小島健輔の最新論文

ファション販売2009年8月号掲載
『ローカルチェーン成長の秘訣』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

大手に替わって台頭するローカルチェーン

 恐慌下で販売不振が極まる中、大手専門店チェーンの出店意欲も凍り付き、不人気SCでは撤退が相次いで空き区画や催事店舗が急増し、有力デベさえ区画を埋めるのに四苦八苦しています。そんな中、一転して買手市場となったSCに好条件で出店を加速するローカルチェーンが注目されます。
 昨秋以降に開設されたSCへの出店が目立つのが前橋市の(有)ハートマーケットや福岡市のエルエイトレーディング(株)、西宮市のシーエスピー(株)、仙台市の(有)ビズカンパニー、太田市の(株)ロボット、越前市の(株)エクスインターナショナル、銚子市の(株)オズファースト、観音寺市の(株)VIC、高松市の(株)NDCジャパン、福岡市の(株)ジェイエーシートレーディングなど。既存SCの空き区画に出店するケースを加えれば、もっと多くのローカルチェーンが台頭しているに違いありません。
 これら元気ローカルチェーンに共通するのは、一部の例外を除いてナショナルチェーンのコピー的品揃えではなく、善くも悪くもキャラや灰汁の強い個性的な品揃えでSCでの存在感が強いという点です。大手チェーンの安全パイ的な薄味とは一線を画した濃い味ゆえ、各駅停車の大手を補完してテナント揃えのバラエティを出せると評価されているのでしょう。
 彼等のオリジンを見ると、ローカル専門店発とローカルメーカー発に色分けされます。前者は地元商圏でブランドのFCや販売代行で力を付けてオリジナル業態で多店化に打って出たケースで、店舗数が限られるにも係わらずオリジナル商品を開発してセレクトSPAやSPAの形態を採っている事が共通しています。逆に言えば、SPA化出来ないローカルチェーンは価値競争力でも収益力でも突出できず、多店化も出来ないという事なのでしょう。後者は大手SPAのOEM受注や卸しで力を付けて直営店展開に乗り出したケースで、端からSPAゆえ収益面もブランディング面も有利で、前者より多店化のスピードも速いようです。
 もちろん、誰もが順調に多店化している訳ではなく、出店の失敗が続いて体力を消耗したり、多店舗化にオペレーションが追い付かずに在庫が積み上がり、リストラに追い込まれたり破綻してしまうケースも少なからず見られます。一時は急速に多店化して注目されながらも多業態化で販売効率が急落し、店舗整理を余儀無くされたケースもありましたね。
 ローカル専門店が様々な罠を回避して順調にチェーン化していくには、やらなければならない事とやってはいけない事があると思います。長年に渡って多くのチェーンの盛衰を見て来た私なりの見識を、これから多店化しようというローカル専門店の方々にアドバイスしておきましょう。

やってはならない事

 様々な事例を見ていて最も挫折に直結しているのが出店の失敗ではないでしょうか。多店化初期のローカル専門店の年間投資余力は精々数千万円から1億円程度で、2店も連続して出店に失敗すれば息が尽きてしまいます。不振店舗の損失を垂れ流しても撤退して減損処理しても、大量出血で体力を消耗してしまうのは避けられません。そんな悲劇を回避するには慎重な出店選択に徹するしかないのです。テベロッパーの能書きを鵜呑みにして勢いで出店していてはロシアンルーレットを繰り返すようなもので、何時かは痛い目を見てしまいます。
 既存SCなら現地に行って集客力を実見したり出店している類似店舗の売上を調べれば判断出来るでしょうが、これから開業するSCではデベの能書き以上の判断は素人には難しいと思います。そこで助けとなるのが専門格付け機関の売上予測ですが、日本では開設予定SCの売上予測を提供している機関は当社以外に存在しません。これまで200近い新規SCの売上を予測して来ましたが的中率はほぼ100%で、+−3%以内の誤差で正確に売上を予測出来ています。また既存SCについても毎年、売上実績と出店テナントの評価を集計して格付けを更新していますから、出店判断に必要な情報はほぼ完備していると言えるでしょう。SPACメンバーにはタイムリーに提供していますが、メンバーでなくても年2回の『SC出店戦略ゼミ』を受講する事は出来ます。転ばぬ先の杖として是非、参考にして頂きたいものです。
 出店に関してもうひとつ大切なのはドミナント戦略なき飛び石出店を行なわない事です。飛び石出店では運営コストが高くつきますし、馴染みのない商圏では売上も読み難いのが実情です。地元商圏と特性の近い売りが読める商圏をひとつひとつドミナントに固めて行くのが定石で、商圏特性の読めない遠隔地への飛び石出店には慎重であるべきでしょう。
 第二に重要なのは勢いに乗ってコストを肥大させない事です。売上予算を過大に見込んだり店舗や本社に過大な投資をすればコストが上昇し、見込みが違っても高コスト体質を何年も引き摺ってしまいます。結果、収益体質を損なって投資余力を失い、成長が頓挫してしまうのです。中小企業はフットワークの軽さが生命線で、コストが重くなってしまえば成長は遠のいてしまいます。決してやってはならない愚行と胆に命じて欲しいものです。
 第三に注意すべきは安易な多業態化です。ローカルな中小企業の人材は数が知れていますから、多業態化すれば人材が分散して魅力が失せるのは目に見えています。地元で多業態展開していた布陣をそのままSCに持ち込んで急成長したローカルチェーンもありましたが、やがてSCの厳しい競合に押されて総崩れとなり、主力業態に絞らざるを得なくなりました。多業態化はSPAの場合、主力業態が全国展開して4ダースを超えるような段階で行なうのが原則で、余程優れた人材に恵まれた特異なケースを除き、急ぐべきではないでしょう。但し、セレクトSPA業態と出店立地が限定される高キャラクター業態は上限が2〜3ダースの為、主力業態が2ダースに近付いた段階で着手する必要が在ると思います。

