小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『出店相次ぐオフプライスストアの差し迫った課題 小島健輔リポート』
(2020年11月13日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 昨秋冬の暖冬と消費税増税で持ち越した在庫に今春夏のコロナ禍による過剰在庫が加わってアパレル業界が抱える在庫は危機的に膨れ上がり、店舗やECで値引きしても処分しきれず、2次流通に放出される在庫も急増した。しかるに在庫処分の販路は急には広がらず、販売消化のスキルも欠いて2次流通の在庫が積み上がり、プロパー販売を圧迫するような場所での叩き売りも広がっている。このままでは過剰在庫の処分が進まないばかりか、2次流通がプロパー販売を追い詰めるという最悪の事態が危惧される。

2次流通の在庫処分が進まないわけ

 コロナ禍で2次流通に放出されたアパレル在庫は前年から2倍、3倍に急増したといわれるが、処分業者が買い取った在庫の販路は急には広がらず、処分業者の抱える在庫が限界まで積み上がっている。

 処分業者が買い取った在庫の販路は、ECでの消費者や転売ヤーへの直販、直営処分店での直販もあるが、地方や郊外のディスカウントショップやホームセンター、安売り衣料店や催事業者などへの卸が大半を占める。ブランドのプロパー販路と重なるメジャーなECモールや商業施設は使えないから急激な販路拡大が難しく、個性の強いブランドやベタークラスから上のブランドは大幅値引きしても売れる販路が限られる。副業転売ヤーを組織化したり直営処分店を増やしたりしても思うように売り上げが伸びず、買取在庫の急増に販売が追いついていない。

 処分が進まない要因は2つ考えられる。第一に処分業者には再販を前提としたMDの発想がなく選択的な買い取りをしておらず、持ち込まれる在庫を全量引き取る業者が多い。オフプライスストアチェーンは米国でも日本でもリテールMDを組んで必要な商品を探しており、捨て値で持ち込まれても不要な商品を買い取ることはない。

 ブランドディスカウント型オフプライスストアの「アンドブリッジ(&BRIDGE)」はタイプ別にブランドのクラス構成と8週サイクルのMD展開を組んで適合商品を調達しているし、激安プライスライン型オフプライスストアの「タカハシ」も8週サイクルでMD展開を組み量販ベンダーの過剰在庫から選択調達するだけでなく、足りない商品はベンダーに別注したり工場に発注して確保している。オフプライスストアは「先にMD在りき」で、受け身の処分業者とはスタンスが全く異なる。

 第二は、買い取った商品を仕分けて適切な販路に流し、販売消化するスキルを欠いていることだ。処分業者が全量買い取りした場合でも、まず衣料品として再販できるものとウエスや再生原料にしかならないものを仕分け、再販できるものは名の通ったブランド品(ディスカウント販売)とそうでない量販品(プライスライン販売)に仕分ける。ブランド品はクラスやターゲット別に仕分け、海外処分指定品や持ち越し指定品(今シーズン中に買い取っても販売は来シーズン)を分離する。量販品はターゲット、アイテム別に仕分けする。月度あるいは8週サイクルのシーズンMDを組んでアイテムを仕分けるのは、どちらも同様だ。

 処分業者の多くは引き取ったパッキンを開けることなくサンプル商談で転売する横々商売が基本で、仕分けて付加価値を付けるというリテール発想を欠いている。アパレルとしては処分業者に放出して終わりと思っているかもしれないが、彼らの再販力(実態は転売力)は疑わしく、キャパを超えれば在庫を抱えてしまう。転売主体の処分業者と自らMDを組んで売り切るオフプライスストア事業者は全く別物なのだ。

 適切に仕分けても、計画通りに販売消化できないと店舗は魅力を失い、倉庫は在庫であふれてしまう。ブランド品は最初こそブランド別ラックで訴求するが、消化が進んで欠落してくると類似ブランドをテイスト別にまとめ、売り切りサイクルではアイテム別にまとめ、最終はプライスライン別あるいは値引率別にまとめて売り切ってしまう。カラー展開アイテムは色が欠けてくるとカラー別にまとめ、サイズ展開アイテムはサイズが欠けてくるとサイズ別にまとめて購買プロセスを誘導するなど、通常店舗の売り切りで使われる編集スキルも駆使する。

