小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・オンライン
『米国MUJI破綻を招いた「無印良品3つの弱点」』
(2020年07月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 過去二期間の在庫の積み上がりにコロナ禍が加わって業績が悪化していた「無印良品」(良品計画)に、また試練が加わった。一等地への無理な出店で大赤字に陥っていた米国子会社 MUJI U.S.A.がコロナ禍で行き詰まり、7月10日に連邦破産法を申請して破綻したのだ。

 当然のことながら良品計画本体への波及が危ぶまれて株価も急落したが、在庫の積み上がり以外にも先行きを懸念させる弱点がいくつも指摘される。それは以下の三点だ。

 

1)商品開発力の弱点

 1980年に西友のPBから始まった「無印良品」は『わけあって、安い』をキャッチフレーズに人気を集め、89年には良品計画を設立して西友から独立。95年にはJASDACに公開し、00年には東証一部に指定替えしている。01年のセゾングループ解体後、06年にはファミリーマートと資本提携したが、16年のユニー・ファミリーマートHDの成立以降は関係が薄れ、19年1月末でファミリーマートとの取引が終了。この6月からローソンでの実験販売が始まっている。

 量販店のPBから始まった経緯ゆえ、衣・食・住に渡る品目の多さと中途半端な安さが足を引っ張る局面が幾度もあった。直近の20年2月期でも僅か4387億円の売上で衣料・雑貨1,854/生活雑貨5,340/食品635の計7829アイテムを扱っており、衣料品に特化したユニクロや生活雑貨に特化したニトリに比べると商品開発力の弱さが指摘されて来た。

 「無印良品」のエシカルなコンセプトは時代とともに評価が高まり愛着を感じるフアンも増えているが、価格と品質のバランスを問えば購入を見送るアイテムも少なくない。付加価値を乗せたブランド消費がのさばっていた創業期はともかく、様々な分野で手頃なSPAがお値打ちを競い、ユニクロさえ割高に感じさせる新手が台頭する今日、『わけあって、安い』は死語となりつつある。

 価格感には段差があって百貨店感覚、駅ビル感覚、SC感覚と6掛け6掛けに落ちていくが、ユニクロも無印良品もSC感覚世界のブランドで、ワークマン(ベイシアグループ)はその6掛け以下のホームセンター感覚世界から出てきたブランドだ。ローカルのホームセンター世界で暮らしているとユニクロは高級品の部類で、無印良品の中途半端な価格と品質はニトリやホームセンターのPB、百均に太刀打ちできないのが現実だ。

 

2)適時適量供給力の弱点

 創業期は量販ベンダーとのVMIが主力だったが、価格の切り下げを求めて次第に工場直貿の自社開発にシフトし、現在では香港とシンガポールに置いたソーシング子会社が生産・調達を担っているが、国内と海外30ヶ国の多様なマーケットに適時適量を供給する体制は覚束なく、個別市場での商品の不適合や過不足が日常的に発生している。僅か4387億円の売上で世界31ヶ国のマーケットに衣・食・住の商品を供給するのは元より無理があって非効率は否めず、一品目当たりの生産ロットが限られるからコストと機動性を両立出来ず、価格も品質も中途半端になり、過不足ない供給も難しい。

 商品開発力を高めコストも抑制するには、品目数を絞って一品に注力し販売数量と生産ロットを増やすのが定石だが、様々なマーケットに適時適量を供給するには短サイクルの補充生産と機動的な物流も不可欠だ。衣料品生産に精通した匠を生産地の工場に張り付けているユニクロも生産地在庫の管理と国際物流は手慣れた大手商社に託しているし、工場直貿のPB開発を進めるワークマンも継続供給商品はベンダーや工場とVMIを構築して適時適量供給に注力している。良品計画もソーシング子会社に全てを任せず、商社やベンダー、工場とのVMIを活用すべきではないのか。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・予め定めた棚割と消化予測アルゴリズムに基づいてEOSでベンダーに補給(在庫管理と補充生産)を委任する取引形態で、小売業者は在庫を抱えず販売消化に即した供給を期待できる。

 

3)キャッシュフローマネジメントの弱点

コロナ禍に直撃された3〜5月期四半期決算では売上が前年同期比29.9%減少し、28億9900万円の営業損失、41億1600万円の純損失を計上し、700億円近く借り入れを増やしているが、コロナ危機のダメージを大きくしたのが運転資金回転の遅さだ。 

良品計画は売上債権回転が18.0日と大型業態としては異例に長く、棚資産回転もほぼ160日と過剰在庫に陥っているのに買掛債務回転は46.5日と短いため、運転資金回転が131.4日と長く1600億円近い運転資金を要している(20年2月期)。ゆえにコロナ休業など予期せぬ事態で売上が急落すれば資金繰りが圧迫され、急遽、借り入れなどで運転資金を補填する必要が生じる。

良品計画の売上債権回転は売上金を直接収納出来ていないテナント店舗や卸取引で18.0日を要し、ファーストリテイリングの9.6日、H&Mの9.2日、インディテックス(ZARA)の10.1日に比べると倍近い。棚資産回転も131.4日とH&Mの125.0日、ファーストリテイリングの147.9日とは大差ないが、短サイクル生産のインディテックス(72.9日)やVMI活用のワークマン(65.7日)とは倍ほども差がある。

良品計画の買掛債務回転はソーシング子会社が商品の生産・調達を担っているため46.5日と短く、生産地在庫の管理・運用を大手商社に委託しているファーストリテイリングの64.9日より18.4日も長い。結果、良品計画の運転資金回転は131.4日とワークマンの59.7日、ファーストリテイリングの92.7日に比べて長く、運転資金が嵩んでしまうのだ。

 

■経営感覚の甘さも弱点

コロナ禍に際しての700億円の借り入れは滞貨した在庫の多くを来期に持ち越すという判断も影響しており、棚資産回転はさらに悪化して運転資金が一段と肥大すると懸念される。29.9%(336億円)もの売上が消えても28億9900万円の営業損失、41億1600万円の純損失しか計上しないのは極めて不自然だ。

米国子会社の連邦破産法申請も、貸付金など58億600万円の債権に加えてコロナ禍の今期で営業損失が広がり、不採算店退店の減損やペナルティ(米国の定期借家契約では残存期間家賃の全額一括請求が避けられない)も加われば最大150億円もの損失がのしかかる、と見て切り離したと推察される。20年8月期(6ヶ月の変則決算)の業績予想も営業収益が19.4%減、営業利益が20億円の損失、純利益が39億円の損失と甘さを否めず、下方修正は必至と見る。

コロナ禍に直撃された20年第1四半期(3〜5月)決算で自己資本比率が前期末の66.6%から54.7%に落ちたとは言え水準は高く“経営危機”という状態ではないが、三つの弱点が良品計画の足を引っ張っている。これらを解消することが出来なければ業績は壁に当たり、「デフレの勝ち組」から脱落することになる。

予てから『ブランドを否定したブランド』という80年代的アイロニーやエシカルなブランドイメージへの甘えが危惧されて来たが、幾度も指摘されて来た課題を解決しないで来たツケは大きく、コロナ禍で弱点が露呈した。良品計画が自己信仰の殻を破り、たくましく再生することを期待したい。

論文バックナンバーリスト