小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『ワークマン「神話」に陰り』
(2023年05月16日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

347389803_145426175178301_1279881796267589547_n

 「ワークマン女子」の矢継ぎ早の出店やユーチューバーの社外取締役起用など、何かと話題が尽きないワークマンだが、23年3月期は純利益が13年ぶりの減益となるなど勢いに翳りが見られる。数々のワークマン「神話」もホントなの?と疑いたくなる数字も出てきて、急成長からの転換期を迎えているようだ。

 

■減益・減速から再成長軌道に戻せるのか

 ワークマンの23年3月期決算はチェーン全店売上高が1698億5600万円と前期から8.5%伸びてワークマンの営業総収入(FC本部の売上に相当)も1282億8900万円と10.3%伸びたが、営業利益は241億600万円と10.1%、純利益も166億5600万円と9.0%減少し、純利益は13年ぶりの減益となった。営業利益率は18.8%と前期の23.1%から4.3ポイント、チェーン全店売上対比の営業利益率も14.2%と前期の17.1%から2.9ポイント低下し、一株当たり純利益も自己資本利益率も総資産利益率も軒並み低下した。

24年3月期予想もチェーン全店売上、営業総収入とも6.5%増、営業利益6.7%増、純利益5.4%増と巡航軌道の定着を伺わせるもので、18年9月5日の「ワークマンプラス」一号店(ららぽーと立川立飛)出店以降の急成長(チェーン全店売上は19年3月期16.7%増、20年3月期31.2%増、21年3月期20.2%増)からは減速を否めない。既存店売上も22年3月期は1.5%増、23年3月期も2.6%増と急成長期の二桁増(19年3月期14.0%増、20年3月期25.7%増、21年3月期14.2%増)からは大きく減速しており、「ワークマン」から「ワークマンプラス」への転換や新規出店、「ワークマン女子」の出店を加速してもチェーン全店売上を再び二桁成長に戻すのはハードルが高い。加えて、再加速するにはチェーン全店売上の65.9%まで増えたPB商品の在庫消化という課題を解決する必要がある。

 減益・減速には調達コスト増など様々な理由があるだろうが、急成長の勢いに乗ってワークマンが発信して来た数々の「神話」に疑念を挟みたくもなる。私が疑念を抱くのは以下の3点だ。

 

1)賃料・減価償却負担は5%まで

 ワークマンは直営店はもちろん加盟店(FC)の店舗投資と賃料も負担しているが(大半を占めるAタイプ)常々、賃料・減価償却負担は売上の5%までと公言して来た。実際、チェーン全店売上に対する地代家賃・減価償却負担は22年3月期で5.01%、23年3月期でも4.89%と5%ラインをキープしているが、20年3月期の2.14%、21年3月期の2.54%からは急激に上昇している。

 22年3月期から賃料・減価償却負担率が跳ね上がったのは「収益認識会計適用」による会計処理の影響が大きく、それを差し引いた(減価償却費の伸びから推計した)賃料・減価償却負担率は22年3月期で2.90%、23年3月期で3.06%と推計されるが、それでも負担率は年々、かなりのペースで上昇しており、20年3月期からは実に43%も肥大している。

 それは一般消費者向けの「ワークマンプラス」や「ワークマン女子」へのシフトに伴い、生活圏のロードサイドからパワーセンターなどのオープンモールや広域SC、一部はターミナル商業施設にまで出店立地を上っているからで、地代家賃・減価償却負担率が上昇するのは必然だった。立地を上るに連れ平米当たり販売効率も19年3月期の386千円から20年3月期487千円、21年3月期561千円、22年3月期572千円、23年3月期592千円と急ピッチで上昇していったが、地代家賃・減価償却負担はそれ以上のペースで上昇している。広域SCやターミナル商業施設でも5%ラインは死守すると公言していたが、実際には8〜10%、好物件では10%を超えているのではなかろうか。商業施設関係者へのヒアリングもそれを裏付けている。

 ワークマンは独自のフランチャイズシステムで運営される経費率の極めて低いチェーンで、本部負担の販管費は23年3月期でチェーン全店売上の12.16%に過ぎない。加盟店の損益モデルから推察される加盟店負担経費(加盟店の家族労働人件費を除いて売上の5.54%)を加えても17.7%に収まるから、販管費率が50%に迫る(あるいは超える)アパレルチェーンが大半の今日、簡潔で合理的な仕組みが確立されていると評価すべきだろう。