 そんな編集スキルを駆使するには特有の可動什器体系が必要で、TJXやロス・ストアーズ(ROSS STORES)、ノードストローム・ラック(NORDSTROM RACK)などでは実際に使われているが、わが国のオフプライスストアは彼らのノウハウを全く学んでおらず、什器構成もレイアウトも編集運用も自己流にとどまっている。これでは米国のようにスムーズな在庫消化(TJXの在庫回転は6.32回、ロス・ストアーズは6.09回)は望めない。

オフプライストアの成功パターンは答えが出ている

 ワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンの合弁事業「アンドブリッジ」、ゲオの「ラック・ラック クリアランスマーケット(LUCK RACK CLEARANCE MARKET)」、PPIH(ドン・キホーテ)の「オフプラ」、ショーイチの「カラーズ(COLORS)」などオフプライススアは次々と多店化しているように報道されているが、それらが全てうまくいっているわけではない。

 「オフプラ」は名古屋郊外の1号店が立地とMDがすれ違って離陸せず、仕切り直しを余儀なくされている。ディスカウントストアの単品量販MDがオフプライスストアの売り切りバラエティーMDと相いれず、若者狙いのストリート感覚も立地の顧客とすれ違ったのではないか。

 「ラック・ラック クリアランスマーケット」は10月30日のミーナ町田店(1320平方メートル)に続いて11月20日には名鉄百貨店名古屋本店のメンズ館(759平方メートル)、12月9日には松坂屋静岡店(催事契約で594平方メートル)にも出店し、2019年4月の1号店(コーナン港北インター店)開設から早くも8店舗に広がるが、大型化が先行して狙いを絞り込めておらず、販売効率や消化回転には課題が残る。

 販売効率が読めて在庫が回り収益を確保しているのはブランドディスカウント型の「アンドブリッジ」と激安プライスライン型の「タカハシ」くらいだと思うが、狙いの絞り込みと「先にMD計画在りき」の選択調達、販売消化運用と低コスト運営が共通している。

 「アンドブリッジ」は19年9月の西大宮店の開業から1年で4店舗(うち浅草ROX店とイオンモールKYOTO店は期間限定)まで増え、来春から出店を加速する。「タカハシ」は19年8月期で東京、神奈川、埼玉の郊外に36店舗を展開して73億円を売り上げ、20年8月期は41店舗まで増えて売上を87億円に伸ばし過去最高益を稼ぎ出している。コロナ禍による衣料消費の生活圏シフトも「タカハシ」の追い風に、ブランド商品の大量放出は「アンドブリッジ」の追い風になったのではないか。

 1月15日掲載の本リポート「日本にオフプライスストアは定着するか」で、わが国で成功するのは生活圏立地で継続的品ぞろえも可能な激安プライスライン型、次いで知名度の高い百貨店・駅ビルブランドのディスカウント型と結論づけたが、その通りの結果になっている。フルプライスからオフプライスへの分岐点はまだ先のことと思われていたが、コロナ禍で背に腹は変えられずブランド在庫の放出が広がり、一気に分岐点を超えた。供給が潤沢になった一方で販路の拡張は追いつかず、さまざまな課題が露呈している。

販路統制を欠いては正価流通を追い詰める

 ワールドは百貨店・駅ビルブランド主体の都心型「アンドブリッジ」を20年8月29日に浅草ROX、9月5日にはイオンモールKYOTOに出店(どちらも半年程度の期間限定店)。9月14日には名古屋郊外に開業した三井不動産の広域大型SC「ららぽーと愛知東郷」に、同じスタイルで自社ブランドに絞ったアウトレットストア「ネクストドア」を出店し、「アンタイトル(UNTITLED)」や「インディヴィ(INDIVI)」など自社百貨店ブランドの持ち越し品を6〜7割引きで売っている。

