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WWD 小島健輔リポート
『コロナ決算に見るオンワードと三陽商会の瀬戸際と再生』
(2020年10月14日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 三陽商会は10月6日、オンワードホールディングスは同9日、21年2月期の中間(第2四半期)決算と通期見通しを発表したが、そこには軽視できない経営リスクが現れていた。レナウン亡き後、大手アパレルが追い詰められ百貨店離れが加速すれば、百貨店の閉店も加速して百貨店業界も共倒れするという最悪のシナリオが現実味を帯びて来た。両社の中間決算と通期見通しを検証し、再生への道筋を投げかけてみたい。

 

■四重苦で磨り減ったオンワードの財力

 オンワードホールディングスの21年2月期第2四半期(3〜8月)決算はコロナ禍の百貨店長期休業と営業再開後の売上回復の鈍さに直撃され、売上は805億8500万円と前年同期から32.0%減少して114億8700万円の営業赤字、149億6700万円の純損失を計上。純資産は20年2月期末の940億3600万円から677億8700万円と262億4900万円も減少し、ピークだった15年2月期の1853億1500万円の36.6%まで目減りしてしまった。

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 純資産の減少要因は親会社株主に帰属する四半期純損失151億8800万円に加え、配当金32億4000万円、会計方針変更による期首剰余金の減少100億1100万円を有価証券評価差益の増加21億9100万円が相殺した結果と説明しているが、前期までの会計処理で持ち越された損失も加わったと推察される。

決算書を見る限り、ピークの15年2月期から今中間期までに失われた純資産1175億2800万円のうちコロナ禍によるものは129億3000万円(営業損失114億8700万円+臨時休業損失32億5400万円−雇用調整助成金18億1100万円)ほどで、百貨店販路の衰退による営業損失と店舗撤退減損がその倍強、あとはジル・サンダーなど欧米アパレルの買収や投資に関わるのれんや投資有価証券の減損と営業損失、自己株式の評価損失だったと推察される。オンワードは百貨店が衰退する中も積極的な投資や営業活動で業績を維持して来たが、リスクの大きい海外投資で大火傷を負って資産を擦り減らした。

百貨店からECへの転身にしても、18年3月の機構改革で支店在庫を全廃してECと一体の関東支店などに在庫を集中するなど、後戻り困難なルビコンを渡っており、良くも悪くも自ら退路を断つ大胆さが指摘される。その決断で地方百貨店の命運が決まったことを思うと、百貨店に対する衣と鎧の極端な裏表には驚くほかはない。

 

■オンワードの通期見通しと課題

 コロナ禍の上期ではオンワード樫山の百貨店売上が57.8%も減少してシェアが35.3%に落ち、ECが44.2%も伸びて39.3%とシェアが逆転。国内事業全体でも、38%伸びて196億円9400万円に達したECが28.6%を占めてSCその他店舗販売の28.1%を僅差で上回り、百貨店は24.4%まで落ちた。とりわけ第1四半期(3〜5月)では瞬間風速とは言え、百貨店売上が前年同期から71%、SCや駅ビルの売上が40%も落ち込む中、ECは50%も伸びて全社売上の45%に達し、オンワード樫山単体では45.8%に達した。コロナ禍の特殊事態とは言え、ECと百貨店のシェアが逆転し、まだ何年もかかると見ていた『半分はECで売る』という目標がほぼ実現したインパクトは大きかった。

 下期は国内売上が前年比83.8%まで回復して855億6000万円、通期は同76.6%の1497億9400万円を予想。営業利益も下期は85億8100万円の黒字、通期でも5億6500万円の黒字になると見込んでいる。しかるに海外売上は下期も前年比77.2%の213億5500万円、通期も同71.5%の377億0600万円と回復が鈍く、営業利益は下期も55億3100万円の赤字予想で、通期も86億5100万円の赤字にとどまる。結果、国内・海外合わせての通期連結売上は前期比75.5%の1875億円、89億4500万円の営業損失、86億円の当期純損失を予想している。

 国内事業は営業黒字に浮上しても海外事業の営業赤字が足を引っ張って連結損益が営業赤字になるという構図で、地域の明暗はあっても海外事業が業績回復のネックになりそうだ。失われた純資産1175億2800万円の恐らく半分近くは海外事業に起因するもので、今後も減損が発生するリスクを否定できない。 