やらなければならない事

 第一に、ドミナント戦略のシナリオを持って多店化していく事です。地元商圏の布陣を固めた後は類似した近隣商圏に同様なドミナントを布陣し、次いで類似した商圏を探して距離的に近い商圏から固めて行くのが定石でしょう。ドミナントの布陣には平行布陣(類似した商圏)、下り布陣(よりローカルな商圏)、上り布陣(より都会的な商圏)の3手法があり、初期は平行布陣が鉄則で、それが一巡したら上るか下るかの選択となります。好景気時は上り布陣、景気低迷時は下り布陣が一般的な選択ですが、低価格業態などは景気低迷時に上り布陣するのが効果的な場合もあるようです。  個々のドミナントを形成するには線布陣(鉄道路線などに対応)と円周布陣(環状鉄道/道路に対応)があり、これを一巡してから面布陣を固めて行く事になります。また、ひとつのドミナントに同質な店舗を布陣するのではなく、ブランディングの拠点となるフラッグシップ店舗、面を固めるレギュラー店舗、売れ残りを集約処分するファイナル店舗(プロパー立地のセミ・アウトレット店舗)と役割を分担させて布陣するのが賢明でしょう。プロモーションや在庫運用まで考慮するなら当然の布陣ではないでしょうか。
 第二に欠かせないのが価値競争力と収益力確保へのオリジナル開発です。オリジナル開発を欠いては価値競争力/価格競争力でSPAに歯が立たちませんし、収益力にも投資余力にも大差がついて出店スピードも鈍くなってしまいます。オリジナル開発と言うと企画スタッフを抱える固定費やロットが足枷になって中小のローカル専門店には荷が重いと思われがちですが、別注やODMなら何の負担もありませんしロットも知れています。値入れだけなら現金問屋や海外のマート漁りでも十分なのではないでしょうか。
 フットワークの軽いODM業者(企画提案してくれるOEM業者)を活用するバイイングSPAからスタートし、店舗数の拡大とともに本格的なOEM体制やメーカー並みの自社開発体制にステップアップして行っても良いし、ポイントみたいに上場企業になってもバイイングSPA体制という選択もあり得ます。要は無理せず現実的なオリジナル開発を行ない、価値競争力と値入れという実利を手にすれば済む事なのではないでしょうか。  第三に重要なのが販売組織の育成です。販売組織と言うと接客能力だけが注目されがちですが、販売の要は在庫編集陳列力(現実の在庫を最も魅力的な構成に見えるよう編集陳列して売上と消化を促進するスキル)であり、接客と両輪になって販売を実現していくものなのです。店舗スタッフにコーディネイトと編集陳列のスキルを研修して現場の創造力を高め、確実に消化して行く自信を付けさせる事が大切なのではないでしょうか。売上向上/消化促進の再編集陳列技法は既に体系が確立されており、当社では年に二回のゼミでスキルを全公開していますから、是非とも学んで下さい。
 第四に欠かせないのが店舗数拡大に伴うロジスティクスのステップアップでしょう。多店舗に商品を配分・補給し店間移動して確実に消化していく仕組みを確立しないと、多店舗化とともに消化率が低下して在庫回転が悪化し、収益とキャッシュフローが圧迫されてしまいます。POSシステムはもちろんですが、配分・補給や店間移動のスキルとプロセス、それに伴う物流の仕組みを着実にステップアップさせないと多店舗化は頓挫しかねません。複雑な仕組みに思われるかも知れませんが、先行大手チェーンでは確立済みのスキルですから素直に学べば済む事なのです。当社のSPAC研究会では定期的に学ぶ機会を設けていますから、多店舗化したい方は参加してみては如何でしょうか。※SPAC研究会の御案内はこちら。

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 これら、やってはいけない事をすべて回避し、やるべき事をすべて遂行したとしても、本来持っていたキャラや味の濃さを失えば顧客は離れて行ってしまいます。ローカル専門店の初心を忘れる事なく顧客と現場の実感を大切にし、着実に多店舗化を進めて欲しいものです。

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