小島健輔の最新論文

ファッション販売2013年8月号掲載
『ライフスタイル業態の研究』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 ファッション業界はモードトレンドとライフスタイルトレンドの狭間で揺れ動いて来た感があるが、今春夏も「モード回帰」と「ナチュラルライフスタイル」という両極にフォーカスが当たっている。部分的ながら景気の回復もあって商業施設の開発やリニューアルも増えており、新たに登場するブランドや業態はこのどちらかを向いたものに見えるが、商品のリアリティや売場のスケール感はライフスタイル業態に勝るものはない。
 「ライフスタイル業態」と言っても実に様々で、そのベースとなる「ライフスタイル・マーケティング」にも幾つかのスタンスがある。

フライフスタイル・マーケティングとは

 「ライフスタイル・マーケティング」にはフィールド・リサーチからアプローチする手法と統計データからアプローチする手法があり、具体的な業態開発もスタイリストやブロガーのパーソナルな感性で行う手法とプロフェッショナルなMDが計画的に構成する手法がある。梨花プロデュースの「メゾン・ド・リーファー」は前者、トリニティ・アーツの「ニコアンド」は後者の好例と言えるだろう。
 「ライフスタイル・マーケティング」と言うと特定のシーンやパーソナリティをイメージする事が多いが、基本はライフステージ・マーケティングだ。「ライフステージ・マーケティング」とはフレッシャーとかアラ30とかアラ40、あるいはニューカップル、ニューファミリー、子供が巣立ったアダルトカップル、そしてリタイアドエイジなど、人生の各段階をフォーカスするもので、ファンド傘下となる前の「トミー・バハマ」など現役引退後のエグゼクティブのリゾートライフをフォーカスしたものだった(現在はやや若くなった)。どのライフステージのどの場面をフォーカスするのかがスタートラインで、それをどんなテイストやキャラクター、あるいはパーソナリティで表現するかで業態の性格が決まる。
 実際のライフスタイル業態ではシーン訴求が前面に出る事が多く、スポーツやアウトドアのシーン提案ではライフステージを限定しない‘フォーエバーヤング’が通低するが、「旅」コンセプト業態(ミセス)、「スタジオ(ワンルーム)ライフ」コンセプト業態(単身の若者)など、特定のライフステージを前提とするケースも多い。また、ライフスタイルが特定のクリエイティブキャラクターで商品展開されるケース(ファブリックキャラクターなど)ではライフステージに巾がある。

ライフスタイル業態の分類

 最もバラエティが多いのがライフシーン型で、スポーツ、アウトドア、バイシクル、ウィークエンド&リゾート、インハウス・リラックス、ベッド&バスなど様々だが、スポーツの中でもランニングやヨガ、アウトドアでもウォーキングから本格的なクライミングまで、バイシクルでもランドナースタイルからマウンテンバイクスタイル、クロスバイクスタイル、ロードバイクスタイルまで、ウィークエンドも若者のサーファーライフから大人の別荘ライフまで、インハウス・リラックスでも若者のスタジオスタイルからエグゼクティブの書斎スタイルまで、ベッド&バスでもラグジュアリーライフからナチュラルヒーリングライフまで、実に様々だ。どんな人たちのどのライフステージから発想するか、共感を得られるテイストやパーソナリティが問われる。
 ライフステージ型の場合は時代のムーブメントを引き起こす特定世代が起点となる事が多い。00年前後には団塊ジュニア世代が家庭を形成する段階で「ニューファミリー」がパワーコンセプトとなったし、現在は団塊世代の定年退職がピークを迎えて「リタイアドライフ」や「熟年旅ライフ」がパワーコンセプトとなっている。00年当時の「ニューファミリー」は今や40代となって子供達もティーンズとなり、両親は「アラ40カップル」、娘は「ダンシング・トゥイーンズ」として別のライフステージを盛り上げている。
 ライフシーンやライフステージに囚われないライフスタイル業態がデザインコンセプト型やクリエイティブキャラクター型で、前者では「コンランショップ」や「リステア・デジタル」などのセレクト業態、後者では「マリメッコ」や「キャベジズ&ローゼズ」などのファブリックキャラクターが挙げられる。

