小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔が指摘する物流プロセスの壮大な無駄』 (2019年04月24日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

商業界(右)写真提供:共同通信社

      

 前世紀の“メカトロ”に最新のIT仕掛けが加わって物流の自動化が急進しているが、どれも技術先行で実用性が疑わしい“茶番”に見える。メカトロやIT仕掛けの前にアナログ段階の基本プロセスを抜本から見直すべきではないか。

ロボットピッキングは“茶番”だ

 アマゾンの巨大フルフィルセンターでは、ばかでかいルンバみたいなロボットがAI制御でポッド(規格化された可動ストック棚)に潜り込んではアソシエイト(ピッキングスタッフ)のところまでポッドを運んでくるが、そのロボットが運べるポッドの重量が567kgに増強されたという記事を見て、何と壮大なエネルギーの浪費かと絶句させられた。大概は数百グラムに過ぎない商品をピッキングするたびに半トン(ロボットの自重も加わる)もの重量を往復させるのは合理的ではないし、秒速1.7メーターというトロさでは決して効率的でもない。トロいといっても半トンもの重量では十分に危険な速度で、米国のアマゾンでは負傷事故を経てアソシエイトにロボットが検知して回避する安全ベスト「Robotic tech vest」を着用させている。

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ファーストリテイリング資料より

 最新の自動化装備を誇るユニクロの有明倉庫(EC出荷専用)にしても、1点をピッキングするごとに同一商品をぎっしり詰め込んだオリコン(プラスティックコンテナ)をロボットが取り出し、ピッキングラインのスタッフの前までローラーコンベアで運んでくる。スタッフがオリコンを開けて商品を取り出し、宅配出荷用ダンボールに入れてオリコンを閉めたら、逆の手順でストックヤードへと自動で戻されていく。IT制御になったとはいえ、1990年代からある自動化倉庫の古典的な仕組みで、アマゾンの巨大ルンバと大差ないエネルギーの無駄遣いが指摘される。

 どちらもピッキングスタッフが商品を探して移動する作業をロボットがポッドやオリコンごと運んでくる自動化に置き換えただけで、ピッキングそのものは人手を要するし、ポッドやオリコンに商品を詰め込む作業にも人手を要する。いわゆる『机上の空論』というやつで、目先のピッキング作業だけ取れば効率化されスピードも多少は上がるが、入荷から出荷までの倉庫内物流プロセス全体での作業効率やエネルギー効率は相当に怪しい“茶番”と言わざるを得ない。

棚入れしたらドツボにはまる

 そんな大仕掛けの“茶番”が横行するのは「棚入れ」を大前提にしているからで、一度棚入れしてしまうと倉庫のスペースと費用が生じ在庫が滞貨するし、効率的な自動化が難しい「ピッキング」が必要になってしまう。

 ユニクロの有明倉庫はスペースの大半がストックヤードだし、アマゾンもZOZOも取扱高の拡大を見込んで物流倉庫スペースに膨大な投資を続けている。それは「棚入れ」→「保管」→「ピッキング」→「宅配出荷」という工程を前提にしているからだ。「棚入れ」しなければそんなスペースも手間もコストも掛からないし、大仕掛けの“茶番”に巨大な投資をしなくても済む。

 実際、ZARA(INDITEX)の店舗物流は一切、棚入れせずにハンガーソーターやローラーソーターで自動仕分けして出荷するだけの「スルー物流」だし、しまむらの店舗物流も棚入れせずにパッキン/バンドル単位にローラーソーターで自動仕分けして出荷する「トランスファー物流」だ。「棚入れ」しないから倉庫スペースも棚管理も「ピッキング」も必要がなく、倉庫に棚入れして在庫を積む「ダム型物流」に比べればスペースも運用人員も格段にコンパクトで在庫回転も速い。

 消費地倉庫から補給する「ダム型物流」のユニクロやH&Mはどちらも店舗在庫の1.5倍ほどを倉庫に積んでおり、その分、在庫回転は遅くなるし(INDITEXの4.20回に対して国内ユニクロは2.17回、H&Mは2.79回、いずれも直近決算期)、倉庫在庫管理と手間取るピッキング作業を強いられる。それは店頭のフェイシング管理やストック管理とて同様だ。

