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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『何がアパレルチェーンの売上げを左右するのか?』 (2019年01月18日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 わが国で毎月の売上前年比を公表しているアパレルチェーンはロードサイド紳士服まで含めて15社、しまむら、アベイルまで加えれば17チェーンあるが、その数字の意味するものと要因をつかめば次への施策も見えてくる。

公表数字の見方

 公表17チェーンは末締めのチェーンと20日締めのチェーンに分かれる。末締めが主流で、20日締めはパレモ、ライトオン、しまむらとアベイルの4チェーンに限られる。締め日が違うと曜日進行がずれるから土日や休日の日数、天候の影響も異なって数字も上下する。

 公表されているのは既存店/全店の売上高と客数、客単価の“前年比”であり、売上高を左右した客数と客単価の関係が読めるが、いずれも前年比であって実額ではないから前年の前年比や曜日進行のズレを読まねばならない。加えて近年はEC売上げも含めて前年比を公表しているケースも多く、実店舗の既存店前年比は計算して推計するするしかないが、ユナイテッドアローズだけはECを含む既存店前年比と含まない既存店前年比の両方を公表している(国内ユニクロは前者のみ)。

 EC比率が1桁だった頃はともかく10%を超え、20%、30%というチェーンも出てくると、実店舗とECの伸び率は12〜40ポイントも違うから(公表大手アパレル平均で26.8ポイント差)、販売の実態がつかみ難くなる。両方を公表しているユナイテッドアローズ(直近半期のEC比率19.1%)では四半期単位で3〜5ポイントも前年比に差が生じている。

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 株式公開企業など毎月の売上前年比を公表するチェーンは米国でもリーマンショック前は15ほどあったが、倒産や売上げの低迷、ECの拡大で公表するチェーンがどんどん減り、今やギャップも公表しなくなって、公表しているチェーンはLブランズ(ビクトリアズシークレット/バス&ボディワークス)とバックル、ズミーズ、キャトーの4社になってしまった。

 米国や英国の場合、C&Cが進んで店受け取りや店出荷も多く、店舗とECのどちらに計上するか各社まちまちで、四半期/通期の決算でも店舗売上げとEC売上げを分けて公表する企業はまれになってきた。わが国でも経済産業省のEC統計値など実態との乖離が疑われ、今後はEC込みの前年比を公表するようになると思われる。

在庫消化の流れを読む

 各社の公表値は前年比であって売上げの実額ではないから、公表値から在庫消化の流れを読むのは難しい。それを読むには月々の売上実額と月末在庫の推移が最低限必要だから、在庫は無理でも売上げの実額を推計しなければならない。平均的な数店舗の売上げをつかんで月販売指数のパターンが読めれば、それを元に直近の前年比から売上げの流れは読める。それと合わせて毎月の店頭在庫の流れと値引き訴求を見れば、あらかたの在庫消化のフローは想像がつく。

 毎月の店頭在庫の流れといったが、定型的なパターンはあってもチェーンによって売場構成と在庫運用の手法は異なるから、そのチェーン特有の運用パターンを見抜かないと在庫消化の流れは見えてこない。台帳運用中心のチェーンは棚の欠品と値引きを見れば大枠はつかめるが、不定形なアナログ編集で回すチェーンは読みにくいし、どちらもDC在庫まで読めるわけではない。

 個々のアイテムが消化不振か否かはキックオフやマークダウンのタイミングと値引き幅で見るが、先読みするにはECサイトの値引きやクーポン発行を一覧すればよい。逆に再入荷待ちだったり、主要色が欠品していれば、人気で不足気味だと分かる。

好不調の要因をつかむ

 在庫消化のあらかたの流れとアイテムごとの好不調をつかめれば、何が要因かも読めてくる。好不調を分ける要因は以下の4点が大きいのではないか。

(1)アイテム構成の流れ

 ファッショントレンドと天候が売れるアイテムの流れを決める。冬場では暖かいとニットやカットの単品が売れ、寒いと防寒アウターや巻物・手袋が売れるが、同じニットでも編み地・ゲージやネックデザインを外すと売れないし、防寒アウターもウール系と非ウール系、その中でもアイテムのバランスで売上げは大きく変わる。

