小島健輔の最新論文

日本SC協会 月刊「URERU」2001年9月号
『大型専門店導入のキーポイント』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 旧大店法下のSC開発ラッシュで大型専門店導入がブーム化したが、結果としてどのSCにも似たような顔ぶれが並んで同質化に陥り、販売効率やリース収入も期待ほどでなかったりと、反省の声も聞かれる。開発ラッシュも一段落してSCの真価が問われる今、今後も大型専門店を導入すべきか否か、入れるならどう活用すべきか、真剣に検証すべきであろう。

大型専門店導入のメリット

 集客効果ばかりに目が行ってゾーニングを無視したような導入も見られる等、大型専門店のメリットを活かし切れていないケースも少なくない。まずは大型専門店導入のメリットをしっかり確認すべきだ。
 1)太い複合客流をつくる
 大型専門店と言ってもその多くはマルチ・ターゲット、マルチ・カテゴリーであって、従来の専門店のようにカテゴリーや顧客の間口を絞り込まないのが特色だ。確かにライフスタイルやテイストのコンセプトははっきりしているが、それが返って顧客とカテゴリーを拡げるというパラドックスが成り立っている。中には“無印良品”のように明らかにゼネラルマーチャンダイザーのカテゴリー構成を持つ大型専門店もあり、専門店と総合店の際に位置するのが大型専門店の性格だと考えられる。
 これがデベロッパーにとって魅力的な訳で、マルチ・ターゲット、マルチ・カテゴリーなだけに、大型専門店は集客力に加えて客層の複合流を作り出す効果がある。ともすれば客層と業種で客流が分岐しがちかモールにあって、毛細管化を避けて太い客流を作り出す大型専門店は不可欠の存在だ。サブ・アンカーという役割の本質はここにある。
 2)バリューとオリジナリティがある
 大型専門店の多くは独自の開発・調達体制を確立したオリジナルMDのSPA(企画製造直販専門店)であり、突出したバリューとオリジナリティを期待できる。類似した調達体制のSPA同士は類似したMDになってしまうという欠点は事実だが、ベンダー調達の一般専門店との差は大きい。
 3)新鮮な購買スタイルを提案
 大型専門店はその売場スケールを活かして、ダイナミックなVMDとフレンドリーな接客で魅力的な提供方法を確立している。これも一般の専門店にはなかなか期待出来ない事で、新鮮な購買スタイルでSCの客動員に貢献しているはずだ。
 4)リーシングの効率化
 「ゾーニングのコアが決まるので、一般テナントを入れやすくなる」、「奥の深い地型が貸せるから賃貸面積率を高められる」、「大区画単位なのでリーシングがシンプルで手間取らない」等のリーシング上のメリットもある。キーとしたい大型専門店の要求する無理難題に手こずって手間取るケースもないではないが、今や一般的な手順となっているようだ。
 これだけメリットがある以上、後述するようなデメリットはあっても導入しない訳にはいかない。要は大型専門店の本質的なメリットを活かした導入が出来るか否かなのだ。 

大型専門店導入のデメリット

 もちろん、大型専門店導入にはデメリットもある。その主なものは以下の三点であろう。
 1)バラエティが損なわれる 
 大区画なため、何店も導入すると絶対店数が減ってバラエティが損なわれる。しかも、大型専門店の多くは平成ニューファミリーや団塊ジュニア狙いでターゲットが重なり、SPA同士は似たような効率的なMDになりがちだから、バラエティはさらに損なわれる。その意味では“アベイル”のようなSPAでないバラエティ訴求型の大型専門店にも注目すべきだし、小粒のスパイスショップをもっと活用したほうがよい。
 2)各駅停車されて差別化効果が薄まる
 大型専門店にとってSCは類型化した商業施設であって、集客と売上が読みやすいのがメリットだから、類似したSCに各駅停車で出店することになる。デベロッパーとしては期待した差別化効果が薄まり、失望するケースもあるだろう。これは本質的な同床異夢だが、SCのタイプに応じてカテゴリーバランスやフェイスを替える努力を求めてもよいのではないか。
 3)販売効率やリース収入が期待ほどでない。
 高い販売効率を期待して、あるいはゾーニングのキーとしてどうしても必要だから、一般テナントより格段の低レントで導入してしまうが、期待程の販売効率に達せずにリース収入の低さに苦しむデベロッパーも少なくない。それは大型専門店とて同様で、類似した大型専門店同士のSC内食い合いに彼等は極めて弱体だ。大型専門店の中にはあえて大型SCを避け、中型SC内での独占を志向するケースも見られるほど。これはデベロッパー側が反省すべき事ではないか。

