小島健輔の最新論文

販売革新2012年12月号掲載
第二回『マーチャンダイジングと売場展開のデジタル標準化』
連載『ショールーミング時代のチェーンストア・リテイリング』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

デジタル標準化がハイブリッド化の大前提

 オンライン・リテイリングとのハイブリッド化を進めて運営を効率化し消化回転を促進するには、マーチャンダイジングから売場展開・在庫運用まで一気通貫するデジタル標準化が不可欠だ。デジタル標準化とは、商品企画と売場什器の規格を一致させて陳列表現と在庫管理・店内物流を効率化し、商品構成と規格什器群の配置パターンを一致させてストア総体の表現力と運営効率を高め、商品企画から配分・補給・店間移動、売場の陳列・再編集・販売までチェーン全体の運営プロセスを規格化してブランディングと経営の効率化を図るものだ。
 私はこのプロセスマネジメント体系を「ロジスティクスVMD」と名付けて普及を奨励して来たが、場当たりの継ぎ接ぎMDに流れる日本のアパレル流通業では未だ例外的な位置に留まる。世界の勝ち組SPAでは常識となっているだけに残念と言うしかない。
 具体的には、単品MDの展開スケールと什器のサイズ・仕様を規格化して元番地をアドレス管理し、単品集積訴求/ルック訴求の大型出前什器や小型出前什器も規格化し、商品構成パターンも規格化して売場全体の什器配置パターンと一致させるのが第一歩。ICタグを導入しても、デジタル標準化が出来ていないと在庫位置が容易に特定出来ず運営が効率化し辛いし、ARなビジュアル訴求も売場の陳列配置と上手く繋がらない。ハイブリッド化にはデジタル標準化が避けては通れない大前提なのだ。
 ちなみに、「元番地」とは単品の型・色・サイズが棚割り陳列あるいは心太陳列されて補給管理される場所で、通常は標準規格什器が使われる。補給が切れて陳列が空いて来ると類似カセットと統合圧縮を繰り返し、次に投入される企画カセットに番地を空け渡して行く。「出前」とは期間と訴求切り口を定め元番地から持ち出して単品集積訴求やルック訴求を行う場所で、メインプレゼンテーションには大型二段テーブルや長尺のシングルハンガーなど、サブの出前訴求にはT字や2ウェイ、小型のシングルハンガーなどが使われる。日本では出前訴求はSSMのクロス・マーチャンダイジングが見られる程度で衣料品では例外的だが、米国のSPAでは元番地から様々な切り口で多重に出前して販売機会を拡げる技が競われている。出前である以上、そのキャンペーンが終われば残在庫は元番地に戻される。

デジタル標準化はチェーンストアの原点だ

 考えてみれば、単品MDの展開スケールと陳列什器の規格統一、什器配置のアドレス管理、商品構成パターンと什器配置パターンの一致は、ハイブリッド化以前にチェーンストア・オペレーションの大前提であったはずだ。SSMやCVSの世界ではデジタル標準化はとっくに定着して商品企画〜物流・補給〜陳列訴求を串刺すプロトコルと化しているのに、衣料分野だけは何故かアナログ継ぎ接ぎの荒野のまま進化が止まったままだ。
 アパレル分野で突出する企業は皆、それぞれにデジタル標準化を確立している。ユニクロやGAPの店頭を見れば、商品構成のパターンと什器配置のパターンが一致し、単品MDの展開と陳列什器の規格が見事に一致しているではないか。大型店と小型店、フラッグシップと標準店は単品MDのダブルスパン陳列やハーフスパン陳列、大型出前什器の二重連訴求やサブ出前什器の展開量で見事に伸縮対応されている。逆に言えば、デジタル標準化を徹底しないままでは売場の大小、店舗で異なるルック訴求と単品訴求のバランス、販売効率の高低にもロジカルに対応出来ないという事だ。
 衣料品は食品とは異なって流行が速いというのがデジタル標準化に遅れた言い訳なのだろうが、衣料品の多くは年に4〜8回転、速いケースでもせいぜい12回転程度で、生鮮食品や日配食品に較べれば格段にスローだからデジタル標準化は遥かに容易だ。ターゲットやコンセプトを明確にせず、他店の売れ筋まで後追いして継ぎ接ぎのMDで売上を稼ごうとする悪習が実現を妨げているだけで、コンセプトを明確にしてストーリーを決め込んだMDを展開するならデジタル標準化は容易に果たせるはずだ。

