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WWD 小島健輔リポート
『NIGO®のリベンジを実現した「ヒューマンメイド」のこれから』
(2025年12月09日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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ストリートカルチャーブランドのHUMAN MADE(ヒューマンメイド)が11月27日に東京証券取引所に上場して初値は3440円と公開価格(3130円)を9.9%上回り、12月3日の高値は4900円に達するなどマーケットの注目を集めている。創業者のNIGO®(長尾智明)にとっては 「A BATHING APE(ア ベイシング エイプ)」(運営会社ノーウェア)の挫折からのリベンジであり、その反省から経営を信頼できるプロに任せてクリエィティブに専念し、緻密なマーケティングと52週MDの数量限定供給による完全消化など周到なビジネスモデル設計が奏功してIPOの成功を勝ち得た。

 

ヒューマンメイドのIPOについては本紙はもちろん多くのメディアが取り上げているが、多くは上場目論見書をベースとしたものだ。上場当日(11月27日)に開示された「事業計画及び成長可能性に関する事項」では営業数値が詳細に開示され、ビジネスモデルと事業計画もより具体的に提示されているから、本稿ではそれに基づいて踏み込んだ分析を試みた。

 

IPOまでの成長ステップ

 

「ヒューマンメイド」ブランドは2010年にNIGO®が立ち上げ、16年2月に長尾智明氏と柳澤純一氏(現CFO)が「オツモ株式会社」(24年5月にHUMAN MADEに商号変更)を設立。早くも20年1月期には売上高が13億7600万円に達して営業利益4億5000万円(売上対比32.7%)と高収益体制を確立している。 

前後して鳩山玲人氏(取締役CSO)、松沼礼氏(現代表取締役CEO兼COO)というプロ経営陣が参画して取締役会・監査役設置会社へ体制を固めているから、この段階で上場へのレールを走り始めたのだろう。設立のパートナーがデロイトトーマツ出身の公認会計士である柳澤純一氏だったり、設立翌年(17年4月)にファレル氏が資本参画したあたりからIPOを見据えていたと思われるから、長尾氏のリベンジ計画は相当に用意周到なものだった。

 

体制が整った22年1月期の売上高32億3800万円、営業利益6億6900万円から3期後の25年1月期には売上高112億5800万円、営業利益31億8000万円と、売上高は3.48倍、営業利益は4.75倍に急拡大して25年11月27日の株式上場へと至った。25年1月期の営業利益率は28.3%、ROEは41.9%とラグジュアリー並みの高収益を実現している。利益剰余金が59億3180万円も積み上がって自己資本比率は74.6%、借入金も短期の3億1900万円だけ、と財務も優等生的に健全だ。

 

ヒューマンメイドの株式の64.40%を直接・間接に所有する長尾智明氏は株式上場に際して280万株(個人272万株+NIGOLD 8万株)を売り出して81億5050万円(引受価格2910.90円)を手にし、手元に残した1140万株は12月3日の終値(4800円)ベースなら547億2000万円になるから、合計630億円ほどの億万長者となった。NIGO®は「ア ベイシング エイプ」の挫折※からのリベンジを十二分に果たしたと言えよう。

 

※NIGO®が1993年に立ち上げた裏原宿ブランド「ア ベイシング エイプ」(株式会社ノーウェア)は人気が沸騰して2006年には年商70億円まで伸びたが、今回と同様に拡大を図って経営とクリエイティブを分離したものの、経営陣の人選を誤って09年、10年と2期連続の赤字に転落。負債総額が43億円まで膨れ上がり、2011年2月1日、香港証券取引所に上場する大手セレクトのI.T社に2184万香港ドル(当時2億3000万円)と負債の引き継ぎで売却するに至った。「A BATHING APE」の商標権もI.T社に移り、NIGOも2年間、クリエイティブディレクターを務めた後に退任している。以上、ウィキペディアから要約した。

 

驚異的な販売効率とインバウンドの功罪

 

25年1月期の売上高112億5800万円は自社ECの36億6552万円、国内直営8店舗の54億4052万円、海外が大半の卸売りの18億5113万円、他3億円余で構成され、自社ECのシェアが32.56%と前期から7.15ポイント低下、卸売りのシェアも16.44%と同0.68ポイント低下した一方、国内直営店舗(現段階では海外に直営店舗はない)のシェアは48.32%と前期から12.46ポイントも急上昇している。

