小島健輔の最新論文

販売革新2007年4月号掲載
GMS衣料部門の再建策を探る
前編
『GMSはもはや不要だ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 PB大作戦も衣料部門の衰退を止められず、決定的な突破口となるはずだったモール型SCからもGMS核不要論が出始めるなど、もはや存亡が問われるに至ったGMSとその衣料部門。そもそもGMSの存在意義はお手軽価格の疑似百貨店であったはずで、多様な調達手法によるバラエティと変化を欠いては客足も遠のく。未だにユニクロの幻影に振り回されて勝ち目のない疑似SPAゲームに深入りする姿は迷走としか言い様がない。本号と次号の2回に渡り、GMSの実態を直視して将来の存亡を占うとともに、その抜本的な再建策を模索してみたい。

GMS核抜きは良い事ずくめ

 これまで郊外大型SCにおいてはGMS核は必需のように思われて来たが、三井不動産を筆頭にGMS核抜きSCの開発が広がり、その多くが売上予算を上回る活況を呈しているとなれば、GMS核不要論の台頭は避けられない。まだ実数は限られるものの、同一立地/同一規模で比較した場合、GMS核抜きSCの方が12%以上、売上が高くなる傾向が指摘される。
 GMSの実態は「SSM+非効率な衣料部門/住余部門」であり(衣料部門/住余部門の販売効率はSSMの3分の1程度)、SSMを除けば販売効率はモールの専門店より二回りも低い。販売効率が低いという事は集客力も低いという事だから、核店舗としてはSSMだけで十分という事になる。郊外SCではモールテナントのバラエティが集客力となっているのが実態で、GMS核を抜いてモールテナントを拡充した方が集客力は確実に高まる。
 GMSの既存店売上は10年連続して減少しており、坪販売効率はこの間に40.3%も低下している。対してモールの専門店は核店舗(食品部門含む)より11.4%販売効率が高く、2年連続して売上を伸ばしている(日本SC協会SC販売統計の周辺地域と郊外地域)。GMSを抜いてモールを拡充した方が売上を確実に伸ばせるのだ。
 デベとしては広大な面積を格段の低家賃(一般にモールテナントの3分の1)で占拠されるメリットは見出せず、SSMだけにして残る二層分をモールに割いた方が家賃が稼げるしモールテナントのバラエティも広げられる。格段の低家賃しか稼げない面積を3分の1に抑制出来ればモールテナントの家賃も低く抑えられるから、人気テナントを揃え易い。デベもテナントも潤おう訳で、GMS核抜きはまさに良い事ずくめなのだ。

核抜きリモデルでGMSは消えて行く

 ダイエーが行き詰まって店舗が再生され、SSMを除いてテナントが導入されるケースが相次いでいる。典型的なGMS核抜きリモデルと言って差し支えないだろう。ダイエーに限らず販売効率と家賃利回りを考えればGMS核抜きリモデルは必定で、GMS資本のデベを除き、やがては総てのSCがGMS核を抜いて再生される事になる。逆に言えば、GMS系デベは稼ぎの悪い親を抱えて低い経営効率を強いられている訳だ。
 SC間競争が激化して商圏が狭まる中、足元商圏の占拠率を高めて生き残ろうというライフスタイルセンターコンセプトが注目されているが、その要はGMS核の追い出しによるモールテナントの拡充に他ならない。地域一番のRSCでない限り、この命題は不可避のもので、中途半端なCSCはもちろん、二番手/三番手の押され気味な大型SCまで、GMS核抜きリモデルを真剣に考えざるを得ない。
 米国のSC史を振り返るまでもなく、10年というスパンを考えれば非GMS系デベの総べてのSCからGMS核(PDSを除く)が消え去るのは確実で、GMS系デベが何処まで持ち堪えられるのか興味深い。恐らくは自らの手で非効率な衣料部門/住余部門を撤去し、テナントを導入して「SSM+モール」の形態に変質していかざるを得ないだろう(「SSM+PDS」というハードルの高い選択もある)。ダイエーの姿はすべてのGMSの明日を占うものと言って過言ではあるまい。
 ※PDS:ブランドビジネスから企画を供与されたNPBショップやセレクト編集売場で構成されるソフトライン大型店。

