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ブログ(アパログ2018年10月29日付)
『POSに騙されないで“売り切る”再編集スキル』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 アパレルが値引きと売れ残りですっかり儲からないビジネスになった要因は1)需給調整なき一方通行の過剰供給、2)値引きと売れ残りのロスを転嫁した原価の切り詰め、が大きいが、もう一つ、3)POS依存で売場を見なくなって“売り切る”再編集スキルが失われた、ことも災いしたと思われる。

 70年代まで小売店は買取仕入れが当たり前で(払いは消化分割が多かったが)、6〜7掛けで仕入れて利益を出していた。期末セール用の下代仕入れがあったにせよ、大半をプロパーで売り切り、セール後の残品は極めて限られていた(業界全体の残品率は今日の20分の1程度)。卸し流通主体だったから受注の多寡で需給が調整され、今日のSPA流通のような歯止めなき過剰供給とはならず、“買取”の真剣勝負だから売り切るスキルも桁違いに高かった。

 それがおかしくなり始めたのはDCブランド最盛期の84年頃からで、百貨店で委託取引が広がり(2000年7月のそごう破綻を契機に消化仕入れが主流となった)、有力ブランドのFCでも部分的ながら返品を受け入れるようになり、“買取の真剣勝負”は有名無実化していく。

 バブル崩壊後の90年代、デフレ下でSPA流通が主流となるにつれ、アパレルチェーンのPOS装備が当たり前になり、本部がMDを組んで多店舗に商品を送り込み、POSで販売管理して補給や消化を図るようになった。それとともに本部に権限が集中して店舗は手足となっていき、本部がPOSに依存するほど現場の“売り切る”再編集スキルは軽視され衰退して行った。VMDは本部が指示する“打ち出し演出”に留まるようになり、品揃え総体を編集運用して在庫を強制消化させていく“利益直結の現場スキル”とは乖離して行った。

 POSは“売れた”結果であって“売る”スキルではないから、POSに依存するほど品揃えが“売れ筋”に集中して細り、売れ残りが積み上がっていく。売れる売れないは商品の魅力だけでなく、売場の何処にどう編集してどう陳列するかで売上は何倍も変わる。売れない商品も売れるように編集運用するスキルがないと、値引きと残品がどんどん肥大して粗利を食い潰してしまう。編集運用スキルは消化歩留まり率を最大10ポイントも動かす“戦術核”なのに、POS依存で軽視され失われて行ったのは無念というしかない。

 90年代までは有力セレクトショップに生き残っていた再編集スキルも多店化とSPA化とともに大半が失われたが、米国のオフプライスチェーンや我が国の古着屋チェーンでは今日も第一線の戦術兵器として駆使されている。両者に共通しているのは“売れ筋”の補給が難しいこと、完全買取の真剣勝負ということだろうか。

 再編集スキルと店間移動、とりわけ二次展開店舗への移動と組み合わせると値引きや残品のロスを激減させられる。当社主宰SPACメンバーのアンケートによれば、値引きと残品のロスが総投入額対比で平均7ポイントも減る効果があったが、それだけで営業利益率を5ポイント前後も押し上げる。

 11月7日に開催する『VMD技術革新ゼミ』では売場構築/フェイス運用と再編集スキル、二次展開店舗の活用法など、“売り切る”VMDスキルの全てを体系的にお伝えしたい。

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