小島健輔の最新論文

商業界2001年11月号掲載
『価格破壊第三波の旗手、ダイソーはバラエティストアを超える』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

百円ショップのガリバー企業

 「ユニクロ」が安いと言ってもポロシャツが1900円もするし、バーゲンになっても980円が下限だろう。化粧品は「マツキヨ」が安いと言ってもせいぜいメーカー価格の2〜3割安ぐらいで、とても百円にはならない。それが何でも百円という超低価格で手に入るのだから百円ショップは究極の価格破壊者であり、店は老若男女の宝探しの場となっている。そのガリバー的寡占企業が大創産業で、二千店を超えて急成長を続けている。
 2001年3月期の年商は決算ベースで1743億円、FC含む店頭売上ベースで2120億円と、百円ショップ業界ベスト5合計の八割近くを占める。店舗数は直営が千六百強、FCが四百弱と推計されるが三十坪級から二千坪までバラつきが大きく、直営店では二百坪級が最近の主流と思われる。99年以降はFC店を抑制しており、新店のほとんどが直営店だ。品揃えの拡充を表現すべく大型化を急進させており、町田店(二千坪)、船橋店(千七百坪)といったギガストアも登場している。

至る所はバラエティストアかミニ・スーパーセンターか

 『百円でどこまでの品質が可能か』という見方をされる事が多いが、商品開発の基本スタンスは『百円でどこまで品揃えを充実出来るか』にある。
 大創産業では98年頃の一万数千品目から年を追って三万、四万とラインナップを急ピッチで拡充しており、最近では五万五千品目を超えて六万品目に近づいているという。毎月七百品目ほどが新規に加えられており、それがほぼ品目の増加に繋がっているところを見ると、継続供給する定番的な商品が大半を占めていると推定される。
 趣味的な商品も充実しているが生活必需の日用雑貨が大半を占めており、家庭用品関連のきめ細かい品揃えは量販店を凌駕している。量販店が効率優先で品揃えを絞って来たのに対し、大創産業はまるで在庫を恐れないかのように、量販店が削ぎ落としてきた細かな品目を増やし続けているのだ。台所用品や掃除・洗濯関連の消耗品、文具など、もはや大型量販店が対抗し得ないほどきめ細かく揃っている。
 商品開発もかつての素材軸から使用局面別へと大きく変わってきており、売場の構成もそれを反映しつつある。『日常生活に必要な品種品目を百円で可能な限り揃える』というのが大創産業の至上命題であり、このまま行けば日常生活に欠かせない非食品ゼネラルマーチャンダイザーたる“バラエティストア”へと到達するのは時間の問題だ。かつての暇つぶし宝探し感覚の百円ショップから百円均一のバラエティストアへ、大創は急ピッチで進化している。
 非食品と言っても生鮮や日配品、惣菜等を欠くだけで、日持ちのする加工食品や菓子類はCVSの比ではなく充実しているし、化粧品を中核としたHBC関連もSSMのラインナップを遥かに超えている。日用雑貨もバラエティストアの“とりあえず感覚”の枠を超えた品目まで拡がっているし、趣味雑貨の充実ぶりは比較する業態が見つからないほどだ。となれば、これはもうバラエティストアの枠さえ超えている。
 大創は『百円均一』をコンセプトとした低価格ゼネラルマーチャンダイザーへと進化しつつあり、これに百円均一のSMを接続すればミニ・スーパーセンターに化けかねない。「ドンキホーテ」も同様な進化が見られるから、両社は量販店を侵略する本格的なメジャー勢力になると考えられる。

産地工場調達による第三の価格破壊

 かつては百円相応の商品やバッタ商品が多かった百円ショップだが、今日の大手ではメーカーや工場直のOEM調達が主流で、大創ではオリジナル仕様のPB商品が八割に達している。安全性を重視してNBやLB(ローカルブランド)に絞っている菓子や加工食品、季節性の強いスポット商品除けば、ほぼ百%PBということになる。
 価格破壊には幾つかの手法があるが、最も原始的な手法が大ロット調達や現金払いによる原価引き下げだ。バッタ調達もこの類型と言えよう。安定的に大ロット調達が出来るようになるとメーカー直調達に進化するが、自前の物流体制を欠いては成り立たない。ここまではNB/LB等メーカー企画商品の調達原価引き下げであり、ディスカウントの枠を出るものではない。
 NB/LBのディスカウントが第一の価格破壊とするなら、さらなる調達原価切り下げと価値創造の手法が第二の価格破壊たるOEM調達だ。アパレル分野においては「ユニクロ」に代表されるSPAがメジャーとなったが、前述したように百円ショップと比較すればまだ桁違いに高い。
 OEM調達でも、メーカーや国内の大手工場から調達していては原価切り下げにも限りがある。「ユニクロ」はコストの安い中国等の優良工場を半系列化して安価高品質を実現したが、仕様や仕上がり形状にこだわり過ぎて価格を高止まりさせ、今や『高級品』と化してしまった。生活雑貨関連では「無印良品」や「フランフラン」、「モノ・コムサ」がこのポジションと言えよう。
 これに対して大創のOEM調達は産地工場調達と言うべきもので、削ぎ落とした企画仕様を最低コストで実現できる工場を世界中からソーシングする手法だ。無駄な機能を削ぎ落として単機能仕様に割り切り、過剰な仕上がり姿や物流加工を求めなければ、世界には百円と言う買価に見合う原価で調達できる工場がいくらでもある。中国でも奥地まで足を伸ばせばコストは格段に落ちるし、モンゴルや極東ロシア、インドやタイ等はさらに低コストが期待出来る。アイテムによってはインドネシアや東ヨーロッパ、スペイン、モロッコにも低コストな工場がある。
 要は現地で生産している仕様に無理な手を加えず、過度な仕上がり姿、物流加工を求めないことだ。百円ショップやバラエティストアの商品はそれで十分であり、実際に「ウールワース」や「クレスゲ」の商品開発はそのように行われていた。『訳あって安い』と謳った「無印良品」の商品開発姿勢を本当に実現しているのが大創であり、究極の第三の価格破壊の旗手なのだ。