什器規格を標準化する

 標準什器の規格は正面の巾/高さ/奥行き、什器の構造と陳列パーツの取り付け方法から決められる。巾は陳列する商品巾の最小公倍数+若干のゆとりで設定されるから、大人の服は120cm前後、ベビー服やトドラー服、肌着類は90cm前後が標準規格となっている。高さは陳列する商品の長さと量、売場総体の什器配置からの目線透過性で決められる。什器の構造は木質パネル型か金属フレーム型か、設置型か可動型か、ダボ方式かガチャ方式か、ガチャ方式なら取り付け位置は側面か背面か前面か、FO/SO/FDなどの陳列手法対応や陳列パーツの補給管理、想定される陳列重量への耐久性、量産ロットや求められるコストなどから決定される。
 問題となるのが島什器と壁面什器の整合で、設置型や可動型なら島什器の高さを伸ばせば済むが、施行型では島什器と陳列パーツを互換出来るよう取り付け方法と位置を共通させなければいけない。デジタル標準化では棚割りと陳列量も島什器と共通させる必要があるから、島什器と同じ高さまでは棚割りを共通させて上部にはフェイスアウトなどでIPするようVMDマニュアルを統一し、上下二段陳列を回避させる(そもそも上段に陳列出来ないよう規格する手もある)。壁面什器は島什器に較べると販売効率が格段に低く在庫回転が悪化しがちだから、セットアップやスーチング以外では二段陳列を避けるのが定石だ。
 二段テーブルなどの大型出前什器もサイズを規格化し、重連使いや両面合わせ使いで大量陳列訴求も可能なようにする。サブ出前のT字や2ウェイも規格を統一してレイアウトが容易なように組むのは当然だ。

販売プロセスを標準化する

 什器レイアウトのデジタル標準化は、商品構成と販売プロセスから組み上げられる。商品構成のツリー構造を什器配置に落とすのが定石だが、ツリー構造が右往左往するようでは困難で、顧客の購買行動も定着し難い。ツリーは一般にカテゴリーやシーン(TPO)から企画カセットに落ちて行くが、GAPのようにデニムやチノなどキーボトム軸のスタイリング、あるいはZARAのようにカラーグループ(心太方式)、VICTORIA’S SECRETのようにインブランドがツリーの上位に位置する構成手法も見られる。
 商品構成ツリーに加えてレイアウトを規定するのが販売プロセスで、コーナー毎の姿見とその前の接客空間、フィッティングルームのすべてを一望出来るレジ、フィッティングルーム前の大型姿見やお見置きテーブルと十分な接客空間、ベルトやスカーフなどコーディネイト小物のラックを販売導線を計算して配置しなければならない。当然ながら、客数と客単価、各カテゴリーのストック位置、ピーク時の販売スタッフ配置も計算される。こうしてブランドやストアの特性に応じた固有の販売プロセスが標準化されたレイアウトに帰結する訳だ。
 となれば売場の什器レイアウトは商品構成を企画する者が主導権を取って標準化すべきだが、現実は商品部と乖離した組織が窓口となって外部の設計者に委嘱されるケースが多い。デザインの細部や実施設計は外部に依存するにしても、什器レイアウトと什器の陳列機能、照明器具のタイプと配置は商品部が細部まで決め込まないと商品構成や販売プロセス、ブランド/ストアのキャラクターと乖離してしまう。運営効率はもちろんブランディングまで左右してしまうから、商品系のヘッドが納得いくまで詰め切るべきであろう。

デジタル企画とアナログ企画

 什器規格と什器レイアウトをデジタル化しても商品企画のすべてをデジタル化する訳ではない。長期補給して台帳運用するデジタル商品企画とタイムリーに継ぎ剥いで心太運用するアナログ商品企画を組み合わせてシーズンの新揃えストーリーを組むのが定石で、チェーン展開の初期ではキーアイテムのみに留まるデジタル商品企画を多店化とともに拡大して行く事になる。
 「デジタル商品企画」は企画段階から型・色・サイズの配置を棚割り、店頭の棚割りフェイスを補給によって維持して行くもので、スタイリングのキーとなるボトムやカラー展開する定番トップスが対象となる。「アナログ商品企画」はデザイン変化や柄変化を訴求して継ぎ剥いで行くもので、店頭フェイスの陳列形状は維持されるものの中身の品番は入れ替わって行く心太運用が行われる。出前はこの両者を組み合わせて継続と変化を訴求し消化回転を促進するもので、キーアイテムは色組みなどを変えて複数箇所に出前し販売機会を拡大するのが定石だ。
 欧米SPAの店頭を見ると、デジタル企画とアナログ企画のバランスでベーシック性向とファスト性向、ジュニアチェーンかナショナルチェーンかグローバルチェーンかの展開規模が見て採れる。逆に言えば、ブランド/ストアの性格や多店化段階にそぐわないバランスは販売消化と運営効率を阻害して業績を悪化させる事になる。デジタル商品区画とアナログ商品企画、その店頭陳列フェイス運用の具体的手法については改めて詳説する事にしたい。

縦割り組織が実現を阻害している

 コンセプトが確立されたブランドやSPAではデジタル標準化は比較的、理解され易いが、GMS衣料部門など組織が大きく縦割りになっている場合は縦割り組織が壁となって理解が進まない。商品部から入って商品企画と什器規格の標準化、商品構成パターンと什器配置バターンの一致を図っても、建設部から越権行為という横槍が入ってプロジェクトが頓挫した経験もある。
 チェーンストアの代表格のように言われるGMSがこの体たらくだから、コンセプトが明確で組織もシンプルなSPAチェーンがデジタル標準化を確立して運営を効率化しストアをブランディングして勢力を拡大する一方、GMS衣料部門が凋落して行くのも当然であろう。組織が肥大化して一気通貫の革新が出来なくなったGMSはチェーンストアの進化から取り残されているのではないか。

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