小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『ワークマン挫折の必然 チェーンストアとしての未熟さ露呈』
(2024年05月14日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 アウトドアブームが沈静化して「ワークマンプラス」が勢いを失い、「#ワークマン女子」を前面に打ち出したカジュアル路線が顧客ともビジネスモデルともすれ違い、さまざまな効率が悪化して業績が傾き出しているワークマン。最新決算から挫折の構図をあぶり出し、再成長への策を探ってみた。 

 

既存店の前年割れで成長が頓挫し2期連続の減益

 

 ワークマンの24年3月期は15年3月期以来の既存店前年割れ(98.6%)で加盟店売上高が101.3%と伸び悩み、チェーン全店売上高も103.2%にとどまった。既存店売上高は「ワークマン」が98.2%、「ワークマンプラス」が96.6%、「#ワークマン女子」は88.9%と2ケタ割れだった。フランチャイズ本部たるワークマンの営業総収入も103.4%と16年3月期の102.4%以来の低い伸びで、全ての指標が当初計画を下回り、営業利益、経常利益、当期純利益とも96.0%と2期連続の減益となった。

 既存店売上高は20年3月期の125.7%、21年3月期の114.2%から22年3月期は101.5%、既存店客数も20年3月期の119.8%、21年3月期の113.8%から22年3月期は101.0%と急減速し、24年3月期は既存店売上高98.6%、既存店客数96.0%とついに水面を割り込んだ。既存店の平均年商/1日平均客数も1億7123万円/167人と前期の1億7152万円/172人からわずかながら減少に転じ、15年3月期の9489万円/113人を底に上昇してきた勢いもストップしてしまった。平米当たりチェーン全店売上高も前期の59.2万円から58.3万円とわずかながら下降に転じ、18年3月期の33.5万円から年々上昇してきた販売効率も頭を打った。

 19年3月期は全837店中の825店を占めた「ワークマン」は「ワークマンプラス」などへの転換で401店と半分以下に減少し、代わって19年3月期は12店だった「ワークマンプラス」が552店、21年3月期から立ち上げた「#ワークマン女子」は48店まで増えた。売上構成も22年3月期はまだ「ワークマン」が60.4%と過半を占めていたが、24年3月期では「ワークマンプロ」10店舗を含んで42.3%と過半を割り、「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」が57.7%と主流に転じている。その「ワークマンプラス」の既存店前年比が96.6%、「#ワークマン女子」は同88.9%と落ち込んだのだから、一般客向けカジュアル路線による成長戦略は頓挫したと言わざるを得ない。

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経営効率も商品財務も軒並み悪化

 

 成長戦略の頓挫でワークマンの経営効率も軒並み悪化している。営業利益率は17.4%と前期から1.4ポイント低下し、22年3月期からは5.7ポイントも低下している。チェーン全店売上比でも13.2%と前期から2.0ポイント、22年3月期からは3.9ポイント低下している。ROE(自己資本純利益率)も13.3%と前期から2.0ポイント低下し、21年3月期からは7.0ポイントも低下している。ROA(総資産経常利益率)も同様で、16.7%と前期から2.2ポイント低下し、21年3月期からは7.5ポイントも低下している。以降はチェーン全店売上比で商品財務効率の推移を見た。

 チェーン全店売上原価率は48.74%と前期から0.44ポイント抑制されたが、21年3月期からは5.06ポイントも上昇している。チェーン全店粗利益率は51.26%と計算できるが、開示されているチェーン全店粗利益率は35.8%と大きな乖離がある。その要因はワークマンを通さずメーカーが直接に加盟店に供給する商品の存在だと思われる。メーカー直接供給品はチェーン全店売上原価の20%前後を占めるが、計算で割り出すことができる。

加盟店売上高1609億2600万円の開示されている粗利益率36.0%から加盟店の売上原価は1029億9260万円と計算され、加盟店向け商品供給売上823億2400万円との差額206億6860万円(加盟店売上原価の20.1%)がメーカーから加盟店への直接供給額と推計される。ワークマンの売上原価854億2000万円にこの206億6860万円を加えた1060億8860万円がチェーン全体への供給原価と推計できるから、チェーン全店の粗利益はチェーン全店売上高1752億5000万円から1060億8860万円を差し引いた691億6140万円と推計できる。ならばチェーン全店の粗利益率は39.46%と計算できるが、開示されているチェーン全店粗利益率は35.8%だから3.66%が値引きロスになったと推計される。

