小島健輔の最新論文

Japan Innovation Review(JBpress)
『過渡期の今こそ検証したい
「店舗DXは業績向上に寄与しているのか」』
(2023年09月08日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 IT仕掛けのレジレス店舗からOMO(注1)なUI/UX(注2)、リテールメディアまで店舗DXが注目されて久しく、さまざまな実験とシステム投資が繰り広げられてきたが、セルフレジを除いては目に見える業績改善効果が上がっているのか疑わしい。成果を上げぬままレガシー化するシステムも少なからず、ニューリテールストアとしてのゴールを見据えて優先順位を定め、コスパ・タイパのKPI(注3)を実証して進めるべきだ。

(注1)Online Merges with Offlineの略称。ネットと店舗の垣根を越えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。
(注2)UIはUser Interfaceの略称で顧客接点、UXはUser Experienceの略称で顧客体験
(注3)Key Performance Indicatorの略称で重要業績評価指標

 

それでもレジレス店舗は定着する

 2018年1月にアマゾンがレジレスコンビニ「Amazon Go」の1号店をシアトルに開店(本社内のBeta版実験店は2016年12月開設)して以来、中国ではAmazon Goをコピーしたようなレジレスコンビニが雨後のたけのこのように氾濫し、米国はもちろん韓国や日本でも追従する実験が広がったが、中国のブームは短期に終わり、わが国でも顧客が見えてキャッシュレスに限定できる公共施設内や企業内のコンビニ、駅構内のKIOSKに留まっている。ご本家Amazon Goも2023年3月に8店舗の閉店を発表し、レジレスグロサリーストアの「Amazon Fresh」も新規店舗の開発を凍結している。

Amazon Goの18店舗は残り、郊外スタンドアローン型を新規に開設して現段階(9月3日)で米国内に22店舗、「Amazon Fresh」も44店舗が存在しているが、アマゾンの経営陣は小売りチェーンの運営に疎く、2022年3月に小売の実験店舗「アマゾンブックス」24店、「アマゾン4スター」33店、「アマゾンポップアップ」9店の全てを閉店している。2022年5月にロサンゼルス近郊に立ち上げたアパレルのショールーミングストア「Amazon Style」もバックヤードのオペレーションが法外なスペースと人時量を要して採算性が見えず(「ZARA」の同様な実験の挫折を研究しなかった)、2022年10月にコロンバスに開店した2号店で止まったままだ。

 Amazon GoのAIカメラ軸顧客行動解析精算システムは設備投資と運用負荷が大きいのに期待精度に達せず壁に当たっているが、Amazon Freshの「ダッシュカート」は初期モデルから改良されて店内の商品配置やセール情報との連携が進み、量り売り商品のカート登録もワンタッチになり、バーコードをAI商品画像照合が補完していると思われる。それでも陳列棚の重量センサーが一部の商品を制約し、伸び盛りの中食商品(惣菜・弁当)にも制約があるとなれば、DX以前にグロサリーストアとしての競争力が問われざるを得ない。

 それでもレジレス店舗は新たな技術の登場や処理速度の向上で実用性が高まり、遠からずセルフ販売小売店舗のデフォルト(標準仕様)になると思われる。レジ精算に費やす生産性の無い膨大な人時量と顧客のレジ待ち不便に加え、店頭の一等地を大量のレジ列とサッカースペース(袋詰め台)に割くという不合理があまりに大きいからだ。

 

店舗DXの目的と優先順位を明確化せよ

 店舗DXはデジタル技術によって顧客利便と生産性の向上を目指すものだが、投資効果のKPIが曖昧なまま技術先行でブーム化しており、成果を得られないまま技術がレガシー化して「リープフロッグの罠」(注4)に陥る悲劇も少なくない。今一度、ゴールの姿を見定めて「目的」を再認識し、技術を選別しKPIを明確にして工程を組み直すべきではないか。店舗DXの目的は一般に以下の3項とされるが、死活の必然性と投資効果という視点から優先順位を明確にする必要がある。

(注4)レガシー化した設備投資の償却に足を取られて技術革新から脱落する状況

 