大型専門店導入のキーポイント

 大型専門店の本質的なメリットを活かすには最適配置がキーと考えられる。そのポイントは以下の五点であろう。
 1)モールの客流を創る配置
 太い複合客流を創るのが大型専門店の最大メリットだから、ゾーニング計画でモールのどの位置に配するか、計算して導入すべきである。大型専門店ばかりを一ケ所に集めてしまうと、そこがひとつの核になる効果はあるが、一核型ではアンカーの対極、二核型ではモールのまん中でカーブさせた位置に配置しないと、客流が切れる所が出来てしまう。ましてや、モール構造を持たない多層型SC内での配置は難易度が高い。
 2)モールにリズムを創る配置
 大型専門店ばかりを並べるのではなく、間にスパイスショップやローカル専門店をはめ込んだり、雑貨系のテナントと衣料系のテナントを交互に配置したりして、モールに流れと溜まりのリズムを創り出す。同類ばかりを集める方が合理的に思えるかも知れないが、それではモールの客流は創れない。
 3)奥行きを活かす区画に配置
 大型専門店に格安のレントを提供出来るのは売り難い奥まで使ってもらえるからで、一般テナントと同じ奥行きで横長に配置したのではメリットが薄い。角地で奥行きの出る区画や二〜三スパンの奥行きのある区画を活用すべきであろう。
 4)空間を活かせる区画に配置
 天井高の低い区画では、大型専門店のダイナミックなVMDが活かせない。最低でも三ɗ以上の空間を提供すべきであろう。
 5)両向き区画に配置
 グラウンドフロアでは外向きに配してモールへの導入に活用したり、モールの角や平行するモール間に配してショートカットの客流を創る。悪く言えば通り抜けだが、集客力のある大型専門店ならではの効用だ。

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 このように考えると、始めから大型専門店の導入を前提としたモール設計が為されているかどうかが問われる事が解る。米国のSCでは奥行き二スパンが一般的だし柱芯間も11.4ɗもあるから、リース単位が80坪強の倍数になる。レントを割安に設定するためにも、建築構造からの革新が望まれる。既存の建築でこのような条件が揃わない場合でも、最低限の建築的改善を加えて大型専門店を導入すべきではないか。

販売効率と各駅停車

 販売効率と各駅停車問題への対応が残るが、後者については大型専門店側の出店政策であって、デベロッパーによるコントロールは難しい。多少は時間を稼げても問題の解決にはならないから、新手の開発に務めるしかない。
 販売効率はSCの商圏内購買額と占拠率から大体、水準が読めるはずで、導入する大型専門店が適正規模であってSC内類似店間競合が限られていれば、失望するような結果にはならない。逆に言えば、適性規模を大きく上回る面積であったり、過剰な類似店間競合があれば見込みを大きく下回るリスクがある。どんどん大型化している店であっても効率がいいのは中規模店であったりするから、他SCの実績情報をチェックすべきだ。どことどこが食い合う関係にあるかは意外な場合もあり、単に顧客層やカテゴリー、価格帯だけでは判断がつかない。これも導入済みデベロッパーの意見に耳を傾けるべきであろう。
 多数のSCを展開しているデベロッパーならこのような情報は容易に手に入るだろうが、そうではないデベロッパーは情報不足で判断を誤りがちだ。日頃から、他SCの販売情報を入手する体制を確立しておくことをお勧めする。

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