小島健輔の最新論文

販売革新2015年7月号掲載
『激変 オムニチャネル時代のSC評価』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

大撤退ラッシュが来る

 ワールドやTSIなど大手アパレルの大量店舗撤退が相次いで報じられたが、店舗の大量撤退はこれからが本番になりそうだ。消費が伸び悩む中も大型商業施設の開発でオーバーストア化が止まらず販売効率が低下する一方でECが加速度的に拡大し、ECに較べて売上対比のコストが倍近くも嵩む店舗販売の採算が怪しくなって来たところに、消費増税と円安転嫁の値上げが重なって顧客が離反して売上が落ち込み、店舗の採算改善が見込めなくなったというのが撤退の背景だからだ。そんな事情は他のチェーンも大差ないから、音を上げるのが早いか遅いかの違いでしかない。恐らくは今夏から来年にかけて数千店規模の撤退ラッシュとなるのではないか。
 米国でもC.ワンダーやウェットシール、デリアスが行き詰まり、ケイトスペード・サタデーやマーク・バイ・マークジェイコブス、ジョーンズ・ニューヨークなどブランドの廃止が広がり、アメカジ御三家からミセスチェーン、果てはメイシーズまで店舗閉鎖が広がっている。公表されているだけで米国チェーンの退店計画数はアパレル中心に6000店を超えているから、米国より格段に不景気な我が国の退店ラッシュは相当の規模に広がると推察される。チェーン店舗の相次ぐ撤退の背景は日米共通しているが、日本独自の事情もある。
 共通する背景は以下の二点だ。
1)ECの急成長で店舗販売が伸び悩む中、在庫が多店舗に偏在して消化回転が滞り運営コストも格段に高いチェーン展開の非効率性が露呈し、不採算店舗を撤収してECを中核とするオムニチャネル戦略に投資を振り向ける動きが加速している。
2)巨大ロットによる超低コスト調達で値引きロスも運営コストも吸収して急速多店化するグローバルSPAチェーンにマーケットを奪われ、開発力でも調達コストでも対抗出来ないまま業績が悪化するローカルチェーンが店舗網の撤収に追い込まれている。米国のウェットシールやデリアスの破綻、アメカジ御三家の業績悪化、我が国の109系アパレルやカジュアルチェーンの業績悪化はその典型と言えよう。
 円安インフレに圧迫される我が国では上記の二点に加え、消費増税後の冷え込みが収まらぬまま調達コスト転嫁の値上げが重なって売上が落ち込む中、家賃から人件費まで店舗運営コストがジリジリと嵩んで採算が悪化している事を指摘しなければなるまい。そんな事情を考えれば、米国以上の大撤退ラッシュとなっても何ら不思議は無い。

店は負の資産になった

 『売れない店をなぜ増やすの?』と何度も指摘しなければならないほど、アベノミクス以降のアパレル業界の出店ラッシュは採算を度外視した常軌を逸したものだった。消費増税と調達コスト転嫁の値上げで顧客が離反したのが撤退ラッシュの直接的な引き金とは言え、店舗小売事業が根本的に行き詰まりつつあった事が本質的な要因だ。店舗の価値とコストのバランスは00年3月1日、00年6月1日の連続した異変によって崩れ始め、近年のオムニチャネル化の急進で致命的な段階に入ったと指摘したい。
 00年3月1日の異変とは定期借家契約制度の導入、00年6月1日の異変とは大店立地法の施行だ。前者はテナント店舗の営業権に期間を定めた一方で巨額な差し入れ保証金を不要にし、ODMの一般化と相まって‘誰でもSPA時代’をもたらしたが、店舗の資産価値は激減して利回りが第一義に問われる流動資産と化した。後者は商業施設の営業時間を自由化して延刻ラッシュを招き、店舗要員の二交代制を必然化して全国的販売員不足を状態化し、接客や店舗運営の質が劣化して消化歩留まりの悪化を招いた。それが買う側と売る側の両面からECを急拡大させた遠因のひとつと見る事も出来よう。
 近年のオムニチャネル化は店舗での購入を選択枝のひとつに追い遣り、ECが毎年二割前後も売上を伸ばす一方で店舗は前年維持も難しく、売上対比の運営コストに至っては店舗とECで倍近くも違うという現実を突きつけられるに及び、店舗は在庫を抱えて経費を垂れ流す負の資産と認識されるに至ったのではないか。

