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『SPAか仕入れか?チェーンストア衣料品が選ぶべきは「しまむら型」である理由』
(2024年09月02日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

高水準の賃上げにインバウンドも重なって小売売上はコロナ前19年の水準を超えたが、衣料品の需要不足は解消する気配もない。慢性的過剰供給で毎年、大量の売れ残り在庫が持ち越されていく我が国の衣料品流通下では、チェーンストアにとってSPA調達と当用仕入れのどちらが正解なのだろうか。

 

■回復鈍く「格下げ」が進行する衣料消費

 インバウンドや株高に押し上げられた7月の全国百貨店売上は19年を4.0%(6月は8.2%)超えたが、衣料品は99.8%(6月は96.0%)と届かず、6月の商業動態統計でも小売業全体は19年を15.7%(5月も12.5%)超えたが、織物・衣服・身の回り品小売業は19年比77.9%(5月も77.1%)と極めて回復が鈍い。6月の家計消費支出は19年を1.4%超えたが、被服及び履物支出は92.1%にとどまっている。

 実質賃金がプラスに転じても介護保険料など社会負担増で手取りは増えておらず、光熱・燃料費や食料品の高騰で生活防衛姿勢が強まり、衣料支出は抑制されている。衣料支出の抑制は米国も同様で、ラグジュアリーブランドや百貨店ブランドを敬遠して、割安なオフプライスストアや手頃なカジュアルチェーン、量販店の衣料品に移行するというTrading down(格下げ)が進行している。

我が国ではインバウンド効果で百貨店売上が嵩上げされているが、大手百貨店アパレルの売上は19年比8〜9掛けで回復が頭打つ一方、ユニクロなど手頃なカジュアルチェーンの既存店売上は19年を10〜30%も超えているから(5〜7月平均)、衣料消費のTrading downは明白だ。円安下で輸入単価が前年から9.4%上昇(1〜6月)する一方での衣料消費のTrading downは需給の乖離を一段と広げるのではないか。

 

■慢性的過剰供給の実態

 衣料品の国内供給数量も金額も日本繊維輸入組合が財務省の貿易統計と経済産業省の工業統計から毎月集計しているから正確に掴めるが、衣料消費の総額を大雑把に推計する統計はあっても数量の統計はない。総務省家計調査の世帯平均購入数量※に全世帯数を乗じても供給数量の56.9%(過去5年間の平均)と乖離が大きく、業界の断片的データから推測するしかない。

 環境省が2020年に日本総合研究所に委託して調査した業界アンケートによれば売れ残り率の平均は13.61%で、当社が何度かクライアントにアンケート調査した結果も近似していたが、小売チェーン(5〜10%)とアパレルメーカー(10〜20%)の平均であって、商社やOEM業者などサプライヤーの抱える未引き取り在庫は含まれていない。それを加えても3割程度と思われるが、その水準を大きく超えるデータがある。

 それは供給数量統計が揃っている紳士既製スーツで(販売着数は推計)、過去5年間の平均消化率は52.9%(3506万着の供給に対して1855万着の販売)、過去10年間では50.3%(9054万着の供給に対して4555万着の販売)にとどまり、毎年、小売業界とサプライヤーが分担して半分近い売れ残り在庫を持ち越している。紳士既製スーツの消化率を見ると、衣料品の国内供給数量に対する家計購入数量が56.9%という乖離も、あながち統計誤差とは言えないのかも知れない。

分野によって偏りがあると思われるが、サプライヤーを含む衣料品業界総体で毎年、三分の一前後が売れ残って持ち越されたり処分されている慢性的過剰供給状態にあると認識して良いだろう。ならば、小売業者が積極的に在庫リスクを抱えるメリットがあるのだろうか。

※洋服+シャツ・セーター+下着の購入数量で、和服や生地、服飾雑貨や履物は含まない。家計調査の対象は9000世帯弱だから、その平均購入数量に5583万世帯(2020年国勢調査)を乗じては統計誤差を否めない。

 

