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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ららぽーと名古屋みなとアクルスはここが必見!』 (2018年10月02日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 三井不動産が9月28日に名古屋市港区に開業した「ららぽーと名古屋みなとアクルス」は既に皆さんが紹介しておられるから、私視点の評価で一押しテナントをフォーカスして見たい。

「ららぽーと名古屋みなとアクルス」はこんなところ

「ららぽーと湘南平塚」(16年10月開業)に続く国内14番目の「ららぽーと」で、「ららぽーと」としてはややコンパクトなスケール。東邦ガス跡地再開発プロジェクトの中核商業施設で、店舗面積5万9500平米の3層サーキットモールに217店舗をそろえ、年間売上げ300億円を見込んでいる。

 5km圏に46万5000人が暮らす高密度商圏といっても周辺は東京なら江東ゼロメーター地帯的な工業地域で、名古屋市の中心部にもかかわらず近年は人口減少が続いていた(港区の人口は16年までの5年間で3.3%減)。名古屋市は東京と逆に東高西低で、標高の高い東側の台地(トヨタ寄りと言い換えてもよい)が高所得で、標高の低い西側は低所得という傾向がある。足元は名古屋市の平均より2割近く所得水準が低く、製造業従事者が多く、女性がやや少ないという難点のある商圏で、西約2kmのイオンモール名古屋みなと(店舗面積4万4000平米)も西5km強のイオンモール名古屋茶屋(店舗面積7万5000平米)も必ずしも順調ではないようだ。

 難点のある立地を三井不動産がどう料理するか注目されていたが、さまざまな分野の有力企業と取り組んで新機軸を仕掛け、食や住、スポーツやカルチャー、エンターテイメントなど、ライフスタイル軸でアップスケールに構成して、北側の中川区、北東側の熱田区、東側の南区など広域から集客する構えを見せている。

 売上目標は当社が開発段階で商圏の難点や肥沃な東側の競合をシビアにシミュレーションした売上予測とほぼ一致しており、三井不動産としては控えめな設定と思われる。

ライフスタイル軸の構成

 まず目に入るのは正面右翼に2層計1000坪近い独立棟を構える蔦屋書店で、「お出かけ」「子育て」「クルマ」の3ジャンルを充実させ、150席のカフェも備えてファミリーライフスタイルを提案。館全体が「Tサイト」感覚のブック&カフェスタイルで、アイウエアや時計など12のインショップ、2つのポップアップショップもそろえ、朝8時から夜10時まで営業している。

 本館では食物販やフードサービス、スポーツ&アウトドア、インテリア関連が主役で、「RHCロンハーマン」などライフスタイル業態やハワイアンカフェの「エッグスンシングス」が1階の一等地に並ぶ。衣料関連は外資ブランド中心で国内チェーンは限られ、キッズまで加えても53店舗とテナントの4分の1弱に抑制されている。スポーツ&アウトドアは1〜2階中心に14店舗も並び、ストリートファッションのお株も奪っている。

 総じてファッションよりライフスタイル、ライフスタイルもフード軸、スポーツ&アウトドア軸、インテリア軸が適度にバランスされ、幾つかずつ分散して配置されているのがかえって自然な回遊を促していた。それは6万平米弱というコンパクトサイズのライフスタイル構成ゆえのマジックだと思われる。

注目のライフスタイル業態

 私が注目するのは異分野企業による新業態で、カー用品大手のオートバックスによる“ガレージ”をテーマとするアウトドアなライフスタイル業態「ジャック&マリー」も注目だが、ホームセンターのカインズから切り出したホームインプルーブメントとカフェのライフスタイルストア「スタイルファクトリー」は出色だ。

 前者はアウトドア/グランピング用品に加えてサープラス感覚のワークウェアもそろえ、横浜ベイウォーター、ららぽーと名古屋みなとアクルスに続き、11月には横浜ランドマークプラザ、マークイズ福岡ももちにも出店する。後者は昨年9月29日に30〜40代女性向け“都市型ホームセンター”をうたって開店したテラッセ納屋橋店(名古屋市/700坪)に続く2号店で、テラッセ納屋橋店よりコンパクト(305坪)にまとめ、PB主体のホームインプルーブメントにフォーカスして女性受けするライフスタイル業態に進化している。広域SCでの多店化を計画しており、絵画的なカラーマーチャンダイジングと豊富な品揃えでニトリの牙城を脅かす新手になりそうだ。

 ニトリはインテリア分野では圧倒的なトップに見えても「寝具」など突出したカテゴリーは限られており、ホームリネンやインテリア雑貨ではライバルも少なくない。開発体制やお値頃感ではリードしてもデザインセンスや色彩感覚は今ひとつ垢抜けず、「スタイルファクトリー」に脇を突かれるリスクが指摘される。

「ららぽーと名古屋みなとアクルス」は金太郎飴な郊外SCとは一線を画する手の込んだ斬新な構成が評価されるアップスケールな都市型SCで、有力企業の新業態など見どころも満載だ。広域から集客して足元商圏の難点をカバーできるかどうかも注目で、2年、3年というスパンで動向を追ってみたい。

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