小島健輔の最新論文

マネー現代
『アパレル業界は「もう復活できない」のか…?
コロナ危機のウラで「いま本当に起きている現実」』
(2021年12月06日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

米国ではリベンジ消費が盛り上がる

日本に比べるとまだコロナ感染が収まっていない米国だが、10月の小売売上(車とパーツ、ガソリン、フードサービスを除く)は前年同月比12.5%、19年同月比では24.5%も増加したから、もはや回復の域を超えてリベンジ消費の域に入っている。

アパレル&服飾雑貨小売店売上も前年同月比22.7%、19年同月比でも10.0%増加、デパート売上も前年同月比21.9%、19年同月比でも10.9%増加したから、コロナ前の勢いを取り戻したと言っても良いだろう。

前年は多くの店舗が閉鎖されていた反動もあるが、19年比でも伸びているのだから店舗小売業の回復は本物で、前年は40.4%も伸びた無店舗小売業(カタログ通販やTVショッピングも含むが大半はEC)は7.4%の伸びに減速している。

消費者物価が9月も10月も+0.1%と停滞する我が国と比べ、9月の+5.4%から10月は+6.2%と31年ぶりのインフレ率に跳ね上がった米国の売上伸び率はインフレを割り引いて見るべきだが、それでも大幅なプラスであることには変わりない。

本格回復には程遠い日本

一方の我が国は第6波の不安は否めないもののコロナ感染は一旦収束し、非常事態宣言も9月末で終了して10月は繁華街や観光地への人出も回復したが、一部の高級品を除けば小売売上の回復は鈍く、コロナ前の水準には遠い。

10月の全国百貨店売上は前年同月から2.9%伸び、前々年同月比でも99.6%とコロナ前19年の水準をほぼ回復したかに見えるが、19年10月は消費税増税で17.5%減と大きく落ち込んでおり、18年比では81.6%に留まる。

国内客売上こそ2.6%増加して19年比でも7.7%増と回復したが、18年比では88.6%と水面には遠い。コロナ前は爆買いを呈したインバウンド売上も、ほぼ鎖国状態だった20年からは49.3%伸びても19年比では87.7%減と壊滅状態が続いており、シェアも19年の6.6%から0.8%に激減している。

全国百貨店の衣料品売上は前年同月から1.7%伸びて19年同月比でも95.8%まで回復したが、こちらも19年10月は21.4%も落ち込んだから18年比では74.6%に留まる。コロナ禍の20年通年は全国百貨店売上が25.7%、同衣料品売上は31.1%も落ち込んだが、そこからの衣料品の回復は非常事態宣言が明けた10月でさえ勢いを欠く。

11月の大手百貨店売上もすでに発表されたが、14.8%と最も伸びた大丸松坂屋でも19年比は91.8%、18年比は84.3%に留まり、14.5%伸びた三越伊勢丹も19年比は99.3%と水面に届かず、18年比では88.0%に留まる。8.9%伸びた高島屋も19年比は96.8%、18年比は92.7%と回復は鈍い。いったい米国とは何が違うのだろうか。

停滞する経済と目減りする実質所得

21年2月20日の本誌に寄稿した『日本人は知らない…日本人がどんどん「貧しく」なっている「本当の理由」』で解説したように、長年にわたって経済が停滞し勤労者の所得も伸び悩む我が国は先進国から落ちこぼれ、少子高齢化で国民負担率(所得に対する税と社会保障費の割合)も「5公5民」の限界に迫るに及んでは将来に希望を持てない若者も増えていく。

05年から17年に米国の一人当たり国民所得が36.8%、雇用者報酬も47.2%増えたのに対し、我が国の一人当たり国民所得は2.5%、雇用者報酬は4.7%しか増えなかった(内閣府)。

この間に日本人の平均給与は436.8万円から432.2万円と全く伸びず(国税庁)、国民負担率が36.3%から43.3%と7ポイントも上昇して生計が圧迫され、個人消費支出力は11.9%も減少した。

00年から直近の20年で見ると、平均給与が6.5%減少した一方で国民負担率は36.0%から44.6%へ8.6ポイントも上昇したから、個人消費支出力は19.0%も目減りした。これではコロナが無かったとしても消費が盛り上がるはずもない。

