな絞り込みを指摘せざるを得ない。空白ゾーンは20代〜団塊ジュニア向けの1)ストリート系ナチュラルカジュアル、2)お姉系グラマラスモードカジュアル、3)モテ系タウンエレガンス、4)中間〜団塊世代向けお手頃エレガンスなど多岐に渡っており、PBの位置付けを見直してカバーを急ぐべきであろう。  

イトーヨーカドーのメンズPBを採点する

 「pbi bis」は10代後半から20代を対象に、サーフ&スポーツ/ストリートアメカジ軸のタウンカジュアルをナチュラル面のスタイリッシュ・フィットで展開。完成度からみればアパーポピュラーの価格帯はお手頃感があるが、加工/こなしが薄味でヤングカジュアルとしては物足りない。清潔感やポップさを残しつつ、加工/ディティール変化でヘルシーなお兄アメカジを目指すべきであろう。
 「pbi」は20代後半から30代を対象に、プレップ/フレンチカジュアル軸のアーバンカジュアルをナチュラル面のスタイリッシュ〜一部ニート・フィットで展開。パターン/縫製等の完成度からみればアパーポピュラー中心にロワーモデレートにかかる価格帯はお手頃感があるが、面仕上げ/色展開/フィット等でキレイ目スタイリッシュ指向が強く、GMSの客層には馴染まないプレップ・アイテムに偏っている。ユーロワーク味を加えてデイリーカジュアル要素を強化し、基幹PBとして広範な客層に応えるべきであろう。
 「epom」はポスト団塊世代を対象に、スポーツ/ユーロカジュアル軸のウィークエンドカジュアルをナチュラル面のニート〜一部コンフォート・フィットで展開。品質から見ればアパーポピュラー〜ロアーモデレートの価格帯は妥当だがデザイン性に欠ける為、ターゲット世代は量販ブランドやキャラクター性のNBに流れるのではないか。スローライフに対応すべく、アウトドア対応のカジュアルアイテムを増やすべきであろう。
 スーツ主軸の「gentlino」は20代前半から30代半ばを対象に、ブリティッシュトラッド寄りのクロージングをキレイ目面のタイト〜スタイリッシュ・フィットで展開。構築的なパターンや縫製、素材感からみればロアーモデレートからアパーモデレートにかかる価格帯はお手頃だが、タイトなフィットや派手なディティール/素材使い等、GMSの客層にはデザイン性が強過ぎる。もう少しは現実の顧客を正視すべきではないか。
 「Ischia」は30代後半から40代を対象に、イタリアントラッド寄りのクロージングをキレイ目面のニート・フィットで展開。価格帯はロアーモデレート〜ベターと極端に広いが、必ずしも価格に見合ったクオリティを出せていない。世代切りという位置付けを見直して低価格ラインをカットし、インポート素材使いの高付加価値ブランドとしてリ・ブランディングすべきではないか。となれば必然的にインショップ展開が求められる事になる。
 「SAVOIA」は40代中ばから50代を対象に、イタリアントラッド寄りのクロージングをキレイ目面のニート〜ややコンフォートなフィットで展開。品質から見ればロアーモデレート〜アパーモデレートの価格帯は妥当だが、サイズ感以外は「Ischia」に酷似しており、ブランドの位置付けが不明瞭。ターゲット世代が安心出来る素材/色のスーツを増やし、「Ischia」との棲み分けを明確にすべきであろう。
 全体としてパターン/縫製/ファッション感度の向上には目を見張るものがあるが、百貨店的なキレイ目シティカジュアル〜ビジカジに偏っており、大衆向けのくだけたカジュアルは一切排除されている。GMS衣料品のカバーすべき領域に対してPBのみで4割、NBと平場を加えても6割程度しか押さえおらず、1)団塊ジュニア向けストリート&サーフアメカジ、2)団塊ジュニア向けユーロワーク&ナチュラルモードカジュアル、3)団塊世代向けウィークエンドカジュアルなどが空白ゾーンになっている。
 これではGMSと言うより価格を手頃にした都市百貨店の平場であり、GMS衣料の改革という戦略スタンスとは大きく乖離している。レディス同様に顧客との乖離は著しく、揺り戻しは避けられないのではないか。  

両社のPB戦略は華開くか

 AEONSTYLE STOREはSC核アップスケールGMSとしての戦略性、衣料売場総体のVMD環境訴求とブランディングが明確であるのに対し、ニューイトーヨーカドーは衣料部門の改革に留まってSC核アップスケールGMSとしての戦略性が希薄で、VMD環境訴求とブランディングも欠いている。戦略的には前者のリードを否めないというのが実感だ。
 商品面では両者とも問題が山積している。AEONSTYLE STOREは顧客カバー率は高いものの、レディスのPBが平場商品と差別化出来ておらず、開発プロセスへの突っ込みの甘さが指摘される。逆にメンズの「Full House」は生産背景に入り過ぎ、補給と売場維持が危惧される。ニューイトーヨーカドーは百貨店的な洗練と独りよがりなコンセプトに走り過ぎ、顧客カバー率の低さと顧客との乖離が指摘される。前者は小幅な見直しで済むだろうが、後者は全面再構築が避けられないだろう。
 売場運営では両者は異なる問題を抱えている。AEONSTYLE STOREはそれなりのVMD体系が構築されているが、幾つかの箱展開PBは販売効率との乖離から継続が危惧される。20〜30坪のショップにパート込みで5〜6人/正社員換算で3名前後を張り付けているが(それでも14時間営業を週休2日制でカバーすると大半は一人保守になる)、販売効率から考えれば現状の人員量の維持は不可能だ。繁閑の配置格差をつけて維持するには60坪以上の運営ブロックが不可欠で、複合レイアウトに改めるか平場コーナーに組み直すかの選択を迫られよう。
 ニューイトーヨーカドーのPBは平場の大型コーナーに組まれており、運営は容易で各PBの拡縮も自在(逆に安易に拡縮されがちだが)だから維持に不安はない。その分、VMDのインパクトは削がれ、PBのブランディングにも限界がある。どちらが良いとは言えないが、前者がハードな枠組みに縛られて大幅な路線転換が困難であるのに対し、後者の方は何時でも修正・路線転換出来る。それを硬柔の差と見るか決意の差と見るかで評価は割れるだろう。
 AEONSTYLE STOREが全組織を挙げての成果であるのに対し、ニューイトーヨーカドーはスタッフ組織とライン組織の協業の産物という違いも指摘される。どちらが不退転の挑戦なのか、その答えは秋口にも明確に出るのではないか。  

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