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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『“誤ピン”“後ピン”に惑わされるPOSの弊害』 (2018年02月17日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 以前に『リープフロッグ革命が恐い』という記事でPOSの弊害について触れたが、流通業界のコンサルタントとしても消費者としてもPOSに対する不信感は募るばかりだ。なぜなら、POSを活用しても業績が上向くことはめったにないし、日々の買物で自分の購入意思が品揃えに反映されたという経験も皆無だからだ。

 POSが業績改善につながらない理由ははっきりしている。「売れた」という“後ピン”“誤ピン”の事実を知ることができるだけで「売れる」という未来を創るスキームが欠けているからだ。その具体例を幾つか指摘したい。

(1)バッチな引き当てとタイムラグ

 POSの最大の効能は販売実績に対する「引き当て」と「補充」だが、店舗小売業の多くは管理会計ベースのシステムに依存しているため、「引き当て」が1日1回とか2回で物流のタイムラグも加わるから、その間の販売数量を積んでフェース量を設定しても欠品が生じがちで、それを避けようとすれば在庫過多になってしまう。即時引き当てが必至のECでは、店舗小売業のバッチなPOSだと空引き当てが多発して顧客が離れてしまうリスクも指摘される。

 店舗小売業のPOSがバッチで済まされてきたのも無理はない。定期配送業社に委託する限り、出荷サイクルは1日1回(宅配便のシステム)だから、リアル・オンラインで引き当てても物理的な出荷タイミングは変わらないからだ。需要への即応を求めるならコンビニチェーンのように多頻度自社物流を仕組むしかなく、ECでも自社配送部隊や契約業者によるプライム宅配を競うことになる。

(2)幻の売れ筋を映してしまう“誤ピン”“後ピン”

 POSは「売れた」という結果しか反映しないから、欠品や品揃えの偏りで顧客がやむなく代替の品を買っても「売れた」と認識してしまう。個人的な経験だがコンビニの日配品の欠品率は60%以上だから、POSは実際の購入意思をほとんど反映しない。大半の顧客がやむなく他の品で代替して買っているのだから、POSが映しているのは“幻の売れ筋”ということになる。ゆえにPOSを反映した翌日翌週の投入もまた勘違いの欠品だらけになるわけで、失望が続く顧客はやがては離れていく。これを何年も繰り返して売上げが萎縮し赤字転落してしまったのがイトーヨーカ堂の衣料部門で、POS依存の恐ろしさを実証した好例だ。

 そもそもPOSは“後ピン”を否めず、過去の結果であって明日を約束するものでも明日を開くものでもない。天気予報のような多次元動態予測システムだと多少はズレても信頼性が期待できるが、単なる“後ピン”では『今日、株が上がったから明日も上がる』という線形幻想か周期幻想(パターン認識)でしかない。そんなPOSに依存しては“後ピン”“誤ピン”で機会ロスと売れ残りの山を築くだけではないか。

(3)前年踏襲を招いて対応力を損なう

 POSは結果しか反映しないから、依存すればするほど前年踏襲になって変化対応力を損ない、縮小均衡に向かってしまう。POS実績があるはずもない新規商品への積極性も損なうとすれば百害あって一利もない。単品別もともかく店舗別の実績も配分基準に反映されるから、好調店は潤沢な供給でさらに売上げが伸びる一方、不調店は供給を絞られて一段と売上げが悪化していく。売上月指数/週指数にしても前年踏襲では市場の変化に対応できないし、在庫消化や値引きロス圧縮を狙った意図的操作も覚束ない。「ユニクロ」が3年かけて11月と5月の山を高め、12月1月と6月7月の山を下げて歩留まり率を高めた値引きロス圧縮大作戦など、前年踏襲打破の好例だと思う。

戦略的戦術的な意思で“先ピン”するスキルが問われている

 POSは必要な基礎データではあるが依存すれば弊害も大きく、戦略的戦術的な意思で“先ピン”するスキルが問われる。線形幻想や周期幻想にとらわれず先行指標を駆使して「意思ある未来」を動態的に描けないとPOSは役に立たない。ICタグだ、レジレス店舗だと舞い上がる前にやるべきことがあるのではないか。 

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