小島健輔の最新論文

ファッション販売2020年02月号掲載
『渋谷パルコはファッションとサブカルの聖地になる』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 Jフロントリテイリング傘下のパルコは16年8月から休業して建て替えていた渋谷パルコを11月22日、グランドオープンした。当日は2500人以上が詰め掛けて入館に一時間以上かかる混雑となり、期待の高さを裏付けた。

 商業施設は地下1階〜8階および10階の一部、営業面積4万2000平米だが、いまどきの商業施設としては驚くほどアパレル店舗が多い。全193店のうちアパレル主体が94店、服飾雑貨まで加えると118店と6割を超える。ストリートから発掘してきた商業施設初出店や渋谷パルコに特化した新業態が86店、うちファッション関連だけでも38店も占め、「駅ビルやファッションビルでおなじみのブランド」は明らかに脇役だ。それだけサブカル感覚を追求したマニアックな構成と言えるだろう。

アパレル店は大半がストリート感覚の若者狙いで、カップルMDが47店、メンズMDが17店、レディスMDが30店とカップルやメンズの比率が高く、キッズMDを扱うのは一店のみ。ファッションヲタクに徹した構成が伺える。

B1Fは「新宿ゴールデン街」を思わせる猥雑な食文化空間の「カオスキッチン」で、奥地にはゲイバーまで潜む。1Fは最先端のラグジュアリーブランドとコスメブランドが路面店感覚で並ぶ「トーキョー商店街」で、ポップアップの「ザ・ウインドウ」が目を惹く。2Fはトーキョーモード主体にクリエーターを集積した「モード&アート」、3Fは編集売場の「カイザーパルコ」をコアにトーキョーストリートのエッジを揃えた「コーナー・オブ・トーキョーストリート」。この両フロアは“トーキョーファッション教の本殿”ともいうべきインパクトがある。

4Fは駅ビルの人気テナントが揃う最もリアルクローズ寄りの「ファッション・アパートメント」。5FはEC連携のショールーミング売場「キュープパルコ」をコアにデジタル仕掛けのショップが並ぶ「ネクスト・トーキョー」。6Fはトーキョー発のアニメやゲームのキャラクターコンテンツを揃えた電脳サブカルチャーの「サイバースペース・シブヤ」という構成。各フロアは“商店街”感覚の無秩序な配置に見えるが、カルチャーが繋がっているのかスムースに見て回れる。

 ファッションからアニメやゲームまでサブカル好みのコンテンツを集積したインパクトは東京はおろか世界でも唯一無二で、世界中からファッションヲタクやサブカルヲタクの若者を惹きつける“聖地”となるに違いない。 

新生渋谷パルコは公共道路を跨ぐ再開発、上層階へのオフィス導入、インバウンド対応などJフロントリテイリングが中心となって開発した「GINZA SIX」との共通点が指摘されるが、直営の編集売場やポップアップショップを散りばめた凝った構成は定借テナント構成の「GINZA SIX」より遥かに見応えがある。定借テナント構成で運営の手間を要さず初年度600億円の売上予算をクリアした「GINZA SIX」に対し、幾つもの直営売場とポップアップショップを配して運営に手間のかかる渋谷パルコが初年度売上予算200億円というのは控えめに過ぎる。国内のみならず世界の若者の人気を集めて“ストリートファッションとサブカルチャーの聖地”となるなら300億円は狙えるのではないか。

駅ビルと高層オフィスの無個性な街と化していく渋谷をストリートファッションとサブカルの若者の街に引き戻す「公園通りの奇跡」を新生渋谷パルコに期待するは私だけではあるまい。

 

写真キャプション

1)新生渋谷パルコの外観はクールでシンプル。

2)ディオールがリモアとコラボした1Fのポップアップストア「ザ・ウインドウ」。

3)セレクトショップとギャラリーを複合したマニアックな「2G」(2F)。

4)テセウス・チャンによるデジタル&ロフトな2Fの環境デザイン。

5)なぜか白衣を制服にするショップが目に付く(2FのMM6メゾンマルジェラ)。

6)パリコレで打ち出した巨大マネキンが目を引く3Fの「アンリアレイジ」。

7)3F「コーナー・オブ・トーキョーストリート」の核となる直営編集売場「ガイザーパルコ」。

8)スニーカーからフィギュアまでレアアイテム満載の5F「ベイト」。

9)ネオン照明がストリート感を煽る5F「ランド・バイ・ミルクボーイ」。

10)5Fはデジタル仕掛けも注目。「カリフ」のバーチャルフィッティング。

11)大人も楽しめるサイバー感覚の6F「ポケモンセンター」。

12)ゲームキャラクターグッズを結集した6F「ニンテンドートウキョウ」。

13)路地裏的飲食店街の奥地にゲイバーまで潜むB1「カオスキッチン」は新宿ゴールデン街か。

14)飲食店街の一角に「アキラ」が潜むB1「カオスキッチン」はブレードランナーの世界だ。 

 

 

 

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