小島健輔の最新論文

ファッション販売2006年6月号掲載
小島健輔の経営塾6
『開発・調達手法の組み合わせ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 前回は「商品構成の改善策」を提じたが、抜本的な改善には開発・調達手法への踏み込みが不可欠だ。現場に張り付いていると見え難いが商品のバリュー感やQRは開発・調達手法に直結しており、急成長している企業は必ずと言ってよいほど突出した手法を確立している。この際、原点に帰って調達手法を見直してみてはどうだろうか。

調達手法の4段階

 調達手法はリスクと手間の軽い方から重い方へ(利幅の小さい方から大きい方へでもある)、1)VMI編集調達、2)バイイング調達、3)OEM調達、4)開発調達、の4段階に分けられる。オリジナルを開発するには3)4)に踏み込む必要があるが、2)に含まれるエクスクルーシブ調達や別注調達でも値入れを除けば近似した成果が期待出来る。
 1)VMI(Vender Managed Inventry)編集調達はベンダーの商品開発力と補給力に依存するもので、大型店のコンセッショナリー(消化取 引で運営もベンダーに依託するインショップやコーナー)からラックジョバー(委託取引か条件付き買取で小売店がラック単位に編集運営する平場)まで多様な取り組みが在る。ベンダーが販売動向/在庫を管理してQR生産で効率的に補給するのが最大のメリットだから、小売側はPOSデータ公開などによって適確に情報を提供する一方、在庫管理と補給を阻害しない範囲で複数のベンダーを編集運用する。ラック単位に編集運用する百貨店の平場は典型的なラックジョバーだが、専門店でもジーンズやソックス、ベルト等では同様の仕組みが活用されている。
 2)バイイング調達は小売側のSKU(ストック・キーピング・ユニット/色・サイズまで特定)発注によって仕入れるもので、生産中止や納期遅れを除けば小売側の意志で品揃えを確定できるが、補給生産とのリンクが分断されるのが最大のデメリットだ。コレクション受注で生産数量が確定される海外買い付けなどでは補給がまったく期待出来ず、立ち上げから一ヶ月もすれば欠品で品揃えが崩壊してしまう。バイイング調達だけでは品揃えが成立しないし売上も稼げないから、海外ブランド品では代理店による補給や現地マート/現金問屋での二次調達、国内ベンダーからの調達、オリジナル商品の二次投入などを組み合わす必要がある。
 バイイングを調達の理想のように言う人もいるが単独では成り立たない調達手法であり、買取を建て前としている業界でも部分キャンセルや未引き取りによる需給調整が横行している。コアのストーリーはバイイングで構成しても、需要対応には別の調達手法が不可欠なのだ。
 また、欧米で一般的に行われているのがエクスクルーシブ(独占)バイイングで、地域独占や品番買い切りで現実的な独占と独自の売価(値入れ)を可能にしている。これを一歩進めたのが別注で、素材やディティールを変更してロット買い取りすることで独占と独自の売価(値入れ)を確実に出来るが、大幅な値入れ増は望めない。
 3)OEM調達
 オリジナリティと大幅な値入れを求めればOEM調達に進むが、ブランドメーカーの開発調達と混同してはいけない。OEM(Original Equipment Manufacturing/ 自社企画・仕様による委託加工)は自社企画・仕様によると言っても、企画はともかく仕様の詳細はAMS(Apparel Manufacturing Service/アパレル受託加工業者)の手持ちインダストリアル仕様への乗せ替えであり、商品の完成度には限界がある。加えてコストやQRにこだわれば、海外生産では現地流通素材からの選択やパターンの使い回しといった手抜きを許容せざるを得ないから、ますますブランド商品との完成度には差がついてしまう。国内オリジナル素材の持ち込みや個別パターン作成にこだわれば別だが、コストも納期も折り合いが難しくなる。
 OEM調達においては取り組むAMS業者(商社の特定チームや専門業者)の選定が決定打であり、仕上げ面や完成度がほぼ自動的に決まってしまう。カジュアルライン/ドレスライン、ヤング/コンテンポラリーとAMS業者を使い分けるのが肝要だが、コスト優先で業者を絞ってベタな仕上がりになっているケースも多い。
 OEM調達ではコストとQRは大方実現するが、完成度はいまひとつという壁がある。結果として売価も抑制されるから、ブランド商品ほどの値入れは望めない。ロット調達ゆえに在庫の売り減らしになりがちで、実現粗利益率も期待ほどでないケースも多くなる。その壁を超えるのが開発調達なのだ。
 4)開発調達と言うとブランドメーカーが企画から仕様開発、素資材の開発・調達、加工場選定、工程管理、仕上げ管理まで一貫して行うものというイメージが強い。それゆえに高い完成度が望めるが開発人件費の固定負担が重く、QRもスローペースになりがちというのが一般論であろう。最近ではブランドメーカーでも開発機能をアウトソーシングしたり一部(主にニット/カットなどの単品)にOEM的手法を導入して欠点の解消を図っているが、完成度の追求とは裏腹になりがちだ。
 その壁を超えて完成度とQR/コストの両立を実現したのが「フランドル・プロセス」で、フランドル社が生機段階からのリスクを負ってプロセスを統括した紡績/染色・整理企業とのチームMDに他ならない。という事は、同社のような開発力と機動力を持ったアパレル企業を窓口として同様のチームMDを組めば、小売業にも完成度とQR/コストの両立が可能となるはずだ。小売業者が生機段階からのリスクを契約によって分担するなら、これは実現可能なプロセスと考えられる。