 オンワード樫山も9月18日、オフプライスストア「オンワード・グリーン・ストア(ONWARD GREEN STORE)」の1号店を千葉県柏市の生活圏型SC「モラージュ柏」に出店。「23区」「自由区」「組曲」「ICB」「J.プレス(J.PRESS)」など自社百貨店ブランドの婦人服や子供服、「シェアパーク(SHARE PARK)」「エニィファム(ANY FAM)」などカジュアルブランドの持ち越し品を6〜8割引きで販売し、他社ブランドの放出品も加えて21年春までに東海地区や関西地区にも出店する。

 サザビーリーグ傘下のセレクトショップ「エストネーション(ESTNATION)」も、銀座店の1階を20年10月2日にオフプライスの「エストネーション セントラル(ESTNATION CENTRAL)」に切り替え、21年の2月には全フロアをオフプライスストアにしてしまう。銀座店は2974平方メートルの六本木ヒルズ店に次ぐ2225平方メートルもある旗艦店で、至近には01年9月創業の有楽町店(1333平方メートル)もある。
サザビーリーグでアウトレット店を持たない「サザビー(SAZABY)」「カンペール(CAMPER)」「ハウス オブ ロータス(HOUSE OF LOTUS)」や「エストネーション」の仕入れ先ブランドの放出在庫も販売するからオフプライスストアであり、顧客から買い取ったハイブランドの中古品も販売するからリサイクルストアでもある。建前としては「エストネーション」の会員顧客に限定するが、その場で入会することもできるから、正面切った大型オフプライスストアに他ならない。

 「オンワード・グリーン・ストア」が出店したモラージュ柏は高島屋がある柏駅から3kmも離れておらずシャトルバスも通っているし、「ネクストドア(NEXTDOOR)」が出店したららぽーと愛知東郷も名古屋都心部から電車で45分かかる郊外とはいえ、「コーチ(COACH)」や「ラルフローレン( RALPH LAUREN)」も出店しているアップスケールな広域大型SCだ。「アンドブリッジ」が出店した浅草ROXやイオンモールKYOTOは期間限定とはいえ都心の百貨店から目と鼻の先、「エストネーション セントラル」は銀座のど真ん中で、もはやアパレルは在庫処分の場所を選んではいられないほど追い詰められている。そんな後先考えない在庫処分が広がれば、もはや「正価」で購入する顧客などいなくなってしまう。そんなありさまを見て、アパレル業界は「正価流通」の崩壊を悟ったに違いない。

 コロナ禍で放出された過剰在庫はアウトレットやオフプライスのストアやサイトに並び、消費者のタンスを経ていずれ中古衣料店やフリマアプリに放出されるから、長く新作品の販売を圧迫することになる。ましてやプロパー販路の至近で売れ残りの新品をたたき売ってはブランドの未来も絶ってしまうから、慎重な配慮が望まれる。

ビンテージMDという第3の可能性

 フランスでは20年2月に衣類、化粧品、家電、書籍などを対象とする「廃棄対策・循環型経済に関する法律」が施行され(食品は16年に施行)、分野によって21年から23年末までに適用される。売れ残り在庫の廃棄(焼却や埋め立て)を禁止するもので、寄付またはリサイクルが義務付けられる。

 これまでブランドイメージを守るべく売れ残り在庫を廃棄してきたフランスの高級ブランドは、おそらく売れ残り在庫を保管して“熟成”させるビンテージ商品を志向するだろう。LVMHやシャネルなど高級ブランド資本はワイン&スピリッツ部門も抱えており、気が遠くなるほどスローなビンテージMDに違和感を持たないからだ。

 完成度の高い商品はビンテージ品(旧作)としてアーカイブ価値が評価され、新作品と並んで長く流通する。コロナ禍を契機にサステナブルでない多産多死の生産と流通に終止符を打ち、アーカイブ価値が評価されるモノ作りとビンテージMDに目覚めてもよいのではないか。三陽商会など咋秋冬商品が暖冬と消費税増税で30%も売れ残り、今秋冬は新作品60%、旧作品40%の構成になると明かしているが、そんなアーカイブミックスを前向きに捉えてもいいはずで、ビンテージMDに特化した通なオフプライスストアが登場してもおかしくない。

 ならば安価な生活衣料としての激安プライスライン型、利口にファッションを楽しむブランドディスカウント型とは次元を画した、趣味性の高い第3のオフプライスストアを見いだせるかもしれない。

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