(1)精算のセルフ化・自動化による顧客利便の向上と精算コスト&スペースの圧縮

 レジレス店舗というトピックな技術革新に踊らされ、顧客利便の向上と精算コスト&スペースの圧縮という目的を見失ってはいけない。Amazon GoのAIカメラ軸顧客行動解析精算システムはレジ待ちがなく精算の人時コストもスペースも不要になるのは画期的だが、設備投資と運用コストに精度と処理速度が見合うか疑わしく、キャッシュレスに限定される。顧客がバーコードをスキャンするセルフレジは精度の疑念と処理速度の遅さ(=スペースを食う)に加え、セルフサッカースペースを要して精算スペースが肥大しかねない。

 AI商品画像照合で補完すればセルフレジの精度は確実に高まるが、セルフサッカースペースは解消できない。AI商品画像照合で補完するスマートカートなら精算スペースを圧縮できるが、やはりセルフサッカースペースは残る(駐車場まで運べる全天候型カートなら圧縮可能)。衣料品なら縫い込まれたRFIDインレイを一括で読み取って精算し自動包装までするセルフレジが正解だろうが、食品スーパーではベルトコンベア方式AI商品画像照合の有人レジの方が精度が信頼できて処理速度も格段に速く、サッカースペースを省く(サッカーが必要になるが)という選択も可能だ。スペースコストがサッカーコストを上回るのは余程の高効率立地で店舗面積に制約があるケースに限られようが、検討する価値はあるだろう。

 衣料品なら店頭ではなく店奥のデットスペースでセルフ精算できるが(ユニクロやGUの一部店舗で実践している)、食品スーパーでは店頭の一等地から奥に動かすのは難しい。この課題を解決できれば店頭の一等地を売場に変えられるが、妙案はないものだろうか。

 衣料品とりわけアパレルではフィッティングルームの分散やレジカウンターからの隔離が人時効率の足を引っ張るが、レジカウンターから見える前か横に集中配置すれば解決する。フィッティングスペースが売場を圧迫するのも、ささげタグやアプリのサイズレコメンドで多少は改善できる。

 セルフ精算とキャッシュレス化は表裏一体に進行しているが、ばかにできないのがキャッシュレス決済の手数料と現金化の遅延だ。商業施設の包括加盟契約だと2%以上上乗せされるし(4~4.5%が多い)、45日も入金が遅れればキャッシュフローが圧迫される。キャッシュレス比率が低かった頃は見過ごせたが、アパレル店舗などでは過半を超えるのが当たり前になる中、包括加盟契約の回避やアクワイアラ(加盟店契約会社)の選別などの対策が急がれる。

(2)OMOなUI/UXの向上とリテールメディア化

 レジレス店舗と並んで進行しているのがOMOなUI/UXとその延長上にあるリテールメディア化で、ECサイトとリンクするOMOアプリのインストアモードと店内デバイス、店内デバイスとネット(ECとSNS)の連携が要となる。

 自社ECサイトが確立されているケースではショールーミングとウェブルーミングでネットと店舗を双方向につなぐOMOアプリはほぼ定型化され、顧客はパーソナライズ(個人データ、購買履歴とポイントなど)されるが、店内データベースや店内デバイスと連携した商品位置案内やレコメンド、店内デバイスとネットを連携するリテールメディアプロモーション、店在庫引き当てのBOPIS(注5)や店出荷などのマテハン(マテリアルハンドリング)プロセスはまだ途上の課題だ。ネット主導でシステム側は進んでも、店舗側のアプリケーションとデバイス活用が遅れているのが実態ではないか。ましてやOMOで新たに加わるマテハンプロセスは後方(ピッキングと保管)や前方(顧客渡し)の設備投資や人時配分も必要で、ウォルマートでさえ試行錯誤を繰り返してきている。

 2016年に導入して1500店舗まで広げた巨大な「ピックアップタワー」(最大300個を保管して45秒で顧客に渡せるロボットシステム)を2021年4月に廃止を決めて人海戦術のカーブサイド・ピックアップ(駐車場渡し)に切り替えたのが典型で、それ以前にもサービスカウンターから専用カウンターへ切り替えている。カーブサイド・ピックアップの要望に加え、機器の信頼性やスペースコストも廃止の背景にあったと思われる。そんな試行錯誤は他社も同様で、短い期間で専用カウンターから無人の受け取りBOX、さらにはピッキングロボットに切り替えたり戻したりの混乱が見られる。