バリューを欠くGMS衣料部門

 GMS不要論の元凶は魅力の無い衣料部門に尽きる。商品の魅力、すなわちバリューを構造的に欠いているからだ。
 バリューとは価格対比の価値の高さであり、企画力で価値を高めるか、販売力で消化率を高めて値入れを圧縮しないと成立しない。GMSにはブランドビジネスのような企画開発体制もクリエイティブな組織も存在しないし、ブランドビジネスからきちんと企画を買っている訳でもない。だから、企画力で価値を高めるには限界がある。
 専門店のような訓練された販売組織を確立している訳でもなく、売場スタッフは物流管理要員に留まっているのが実態だ。販売消化への適確な在庫編集運用など行える訳もなく、極度の低回転/低消化率に甘んじている。ゆえに毎シーズンのように巨額のマークダウンロスが発生し、それを補うべく調達原価を切り詰めるという負の連鎖が続いている。
 高いバリューを実現するには高回転/高消化率でロスを極小化し、より高い調達原価率(より低い値入れ)を実現する必要がある。しまむらは64.6掛けで買い取ってもロスを7.7ポイントに抑えて30%の粗利率を確保し、11.4回転で342%の交叉比率を実現している(06年2月期推計)。ポイントは36掛けでOEM調達してロスを9.4ポイントに抑えて60.3%の粗利率を確保し、13.6回転で820.5%の交叉比率を実現している(同)。対して、大手GMSの衣料部門は48掛け(歩積み含む)で買い取っても24ポイントものロスを発生させて粗利率は37%程度に留まり、4.8回転で交叉比率も180を切っている(イオンの06年2月期推計)。
 しまむらが32日で回転して当初値入れの78%強を実現しているのに対し(目減りは22%弱)、イオンの衣料部門は76日で回転して当初値入れの54%弱しか実現していない(目減りは46%強)。ディストリビューションの精度も消化促進への在庫編集運用の技量(これが本当のVMD)も格段に差があるのだ。
 これほど商品経営効率が低くては、GMS衣料部門のバリューは低く留まらざるを得ない。単純計算で見て、GMS衣料部門の商品はしまむらより34%割高になってしまうのだ。商品経営効率を抜本的に改善して調達原価率を高めない限り、GMS衣料部門の魅力は浮上するはずがない。

顧客無視のPB戦略

 商品経営効率を改善して調達原価率を高めるべきなのに、大手GMSは形だけのSPA化を志向して調達原価率を圧縮するという逆方向に向かっている。イオン/IYのPB大作戦は調達の中抜きに留まり、企画・開発〜ディストリビューション〜在庫編集消化という循環プロセスの高精度化/高速化というSPA事業の本質を志向するものとは言えないからだ。
 PB大作戦はまた、ソフトライン総合業態として欠くべからざる品揃えのバラエティと変化をも圧迫している。品揃えのバラエティは多様な調達手法の組み合わせがもたらすものだが、画一な調達手法による大味なPB売場の拡大でバラエティ豊かなベンダー企画のテイスト編集売場が圧縮され、顧客の選択肢は限定されてしまった。PB売場は調達手法が画一的なだけに、バラエティとともに変化と鮮度も失われがちだ。幾つかのSPA業態ではバラエティと変化を考慮し、OEM調達のPBにセレクト調達品を組み合わせているが、GMSのPB売場にはそのようなデリカシーは見られない。
 ソフトライン総合業態としてバラエティと変化を訴求する調達手法はベンダー企画のテイスト編集であり、PB拡張によって安易に圧縮されるべきではない。PB戦略が壁にあたったせいか早くもNBコンセ拡張へと転換が見られるが、ベンダー企画のテイスト編集売場を如何にバラエティ豊かに構成し、迅速適確な編集運用によって消化回転させていくかが売場の魅力を決するという本道を軽視してはなるまい。GMS衣料売場に顧客が何を期待しているのか、今こそ原点から考え直すべきであろう。

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