小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年03月13日付)
『ジーンズとアメカジが復活?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 イージーケアな機能素材と楽チンなゆるフィットが席巻する中、ナイロンデニムやストレッチデニムなどの機能素材系はともかく、洗ったり皺をつけたりダメージを加えたりした「加工デニム」の本格復活は何時になるのだろうか。一部マニアのこだわりアイテムを超えるメジャーな広がりは期待出来るのだろうか。
 米国では死んだかと思われていた「アバクロ」まで息を吹き返したと聞くが、これはECが28%も伸びて総売上の31.4%(当社の計算)にも達した為で、店舗売上は97%と依然、水面下を脱していない(18年1月期)。米国の「ライトオン」みたいな「バックル」にしても15年6月以来、既存店割れが続いており、ファイナルセールの1月こそ0.2%増と31ヶ月ぶりに浮上したが2月は94.7と再失速している。唯一、ジーンズの復活を伺わせるのがリーバイストラウスの売上で、15年11月期の94.5から16年は101.3、17年は107.7と回復が加速している。
 我が国でも「ジーンズメイト」こそ女性客を取り戻して急回復しているが、「ライトオン」は未だ低迷したままだ。百貨店やファッションビルのジーンズブランドの売上を見ても、「デンハム」や「リプレイ」は好調だが「Gスターロウ」や「GAS」は低迷している。明暗を分けているのは緩いかヒップコンシャスかのフィットと女性客の支持率だと推察されるが、底が見えなかった一昨年までに較べれば情況は好転している。
 振り返れば08年秋口からのファストファッションブームを契機にグローバル化が急進し、ジーンズカジュアルやギャルカジュアルなどローカルカジュアルが釣瓶落としに凋落していった8年間は忸怩たるものがあった。それは前後して同様な状況に陥った米国カジュアル業界も似たようなもので、LAカジュアルやギャルカジュアルのチェーンやアパレルが大量閉店や破綻に追い込まれた(ECに食われたのが主要因とは言えない)。
 「H&M」や「ZARA」などグローバルなモードSPAに圧されて凋落の一途だった米国のローカルカジュアルたるアメカジやジーンズはようやく底打ちが見え始めた段階だが、我が国では「H&M」や「フォーエバー21」などモードなファストファッションが昨春頃から落ち込み、昨冬にはとうとう「ZARA」まで失速してしまったから、どうやら日本が一歩先行してグローバルモードからローカルカジュアルへ回帰し始めたようだ。
 ファストなグローバルモードはトレンディかも知れないが、味もこだわりも生活感もない浮ついた代物で、ライフスタイルに馴染むリアリティを欠いている。一時はマーケットを席巻しても、それぞれの生活者が自分に馴染む服の心地よさに気付けばマーケットはローカルに回帰し、グローバルモードの潮は引いて行く。そんなターニングポイントにようやく達しつつあるのだろう。2011年6月27日のこのブログでいささか願望も込めて『H&M遠からず日本撤退か』と揶揄したことが思い出されるが、「H&M」はともかく「フォーエバー21」など撤退が現実味を帯びて来たし、「H&M」とて販売効率の低迷は否めない(郊外SCでは「ユニクロ」の半分にも遠い)。
 体型はもちろん地域の生活文化、個人のライフスタイルや好みが反映されるアパレルは元よりローカルなもので、グローバルSPAが世界を席巻したのは一時の勢いに過ぎなかったのではないか。一つの国の中でも様々なローカル・エスニックが存在し(当社では国内マーケットをレディス34タイプ、メンズ24タイプに分類してスタイリング変化を追っている)、一つの街の中でも通りによってテロワールのごとく客層は一変する。元よりローカルなマーケットがグローバルモードの幻影から覚めるなら、加工ジーンズもアメカジもそれぞれのライフスタイルに馴染むローカルカジュアルとして本格復活するに違いない。その日はもう目前に迫っているのではないか。

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