■多様なSPA調達

 衣料チェーンの調達方法はSPA型と仕入れ型に大別できるが、各々の調達方法は極めて多様だ。

SPA型と言ってもODM※サプライヤーの企画を製品仕入れする「バイイングSPA」、サプライヤーが在庫リスクを持ってオンデマンドに商品供給する「VMI※型SPA」もあれば、社内にデザインチームを抱えて工場に直接発注する「開発型SPA」、自ら工場を抱えて自社生産する「ファクトリー型SPA」まで様々で、それらの中間形態や複合形態もあるから千差万別だ。

※ODM(Original Design Manufacturing)・・・・・・委託者の商標、受託者の企画・仕様による受託生産。OEM(Original equipment Manufacturing)は委託者の企画・仕様・商標による受託生産(受託者仕様のケースも多い)。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も見られる。

 

バイイングSPA」の肝はトレンド対応の鮮度だから、企画仕入れ※に徹して短サイクルに小ロット調達して蒔き切り(補給在庫を抱えない)で消化していく。発注から売場投入まで週内に回すのが理想(最長でも2週サイクル)だから、国内か近隣国の産地が背景となる。リーマンショックまでは国内産地でも可能だったが、今や韓国の東大門市場ぐらいしか使えない。タイムマシンサプライが効く越境産直ECなら、実物サンプルかAI仕掛けバーチャルサンプルの先行掲載で販売を先行して後追い生産すれば良いから、「SHEIN」のように広州産地でも週サイクルの無在庫サプライが成り立つが、店舗販売では不可能だ。

「H&M」(23年11月期で粗利益率51.2%×2.88回転)は「バイイングSPA」ではなくファストな「開発型SPA」だが、ファストファッションなのに縦売り※を図って生産ロットを増やしDCに補給在庫を積んではリードタイムが月単位になって需給ギャップが広がり、在庫が滞貨して鮮度が維持できず売価変更を重ねる叩き売りになりがちだ。「バイイングSPA」は短サイクル・小ロットの蒔き切りに徹してこそ旨みがあり、109最盛期のキャリーSPA※は年間に24回転もしていたし、国内での短サイクル生産が成り立っていた07年2月期のポイント(現アダストリア)は60%超の粗利益率で13回転もしていた(交叉比率690)。

※企画仕入れ・・・ODMサプライヤーのデザイン・生産仕様による企画、あるいは小売バイヤーの提案をODMサプライヤーがデザイン・生産仕様に詰めた企画を製品仕入れすること。

※縦売りと横売り・・・同一品を備蓄補給して大量継続販売するのが「縦売り」、バラエテイを揃えて少量を蒔き切りで売り切っていくのが「横売り」。

※キャリーSPA・・・産地の卸市場で生地を選んで一晩か二晩でオリジナルを小ロット調達し、スーツケースで持ち帰って週末の店頭で販売するローカルブテイックの調達方法を指すもので、量が嵩張れば別送すれば良い。国内で代行する業者を活用する事もできる。

 

VMI型SPA」の肝は完成度の高いベンダー開発定番商品の長期継続販売で、ベンダーが在庫を抱えてVMIサプライしても、販売期間が数年に及べば持ち越し在庫も捌けていく。ワークマンはベンダーとデータ連携して週サイクルのオンデマンド補充を謳っているが、ベンダー側はコストを下げるため一括計画生産がほとんどで、期中生産はごく低頻度のSKUバランス補正生産に限られるようだ。

「VMI型SPA」は定番商品の長期継続販売でないと難しく、下手にシーズン性やトレンド性を加えると販売期間が短くなってベンダー在庫の消化が難しくなるから、「ワークマン」はともかく「ワークマンプラス」、ましてや「#ワークマン女子」では成り立たないと思われる。

VMIは同一商品の継続補給とは限らず、同一素材のディティール替えや同一仕様の素材替えによるリレーサプライでも成り立つ(トコロテン型VMI)。メーカーズシャツ鎌倉はVMIではなくファミリーファクトリー(同盟工場)型SPAだが、同仕様同サイズ(袖丈×首周り)の定番シャツを色柄を替えて週サイクルに生産し、サイズバランスと色柄バランスを補正している。

 