大創のコスト構造と在庫管理

 大創が大手量販店を脅かすバラエティストアやミニ・スーパーセンターまで進化し続けるか否かは、コスト構造と在庫管理体制にかかっている。
 大創の百円の中身は商品原価が64.4%、営業経費が24%、営業利益が11.6%(二千年三月期、以下同)。この六月に店頭公開したキャンドゥのそれが68.9%、27.4%、3.7%だから、商品原価で4.5ポイント、営業経費で3.4ポイント、営業利益では7.9ポイントも大創が凌駕している。 
 商品原価の差はひと桁違う調達ロットと開発体制ゆえだが、商品価値の格差も考えれば実質はさらに開くだろう。営業経費の差は両社のFC依存度か違うので同列には比較出来ないが、インショップの多いキャンドゥの方がFC店を除いても不動産費負担は1ポイント以上重いと推察されるし、パート&アルバイト比率の格差(キャンドゥは58.1%、大創は96.1%)と規模の差で人件費負担はも2ポイント以上重いはずだ。それだけ、大創のコスト構造はライバルを引き離して優位にあるということだ。
 年商二千億円級になってPOSも無いとどんぶり勘定を指摘される大創の在庫管理体制だが、結果を見ると在庫回転は66.4日(年間5.5回)と買掛債務の回転日数(82.5日)をかなり下回っており、回転差資金も発生している。キャンドゥこそ9.3回転と突出しているが、米国のダラーショップ大手三社は3.2回転から4.7回転に留まっているから、大創の在庫回転はあれほどのバラエティにしては十分に健全な水準と評価される。物流費にしても、一個づつで取り扱えば十円近くかかると言われるが、キャンドゥでも売上対比1.2%に収まっており、大創でも大きくは違わないと推定される。
 POSも無くてどうしてこの在庫回転水準が保てるのか、価格の割りに量の張る百円商品ばかりでどうして物流費を低く押さえられるのか、チェーンストアの在庫管理や物流の常識からは考えられないが、大創にはそれを可能にしている仕掛けがある。そのポイントは1)単品ではなくパッキン単位で物流も在庫管理も行う、2)倉庫から店舗へ出荷した時点で販売消化したと看做す、の2点に尽きる。
 大創の場合、商品は国内外の工場や輸入業者からコンテナ単位で調達されており、そこから大創の倉庫までの運賃や保険料が発生する。客店舗の品揃えはエリア店長の権限で、初期発注も追加発注もすべてパート&バイトの売場担当者がイントラネットの発注フォーマットに誘導されてパッキン単位で行う。ゆえに店舗への荷姿はすべてバッキンであり、一個あたりの運賃は何ダース分の一かで済む。店舗へのトラック配送は一部のスポット商品を除いては特定業者に依託しているから、さらにコストは低くなる。
 パッキンは品目毎に最適サイズのものが事前に用意され、商品名と単品管理バーコードを表に印刷して調達先に渡される。商品はこのパッキンに入れられた姿でコンテナ出荷され、そのまま大創の倉庫に入るというプロセスと推察される。倉庫の入荷時点と出荷時点でこのバーコードをスキャンするだけで、大創の在庫管理は成り立っているのだ(一部は推察)。
 店舗では一切、単品管理は行われておらず、レジも点数と金額を打ち出すだけ。売場の陳列量とパッキン中の数量との差は店舗の後方ストックに置かれるから、パッキンを積み上げても売場面積の10〜15%程度のストックスペースが必要と推定される。発注を行う売場担当者毎の在庫管理ももちろん行われておらず、フロア責任者や店長が店頭とストック場を目で見た印象で指導しているとの事だ。
 目論み通りに消化しない商品に関しては、担当者が売場内で陳列を替えたり店舗内で陳列を移動して(複数箇所展開もある)消化を図るが、それでも手に余る場合はエリア内で店間移動して消化しているという。倉庫を出た以上は一定期間内に消化されるはずというのが大創の在庫管理だから、エリア店長の責任は絶対ということになる。人間のやる事だからミスはつき物だが、限り無く一生懸命努力すればロスを極小化出来るはずだ、というのが大創のマネジメント哲学のようで、矛盾を突けば必ず『もっと一生懸命努力して解決する』という言葉が異口同音に返ってくる。
 随分と乱暴な手法で人間の意志と努力に頼る部分も多いが、すべてが百円という商品を扱うには最適な仕組みなのだろう。定番的に補充されるライフサイクルの長い商品が大半を占める事、商品開発力による百円の価値の確かさゆえに成り立っているシステムと言うべきだ。

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 年商二千億円級にもなって株式も公開せず、経営内容をほとんど公開しない企業なので、一部は推定で書かざるを得なかったが、かなり実態に近い姿を描けたと思う。在庫管理や組織マネジメントには危うさがないでもないが商品財務にはゆとりがあり、産地工場調達方式の商品開発力は絶大だから、失速や破綻といったリスクは感じられない。恐らくは次世代のゼネラルマーチャンダイザーへと発展し、既存量販店を根底から脅かすことになるだろう。

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