 それはニューリテール化の過程にあって技術革新で顧客利便が変化し店舗運営体系が流動しているからで、DX装備の「OMO利便ニューリテールストア」としての到達点の姿が描けていないことが指摘される。トピックな技術革新に振り回されることなく、人が働き、商品が流れる、顧客を向いたニューリテールストアとして何を革新して行くべきか、明確なビジョンが問われているのではないか。

(注5)Buy Online Pick-up In Storeの略称で、ECで発注して店舗で受け取るショッピングスタイル。Curbside pickup(駐車場受け取り)もその一種。

 

(3)POSとEOSによる在庫回転とロジスティクスの効率化

 DX以前からJANコードが普及してバーコード読み取りが定着していたとはいえ、一点一点のスキャンが必要で(入出荷ではパッキン単位の検品も可)人時量を要し、コストが高くても一括読み取り可能なRFIDタグへのシフト、あるいはAI商品画像照合の導入が急がれる。どちらも精算段階に加えてスキャナーやカメラの定置配置による自動フェース管理(欠品防止)も可能だが、今のところ物理的な賞味・消費期限管理は人力に依存するしかなく、コスパには疑問が残る。

 フェース管理を自動化しても、棚入れや賞味・消費期限切れ商品の回収というマテハン作業は自動化が難しく、ロボット活用も営業時間内は非現実的で、DXで解決できるめどは見えない。

 POSやフェース管理が欠品や過剰在庫を防止できるかどうかはサプライヤーとの同盟関係(EOS/VMI(注6))やDB. (注7)の仕組みとスキル、補給在庫の配置や補給頻度、物流手法に関わるから、DX以前にカテゴリーごとのロジスティクスプロセスとスキルを見直すべきだろう。その意味では店舗DXとしての優先順位は低いかもしれないが、POSが機能しなくては精算のセルフ化・自動化もOMOなUI/UXも進まないから、マテハンの自動化はさておいてもインフラ投資として優先しなければならない。

(注6)Vendor Managed Inventoryの略称。あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。
(注7)Distribution(在庫の配分・移動などの運用)、あるいはDistributor(在庫運用責任者)

 

労働集約型店舗運営からDX装備による省人時型店舗運営へ

 店舗DXが不可避な最大の理由は労働力不足と賃金の高騰であり、インフレの進行も相まって、労働集約型の店舗運営を踏襲しては販管費が肥大して採算が取れなくなるのはもちろん、運営人時シフトに穴が空いて過重労働が発生したり、一部業務がストップする事態も想定される。それを回避して顧客利便を保つには、これまでの労働集約型の店舗運営を根本から見直し、DX装備による省人時運営を確立するしかない。

 店舗運営では顧客との対面サービスは最低限必要だし、機械化できない店内マテハン作業に加えてBOPISや店出荷のマテハン作業も加わるから(店出荷は地域の特定店舗に限定される)、それ以外のレジ精算業務や在庫管理業務は徹底して自動化・セルフ化するしかない。顧客サービス業務とてアプリのストアモードやAIチャットに置き換えられるものは置き換え、店内マテハン作業も営業時間外なら機械化できる。棚在庫管理は定置カメラによるAI商品画像照合や定置FRIDスキャナーで自動化できるが、残る課題は賞味・消費期限管理の自動化だろう。

 同じ商品カテゴリーならネット販売(EC)の人時生産性は店舗販売の10倍前後にも達するから、ネット販売と店舗販売を的確に相乗させ、ネット販売のアキレス腱である集中倉庫出荷(同時に高コストで翌日以降の配達となるハブ&スポーク型全国区宅配)から店在庫引き当てのローカル出荷(同時に低コストで当日配達のローカル直行宅配)に切り替えて行けば、物流コストが下がって顧客利便も高まり、BOPIS客のついで買いで店舗販売も伸び、在庫効率も高まって収益性が格段に上昇する。そんなOMO戦略を背景にニューリテールストアとしての到達点を描けば、店舗DXの優先順位も導入工程も自ずから明確になるのではないか。

 

論文バックナンバーリスト