小島健輔の最新論文

ファッション販売2004年8月号巻頭カラー掲載
『フラクサスは真のデパートメントストアを目指す』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 ワールドのライフスタイル編集デパートメント・ファッションストア「フラクサス」の最新最大店舗が、6月2日プレ・オープンのダイヤモンドシティ・ルクル(福岡)に全容を現わした。3月24日開店のソレイユ店(1170坪)、4月1日開店のアルル店(900坪)をはるかに上回る1730坪を如何に構成し表現するか、業界の熱い注目を浴びている。  

モールの進化に追い付かれた「フラクサス」

 広大な売場を構成すべく、前二店で既展開の専用ユニット、百貨店SPAブランドを拡充するとともに、バイイングSPA業態は既展開の「INDEX」「ミニマム」「コキュ」に「ジ・エンポリアム」を加えてバラエティを強化、ファッションコモディティ業態は同「ハッシュアッシュ」に「3can4on」「オリンカリ・ザ・ショップ・オゾック」を加えてファミリー対応を強化。飲食サービスは同「シィシィパスタ」「ピクニック・アラウンド・ザ・ワールド」に「ファブリカ・ピッシェリア」「ジャスミン・テーブル」「ハッピーヒッピーワゴン」を加え、レストラン&フードコートの“フードパニック”を新設。他社商財を導入した「ラブ&ピース・ミスターフレンドリー」、自社商財をシーズナル編集した「ブリリアント・マーケット」などのアウトポストは、大型ストアとしての営業展開を模索する試みとして注目される。
 『既展開の専用ユニット、百貨店SPAブランドを拡充する』とは言ったものの、フォーマル/サイズ/ランジェリーのユニットは前二店より縮小されているし、セレブデニム・ブームにも関わらず「ジーンズ・セレクション」は「スカル・ジーンズ」とオリジナルの「スイミング・トゥ・ザ・ムーン」のみの構成に留まり、ジャスコの「エスパス・ドゥニーム」の後塵を拝している。総じて売場の広大さに見合う商財の充実感はなく、レイアウト表現とエントランス・ロビーで貴重な売場面積を埋めてしまった感を否めない。専用ユニットにセレクト商財を加えたり、新規のアイテム・ユニットや他社ブランドユニットを導入すべきだったのではないか。
 モールテナントのレヴェル向上や洗練されたライフスタイル業態の増加を見るにつけ、ソレイユからの急激なモールの進化に「フラクサス」が追い着かれた感を否めない。  

迷走するレイアウトと環境表現か

 ストア全体のレイアウトは一見、アルル店のMacy’s様式を複雑化したように見えるが、ソレイユ店のサックスフィフスAv.様式を角形にして複雑化したものと見るべきであろう。どちらにしても解り難いレイアウトには変り無いが、その要因は主導線の四方を風・海・食卓・雪とテーマづけて拡張演出したパティオ群、主導線を角で塞ぐように配置した“フードパニック”にある事は間違いない。
 構成を解り易く紹介しようとエントランスに設けたアウトポスト、正面を塞ぐように配した巨大なサービスカウンターと背後のインデックス・ディスプレイ、左右の大型ウィンドウも、そのために広大になってしまったエントランス・ロビーとあいまって、顧客の円滑な導入を妨げている。どう好意的に見ても迷宮感は否めず、ワンフロア二千坪のレイアウト的限界を露呈していた。このスケールなら二層構成がベターであったのではないか。
 環境的にも、エントランスは土臭いカントリーナチュラル調、各パティオはカントリーホテルのロビー調、“アーケード”は洗練されたモダン・デコ調、ディスプレイはアンティクなアール・デコ調と様々な様式が混在。ソレイユ店のようなアール・デコ調の美術的ラグジュアリー感、アルル店のようなモダン・デコ調のすっきりとしたまとまり感もなく、商品構成との違和感さえ感じられた。
 撮影をしていても“アーケード”を除いて前二店のような洗練された構図が見つからず、特にソレイユ店で顕著であった垂直に伸びる立体感のある構図はまったく見い出せなかった。ルクル店の天井高も4メーターと決して低くはないが、穴蔵に押し込められたような印象を否めなかった。
 『美的感動ある生活をカテゴリーミックスで提供するファッションライフスタスイルストア』と志す以上、「フラクサス」は店舗の美術的水準にも責任を持つべきで、ルクル店は明らかにその期待を裏切っていた。

“フラクサス”は真のデパートメントストアを志す

 敢えてさまざまな欠陥を指摘したが、それは「フラクサス」が美しき貴公子として出生したのみならず、衰退の隘路に陥った日本の百貨店を覚醒させる真のデパートメントストアを志す勇者だからだ。
 レイアウトの試行錯誤にしてもアウトポストの登場にしても、カテゴリーミックスと言いながら実態はデパートメント・ユニットミックスである事も、「フラクサス」が真に到達せんとしているゴールが米国式のスペシャルティ・デパートメントストアである事を暗示している。『自主MD&自主運営によるデパートメント・ユニット群に外部ユニットも組み込み、クォリテイ感ある美術的店舗環境で地域毎の顧客に高質なライフスタイルを訴求するデパートメント・ファッションストア』こそ、「フラクサス」が志す真の姿に違いない。
 既成の百貨店を差し置き、アパレルメーカーのワールドが誰も到達出来なかった理想を実現していく姿に、少なからぬ百貨店首脳が不快感を表していると聞くが、それは恥知らずの嫉妬と言うべきだ。本来、既成の百貨店が自らを革新して郊外RSCのアンカーとなるべきところを、誰もが尻込みして出なかったからこそ、ワールドは高い志をもって難題に挑戦したのだ。百貨店経営陣は謙虚に勇者の挑戦を賞賛し、真摯に「フラクサス」を研究すべきである。  

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