 

国内直営店舗の売上高はコロナ明けのインバウンド復活もあって22年1月期(4店舗)から25年1月期(8店舗)で7.2倍に急増しており、坪当たりの年間売上高は2972.6万円と3000万円に迫り、月坪当たりで247.7万円に達する。最も高効率なのが渋谷パルコ店で、21.32平米で9億3000万円を売り上げ、年間坪当たり売上高は1億4395万円と驚異的な水準だ。2位が心斎橋パルコ店で、23.47平米で9億2000万円を売り上げ、年間坪当たり売上高は1億2936万円に達する。3位が原宿ラフォーレ1Fの店舗で、26.01平米で6億9000万円を売り上げ、年間坪当たり売上高は8757万円。4位が札幌店で、32.84平米で3億3000万円を売り上げ、年間坪当たり売上高は3316万円と極めて高い。

 

今後の旗艦店の布石を占うのが5〜7位の3店舗で、150〜190平米と「ヒューマンメイド」としては大型だ。5位の神宮前オフラインストアは151.51平米の路面店で、全店最高の11億円を売り上げて年間坪当たり売上高は2396万円。6位の福岡大名店は181.79平米で6億4000万円を売り上げ、年間坪当たり売上高は1162万円。7位の京都1928店(弁慶石町)は最大の190.8平米で5億8000万円を売り上げ、年間坪当たり売上高は1003万円と十分に高い。

最下位(?)のOTSUMO PLAZAは161.4平米と大きいが、売上は2億円、年間坪当たり売上高は409万円と、他の7店舗に比べると販売効率は低い(立地にしては十分に高いが)。青学裏のマンションの室内プール跡(NIKE LAB MA5跡でもある)に23年11月にできたNIGO®氏とVERDY氏のコンセプトショップで、商業的店舗とは立地も性格も異なる。VERDY氏のブランドやクリエイターとのコラボアイテムなどが主役で「ヒューマンメイド」の扱いは限られるから、別枠と見るべきだろう。

 

この驚異的な販売効率を叩き出しているのがコロナ明け以降、急増したインバウンド客だ。過去3期で店舗の客数は9.52倍、客単価は1.43倍に跳ね上がっているが、今や4分の3がインバウンド客と推計される。地域別売上高では海外は28.5%(アジアが21.8%とその3分の2を占める)に過ぎないが、国内免税売上高が全社売上高の37%、海外卸しなどを加えれぱ海外比率は64%を占めるというから海外依存度が高く、免税売上高は国内直営店売上高の76.6%にも達する。

 

これをチャンスと見るかリスクと見るかだが、プロペラ通り→スニーカー通りと名前を変えてきた「裏原」発祥の裏通り(九重商店街)にはアジアの高感度な若者たちが行き交い(台湾、香港、韓国が多い)、「ヒューマンメイド」顧客の国籍も日本30%、韓国25%、台湾17%の順で、中国は8%、香港は7%と限られるから、リスクよりアジア各国に拡大していくチャンスの方が大きいと思われる。

 

商品の魅力と52週売り切りMD

 

「ヒューマンメイド」の商品はビンテージライクなアメカジをストリート感覚でモダナイズしたもので、定番的なアメカジアイテムをフィットや加工でキャラを出し、オリジナルのグラフィックやコラボのキャラクターを胸や背中に装飾してNIGO®独特のやんちゃポップな大人可愛いらしさを表現している。希少なシャトル織機によるセルヴィッジデニムや洗う度にペーパーラベルが擦れ落ちて最後にハートステッチが現れるギミックなど、素材や仕様にNIGO®のこだわりが通底している。

 

ユニセックス対応も可能なメンズ企画だが、顧客の女性比率は21年1月期の29%から年々上昇して25年1月期では41%に達している。顧客の年齢も21年1月期は20代が64%を占めていたが、25年1月期は30代が39%と20代に並び、40代以上も21%に及んでいる。ノンエイジ・ユニセックスなやんちゃポップ系ストリートアメカジブランドとして、東アジアのみならず欧米でも受け入れられているようだ。

 

価格帯は素材や付加加工に凝ったアウターやスエットなどはアフォーダブルなストリートラグジュアリーに入るが(グローバルナショナルブランドの倍強ぐらい)、手頃な3パックTシャツやグッズをバランス良く投入して顧客の裾野を広げている。手頃なTシャツとグッズで51%、スエットなどカットソーまで合わせれば売上高の82%を占めており、値の張るジャケットやパンツは14%に留まる。生産地は国内59.9%、中国39.6%、その他1.4%と開示しているから、手頃なTシャツやグッズなどを除き国内で生産されている。