マーチャンダイジング手法

  ライフスタイル業態のマーチャンダイジング手法は1)ベンダーアソート型、2)セレクト編集型、3)デザインOEM型(ライセンス編集)、4)編集SPA型、5)自社開発SPA型、の五種が一般的だ。
 1)ベンダーアソート型
 ライフスタイル業態の多くはガーメント類や服飾雑貨類、生活雑貨類、文化雑貨類、グロサリー食品類など多様なカテゴリーで構成されるから、カテゴリー毎に専門ベンダーと組んでシーズン毎の品揃えを構築するベンダーアソート型が基本になる。カテゴリーによってはベンダーに品揃えを委託し、補給と期末の入れ替えを依存する事もある。最も手軽に品揃えを実現出来るし商品回転も無理が少ないが、粗利益率と独自性には限界がある。
 2)セレクト編集型
 様々な仕入れ先からセレクトして買い取る手法で独自の品揃えが可能だが、補給や期末の入れ替えは望めず、商品回転も粗利益率も低位に留まる。他の手法を組み合わせて収益性を確保しないと採算には乗らない。
 3)デザインOEM型
 品揃えを設計して個々の商品を企画し、カテゴリー毎のベンダーにライセンスを供与して生産を委託する。各ベンダーは独自ルートで卸を行う一方、ライフスタイル業態にライセンス商品を供給して品揃えを構成する。商品開発をベンダーに委託し卸でロットもまとまるからカテゴリーを拡げ易く、ライランス収入も期待出来る。独自性も収益性も確保出来るが、ライセンシーチームを組織化出来るだけの企画力とブランド力が不可欠だ。
 4)編集SPA型
 自ら企画して工場やOEM業者に生産を外注し、全量を買い取ってDCにストックし、ショップの品揃えと補給、販売のすべてを一貫する。OEMと言っても仕様開発は分野別の専門メーカーやベンダーに依存する事が多く外注編集の性格が強いが、独自性と収益性は確保し易い。
 5)自社開発SPA型
 ホームウェアやホームリネン、化粧品などの専門メーカーやベンダーが直営するライフスタイルブランドで、卸を並行したりグローバルに展開する事が多い。商品開発は突出するがカテゴリーが限定されるため、4)の手法を使ってサブ的なカテゴリーを加えるケースも見られる。

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 実際の業態開発では小売業発は1)か2)、問屋発は3)か4)、メーカー発は5)を起点にカテゴリーによって複数手法を組み合わせるケースが多い。自社のスタンスに適したマーチャンダイジング手法を現実的に組み合わせる事が離陸の必須条件となる。
 その際、留意すべきがアパレルやホームウェア、服飾雑貨と生活雑貨の品揃え比率と在庫回転のバランスだ。衣料品と服飾雑貨の回転は読めても生活雑貨の回転は読み難い事が多く、一般に生活雑貨類の回転は衣料品の半分にも満たない。品揃えの比率は生活雑貨が四割でも売上の比率は二割にも届かないケースが大半なのだ。生活雑貨の比率を抑えるとともに1)ベンダーアソート型の調達も活用し、在庫回転を近づける工夫が不可欠と思われる。
 マーチャンダイジング手法はロットで変るから、展開の初期段階から2ダースぐらいまでは1)2)手法主体でも5ダース、10ダースと店舗数が増えて行くと3)4)手法主体となっていく。物流体制も含めて多店化とともにシフトアップを構想しておくべきだ。

出店立地とゾーニングポジション

 業態開発は出店戦略と表裏一体で、どんな立地・施設のどんなゾーニングを想定するかで客層や価格帯も異なって来る。都心のターミナルなのか、アーバン住宅地を背景としたサブターミナルなのか、成熟サバブの郊外RSCなのか、新興サバブの郊外CSCなのか、同じ施設内でもファッションゾーンなのか、ファミリーゾーンなのか、生活雑貨・ホビーゾーンなのか、明確に設定する必要がある。
 加えて、衣料品・服飾品と生活雑貨の陳列バランスも考慮して立地別に売場面積を設定するべきだ。販売効率の低い郊外SCでは間口ワンブロック×奥行きツーブロック(実効売場面積で45〜50坪)をミニマムに間口ツーブロック×奥行きツーブロック(同90〜100坪)のスケールを描き、販売効率の高いサブターミナル施設では6掛け程度の売場面積を想定するなど、品揃えと販売効率のバランスを想定したい。

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