小島健輔の最新論文

現代ビジネスオンライン
『アパレル業界を追い詰めた「三度の裏切り」…これではもう売れない』
百貨店もSCもECモールも終わった
(2018年09月19日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

プラットフォーマーの裏切りの歴史

今やECの勢いは留まるところを知らず、店舗販売は存続さえ危ぶまれているが、アパレル業界にとっては人気ファッションECモールの手数料高騰が頭の痛い問題になっている。その状況は『ECモールが百貨店化している』と嘆かせるほどで、“三度目の裏切り”かと業界を落胆させている。

アパレル流通の四半世紀を振り返れば、プラットフォーマー(※)の裏切りの歴史だった。アパレル業界とて、それを原価率の切り下げで穴埋めして来たのだから、結局は業界ぐるみで消費者を裏切ったわけで、バーゲンしてもファミリーセールを繰り返してもアウトレットで叩き売っても過半が売れ残るという破綻に陥ったのもやむを得まい。

※コンテンツ事業者(アパレル)に販売の場を提供するのがプラットフォーマー(百貨店や商業施設、ECモール)で、在庫リスクは負わず家賃や売上手数料を徴収する。

アパレル流通崩壊の引き金は百貨店が引いた

もう二昔も前の出来事だが、アパレル流通のみならず国内アパレル産地崩壊の引き金を引いた“事件”があった。

バブル崩壊後の売上急落を利幅で埋めるべく大手百貨店は92年から00年にかけて毎年のように取り分(「歩率」と言われる売上手数料率)を増やし、8年間で計13ポイントも嵩上げてしまったのだ。どこの百貨店が口火を切ったか業界の上層部は誰もが知っているが、表立って誹られる事は今も憚られる。

取引アパレルは収益を確保すべく原価率をほぼ同ポイント切り下げ(33%が20%になったと言われる)、コストの高い国内生産から中国生産にシフトして国内産地崩壊の引き金を引き、お値打ち感の急落で消費者は百貨店から駅ビルやショッピングセンター(SC)に逃げ出した。アパレル事業者も我先に百貨店から駅ビルやSCに販路を移したが、そこにも罠が待っていた。

アパレル業界は駅ビルやSCにも裏切られた

00年前後には経済の活発化を目論んで規制緩和が乱発されたが、流通業界を一変させたのが00年3月1日に施行された改正借地借家法と6月1日に施行された大店立地法だった。

前者によって定期借家契約が導入されて出店の初期費用が激減した一方(基本家賃の50ヵ月分という差し入れ保証金からほぼ五分の一の敷金に軽減)、営業権が無くなって定借期間後の営業継続が担保されなくなり、店は資産から利用権に変質した。

商業施設側は差し入れ保証金の減額分を共益費や販促費等も合わせた実質家賃に転嫁したから、テナントの売上対比実質家賃負担は三年で4ポイント前後も高騰した。

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後者によっては営業時間が自由化されて全国の商業施設はおしなべて2時間ほど延刻され、売上は増えないまま運営コストが肥大し、人手不足が恒常化して店舗運営の質も低下してしまった。

希望の地と思われた駅ビルやSCでも運営コストの上昇に加え、出店初期費用の低下と規制緩和による商業施設の開発ラッシュでオーバーストアが急進。00年から17年でSCの総商業面積は64%も増加し、販売効率は年々落下して00年の65%まで落ち込んだ。

アパレルチェーンは収益を確保すべく調達原価を切り詰め、お値打ち感を損なってさらに売り上げを落とすという悪循環に陥った。商品の価値も販売の質も怪しくなって顧客が離反し始めたところに追い打ちをかけたのが、11年頃からのスマホの普及とECの台頭だった。

品揃えも商品情報も限られる店舗販売から、品揃えも商品情報も格段に豊かで購入の手間も持ち帰る労働も強いないECへと消費は急激に移行し、損益分岐点の高い店舗販売は採算割れに陥って閉店が広がっていった。

百貨店化するECモールと決別する日

運営コストも初期投資も軽く、在庫が多店舗に分散しないからロスも少ないECは店舗販売に代わる希望の地と思われたが、皆が我先に参入して競争が激化し顧客利便が競われるに連れ運営コストが肥大。

流通プラットフォーマーたるECモール事業者も手数料率を年々嵩あげて有力百貨店を上回るほどになり(今や35〜40%と言われる)、『ECモールが百貨店化している』と失望感が広がった。そこに宅配料金の一斉値上げも重なり、ECは他人のプラットフォームに依存する限り低コストとは言えなくなった。

手数料率が高騰する人気ECモール事業者がある一方、仕組みを改善して手数料率を抑制したり利便を高めるECモール事業者もあるが、顧客と在庫、店舗とECを一元一体に運用するにも在庫を抱えないショールーミングストア(発注・決済・物流はECに拠る)に移行するにも自前のECプラットフォームが不可欠で、先行する有力企業はECプラットフォームに投資を集中して店舗網の整理縮小に転じている。

EC受注品の店在庫引き当てと店受け取り・店出荷というZARA(INDITEX社)の決断はその典型で、EC比率が高まった欧州から店舗網の縮小に転じている。

三度もプラットフォーマーに裏切られた挙げ句、アパレル事業者が百貨店や商業施設はもちろんECモールにも見切りを付け、自前プラットフォームに生存を賭けるに至ったのは必然と言うしかあるまい。

アパレル事業者にはその実行スピード、アナログプラットフォーマー(百貨店/商業施設)やデジタルプラットフォーマー(ECモール)にはアパレル事業者を引き止めるコストと利便の革新が問われているのではないか。

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