 

毎週木曜日の11時にオンラインで新商品を公開して土曜日の11時からオンラインと店舗で販売する52週MDを回しており、木曜日の公開と同時にオンラインはアクセスが殺到してパンク状態になり、土曜日の開店前には店頭に長い行列ができる。数量限定のシーズン商品は即完売するケースが多くて買いそびれる顧客も多いため、平日にも在庫があって買える手頃なTシャツなど継続販売の定番商品を増やしている。

 

2週ほど垣間見ただけだから推測に過ぎないが、新規公開されるのは毎週、アパレルが8〜10型ほど、グッズが4〜5型ほどだから、半期でアパレルが200品番(後述する色・サイズ展開から2000SKU弱と推計)、グッズが100品番ほどではないか。私の経験則だが、2000SKUというのはブランドMDにおいて売り上げを確保するMDのラインナップと在庫管理の効率が絶妙にバランスするゴールデンクロスだ。

 

ストリートな企画や投入数量の限定はエクスクルーシブだが、一部のアウターやパンツはS〜XLの4サイズ、大半はS〜XXLの5サイズ展開という点はインクルーシブに顧客の間口を広げており(色はベーシックな1〜2色が大半で、ごく一部が3色展開)、緩く崩した定番的なアメカジアイテムとも相まって顧客の体形を選ばないから、価格の高さを除けばインクルーシブなスタンスが強い。Tシャツやスエットなどの手頃な継続定番を増やしていけば、現状の爆発的な販売効率は落ち着くにしても、多少は店舗網を広げても相応に高い販売効率を維持していけるのではないか。

 

「プロパー消化率100%、最終消化率99%」は本当か

 

ヒューマンメイド社は数量限定の52週MDの成果として「プロパー消化率100%、最終消化率99%」をアナウンスしているが、25年1月期の棚資産回転は61.37日で、前期末との平均在庫法で計算すると在庫回転は6.22回になる。毎週のように数量限定商品を投入しても2カ月で一回転というペースであり、前述した多サイズ展開では売れ残るサイズも出てくると思われる。

 

ヒューマンメイド社の開示した「商品消化率」のグラフからは投入後1カ月で78%、2カ月で88%、3〜6カ月で96%、7〜12カ月で99%消化すると読めるが、新規公開時の有価証券報告書の「重要な会計上の見積り」中の「棚卸資産の評価」では24年1月期に5605.0万円、25年1月期に2839.6万円の棚卸資産評価損を計上している。これは24年1月期末に計上した在庫の元評価の7.69%、25年1月期末に計上した在庫の同3.73%に相当する。

 

「ヒューマンメイド」の新品はブランドリセール店に持ち込めば「定価」あるいはそれ以上で買い取ってくれるが、ブランド価値を毀損することのないよう焼却処分したと見れば、24年1月期は7.69%、25年1月期は3.73%が最終的に残ったことになる。24年1月期の7.69%は過去の持ち越し品も一括して評価損を計上したと思われるから、ヒューマンメイドの最終消化率は96%程度と見るべきだろう。衣料品では検品をすり抜ける不良品や陳列中に傷む商品、再販できない返品も2〜3%は発生するから「96%」でも実質は「99%」に近く、「プロパー消化率100%、最終消化率99%」は本当だと受け取って良いと思う。

 

高収益をもたらす損益構造とガバナンスの好循環

 

驚異的な販売効率ゆえ25年1月期(以下同)の一人当たり売上高は6823.2万円と突出して高く、国内ユニクロ(4260.6万円)の1.6倍に達する。一人当たり粗利益も4177.4万円と、国内ユニクロ(2160.1万円)の倍近い(1.93倍)。「完全消化」に近いから粗利益率も61.22%とアバクロ並みに高く、販売費・一般管理費32.97%を差し引いても28.55%もの営業利益が残る。無借金経営に近く営業外の費用も限られるから経常利益率も28.21%と営業利益から目減らず、租税を差し引いても当期利益が18.89%も残る。

 