前期と今期で百貨店内ショップを中心に1400店舗を撤退し、不採算の「23区オム」を休止、「CKカルバンクライン」の契約を終了するが、オンワード樫山の百貨店売上比率は09年2月期の74.7%から20年2月期でも62.3%と大きくは下がっておらず、ECだけで大量退店による百貨店売上の急激な減少を埋めきれるものではない。国内事業はECへの転換が加速するだろうが、百貨店顧客のEC取り込みはいずれ一巡するから、D2Cブランドやショールーミングサロンによる新規顧客の獲得が急がれる。

下期から出店を始め22年2月期中に数十店舗を布陣するというEC連動のブランド複合店舗「オンワード・クローゼット」は、主力百貨店ブランドに加えてD2Cブランドも揃え、「お取り寄せ・お試し・受け取り」のC&C利便を提供するショールーミングサロン業態と推察される。ならば、店在庫引き当てや店出荷、修理加工も出来る迅速かつ低コストなローカル物流体制が問われることになる。 

支店物流を切り捨ててEC軸で関東に集約した物流拠点だけでは全国各地の顧客に迅速なC&Cサービスは提供できないし、主力ブランドもいずれD2Cプライス(百貨店ブランドと同品質で5〜6掛け)に切り替えないと郊外やローカルで顧客を広げることはできない。百貨店内ショップも「オンワード・クローゼット」に集約して定期借家契約に切り替えれば、賃料負担を半減してお値打ちなD2Cプライスに統一できる。顧客の側に立った柔軟なOMOマーケティングとローカル物流の確立が急がれるのではないか。

※D2C(Direct to Consumer)・・・ブランドメーカーが店舗やネットの小売業者を通さず、自社のサイトやショールーム、ポップアップストアで直販する販売形態。

※C&C(Click&Collect)・・・ECから店舗に取り寄せて試したり受け取る顧客利便。一括配送の店舗物流を使うから送料無料で、店在庫を引き当てれば倉庫から出荷するより受け取りも早くなる。売り手にとっては顧客利便と在庫効率を高め物流費を抑制するOMO(ネットと店舗の融合)戦略。

※OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた融合を意味し、モバイルフォンをキーツールとしてウェブルーミングとショールーミングを駆使するニューリテール戦略。

 

■コロナ禍のダメージが大きかった三陽商会

 三陽商会の21年2月期上半期(3〜8月)の売上は153億2800万円と前年同期から48.5%も減少して57億1200万円の営業赤字、66億4800万円の純損失を計上。純資産は20年2月期末の388億2200万円から313億7900万円と74億4300万円も減少し、15年2月期の651億4700万円の48.2%まで目減りした。

コロナ禍でEC・通販売上が18.4%伸び、全社売上におけるシェアも前期の12.7%から24.4%に大きく伸びたが、売上はともかく収益を大きく下支えした様子はない。百貨店売上のシェアも長期休業で売上が半減したにも拘らず前期の62.3%から56.9%にしか落ちておらず、コロナ禍に振り回されただけで販路の再構築は進まなかった。

 第1四半期(3〜5月)は百貨店の長期休業に直撃されて在庫が積み上がり棚資産回転が500日と壊滅的に悪化したが、通常店舗のセールに加えてアウトレット店舗を9店舗増やすなどして在庫処分を進め、第2四半期では251日まで改善した。下期は新規調達を抑えて旧品(持ち越し品)40%/新規品60%の品揃えとし、建値消化率を45%から55%に、総消化率を70%から85%に高めて在庫処分を進め、今期中に160の不採算売場を撤退して販売員500人を削減する。

前期では建値消化率45%、総消化率70%だったということになり、期末に期中投入商品の30%が売れ残ったと受け取れる。三陽商会のように単価の高い重衣料中心の百貨店アパレルでは異例とはいえず、紳士既製服では30%前後が期末に売れ残って持ち越すのが常態化している。今や「正価」対比原価率が20%を切った百貨店アパレル商品にはお値打ち感は期待すべくもなく、重衣料比率が高く原価率の切り下げを進める三陽商会の原価率はさらに低いはずで、半年前後も前からの計画生産がほとんどでは需給対応も出来ないから、消化率はそんなものだろう。そんな実態のまま新規品の生産・投入を抑えても、消化率が大きく改善できるとは到底思えない。

 