直近4期間もFC店舗比率は95〜96%を維持しており、生活圏ロードサイド中心のFC店については今も5%を下回る地代家賃・減価償却負担を維持していると思われるが、「ワークマンプラス」や「ワークマン女子」など広域SCやターミナル商業施設の家賃負担の嵩む店舗は「直営店」として運営されている。

 ワークマンの「直営店」には開業してから加盟店に運営を移管するまでの「トレーニングストア」が半分前後含まれ(22年3月期末で40店中21店、23年3月期末で42店中19店)、残りが商業施設の「直営店」になる。トレーニングストアを含む「直営店」の平米当たり販売効率はFC店より4割近く高いから(22年3月期有価証券報告書)、商業施設の「直営店」に限ればFC店の倍以上の販売効率と推計されるが、それだけ広域商圏で高コストな商業施設に出店していると受け取れる。

「直営店として」と断ったのは実際には販売代行業者に運営を委託しているからで、地代家賃・減価償却負担に業務委託費も加わるから高コストになる。それでも十分に採算が合うのはチェーン全店へのマーケティング効果が大きいからだ。

商業施設の「直営店」が21年3月期の14店から23年3月期は23店に増えたのは「ワークマン女子」の出店によるもので、19年3月期から21年3月期にかけて「ワークマンプラス」の「直営店」を12店舗出店した時と同じく、マーケティング効果で既存業態にも新規の一般客が押し寄せて売上を嵩上げている。地代家賃・減価償却負担の上昇は過渡期の「マーケティングコスト」と割り切っているのではないか。

 

2)在庫ロスはほとんど発生しない

 アルゴリズムで数週先まで売上を予測しVMI※で補給する仕組みが上手く回って在庫ロス(値引きロス・売れ残りロス)はほとんど発生しないという「神話」も、急激なPB商品の拡大で揺らいでいるのではないか。

ワークマンは買取り型のFCとベンダーが補給在庫を分担するVMIを組み合わせているから在庫リスクは極めて限られるはずで、在庫ロスがほとんど発生しないという「神話」もなるほどと思わせるものがあった。実際、ワークマンの直接管理する在庫(直営店在庫とチェーン全店向け補給倉庫在庫)については23年3月期も1%台のロスに抑制できているという。

FC店についても自動発注システムで発注精度を高めスーパーバイザーの指導や褒賞金制度などで在庫ロスを抑制しているが、ワークマンはFC店商品の全てを直接に供給しているわけではなく、メーカー在庫の定番品やメーカーカタログの客注品などメーカーからFC店へ直送される(代金精算は管理している)商品が2割弱(23年3月期は19.2%)存在することもあり、FC店の発注を全てコントロールできているわけではない。

23年3月期の小売売上対粗利益率は加盟店(FC)で36.2%、直営店で34.0%、チェーン全店で36.1%と開示されているが、ワークマンの売上原価に加盟店へのメーカー直送品を加えた原価率は60.64%だから、チェーン全店で3.26%の在庫ロスが発生したことになる。1%台というアナウンスよりは大きいが、大手アパレルチェーンのロス率が仕入れ型で10%前後、SPA型では15〜20%にも及ぶのと比較すれば極めて低い。

ワークマンの棚資産回転は80日(4.5回転)前後を保って来たが、23年3月期はサプライチェーン混乱に懲りて納期遅れを避けるべく春夏物調達を早めたこともあって期末在庫が膨らみ、95.75日(3.8回転)と大きく減速した。調達コストの上昇もあって粗利益率も34.89%と前期から4.72ポイントも低下し、交叉比率は132.9と前期の73%に落ち込んでいる。

それでも定番継続販売(「縦売り型」と言うには陳列在庫が薄い)のアパレルチェーンとしては在庫回転は異例に高い方で(ユニクロや無印は3回転に届かない)、FC店とVMIベンダーの在庫分担が機能していることは間違いない。在庫回転が低下している背景には急ピッチなPB拡大があるのではないか。

ワークマンはベンダーが補給在庫を分担するVMIで在庫リスクを抑制して来たが、急ピッチなPB拡大でVMIが効かない在庫を抱えるようになったと推察される。実際、19年3月期は39.7%だったPB売上比率は20年3月期51.4%、21年3月期59.7%、22年3月期62.5%、23年3月期65.9%と鰻登りに拡大している。この間にアイテム数が1022から2121と倍増した一方でアイテム当たり売上は1.46倍(23年2月期で5270万円、チェーン全店売上は1.83倍)にしか増えていないことも、滞貨するアイテムの増加を推察させる。

