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『アパレル業界にゾンビが引導を渡す』(2020年05月14日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 コロナ休業で行き場のない在庫を抱えたまま日銭が入らなくなったアパレル業界は資金繰りに窮して在庫の換金処分に走り、家賃や仕入代金の切り下げや繰り延べを図っているが、それで生き残れても深手を負った業界には秋冬商品を仕込む余力がなく、今秋冬は持ち越し在庫に新作を継ぎ足す品揃えが一般化する。それを「ゾンビMD」と言うか「エシカルMD」と言うか「リサイクルMD」と言うか「アーカイブMD」と言うかは価値観の問題で、現実は同じだ。
 失業は免れても大なり小なり家計にダメージを負った消費者とて不要不急の衣料品に支出する余裕はないし、お籠り生活とリモートワークで傍目を気にするお洒落とも縁遠くなったから、これまでより手頃なブランドに格下げし、新作より値下げされた持ち越し品で済ませ、さらに安いオフプライス品やユーズドに流れる人も増える。これまでイメージの毀損を恐れて二次流通に放出して来なかったブランドも背に腹は変えられず大量に放出しているから、ブランドのバラエティが広がってオフプライス市場も急拡大する。
 コロナ・クライシスを契機に衣料消費のデフレは急加速し、オフプライス品やユーズドにお値打ちで対抗できず消化が見込めない新品の仕込みは急激に細っていく。供給量の過半が売れ残って廃棄処分されるか流通段階に溜まっていくという過剰供給を20年も続けて来たツケがデッドストックやユーズドとなって新品市場をさらに追い詰め、過剰供給が成り立たせて来た業界の仮需を泡と消して店舗も企業も雇用も過半が失われる。いまさら無理な希望的観測で夢を追っても傷を深めるだけで、身を縮めて存続を図るしかない。
40年間で市場規模が金額で7分の一、数量では十分の一に激減し、『タンス在庫百年分、業界在庫十年分』と言われ新品市場が行き詰まったキモノ業界同様、アパレル業界は自ら作り出した過去のゾンビに引導を渡される事になるのだろう。クリエイションの誘惑と量販のギャンブルの果てと言ったら厳しすぎるだろうか。

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