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ブログ(アパログ2018年11月01日付)
『リアリティを失ったらお終いだよ』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 新旧二種のZOZOSUITという“ハイテク”によるパーソナルなマッチングとクイック生産という仮説と現実の乖離でPBが離陸せず業績が翳るZOZOだが、一点突破のニューテクに依存して思考停止に陥り、リアリティを失ったことが災いしたと思われる。それはZOZOに限らず、近年のアパレルギョーカイに共通しているのではないか。

 「ものづくり」だ「クリエイション」だと作ることばかり夢中になって「どう受給を調整するか」「どう売るか」という流通や販売がおざなりになって、供給量の過半が売れ残るのが常態化してしまったアパレルギョーカイだが、ECが盛り上がってくると今度は店舗がどうなるかも考えずEC拡大に突っ走って店舗の損益を損ない、膨大な店舗投資を負のレガシーにしてしまう。POSに依存して売場を見なくなり売り切り編集のスキルも失い、値引きと残品を肥大させてきたのに、今度はAIに夢中になって顧客も見なくなり、現場も本部も思考停止してしまう。

 大切なことは、どんなにハイテク化しても「商品と生産ライン」「顧客と売場」を自分の目で直接、見続け触れ続けリアリティを保つことだ。ネットで遣り取りできても、サンプルや生産ラインを自分の目と手で確認しなくなれば何れリアリティは失われてしまう。POSで情報が得られるとしても、自分の目と手で売場/ECフロントと商品を見て触って編集/リコードしなければ明日は変えられない。AIで顧客の行動や嗜好を読んでパーソナルにレスできても、それは顧客の一面であって実像や本音とイコールではない。どこかで直接に見て多少なりとも言葉を交わさないと何れリアリティは失われてしまう。

 POSやAIに依存して自分の五感で確かめる習慣を失い、ネットの間接情報に惑わされ周囲の“空気”に流されて思考停止に陥れば第六感もアイデンティティも失い、やがて自身の存在もバーチャル化してしまう。それはSFではなく現実に起こってしまうことだ。POS依存でリアリティも現場スキルも失い、とことん儲からなくなったのに、AIに夢中になって顧客まで見なくなりそうなギョーカイに、ホーキング博士に替わって(畏れ多いことだが)村外れの賢者から警鐘を鳴らしたい。

※予算組み立て▶︎MD設計▶︎調達▶︎DB▶︎売場構築▶︎売り切り編集と二次移動消化というマーチャンダイジングを一貫して効率的に運用するには“リアリティ”が不可欠。会社の仕組みと現場のスキルがかっちり噛み合わないと成果は上がりません。11月15日(水)に開催する『マーチャンダイジング技術革新ゼミ』では最新テクと現場スキルのリアルな噛み合わせを体系的に教えますので、是非ともご参加ください。

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