 毎シーズン見ていると、どのチェーンも継続アイテムのバランスを変える程度で新アイテムの導入には消極的で、18年冬もスポーツミックスの要となる中綿のトラックジャケットやベンチコートを手掛けるチェーンはほぼ皆無だった。実績アイテムも継続すれば販売数量は落ちていくものだから、新規アイテムの導入に消極的だと先細りしてしまう。

(2)鮮度と価格とクオリティのバランス

 アイテムを外さなくても、デザインディティールの鮮度やクオリティ、価格のバランスで売上げは大きく変わる。人気アイテムも踏襲すれば年々鮮度が落ちるから、その分、値頃にしていかないと販売数量が落ち込んでしまうし、今シーズンの顧客が求めるクオリティやフィットにしないと外してしまう。クオリティといっても売り手が思う品質より軽さや機能性が重要で、その方が価格との折り合いもつけやすい。

(3)フィットとテイストのずれ

 ファッショントレンドの中でも数字を決定的に動かすのはフィットとテイストで、当シーズンの顧客の好みとずれればてきめんに数字が落ちる。近年は抜けた緩いフィットへ流れており、似たようなアイテムでもジャストフィットな作りだと消化が進まない。サイズ別の消化率を見れば何が起こっているか分かるが、サイズだけでなく作りの緩さ・軽さも必要だ。カジュアルも古典的なアメカジベースからスポーツミックスなアスレカジュアルへと急速に移行しており、この流れを外すと顧客が離れてしまう。

 フィットとテイストはVMDの表現も問われる。トルソーやマネキンへの着せ付けのサイズ選択や着崩し、陳列ラックへの柄物や小物によるリミックスなど、同じチェーンでも顧客を見たテロワールな対応が必要だ。

(4)需給バランスと売価運用

 何も外さないジャストな商品をそろえたとしても、需給の変化に対応しないと結果は出せない。商品を供給しているのは自社だけではないから、ライバル他社も合わせた供給量と需要の関係を見る必要がある。需要に供給が追いつかなければ価格を通せるが、追加供給しないと機会ロスが発生する。需要を供給が上回れば消化が滞るから、キッキオフやマークダウンなど売価変更で対応する必要が生じる。値引きロスを最小化したければマークダウンより早めのキックオフ、店頭のキックオフより早めのECでのクーポン発行、品番単位の売変より店間移動やECサイト限定のSKU単位の売変が肝要だ。

 どのアイテムが供給不足か供給過剰か、以前はつかみにくかったが、今日ではECサイトを一覧すれば簡単につかめる。供給不足アイテムは有力チェーンの自社サイトで早々と欠品・入荷待ちになっているもの、供給過剰アイテムはゾゾタウンなど大手ファッションモールでクーポン発行が氾濫しているもの、と見てほぼ間違いはない。毎週のように点検しないと変化を捉えられないから、バイヤー/MDのルーチンワークにするべきだ。

要因をつかめば対策も見えてくる

 好不調を分ける要因は上記の4点以外にも納期管理や配分・補給・物流などのロジスティクス、CMIとSMIやVMIの使い分けによる個店対応、組織構成や業務分担、指揮系統や貢献評価などガバナンスも無視できない。17年冬はダウンの納期遅れが数字を大きく動かしたし、特定企業の全ブランドがそろって上がったり沈んだりすることも珍しくない。

 こうして見れば、好不調を分ける要因は不調を回避し好調をもたらす施策でもあると理解されよう。自社やライバルの好不調要因を数字だけでなく店頭やECフロント、取引先などから情報を集めてつかんでいけば、次に打つべき手も見えてくる。好不調の要因分析は次の施策を見出す重要業務だと心得たい。

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