販管費で最大なのは人件費で、売上高対比11.13%と前期から1.43ポイントもかさんでいるが、これは新店舗開設などを見据えた人員の先行手当てによるところが大きい推察される。従業員数は前期から13%(20人)しか増えていないが当期入社が26%(45人)にも及び、若手の店舗スタッフが増えて平均給与は641.3万円と前期の646.7万円からわずかに低下している。それでも535万円弱と推計される国内ユニクロを2割も上回るから、人材の質は相応に高いと期待される。

 

多くのアパレル企業に関わってきた経験則だが、給与水準と人材の質はシリアスにスライドするからだ。給与水準が低いと人材の質が相応に低いのみならず、定着率も低くなるから運営効率が低下し、さらなる生産性の低下を招くという悪循環に陥る。「ガバナンスが崩れている」という言い方は厳しいかもしれないが、逆に給与水準が高ければ「生産性の向上とガバナンスの好循環が回る」と期待できる。

 

通常は人件費と並ぶ地代家賃は売上高対比3.88%と極端に低く、直営店舗売上に対する比率も8.01%に収まる。地代家賃には本社など店舗以外の賃料も含むから実質は6%台と推察されるが、固定家賃の路面店の負担率が低い一方、パルコの2店舗については支払い家賃から8.3%ほどと計算できる。減価償却費は売上高対比1.78%、直営店売上対比3.68%と異様に高いが、本社移転に伴う一時的なものと推察される(本社移転では1億642万円の解約違約金も発生している)。

 

支払い手数料は売上高対比4.24%と地代家賃より大きいが、ECは自社運営で外部モールのような高率の手数料が発生するはずもないから、クレジット手数料が大半と考えられる。アリペイもウィチャットペイも3.24%が標準だから4.24%になるはずはなく、これは今後の低減が期待できそうだが、26年1月期予想でも4.12%が計上されている。

 

荷造運賃は売上高対比2.97%だが、売上高の32.56%を占める自社ECから逆算すれば9.12%と高く、店舗物流の荷造運賃も含むと推察される。自社ECが倉庫運営や出荷のどこまで内製しているのか外注しているのか不明なのでコストは捉えようがない。

 

規模の利益率低減を超える第三の収益源はIPビジネスだ

 

これらを合計しても売上高の24%にしかならず、残る9%の明細はわからないが、32.97%という販管費率は61.22%という粗利益率に対して極端に低く、高収益をもたらしている。この構図が事業を拡大しても続くかだが、店舗の大型化と多店化で販売効率が相応に希薄化するのは避けられず、26年1月期予想でも地代家賃率が4.26%と0.38ポイント、販管費率が34.64%と1.67ポイント上昇すると見ている。それを事業拡大による粗利益率の上昇(+1.19ポイント)や人件費率の低下でカバーして営業利益率は27.77%と0.48ポイントの低下に止めると見込んでいるが、26年1月期はともかく、この構図のまま拡大を続けるのは難しいと思う。

 

海外展開の事業計画はよく練られたもので実現性が高いが、中国や東南アジアへの進出は国内店舗売上の76.6%に達するインバウンド売上を希薄化するのは避けられないし、手に入れにくい希少性も損なうだろう。

 

アーティストたちの情報発信などによる需要の増幅に追いつけない過小供給故に成立している完全消化と高販売効率の構図は、店舗が増えECの海外対応が進めば希薄化が避けられず、拡大に相応して消化率も販売効率も徐々に低下していく公算が高い。

 

売上高の拡大は固定費負担を下げて収益性を押し上げるから、販売効率の低下がそのまま収益性の低下につながるわけではないが、利益の絶対額は増えても利益率の水準は規模に相応して低下していくだろう。ファーストリテイリングとてフリースブームのピークだった00年8月期(売上収益2290億円)の営業利益率は26.5%もあったが拡大とともに20%を割り、絶好調だった25年8月期(売上収益3兆4000億円)でも16.6%にとどまる。規模の利益率低減を超えて突出した収益力を維持するには、店舗販売やECを超える第三の収益源が不可欠だ。

 

拡大しても在庫ロスも運営コストも肥大しない収益源とは在庫も運営組織も伴わないIPビジネスに他ならず、ヒューマンメイドの経営陣もサンリオ出身の鳩山玲人氏が参画した21年1月段階からそれを見据えている。IPビジネスはブランディングを棄損しかねない両刃の剣であり、キャラクター業界の成功方式がアパレルでも通用するか、ヒューマンメイド経営陣の手腕が注目される。

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