郊外SCの評価が急落

 撤退ラッシュの対象とされている店舗の大半は郊外SC店というのが実態だ。消費増税以降、都心商業施設と郊外商業施設の売上前年比の格差が広がっているが、ガソリンの高騰やインバウンド効果の有無だけでは説明はつかず、根本的要因は消費増税とコストインフレの価格転嫁に対する拒絶反応が低価格品ほど厳しいという事のようだ。異次元緩和のアベノミクス下で貧富差が一段と拡がっている事が背景と推察される。
 12〜14年に開業した主要商業施設のテナント企業による評価(SPACメンバーアンケート)を見ても、全34施設中、圧倒的高評価のアウトレットモール(三井木更津と酒々井PO)を除けば好評施設はまずまずの施設まで含めても6施設しかなく、完璧な失敗と酷評された施設が6施設、不評施設が12施設で、成功率は32分の6と二割にも届かないが、その酷評施設と不評施設のすべてが郊外型だった。一方で好評6施設のうち郊外型はイオンモール京都桂川だけで、4施設はターミナル型、1施設が大都市ウォーターフロント型だった。
 過去5年間の立地タイプ別メンバー評価推移を見ると郊外型の評価は13年以降急落しており、ターミナル型やアウトレットモールの評価上昇と明暗を分けている。デベロッパー別評価を見ても、上位10社のほとんどがターミナル型とアウトレットモールで、郊外型デベロッパーは4位の三井不動産(アウトレット部門は2位)と10位のイオンモールしか見当たらない。そのイオンモールも07年まで首位を堅持していたのが08年以降順位を落とし、イオンリテールSC統合後の14年には7位、15年は10位と評価が急落している。ターミナル型デベのルミネが6年連続の1位、アトレも10年以降、14年を除いて2〜3位を堅持しているのと較べれば明暗は明らかだ。
 様々な要素が重なっての商業施設評価、デベロッパー評価だが、少子高齢化でローカルと郊外が萎縮していく一方でアベノミクスの恩恵が大都市中心部に偏っている実情が露呈している。その大都市中心部とて家賃の高騰で採算に乗せるのは難しく、資本力のある外資や大手に偏らざるを得ない。郊外SCとて退店ラッシュの跡を埋めるのは外資SPAと限られた国内人気チェーンで、それ以外の大多数の企業にとって店舗の採算はさらに厳しくなる。それがまたオムニチャネル化を加速して店舗販売を追い詰めるとしたら、チェーンストアとSCの将来はどうなるのだろうか。

突破口はオムニチャネル消費の取り込みだ

 不採算店舗の撤退ラッシュはSCとテナントの選別を一段と加速させる。大量退店の跡を埋められない不人気SCはシャッター街化してさらに凋落する一方、人気SCでは跡区画に外資SPAチェーンや国内人気チェーンを導入して集客力を高めるが、それがまたSC間の格差とテナントチェーン間の格差を拡げてしまう。結果として行き詰まるSCやチェーンが相次ぐ事は避けられない。
 SCが同質化と淘汰の嵐を回避して集客力を高め、テナントチェーンが売上を伸ばして採算を改善する共存共栄の明日を切り開く突破口はオムニチャネル消費の取り込みに他ならない。SCデベや百貨店の多くは未だショールーミングによる売上流失に怯えてテナントのO2Oアクションを規制しているようだが、SPACメンバーのアンケート推移を見る限り、14年以降はショールーミング効果よりウェブルーミング効果(ネットで見て店で買う)が凌駕しており、オムニチャネルなO2Oアクションを行うチェーンの売上はECと実店舗を合わせて平均20.8%も上乗せされると認識されている。
 ならばSCも百貨店もオムニチャネル消費を積極的に取り込んで集客を増やし、売上に課金したり受け渡し手数料を徴収して稼ぎを増やす方が賢明な選択だと思われる。欧米では宅配より伸びている‘クリック&コレクト’(受取所渡し)を導入してテナントのEC商品はもちろんゾゾタウンやアマゾンなど有力Eモールの商品まで受け取れるようにすれば、これまで来店しなかった顧客を大量に取り込めるし、引き取りに訪れた顧客はついでに何らかの消費に財布を開くに相違ない。受け渡しに要する人件費などは手数料でおつりが来るはずだ。
 大胆な提案と思われるかも知れないが、集客効果も課金収入も大きいし、何よりテナント導入のインセンティブが期待される。これからはデベがO2Oに否定的か積極支援してくれるかで出店の意思決定も大きく左右されるのではないか。テナントのO2Oアクションを支援し、飛躍的な客数増に繋がる‘クリック&コレクト’を館ぐるみで導入するか否か、商業施設デベロッパー各社の決断が問われている。

hankaku1507

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