如何に調達手法を組み合わせるか

 これら4段階の組み合わせによって最適な開発・調達を実現すべきだが(一つに絞るという選択もある)、個別事業の規模や性格、置かれた状況で組み合わせは当然に異なる。
 斬新なリミックスを訴求するセレクトショップではコレクションブランドやファクトリーブランドのバイイングが要だが、補給の断絶をカバーするにはオリジナルが不可欠。カジュアルはOEMで十分だが、ドレスカジュアルやドレスでは開発調達ないしは国内ファクトリーメーカーへの技術移転調達が求められる。
 ディティール展開や後加工で短サイクルに対応すればよい値頃カジュアルではOEMで十分で、一部の差別化商品をセレクトバイイングで差すかどうか、価格訴求商品をロットを積んだOEMに乗せるかどうかの選択になろう。OLやキャリアを対象としたドレスアイテムでも低価格品はAMSを厳選すればOEMで対応出来るが、素材開発や整理面訴求が求められる中級品以上ではチームMD型の開発調達がベターとなる。その場合でもニット/カットなどの単品トップスはQR優先でOEMで対応してもよいだろう。シルエットの美しさを売るドレスブランドでは個別素材毎にパターンを修正するほどこだわった開発調達が不可欠で、ブランドイメージを考えれば単品トップスもOEMに出す訳にはいかないだろう。
 一般論としては以上のような組み合わせになるが、急激なマーケット変化や売上低下に直面して調達手法を一変させるケースがある。かつての「ユニクロ」ショック時は中国産地へのOEMシフトがパニック的に拡がったが、大ロット調達の売り減らしに陥ったり品質感や単価を落として業績を悪化させた企業が多かった。3年前のような急激なカジュアルダウン局面では後加工に秀でたOEM業者にシフトするメリットがあったが、今秋に予想されるドレスアップ局面では開発調達にシフトするメリットがあると思われる。しかし、調達手法が変化すれば面も品質感も変化するし、その逆も言える。顧客がどう評価するか慎重に考える必要があろう。動くべきか動かざるべきか、COOの鼎が問われる局面である事は間違いない。

業務プロセスの定型化が成否を決める

 開発・調達手法は様々でも、サクセスストーリーを決するのは店頭展開へのプロセス・マネジメント。すなわち、売上/在庫/販売動向に対する開発・調達の業務プロセスとその時間進行を如何にシンプルに定型化するかだ。
 OEM調達では「ポイント・プロセス」「オゾック・プロセス」、開発調達では「フランドル・プロセス」「インディテックス・プロセス」が代表的な成功モデルだが、この総てに共通するのがQRを含む開発・調達〜店頭展開プロセスの月度/週度ルーチン化だ。シーズン・ディレクションや基幹素材の先行開発の有無は別として、各社とも一定(2〜3)月先の月度売上予算に対して月配MDを組み、週度の修正/QRまでプロセスをルーチン化している。開発・調達の実務プロセスからシーズンという枠組みでの業務を極力排除し、月度/週度の定形業務に集中させているのだ。
 この仕組みのメリットは、シーズン開発商品の売り減らしを回避出来る事、月度の業務プロセス/予算統制と整合しないシーズン業務で月度/週度のルーチン業務を乱されない事、突出したファッションのプロでなくても適確に業務をこなしていける事、外部のトレンドよりも自店顧客の動向に集中出来る事だ。各ブランド/業態のディレクターは外部トレンドを読んでマネジメントする必要はあるが、ルーチンの開発・調達業務をこなすバイヤー/MDに必要以上の右往左往を回避させて着実に業務を進行させるメリットは多大だ。
 突出した能力を持ったバイヤー/MDは稀だし、育成にも莫大な費用と時間がかかる。そんなスタープレイヤーを前提にしては業務プロセスも業績も安定しない。であれば、並みの感性/能力の人材で着実に業務をこなしていけるルーチン・プロセスを確立するのが懸命な判断と言えよう。意外に思われるかも知れないが、好業績を継続している企業の共通点はここにある。トップがトレンドや戦略に右往左往して部下の業務プロセスを乱している企業には好業績の継続は期待できない。優れたCOOはこんな要点もマークしてトップと組織の調整を図るものなのだ。  難しい課題が続くが、次回はディストリビューション(各店配分/消化管理)の仕組みについて語らねばなるまい。  

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