小島健輔の最新論文

販売革新2012年4月号掲載
特集[専門店の強さに学ぶ]
『専門店の強さはオペレーションだ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 GMSなど総合店が行き詰まると必ず持ち出されるのが「専門店化」だが、現実はカテゴリーを絞るだけで専門店の強さを発揮出来ず、各個撃破されて霧散するのが結末だ。その要因は、専門店の強さが現場の技術水準に裏付けられたオペレーション力にある事を見過ごしているからではないか。

すべからく行き詰まった総合店の専門化

 かつて米国でも日本でも総合業態が行き詰まると必ず試みられたのが複合専門店化だが、カテゴリーを絞っただけで専門店として勝てるオペレーション力を欠き、離陸出来ないユニットも多く、歯抜けになって総合力を損なうケースがほとんどだった。専門店化が行き詰まって元の総合業態に回帰出来たのはまだ幸福で、歯抜けが進んで解体に至るケースさえあった。
 日本でもGMSの複合専門店化は何度も試みられ、SPA業態がまだ台頭していなかった80年代のナショナルチェーン時代には開発した専門店がスピンアウトする成功例も幾つか見られたが、スピンアウトの結果、総合店としては歯抜けになる事も多かった。当時のスピンアウト成功例としては西友ストアの「無印良品」、ユニーの「パレモ」などが挙げられよう。
 各分野でSPAに代表される垂直統合業態が一般化した近年の複合専門店化では、イオンのように見た目は専門店化しても商品開発から店舗運営までのオペレーション力が伴わず、専門店化した業態が軒並み低迷するケース、イトーヨーカ堂のように自社での開発を諦めてM&Aで系列化した専門店を並べたものの、それら専門店に食われて直営売場が一段と弱体化するケースに分かれるが、どちらも総合業態の再生には繋がっていない。総合店の複合専門店化では例外的にスピンアウトまで至る成功例が出る一方、総合店の活性化に成功する事例は皆無であったから、総合店の複合専門店化は見果てぬ夢と結論すべきであろう。

専門店の本質が解っていない

 複合専門店化は夢幻としても、個々の専門店ユニットを成功させてスピンアウトに至らせるのは実現性がある。ただし、それには見た目のカテゴリー特化だけでなく、商品開発からロジスティクス、店舗運営から販売に至るトータルなオペレーション力が第一線の専門店と互角である事が問われよう。ロジスティクスひとつ取っても、各店配分・補給、店頭在庫再編集と店間移動の細かい運用で、しまむらは総投入対比のマークダウンロスを6.8%に抑えているし、ユニクロもキックオフ手法を活用して推定同24.8%に抑えているが、おそらく量販店衣料部門は30%以上のロスを垂れ流しているのではないか。
 かつてのナショナルチェーン時代ならともかく、SPAが当たり前となった今日では商品企画〜開発、調達〜ロジスティクスはもちろん、グローバルブランドと覇権を競うVMDオペレーションからウェブ/SNSを活用したブランディング・コミュニケーションまで一貫した体制が求められるが、量販店の専門店部隊に有力専門店並みのVMD体制や最先端のブランディング・コミュニケーション体制など期待すべくないだろう。量販店幹部にお雇いの外部スタッフを加えても、今時の有力専門店に追いつけるとは到底思えない。ましてや大手商社に丸投げしたらSPAが出来るなどと勘違いされても困る。グローバルSPA時代の専門店はナショナルチェーン時代とは桁違いに高度化しているのだ。

リアルマインドが欠けている

 もうひとつ、量販店資本が専門店を開発出来ない最大要因は、現場の技術体系に精通して全体の運営精度をマネジメント出来るリアルマインドな経営リーダーの不在が指摘される。量販店のように組織が巨大になるとトップからは上澄みのトップマネジメント層しか見えなくなり、現場の技術体系を掌握した中堅層は見えなくなってしまうが、専門店を創れる幹部はこの層にしか存在しない。専門店は創業経営者がひとつひとつ現場技術を積み上げて組織を築いたものであり、それに匹敵する創業者精神を持った経営リーダーが隅から隅まで現場技術を積み上げないと専門店は開発出来ない。そんな当たり前の事が通らないのが巨大組織なのだろう。
 モールで勝ち抜いて成長して来た専門店が何年もかけて企画・開発から店舗運営まで様々な技術を積み上げ、国内外の開発・調達ルートを開拓し、低コストで効率的に業務を遂行する強固な組織を築き上げて来た事を思えば、一朝一夕に専門店が作れると思う方が可笑しい。唯一、短期で本物の専門店を手に入れられるのはM&Aだけで、大手商社と組んで何十〜何百億円も溝に捨てるぐらいならいっそ有望専門店を買収した方が速くて安く済む。とは言え、買収した専門店を軌道に乗せられるか否かはリアルマインドな経営者の有無で決まってしまうから、トップの方ばかり向いて現場を掌握出来ない上澄みのマメジメント層に任せず、現場目線で実務を掌握出来る創業者感覚の中堅幹部を抜擢すべきと思われる。

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