開発型SPA」は自らデザインチーム(デザイナー/パタンナー/生産管理)を抱えて生産仕様を開発し、工場直接に発注・生産管理して完成度の高いオリジナル商品を投入するもので、「ユニクロ」のような計画生産定番商品の縦売り型もあれば、「ZARA」のようなファスト生産デザイン商品の横売り型もある。

「ユニクロ」は品質と低コストの両立を図るリードタイムの長い大ロット計画生産で、数十万点を生産地出荷倉庫/消費地DC/店舗後方ストック/売場と多段ダム式に積んで売り減らすが、「ZARA」は1万点から数万点という小ロットで週サイクルに近隣圏ミルクラン生産※し(手頃なカジュアル単品はアジア生産の製品調達も多い)、補給在庫を抱えない蒔き切りで売り切っていく。

「開発型SPA」と言っても、海外の遠隔地生産ではデザインチームが直接に工場とやり取りするとは限らず、商社やOEM業者を活用するケースも多いが、素資材手配や物流、貿易手続きは任せても、生産仕様や縮絨仕上げは高精度のデジタルプラットフォームで直接に擦り合わすべきだろう。また、開発型に転換した直後(2010年頃)のアダストリアのように、デザインチームを抱えても生産仕様の確立に時間を要するなら、「商社スペック」に乗るのも一策だと思われる。

※ミルクラン生産・・・自社工場でCADCAM裁断したパーツと副資材をフランチャイズ工場に供給して完成した製品を回収するミルクラン(ルート便集配)方式の生産で、近隣国圏(スペイン、ポルトガル、モロッコ)に限られる。

 

ファクトリー型SPA」は工場あるいはメーカーから発祥したケースがほとんどで小売チェーン発は極めて稀だが、ハニーズはその好例と言えよう。創業から数年で企画製造部門のハニークラブを設立し、今世紀に入って中国生産にシフトした後、2012年にミャンマーに自社工場を設立。24年5月期ではミャンマー生産が49.7%、生産子会社のHGIだけでも23.6%を占めてオリジナル生産し、60%強の粗利益率を稼いでいる。

「ZARA」のINDITEXはメーカー発祥で、東欧や西アジアの低コスト生産地に圧されて空洞化していくスペイン・ポルトガルの衣料産地を、CAD企画と染色整理、CAM裁断の前工程、プレス仕上げ・物流加工の後工程を担う巨大なハブコンビナートを設けてミルクラン生産で再構築し、短納期生産と完成度を両立して突出した成功を収めている。それと比較すれば、外注生産頼りのH&Mやユニクロは小売業者の域を出ていないのかも知れない。

 

■仕入れ型も多様だ

 SPA型と同様、仕入れ型も多様だ。SPA型と比較しての仕入れ型のメリットは需給ギャップ(=在庫リスク)が小さいこと、デメリットは値入れが薄いことで、そのメリットを最大限に活かし、そのデメリットを最小限に抑えるのが正解だが、現存するビジネスは必ずしもそうなってはいない。

 

 最も非効率なのが古典的なコレクション発注の「セレクト仕入れ型」で、シーズンに半年前後も先行して発注するから需給ギャップが大きく、在庫を抱えた売り減らしになって在庫回転もスローだ。コレクションブランドやファクトリーブランドの期中仕入れ対応は限られるから、他のルートで期中調達を加えても在庫回転は年間に3回が上限になる。仕入れ型としては値入れは厚い(大手チェーンの場合、「企画仕入れ型」に近い)がSPA型には遠く及ばず、商品財務の旨みは薄い。

 

 SPAを志向するチェーンストア衣料品の実態はバイヤー/MDが発注する「企画仕入れ型」で、サプライヤー企画をシーズンに先行してロット発注するからコレクション発注の「セレクト仕入れ」と大差ない売り減らしになり、需給調整の機動性を欠く。値入れは52%前後と仕入れとしては厚いが、開発チームを持たないから生産仕様開発力がなく(サプライヤーの生産仕様に乗るしかない)、同様にシーズンに先行してロット発注する「開発型SPA」に比べれば14ポイント前後低い。需給ギャップによる値引きや残品のロスを差し引けば、粗利益率は「当用仕入れ型」と大差ない。在庫リスクを抱える割に付加価値開発力がないから見返りが薄く、収益性は見込み難い。