PBの全てがロット買取りの売り減らしとは限らず、しまむらのジョイントPBのように分納で擬似VMIを図るケースもあるはずで、三菱商事が買掛金の18%強を占めている(22年3月期有価証券報告書)こともユニクロ型の製販同盟を想起させる。PB拡大が業績の足枷とならぬよう、合理的な補給在庫の分担を図るべきだろう。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

 

3)「ワークマン女子」はファッション感度が高く若年層にも人気

 「ワークマンプラス」の一号店から直近4月14日に横浜ビブレに開店した「カラーズ」(「ワークマン女子」と「ワークマンシューズの複合」)まで見てきたが、ワークマンがアナウンスするほどファッション感度が高まっているようには見えないし、若年層(30代以下)の比率も高いとは思えない。私が見る時間帯のせいかもしれないが、シニア層やミセス層が大半を占める。

 「ワークマン女子」のパンツのパターンは未だミセス感覚を脱していないし、アウターのフィットも細身でストリートなゆる抜け感を欠き、カラーリングも色味とトーンの陰影を欠くお絵描き感覚を出ていない。「ワークマンシューズ」も機能と価格のバランスは魅力でも買いたくなるデザインには遠く、スポーツブランドをアウトレットで買う方が賢い選択に思えてしまう。

未だ「ユニクロ」を受け入れることができず、ストリートブランドやグローバルNBの古着がしっくり来る根っからの業界人の感覚だから一般消費者の感覚とは乖離があると思うが、購入を試みる度に頓挫するのは感覚的な距離が大きいからだろう。逆に言えば「ユニクロ」と同様、業界人感覚に捉われない間口(客層)の広さが期待できる訳で、若い女性にウケているというイメージを訴求しながら「都市型ホームセンター客」などのミドル〜シニア層まで幅広く取り込むマーケティング戦略と受け取るべきだ。アウトドア関連などのインフルエンサーをアンバサダーに起用してのSNSマーケティングが奏功して様々なフィルターバブル層も取り込んでおり、一網打尽のマスマーケティングとは次元を画する浸透型マイクロマーケテイングが老若男女を捉えている。

 

■切り捨てられる「ワークマン」には新たなチャンスがある

アパレル業界とは次元を異にする浸透型「ファッション感度」が顧客の間口を広げる一方、ワークマンの原点だった職人層は切り捨てられていくのだろうか。

ワークマンは10年以内に「ワークマン女子」400店、「ワークマンプラス」900店、「ワークマン」200店、国内計1500店、年商3000億円体制を確立するとしており、19年3月期のピークには828店に達していた「ワークマン」は新規出店が抑えられ既存店も「ワークマンプラス」への転換が進み、20年3月期末693店、21年3月期末632店、22年3月期末559店、23年3月期末479店と急ピッチで減少している。このまま200店まで減少していけば、かつてのワークマンを支えた職人層は本当に切り捨てられてしまう。

ネットには『滞店時間の長い一般客が増えて駐車場が満杯のことが多くなり、仕事前に素早く購入するのが難しくなった』『一般向け商品が増えてプロ向き商品の品揃えが薄くなった』『女性客が増えて汚れた作業服での入店が躊躇われるようになった』などと職人たちの怨嗟する声が溢れている。吉幾三の「風に吹かれて」のCMソングがお茶の間に流れた昭和な時間は職人減と外国人労働者への転換が進んだ今となってはもう遠い昔だが(15年3月期から18年3月期の業績停滞で戦略転換を決断した)、今も頑張っている職人達にとってはワークマンの変身は仕事に差し支える現実的な問題だ。

ワークマンは「モノタロウ」的プロ向けサイトの拡充に積極的ではないが、「ワークマンプラス」「ワークマン女子」への転換が進んで「ワークマン」が各地をカバー出来なくなれば必須の機能になる。プロ向けサイトとBOPIS連携する明日の「ワークマン」は、アウトドアライフや農林水産業もカバーする地域のハードライン&ソフトラインストア(プロ向けHCに近いかも)として新たな事業機会が広がるのではなかろうか。

 

論文バックナンバーリスト