3.66%という値引きロスは極端に低いが(「しまむら」でも6.5%)、継続商品ばかりで季節で売り切る必要がなかった「ワークマン」だけだった頃は1%に届かなかった。元よりサプライヤーお任せのVMI※1.で補給在庫負担がなく、加盟店も翌シーズンまで持ち越せば売れるから値引き処分する必要がない。それが「ワーマンプラス」で一般客向けのカジュアルに進出し、「#ワークマン女子」でファッションカジュアルにまで手を出してしまい、PB比率が67.8%(20年3月期比+16.4ポイント)まで高まって直貿比率も60.9%(前期比+10.3ポイント)に達したのだから、在庫リスクの大半を自ら抱えることになり、不振在庫は値引き処分せざるを得なくなっている。前期は同様の計算で3.26%だったから0.4ポイント(12.3%)、ロスが肥大したことになる。

本部の抱える在庫も252億7000万円と前期から15.3%(チェーン全店売上高は3.2%増)、21年3月期からは79.5%(この間のチェーン全店売上は19.5%増)も肥大しており、DC※2.から溢れた在庫を外部倉庫に保管する状態だから相応の不振在庫を抱えていると思われる。店頭での値引き販売は目立たないがECでは過剰在庫を値引き販売しているし、期末に商品評価替え2.6億円を計上し、商品廃棄率も0.59%と前期から0.1ポイント肥大しているが、それだけで済むはずはなく、持ち越した在庫も少なくないと推察される。

引き付けた当用調達に徹する「しまむら」でも値引きロスは6.5%で、計画調達のSPAでは14%前後が一般的だから、このままカジュアル路線を拡大すればロス率が2ケタに達するのは時間の問題で、加盟店が不振在庫を抱えて音を上げると危ぶまれる。この点については後段で解説する。

ワークマンの棚資産回転日数も108.27日と前期から12.52日、22年3月期からは28.95日も延び、在庫回転は3.38回と前期から0.43回、22年3月期からは1.22回も減速しており、CCC(Cash Conversion Cycle)も124.17日と前期から15.78日、21年3月期からは39.10日も延びている。計算上の運転資金も前期から18.1%、21年3月期からは70.6%も肥大している。自己資本比率が84.5%と資本が潤沢だから純資産対運転資金率は35.9%(22年3月期からは9.7ポイント上昇)と余裕だが、商品財務効率が年々、悪化しているのは間違いない。

※1.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い

※2.DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)…入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC

 

開発体制を欠いてはマーケットとのすれ違いを解消できない

 

 マーケティングのすれ違いは3月5日の本誌に掲載した「“テロワール”こそアパレルの生命線 ワークマン、ライトオンの根本的課題★リンク貼るhttps://www.wwdjapan.com/articles/1765500★」に詳説したので、お読みになればご理解いただけると思うが、一言でいえば「ローカルとメトロエリアのライフスタイルとファッション嗜好の違い」であり、コロナが終わって都市生活の日常が戻りアウトドアブームが沈静化するとともに「ワークマンプラス」も「#ワークマン女子」も勢いを失っていった。

その壁を越えるにはローカル感覚のアウトドアウエアからアスレジャー感覚のメトロライフウエアに変貌する必要があるが、ウエアリングもパターンも素材もカラーリングも根本的に違うから、サプライヤー企画頼みの小売業を出ないワークマンにできるとは到底、思えない。

PBを2495アイテムも開発して1185億7700円(PB売上比率67.8%)も売り上げていても社内にデザインチーム(アパレルデザイナー/グラフィックデザイナー/パターンナー/生産管理)を抱えているわけでもなく、グローバルなファッショントレンドやテキスタイルトレンドに通じているわけでもない。商品企画を担うのはバイヤーMDであって、本格的SPAやアパレルメーカーのような専門スキルを積んだデザインチームが商品開発を担っているわけではない。東京のみならずニューヨークにもデザインオフィスを置いて多数のデザインスタッフを抱えるファーストリテイリングのような開発体制には遠く、アパレルの商品開発に対する認識が根本から違う。

