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『「正しいこと」ってな〜に?』(2021年03月26日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長CEOは企業として「正しいこと」を追求すると豪語しているが、人権問題などに絡んで欧米の大手小売業が中国に批判的なスタンスを取る中も親中姿勢を崩していない。中国・香港が大半の中華圏売上が全売上の22.7%(ユニクロの27.6%)を占めるドル箱であることもともかく、未だ生産の7割近くを中国に依存するサプライの事情が大きいと思われる。
 H&Mは新彊綿の使用を否定して中国人民の不買運動を招いているが、中国生産まで否定しているわけではない。ユニクロに限らず世界のアパレルは中国生産に依存しているが、半導体など戦略部品については中国生産からの離脱が加速している。本当に中国の暴力的覇権を否定するなら中国生産から撤退すべきではないか。
 国際的な政治力学が絡むと何が「正しいこと」か難しくなるし、販売面と調達面の両方から判断を迫られる。
 コロナ禍の20年8月期ではファストリは従業員の雇用や取引先への支払いには配慮したが、商業施設デベの家賃支払いには“減免”どころではない力づくの切り下げを行なったようだ。ユニクロは一般テナントのように売上金をデベに預託せずに直接入金しており、いざとなれば家賃支払いを引き延ばすなど実力行使も可能だ。実際、コロナ禍でギャップ社は家賃支払いを拒否し、デベから告訴されている。
 「正しいこと」は所詮、自らの覇権の及ぶ範囲でしか実行できないし、覇権の及ぶ範囲では力が「正しいこと」になってしまう。「正義は力なり、力は正義なり」が人類社会の現実なのだろう。そんな真理に目を瞑って「正しいこと」を豪語するのは覇者の驕りでしかない。極東のアパレルの覇者である柳井さんも中華圏の覇者である習近平氏も、自らの覇権に基づいて「正しいこと」を押し付けるのだろうか。

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