国民負担率の上昇は所得控除の圧縮や廃止に加え、社会保険料とりわけ介護保険料の負担が大きく、19年10月の消費税増税(8%→10%)が決定的ダメージとなった。

直近21年10月の実質賃金も米国が5.7%も伸びたのに我が国は0.2%の伸びに留まり、社会負担増などで手取り収入は減少している。消費者物価上昇率が0.1%(生鮮食品とエネルギーを除くと−0.7%)とデフレを継続しているのが救いだが、それも円安が進めば続かなくなる。

手取り収入が減って生計が逼迫しても食料支出は落とせずエンゲル係数が跳ね上がる中(05年22.9%→19年25.7%→20年27.5%)、被服・履物支出を抑制せざるを得ず(05年4.44%→19年3.67%→20年3.17%)、購入ブランドの格下げ、オフプライス品や古着へのシフトが進み、見込み調達のリスクと流通コストがたっぷり乗った割高な新品は敬遠されるようになった。

売れ残り在庫と古着が新品を圧迫する

20年には34億1000万点の衣料品が国内市場に供給されたが下着なども含み、うちアパレルは22億8300万点ほどだったと推計される。

環境省の報告書によれば、供給された衣料品の総重量は81.9万トンで、過去に購入された衣類も含めて78.7万トンが放出され、うち51.2万トンがゴミとして廃棄され、12.3万トンが繊維原料などにリサイクルされ、15.4万トンがリユースされたという。

リユースに回った15.4万トンのうち4.4万トンが輸出に回り(廃品回収からの古着やウエスを合わせた総輸出量は22万7300トン)、個人間の譲渡が2.6万トンで、古着屋やフリマで販売されたのが8万トンとしているが、故繊維事業者(ウエス屋と言われる)に回った12.2万トンから選別されて市場に再投入される古着と輸入古着(6270トン)を合わせると11.23万トンほどが古着市場に供給されたと推計される。

そのほとんどはアパレルであり、平均333gと見れば3億3700万点ほどになる。「古着」と言っても古着店やECで販売されるものは検品してクリーニングされており、抵抗感なく購入する人が増えている。

環境省の報告書ではアパレル業界から放出されるアウトレット品は新品供給量の3.16%(約7200万点)、処分業者に放出されるオフプライス品は0.09%(205万点)としているが、卸・商社などへの返品3.59%(約8200万点)から処分業者に放出されるものと合わせれば800万点〜1000万点がオフプライス市場に流れたものと推察される。

アウトレット品やオフプライス品は新品供給量からの放出で総供給量が増えるわけではないが、古着を加えたアパレルの国内総供給量は26億2000万点に膨れ上がり、うち古着が12.9%を占める。

古着の値段は一部マニア向けのプレミアム商品を除けば新品価格の三分の一から五分の一ほどで、高価格ブランドのコートなど十分の一というケースもあるから、新品からシフトする人が増えるのも必然だ。加えて、売れ残って来シーズンに持ち越される商品も新品供給量の6.25%(もっと多いと思われるが)に及ぶから、それも来シーズンの新品を圧迫する。

中韓越境ECの侵略

もうひとつ、統計には出てこない圧迫要因が急拡大している。それは中国・韓国の越境ECファストアパレルで、圧倒的な低価格とバラエティに加え、生産地ゆえの俊速企画・高速生産を武器に鮮度や感度も日本ブランドを圧倒している。

中国広州の「SHEIN」がその代表で、日本でもユニクロ(21年8月期国内EC売上1269億円)とショッピングアプリのダウンロード数を競うほど急拡大しており、公式インスタグラムのフォロワー数から推計される日本売上は1400億円に迫る。

アパレル業界の現実を直視せよ

先行する韓国ブランドも多彩で新手も続々と参入しており、中韓越境ECアパレルの合計売上はコロナ禍で八掛けに縮小した国内アパレル市場の3%に迫ると推察される。

若向けカジュアル市場に限れば、すでに10%を超えているのではないか。

シーズンの遥か以前から遠隔地で見込み生産して在庫を抱える我が国のアパレル事業者はロスとコストが嵩んで割高で、生産地で俊速企画・高速生産してほぼ無在庫で回し低価格で鮮度も感度も高い中韓の越境ECアパレルには対抗すべくもなく、次々とマーケットを奪われている。

これだけ悪条件が重なる中、アパレル消費が本格復活してコロナ以前に戻ると期待するのは無理を超えて病的なオプティミストと言わざるを得ない。現実を直視するところに突破口があるのではないか。

 

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