開発体制が整わないまま一般客向けカジュアル、さらにはファッション性のカジュアルにまでPBを広げたのは狂気の沙汰で、一度マーケットとすれ違ってしまえば成長軌道への回帰は不可能に近い。 

 

買い取り型フランチャイズでは在庫運用が効かない

 

継続定番ばかりの「ワークマン」なら売れ残ってもいずれさばけるから、買い取りの加盟店が売れ残り在庫を抱えて四苦八苦することはなかったが、シーズン性のあるカジュアルの「ワークマンプラス」では季節在庫が残ったり店舗による偏りが生じ、ファッション性まで加わる「#ワークマン女子」では売れ残りや偏りが一般のカジュアルファッション店と大差ないから、売れ残り在庫は値引きして売り切るしかない。それではチェーン全体の値引きロスが肥大して粗利益率が低下し、粗利益の40%が分配される加盟店の損益が圧迫される。

アパレルのレギュラーチェーン(直営店展開)では各店舗の販売効率や立地特性に応じて品ぞろえやフェイシング量(各SKU毎に何点在庫するか)をコントロールし、EOS自動補充に加えてリージョナル内店舗間で自動振り替えして欠品を回避し偏りを補正し、シーズン末には売れ残り品を販売力のある基幹店に集約して売り切るなど、在庫消化運用の仕組みが相応に確立されている。それでも計画調達では値引きロス率は2ケタに乗るのが現実で、ましてや買い取り型のフランチャイズでは客注振り替えは可能でも不振在庫の移動集約など不可能だ。ショッピングセンターに36店舗展開する「直営店」とて、各地の販売代行業社に運営委託しているのが実情で、各店舗内でのマテハンや編集運用は統一されておらず、店舗間の在庫移動運用も制約される。

加盟店間の振替精算ルールを定めても、しまむらのような自社ルート便によるリージョナル・ロジスティクス体制を欠いては機動的な運用は難しく、宅配便を使ってはコスト負担が大きい。ワークマンは全国2区分ロジスティクス(DCから遠隔地はデポ経由)から27年10月の「岡山流通センター」稼働で3区分ロジスティクスヘ切り替えようとしている段階で、しまむらの10リージョナル体制とは比較すべくもない。4ケタ展開のナショナルチェーンとして機動的かつコストに見合うロジスティクス体制を築くには全国10リージョナルが下限で、プロ向けラインナップを広げる店受け取り型マーケットプレイスOMO(注)を志向するなら、なおさら必然と思われる。

(注)自社ECサイトにサプライヤー商品や他社商品を掲載してラインナップを拡充するのがマーケットプレイスで、在庫を預かるフルフィル型とサプライヤーが顧客に直送するドロップシッピング型があるが、店受け取り型OMOでは日々の受注分をサプライヤーがFC(フルフィルセンター)に一括納品してスルーで仕分け、店舗物流に載せて店舗に配送する

 

ブランドメーカーとしてもチェーンストアとしても未熟

 

 ワークマンは大衆を惹きつけるマーケティングの仕掛けは得意でも、引き付けた顧客を定着させる商品開発体制も、全国に広げた加盟店に効率的に商品供給し在庫を消化運用するロジスティクス体制も欠いている。はっきり言えば、ブランドメーカーとしてもチェーンストアとしても未熟と言わざるを得ない。

 高額なブランド商品しかなかった高機能アウトドア衣料をポピュラープライスで提供した「ワークマンプラス」はインパクトも継続性も評価されるが、自らがノウハウも体制も持たないファッション性のカジュアル衣料を志向した「#ワークマン女子」は策に溺れた勇み足で、顧客が定着しないばかりかフランチャイズのビジネスモデルとも相容れず、経営効率を悪化させる失策と悔やまれる。

 ワークマンはマーケティングの策に溺れることなく、ブランドメーカーとして真っ当な開発体制を確立し、ショッピングセンター店舗は自ら運営してVMDとマテハン、在庫編集と店間移動運用のスキルを確立し、4ケタ展開ナショナルチェーンを支えるリージョナル・ロジスティクス体制を築いて店受け取り型マーケットプレイスOMO戦略に備えるべきではないか。

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