 ピッキングが手間取り自動化が難しいのは棚入れするゆえ「摘み取り」を強いられるからで、棚入れせずに入荷即「種まき」して出荷すれば倉庫スペースも手間取るピッキング作業も一切不要になる。「種まき」は自動化・高速化が容易で、ロボット化しても効率化・高速化が難しい「摘み取り」より桁違いに素早くさばける。ならば不合理な物流プロセスのまま自動化するのではなく、「棚入れ」「摘み取り」を回避できる物流プロセスを仕組むのが先決ではないか。

EC物流も効率化できる

 店舗物流ではZARAのようにSMI(Store Managed Inventory:店舗が部分的にせよ品揃えと在庫のコントロールを担う体制)で店舗に販売消化責任を問えば「スルー物流」が可能だし、しまむらのように自前のルート便できめ細かく店間移動するなら「トランスファー物流」が可能だし、ドラッグ商材のようにVMI(Vendor Managed Inventory:納入業者に品揃えと数入れ、在庫管理を委託する方法)の問屋物流を活用すれば倉庫物流そのものを必要としないが、個々の注文に宅配出荷するECでは「棚入れ」「摘み取り」が不可避と考えられがちだ。

 ZOZOが取扱高の拡大をにらんで6施設計43万平米にも倉庫スペースを拡大しているのは在庫を預かる「フルフィル型」に固執するからだが、「棚入れ」しては広大な倉庫スペースが必要になるし、倉庫管理やピッキングの手間とコストを免れない。出品側にしても在庫を預けると一元的な引き当てと出荷が難しく在庫効率が低くなるから、C&C(クリック&コレクト:ECと店舗の連携と店舗の物流拠点化)を進める先行的なアパレル事業者は「フルフィル型」のECモールからいずれは離脱する。それが「ZOZO離れ」の本当の真相だ。

 受注してからECモール側の倉庫に移送して宅配出荷する「出荷委託型」なら出品側の在庫効率を損なわないし、ECモール側も「種まき」でスルー出荷することができる。移送の時差もミルクラン集荷でミニマムに抑えれば、宅配便のデイサイクル集荷に間に合う比率を高められる。そんな当たり前のことをZOZOが理解するなら、「フルフィル型」に固執しないで不要な倉庫スペースに投資せず、「ZOZO離れ」も広がらず、「種まき」で出荷も格段に効率化できるはずだ。

 ECモールが注文の宅配情報を配信して出品側が宅配出荷する「マーケットプレイス型」なら元よりECモール側の棚入れもピッキングも不要だが、それでは出品側の棚入れとピッキングが負担になる。どちらも棚入れとピッキングを要せず「種まき」でスルー出荷するには「受注先行」が不可欠で、D2C(Direct To Consumer:メーカーが顧客に直接販売するビジネスモデル)なパーソナルオーダーや受注生産なら当たり前に適応できるが、そんな場合でもいったん、棚入れするケースもあるから問題意識が問われよう。

 アマゾンでは「シッピングコスト」が自ら宅配出荷する商品販売額の13.3%(2018年12月期推計)を占め、ZOZOでも「荷造運賃」が取扱高の6.5%(18年4〜12月)を占めるが、これは宅配外注費であって倉庫内物流費用(賃借料や人件費/外注委託費)は含んでいない。宅配外注費の圧縮には一括店舗物流を活用するC&Cが決定打だが、店舗網を持たないEC事業者は独自のお試し受け渡し拠点(TBPP:Try Buy Pickup Point=中身を確認したり試着してから購入や返品ができる受け取り拠点)を布陣しない限り享受できないから、小売チェーン側のアドバンテージとなってしまう。

 ならばEC事業者は倉庫内物流費用の圧縮に注力すべきで、「種まきスルー出荷」の自動振り分けシステムを整備して「出荷委託型」取引や「受注先行」商品を拡大すべきではないか。さすれば過大な倉庫スペースも実用性の疑わしいロボットピッキングも不要になるはずだ。

※本稿をより理解するには『プライム会費値上げで露呈した宅配依存というアマゾンの弱点『ZOZOSUITS大コケで分かった「ECフィッティングの本命はTBPPだ」』の併読をお勧めする。

 

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