■三陽商会の通期見通しと課題

21年2月期の通期連結業績は売上を380億円(前期は14ヶ月変則で688億6800万円)、営業損益を85億円の赤字、経常損益を96億円の赤字と予想し、銀座タイムレスエイトの売却益67億円を補填して純損失を35億円に止めるとしているが、これで5期連続の営業/経常赤字決算となる。在庫処分も終わるわけではなく、22年2月期へも在庫を持ち越して旧品20%/新規品80%の構成とし、在庫処分を続ける。

重衣料比率の高い三陽商会は18年12月期でも174日と棚資産回転が異様に遅く、運転資金回転日数も112日と長く、年間売上590億円にして運転資金を181億円も要していた。それがコロナ禍の20年3〜8月期では棚資産回転が251日、運転資金回転日数も231日に伸び、必要運転資金は192億4000万円まで肥大。純資産対比運転資金比率が61%を超え、有利子負債を40億円積み増している。

三陽商会はそこまで商品財務が逼迫しても、純資産対比負債比率は41.4%と財務はまだ健全な範囲にあり、オンワードホールディングスの129.4%(20年3〜8月期)、ワールドの119.0%(20年4〜6月期)よりは格段にゆとりがある。ワールドの買掛債務回転日数など200日に迫るから過剰在庫の処分を急ぐしかないが、コロナ禍の過剰在庫下でも買掛債務回転日数を前期の76.4日から56.6日へ短縮した三陽商会がそんなに在庫処分を急ぐ必要があるのだろうか。

三陽商会の財務的余裕がバーバリーを失った後の戦略を手緩いものにして今日の苦境を招いたにしても、コロナ禍でようやく後が無い瀬戸際まで追い詰められたのだから、ようやく必死の巻き返しに転ずるかもしれない。それには上から目線の数値管理ではなく、自社の顧客と流通・販売、調達・生産背景の赤裸々な実態を具に掌握する必要がある。三陽商会の本当の資産は高品質な国内自社生産体制とこれまで評価してくれた寛大な顧客であり、負債は無策な経営陣とコストに見合わない百貨店販路だった。この資産と負債の関係をリセットすれば三陽商会の未来は開ける。

 

■お値打ちの復活以外に生き残る策は無い

 オンワードも三陽商会も如何にECを拡大しても、法外な割高価格のままベタープライスブランドを販売するのは限界があり、お値打ちなD2Cプライスを実現して顧客を広げるしか生き残る策はない。生き残る方策はただ一つ、百貨店内ショップを全て自社ブランド複合の大型ショップに統合し、定期借家契約に切り替えて賃料負担を半減し、その分、価格を切り下げてお値打ちを取り戻すことだ。百貨店側とて、主要な大手アパレルブランドに悉く退店されては地方店はもちろん都心店とて営業の継続が難しくなるから、「ハイブリッド化」の一環として受け入れるしかないはずだ。定期借家テナントなら販売も在庫運用も自在だから、EC連携のO2OもC&Cも堂々と進められる。

加えて、三陽商会は財務的にまだ余裕があるのだから在庫処分を焦って叩き売らず、通常店舗の品揃えに旧シーズン品をそのまま組み込む、あるいはリメイクして組み込むアーカイブMDを常套化することを提案したい。三陽商会の国内自社工場製品は世界に誇れるラグジュアリーブランド級の品質だから旧品もアーカイブ価値があり、叩き売らなくても売り続けられる。ライセンス契約が終わって市場から消えた「サンヨーバーバリー」や「バーバリーブルーレーベル」がユーズドショップで人気アーカイブ商品になっていることを三陽商会の経営陣は知っているのだろうか。

百貨店アパレル流通が長年にわたってロスとコストを価格と品質に転化してお値打ちを損ね顧客に離反され、コロナ禍でとことん行き詰まったのだから、商売のやり方もものづくりも価格設定も全部、ご破算にして組み直すしかない。何もかもが崩れてしまうならゼロから新たな秩序を組み上げても良いはずで、大手アパレルも百貨店も焼土からの再生を決意すべきだ。

※O2O・・・・ネットで店舗や商品を選んで取り置いたりしてから店舗に行くのがウェブルーミング。店舗で商品を見てネットで情報を調べたりECで購入するのがショールーミング。両方を行き来するショッピング行動をO2O(Online to Offline)と言う。

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