 

 仕入れ型の最右翼はサプライヤーの企画開発力と補給力(=在庫負担力)を活用する「当用仕入れ型」※で、シーズン先行発注を最小限に抑えて引き付けた当用仕入れに徹し、薄い蒔き切りの横売りでバラエティを揃え、需給ギャップを最小化して鮮度と回転で勝負する。在庫リスクが限られる分、値引きと残品のロスが小さいから、値入れが薄くても「企画仕入れ型」と大差ない粗利益率が残り、運営コストが低ければ「企画仕入れ型」より収益力は高くなる。

 引き付けた調達は「バイイングSPA」と同様だから、一部をODM業者や代行仕入れ業者(韓国東大門や中国広州)を活用した「バイイングSPA」にすれば、リスクを高めず値入れを稼げるのではないか。

※「しまむら」が代表的。収益構造は7月12日掲載の『値下げ率大きいユニクロと小さいしまむら』の図表を参考されたい。

 

■チェーンストア衣料品の選択

 チェーンストア衣料品の選択としては「開発型SPAか当用仕入れか」というステレオタイプな議論に終始してきた感があるが、店舗の立地と自社の人的リソースを直視して現実的に判断すべきではないか。

 「開発型SPA」を志向しても、生産仕様を開発し生産ラインを管理する開発チームを抱えるケースはほぼ皆無だから、それに近い体制を確立したユニクロなどにお値打ち(価値と価格のバランス)で太刀打ちできるはずもなく※、計画調達した在庫を抱えて消化が滞り、運営コストも嵩んで(ユニクロの棚割りVMDを真似るとマテハン人時量が嵩む)採算が低迷することになる。

 「しまむら」(ファッションセンターしまむら)のような「当用仕入れ型」は在庫リスクが軽く機動的に需要に対応できるとは言っても、粗利益率があんなに薄くては(24年2月期で33.7%、婦人衣料は32.4%)利益が限られるという見方もある。24年2月期単体決算では販管費率を25.8%に抑えて売上対比8.8%の営業利益を計上しているし、連結決算の長期推移を見ても営業利益率は19年2月期の4.7%、20年2月期の4.4%を除けば7.0〜9.4%と極めて安定している。それもパートがフルタイム換算で8割近くを占める従業員に国内ユニクロを凌駕する平均年間給与476.3万円(24年2月期)を支給しての営業利益だ。

 似たような衣料スーパーの「パシオス」(田原屋)も24年2月期で181店舗を展開して前期比4.2%増の412億9200万円を売り上げ、売上対比3.5%(前期は4.2%)の経常利益を計上しているし、4℃傘下のアージュが展開する「パレット」も24年2月期で99店舗を展開して前期比7.4%増の135億9700万円を売り上げ、売上対比3.3%(前期は3.9%)の経常利益を稼いでいるから、しまむらほどではないが安定した収益性が伺える。

 対して大手チェーンストア衣料部門は52%前後の値入れがありながら値引きと残品のロスが嵩んで粗利益率は36〜38%程度にとどまり、販管費が圧迫してわずかな利益しか残らないという状況を打開できないでいる。

 生活圏に立地する店舗が大半というチェーンストアの現実からも、多くの客数を要する縦売り志向の「開発型SPA」は無理があり(継続定番のVMI型なら可)、生活圏でも幅広い客層をカバーする横売り志向の「当用仕入れ型」の方が成功率は高いと思われる。「当用仕入れ型」をベースに定番商品はJB※の「VMI」、賑やかしのトレンド商品は「バイイングSPA」を使い分ければ、魅力と採算を両立するフォーマットが見出せるのではないか。

※7月24日掲載の『拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ』に詳説している。

※JB(Joint Private Brand)とPB(Private Brand)・・・小売業が仕様書発注して一括調達するPBに対してJBはサプライヤーが企画と補給を分担する協業開発

 

 

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