小島健輔の最新論文

販売革新2008年8月号掲載
短期連載「チェーンストア衣料のVMD」
第1回『チェーンストアのVMDはロジスティクスVMDだ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 世の中ではVMDと言えばディスプレイの事と思われている嫌いが在るが、チェーンストアにおいてはまったく次元が異なる。多店舗へ商品供給し販売消化していくチェーンストアにおいては、商品計画とその展開、配分・補給と初期棚割、消化進行/店間移動に伴うフェイス再編という在庫運用フロウが肝要で、その巧稚で販売消化が大きく左右される。品揃えの標準化と店毎の消化進行対応という相反する目的を両立させるべく、チェーンストアのVMDは在庫運用手法という性格を第一義的に持っており、在庫リスクを負わない百貨店のVMDとは一線を画した『ロジスティクスVMD』と定義される。

始めに編成構造と展開計画在りき

 チェーンストアのVMDが品揃えの標準化と店毎の消化進行対応という相反する目的を両立させる在庫運用とその陳列表現を基本とする以上、まず全体の編成構造とフロウがデジタルに計画されなければならない。大型店ではゾ−ン⇒ブロック⇒カセット(ラック)、小型店ではブロック⇒カセットと組んで個々のカセットを位置付ける。この編成がシーンやテイスト、カテゴリーを明確に位置付け、安定している事がまず問われよう。 GAPやZARAなど多店舗展開のグローバルSPAは商品構成から什器構成まで編成構造をデジタルに貫徹し、ロジスティクス運用の効率化と顧客へのブランディングを徹底している。標準化の起点は編成構造に在りなのだ。
 この編成構造を維持したまま、各ブロックのコアアイテム/コアルックを月度に切り替え、アクセントアイテムを週度に差していくのが基本で、コアアイテムは8週消化/アクセントアイテムは2週消化などと展開期間(フェイスを維持する期間)を定めてデジタルにフェイスを切り替えて行く。コアルックはアクセントアイテムやカラーコーディネイトを切り替えて変化を付け、週度に打ち出しを変えて行く。デニムやポロなどの定番アイテムは12週など、より長期間のフェイス展開を設定する事がある。

消化回転の設定と業務プロセスのルーチン化

 この切り替えサイクルと商品投入サイクルが一致すべきは当然で、商品企画は月度、初期投入は週度と定めて開発・調達業務と店舗のフェイス運用業務をルーチン化しないと組織は回らない。ポイント社はすべての業務を週度サイクルに統一して曜日/時間帯毎に業務を定め、業務プロセスのルーチン化を徹底している。ゆえに高速サイクルでも業務の重複やミスが少なく、店舗のフェイス運用も混乱なく遂行されている。商品企画がシーズン/月度と重複し投入がアットランダムでは開発・調達業務が交錯し、在庫コントロールも売場のフェイス運用業務も混乱するばかりで、計画的な消化回転は望むべくもない。
 すべての起点となるのは消化回転日数であり、それを実現すべく企画・開発・調達のサイクルが定まり、強制遂行すべく再編集運用と店間移動のプロセスが仕組まれる。企画・開発・調達のサイクル(日数)÷消化率で回転日数は着地するから、サイクルが速いほど消化率が高いほど消化回転日数は短くできる。月度サイクルで消化率95%なら回転日数は30.4日÷0.95=32日という計算になるし、隔月サイクルで消化率90%なら同67.6日という計算になる。
 消化率は100%が上限だから、企画・開発・調達のサイクルより速い商品回転は有り得ない。商品回転を向上させるには、まず企画・開発・調達のサイクルを細分化し、薄い在庫を速く回すフェイス運用を仕組む事が先決だ。サイクルを速めるほど開発・調達業務は重複するから、業務プロセスを統一してルーチン化を徹底する必要が在る。

配分・補給・店間移動の定石

 消化回転を計画値に近付けるには配分・補給の手法と技術的精度が問われるが、どの手法も功罪が半ばする。直近の店別/カテゴリー別の消化回転実績にスライドする傾斜配分に徹すればSKU単位の消化回転は極大化出来るが、高効率店に投入が集中する一方で低効率店にはミニマムしか投入されず、高効率店ではフェイスから在庫が溢れ低効率店ではフェイスが埋まらない。結果としてカセットの棚割が成り立たず、カテゴリー別の品揃えバランスも崩壊し、店全体の編成構造まで崩れかねない。  逆に消化回転実績に拘らず定量フェイスを設定すれば、品揃えは全店で標準化出来るものの店毎の消化回転に大差が生じ、トータルの消化回転は低位に留まってしまう。その弊害を補正すべく、高効率店と低効率店で陳列量や補給頻度を変える事が行われる。高効率店にはフェイスの上限量、低効率店には下限量を投入し、補給頻度にも倍/3倍の差を付ける。  定量フェイスを設定してもトータルの消化回転を高くするには、短サイクルに低効率店から高効率店に店間移動すればよい。しまむらが行っているように、SKU毎に高効率店の欠品を低効率店からの移動で埋めるようにプログラムすれば、コンピュータが自動的に店間移動を指示してくれる。それでもピッキングの手間と物流コストは無視出来ないから、しまむらのように徹底したアドレス管理と定期便物流の仕組みがないなら、フェイス編集の手間も考慮して週一回の再編集日に合わせて行うべきであろう。

再編集と店間移動

 デジタルな切り替えを可能とするのがカセットと棚割の再編集、店間移動で、週度に切り替え日と作業時間を定め一気に遂行する。当然ながら投入日と合わせ、レギュラー業務としてレイバーコントロール表に組み込んでおく。本部の指示書作成/店舗の作業量/物流コストなどをミニマムに抑えるには作業の定形ルーチン化と集中が不可欠だからだ。
 当初に設定した展開期間内では当然、全量は消化出来ないから、一定の消化率に達しなかった品番は編集サイクルに合わせて一括して抜き上げ(SKU単位に行なうケースもある)、初期カセット/フェイスを解体・再編集して新たなカセットとフェイスを構成する。新たな編成はモデル店舗の再編集実験によって本部が定め、編成ツリー/カセットレイアウトと各カセットの棚割階梯表をイントラネットで通達する。
 この段階では初期カセットの補給は終了しているから、再編集後のフェイスは台帳型ではなく定形心太型に組んで(衣料品の大半はハンギングに変える)運用性を確保する。再編集したカセットの品番/色/サイズの陳列階梯はその後の消化進行を大きく左右するから、残在庫の内容に沿って最適な階梯陳列を行う必要が在る。陳列階梯はカセット毎に本部が指示するが、在庫内容が大きく異なる店舗では『運用マニュアル』に従って独自に陳列する。
 抜き上げた商品はマークダウンしてコーナーに集約するか、エリアの集約処分店あるいはアウトレット店に移動する。GAPでは毎週木曜日に消化率未達SKUを抜き上げてマークダウンし、店奥の集中フィッティング反対側のコーナーに集約している。
 定期的な店間移動(SKU単位の店間移動とは別物)による消化プロセスを仕組むには店舗布陣の段階からエリア毎に、価格が通って売上の山が早期に来るファーストタイプ店、値頃志向で売上の山が後に来るセカンドタイプ店を計画的に配する必要が在る。このプロセスを徹底しているのがGAPで、フラッグシップ、レギュラー、セールアウトの3タイプ(名称は筆者が仮称)で運用している。セールアウトは通常商業施設内アウトレット店の位置付けで、エリア毎に一店舗づつ配しているようだ。

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 次回は初期カセット編成/棚割設計と配分、最終回では再編集運用と店間移動処理の具体的な手法を解説したい。

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