小島健輔の最新論文

販売革新2006年7月号掲載
『SCテナント多角化の行方』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 「改正まちづくり三法」の成立で郊外大型SCの開発が抑制され、SC開発の主流がコンパクトなライフスタイルセンターやNSC、一方ではターミナルSCに移行する中、ファッションテナント企業も大型SC一辺倒だった業態布陣と出店政策を全方位型に切り替えつつある。中には既存業態の焼き直しや先行業態の模倣など安易な業態開発も見られるが、立地の違いは商圏規模の大小や価格帯の差だけではなく、マーケット分け合いの構図から運営体制にまで及ぶから、しっかりと戦略を組んだ開発が求められる。

大手各社の業態布陣

 大手ファッションテナント企業はワールド、ファィブフォックス、オンワードなどの百貨店発組、キャビン、パルなどのターミナル発組、ポイント、ライトオンなどのカジュアル発組、ファーストリテイリング、ハニーズなどの低価格SPA組などに分けられるが、各社がすべてのチャネルに業態布陣しているわけではない。自社の起点に隣接する立地までの布陣に留まる企業が大半だが、ワールドのようにほぼ全チャネルをカバーしようとしている企業もある。
 初期に開発されたSC業態は百貨店ブランド/ターミナル業態を焼き直したものが多く系譜もはっきりしていたが、最近は端からSC向けに開発された業態が主流となっており、価格にも無理がなく郊外の生活感に溶け込むようになった。
 有力各社の立地別業態布陣を一覧表にしてみたが、ターミナルSC/RSCへの対応業態は近年の開発ラッシュの中で出揃ったものの、CSCにはワールドを除いて旧業態で対応しているのが実情。NSC対応業態はライトオンの「スパイスアイランド」、コックスの「コックス・ヴィ」ぐらいなもので、ほとんど空白地帯と言ってもよい(従来からのハニーズ系、テンファッションズ系などは健在)。
 総じて小商圏立地ほど業態バラエティが限られるが、後述するようにSCを構成するファッションテナント数も限られるから、大手が一斉に進出すればすぐ満杯になってしまう。CSC/NSCのテナント業態開発は短期決戦となるのではないか。

立地対応の鉄則

 立地別の業態布陣においては外せない鉄則というものがある。例外的なラックネスを否定するものではないが、外せば離陸に難渋するのは避けられない。その基本が価格帯、品揃え、フェイス運用、運営コスト、ロジスティクスの5点だ。
 1)価格帯の鉄則
 テナント企業にとっての商業施設チャネルは価格の高い(商圏が広い)順に百貨店、ターミナルSC、RSC、CSC、NSCに区分される。価格帯は百貨店がボリュームベター以上、ターミナルSCがアパーモデレート中心、RSCがアパーモデレートからロワーモデレート、CSCがロワーモデレートからアパーポピュラー、NSCがアパーポピュラーからロワーポピュラーと、ほぼ「10−7−5−3−2」の比率になる。
 これはその立地で最も売り易い価格帯の経験則であり例外も有り得るが、百貨店発組やターミナル発組は進出初期に調達体制が対応出来ず、この価格差に苦しんだものだ。多くは進出から1〜2年でOEM業者活用の調達体制にシフトして低価格化を実現しているが、3年以上を経ても価格ギャップを抱えて苦戦するケースも見られる。
 2)品揃えの鉄則
 百貨店では百を超えるブランド集積、ターミナルSCでも60を超えるファッションテナント集積、郊外RSCでは同40〜50、CSCでは同20〜30、NSCではせいぜい10前後の集積での分け合いになるから、マーケットの分割構図、すなわち品揃えのパターンが大きく異なる。
 一般に商圏とブランド/業態集積が大きいほど、テイストやフィット、品番やサイズを絞り込み、同一商品の高頻度補給によって売上を稼ぐ構図になる。逆に、商圏とブランド/業態集積が小さいほど、テイストやフィットに巾を持たせ、品番やサイズのバラエティを持ち、同一商品を補給せずに多品種少量売り切りで売上を稼ぐ構図になる。前者の好例が百貨店のNBであり、後者の好例がしまむらだが、前者の絞り込みと後者の少量売り切りを組み合わせて例外的な高回転を実現したポイントに注目すべきであろう。
 3)フェイス運用の鉄則
 商圏規模と販売効率は正相関するから、小商圏SCほど販売効率は低くなる。販売効率が低くても鮮度を維持するには軽在庫・無補給売り切りが鉄則だが、補給しなければフェイスの維持が困難になる。かといって低販売効率では売場人員もミニマムしか張り付けられないから、アナログ運用は非現実的だ。よってデジタル什器による心太運用管理に帰結する事になる。
 心太運用では類似品番に入れ替わって行ってもフェイスの配列は維持されるから、顧客はデジタルなカセットが並んでいるのと同じようにセルフセレクション出来る。これもしまむら流の手法だ(販売効率の高いポイントはアナログ心太運用管理と併用)。
 4)運営コストとロジスティクスの鉄則
 小商圏SCほど販売効率が低いから、運営コストを軽くしないと利益が出ない。採用面でも限界があるから、運営スタッフの質・量も期待出来ない。それを前提とするなら、パート中心に少人数で運営出来る仕掛けが不可欠だ。
 販売は実質セルフセレクションとならざるを得ないから、コスト圧縮は店内作業とロジスティクスに集約される。規格什器のデジタル・レイアウトと番地管理、フェイス管が必須で、保守人数と作業導線を極小化するレイアウト(レジとフィッティングの配置関係が要)も求められる。加えて、納品の集約とナイト・デポによる作業発生の極小化/発生時間帯の特定化を仕組むとなれば、しまむら的なロジスティクス体制も不可欠となる。となればドミナントに密集した店舗布陣が必要で、ミニ・パワーセンターからミニ・ライフスタイルセンターまで、多様な性格のSCに出店出来る汎用性も求められよう。

小商圏業態開発の行方

前項で指摘したような特性を考えると、小商圏業態の開発はSCの小型化に呼応して2〜3年で一気に進み、ドミナントの確保競争を重ねてトップグループが形成される事になる。ドミナント確保には様々なタイプの小型SCに対応出来る業態の汎用性が要で、数百店舗同士の戦いとなるだろう。その過熱の中で、しまむらは初めての守勢に立たされるのではないか。  

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