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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『専門店大型化の「メリットとデメリット」』 (2018年06月04日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 マックハウスやしまむら、アダストリアなどアパレル専門店が店舗の大型化に動いているが、その目的は何なのか、期待通りの成果は得られるのだろうか。専門店の大型化は古くはロードサイドの青山やアオキ、近年は外資SPAやユニクロなど先例も多い。そのメリットとデメリットを検証してみたい。

メリット(1)品揃えの拡充と売上げの集約

 大型化のメリットとして第一に挙げられるのが品揃えの拡充だろう。標準店には置ききれないカテゴリーはもちろん、在庫の奥行きも持てる。品揃えの拡充は商圏も広げるから、標準店の面展開より顧客と在庫を集約でき、在庫効率も販売効率も高まる。

 大型化すれば販売効率が低下すると危惧されるかもしれないが、同一業態での大型化は顧客と在庫の集約で販売効率も高まる。当社が主催するSPAC研究会のメンバーアンケートでも、大型店の方が販売効率が高いという結果が出ている。大型店が低販売効率になるのはモール・イン・モールのケースで、フラクサスのように大型区画の中にイン・モールを回してインショップを並べるとモールに面するショップの半分以下の販売効率になってしまう。

メリット(2)テザリング運用による効率化

 顧客と在庫の集約はテザリングも可能にする。「テザリング」とはエリアの大型母店に在庫を積んで周辺の標準店にルート便で補給するエリア・ディストリビューション体制をいい、在庫の分散と偏在を回避して機会ロスと処分ロスを圧縮する工夫だ。オムニチャネル運用では店出荷や店受け取りなど店舗運営に負荷がかかるが、大型店に在庫と機能を集約すれば周辺標準店の負荷と在庫負担を回避できる。

 デザリングのもう一つのメリットが修理加工スタッフの集約だ。標準店にそれぞれ修理加工スタッフを張り付ければ非効率だし人件費負担もかさむ。修理加工スタッフを大型店に集約してグループウエアで採寸データを送り、大型店の在庫を加工してルート便で標準店に送れば、同一の素材や色の在庫がなくても同一型/サイズの試着で販売できるし、修理加工業務を効率化して人件費負担を軽減できる。修理加工スタッフの採用難を解消するメリットも大きいのではないか。

メリット(3)運営人件費の軽減

 修理加工スタッフのみならず店舗運営総体の効率化も期待できる。大型店は一人当たり保守面積を拡大できるのに加え、レイバーコントロールも効率化できるからだ。社員の変則勤務にパートやバイトのシフトを組み合わせるレイバーコントロールは少人数では最低保守人員の配置を大きく出られないが、多人数になれば時間帯別の客数や売上げ、マテハン作業量に合わせて効率的に配置できる。結果、売上対比の人件費負担を軽減できるわけだ。

 多人数になれば、少人数ではできなかった分業も可能になる。飲食店では一般的なフロント(ホール)とバック(キッチン)の分業は小売店では例外的だが、繁忙時にフロント(売場)とバック(ストックヤード)を分業すれば接客を中断することなくサイズ探しや棚戻しができ、買上率を大きく伸ばすことができる。駅ビルのアパレル店など繁忙時とアイドル時で買上率が10倍近くも違うから、少なからぬ売上増が期待できる。

メリット(4)不動産費の軽減

 不動産費も大型店は格段に有利だ。ロードサイド店舗でも大型店ほど建築面積対比の売場比率が高くなるが、商業施設のテナント店舗では大型店の家賃優遇が極端だ。賃貸面積が一桁上がれば坪当たり家賃は半額になる感覚で、30坪が300坪になれば半額、3000坪になれば1/4になる。それには当然の理由がある。

 郊外SCでテナントに“売れる”のはモール接面であって奥行きではなく、ワンモール、ツーモール、サーキットモールと建築レイアウトに工夫をこらしてもモール長には限界(ほぼ400m)がある。ゆえに奥行きを深く使ってくれる大型店ほど家賃が優遇されるのは必然なのだ。ざっくりした経験則だが、モール面の第一スパンを定価とすれば、第二スパンは6掛け、第三スパンはその6掛け、第四スパンはさらにその6掛けになる。間口1スパン×奥行き1スパンの30坪の店が“定価”なら、間口2スパン×奥行き4スパンの240坪の店はほぼ半額になる。

 都心の商業ビルはもとより奥行きが浅く面の低減はしれているが、上層階を使ってくれれば縦の低減で格段に安くなる。縦の低減率も奥行きの低減率と大差ないがホテルなどは逆に縦の逓増があるから、一番安く借りられるのは6〜8階あたりになる。実際、家電や衣料品の大型店はそのあたりを占めている。

品揃えを拡充できないと、デメリットが生じる

 メリットはたくさんあるが、デメリットが生じるかは『品揃えを拡充できるか』に尽きる。大型化に品揃えの拡充が追い付かなければ顧客と売上げの集約が成立せず販売効率が低位にとどまるからメリット(1)は実現せず、結果、(3)(4)も怪しくなる。

 品揃えを拡充せんとしてコンセを入れ込めば家賃の差益は抜けるがモール・イン・モール効果で販売効率が低下するから、サブリース商いは行き詰まった大型店の再生策と考えるべきだろう。あくまで自前あるいはコラボのMDで拡充すべきで、ストーリーが成り立つ自社業態の複合が最も現実的だ。個々では高い家賃になる業態も複合して大型化すれば家賃が格段に安くなるのに加え、店舗運営も効率化でき、販売員の採用もデベとの交渉も一本化できる。

 米国で高級デパートとされるノードストロム(平均店舗面積1万6340㎡)は30余の自社運営セレクトショップを複合したもので、売上対比の家賃負担率は1.8%、減価償却まで合わせても6.2%に止まる。その秘密はまたの機会にお教えしよう。

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