小島健輔の最新論文

繊研新聞2009年10月15日付掲載
第104回全国有力SCテナント調査2009年夏商戦(5〜7月)
『単価ダウンに耐える低コスト/高スピード体質に再生せよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

投げ売りとなった夏商戦

 今夏商戦は本統計開始以来の販売不振に沈んだ春商戦から大量の不振在庫を引き継ぎ、初っ端の連休明けから値引きが始まって6月はプレセールやシークレットセールが氾濫。フライングの果てに6月末に前倒したセールの勢いも一瞬で、7月に入っては60%引き70%引きの投げ売り状態となり、顧客の価格不信に油を注ぐ結果となった。
 百貨店婦人服洋品は86.5と昨夏から6.2ポイント、百貨店紳士服・洋品は83.8と同9.8ポイント、レディスブランド/ストアは87.5と同7.1ポイント、メンズブランド/ストアも86.2と同7.1ポイント水準を落として苦戦を継続。貪底だった春商戦からわずかに回復したとは言え多くは値引き販売によるもので、収益と資金繰りの悪化から夏の終わりには破綻する企業が続出した。
 8月は夏物在庫を抱えて秋物の立ち上げこそ遅れたものの、セールの引っ張りや端境い商品の健闘でわずかながら回復。9月に入ってはキックオフ・イベント(シーズン初めの軽い値引き催事)を仕掛けた一部百貨店が急浮上するなど明るい兆候も見られるが、大勢は低迷を継続しており、リーマンショック来の深刻な販売不振は2周目に入る公算が高い。夏物の投げ売りや外資ファストSPAの人気沸騰で衣料品の値崩れは一段と加速しており、秋商戦も単価ダウンが売上の足を引っ張りそうだ。

総崩れで好調タイプが見えなくなったレディス

 好調ブランドは昨秋商戦の56から釣瓶落としに減少し、夏商戦では10ブランドになってしまった。前年割れブランドが528と9割近くを占める実情では水面を超えている67ブランドを‘堅調’と評価するしかないが、それとてプレセールやセールのタイミングで数字が振れた事は否めない。よって、今回は水面上の全67ブランドをマップ上に記載し、タイプ別ツリー上での好調ブランド表記を割愛(メンズも同じく)する事にした。
 春商戦に続いて全ゾーンが水面下となり大半が9掛けを割ったが、セレクトショップは92.5と健闘し、プレタも91.7とセール効果でやや回復。ラグジュアリープレタは84.7、ラグジュアリーグッズは82.9と底這いを継続した。好調継続のコーストキャラクターを除けば、激安ファストSPAに圧されたセクシーガールの落ち込みが目立つ。タイプ別ではセクシーガールのコーストキャラクターのみ好調を継続し、ストア型SPAのカップルカジュアルキャラクターのみ堅調を守ったが、他タイプはすべて水面下となった。
 その中で好調ブランドはヤングカジュアルの「サリーズ」、セクシーガールの「ココルル」「アナップミンピ」「リズリサ」、ワーキングガールの「アパート・バイ・ローリーズ」「インタープラネット」、セレクトショップの「チャオパニック」、プレタの「ユー・バイ・ウンガロ」、ラグジュアリープレタの「アニオナ」と極めて限られた。一桁成長の健闘組ではトゥイーンズの「ピンクラテ」、カップルカジュアルの「アーノルドパーマー・タイムレス」、雑貨編集の「スリーフォータイム」、インティメイト複合の「チュチュアンナ」を挙げておきたい。

壊滅状態ながら一部ブランドが健闘したメンズ

 前年割れブランドが168と9割近くを占め好調ブランドが3と限られる以上、前年を超えた21ブランドを‘堅調’と評価するしかない。ほとんどのゾーンが二桁割れとなる中、SPAは90.5と9掛けを守り、クリエーターは92.2とやや回復したが、セレクトショップは89.3とわずかに9掛けに届かなかった。好調/堅調タイプは皆無で、セール効果で回復したアバンギャルドデザイナー、低価格スーツを軸としたクロージング編集ストア、トレッキング人気が下支えしたアウトドアカジュアル、「ユニクロ」を含むグローバルSPA、アメカジキャラクターSPA、ナチュラルモード系セレクトショップなど、一部タイプが9掛けを超えるに留まった。
 春商戦の好調ブランドはすべて脱落し、新たにギャル男系ハードカジュアルの「バッファローボブス」、プレップキャラクターの「ザ・ダファー・オブ・セントジョージ」、スタイリッシュモードキャラクターの「サビサビ・デラックス」が加わったのみ。一桁成長の健闘組ではトレンドキャラクターの「アフェールド・オム」、ユーズド編集SPAの「ウィゴー」、グローバルSPAの「ユニクロ」、クリエーターの「ヴィヴィアン・ウエストウッド」、ナチュラルキャラクターの「パラスパレス」、ブリッジキャラクターの「Zゼニア」を挙げておきたい。

単価ダウンが市場を圧縮する

 リーマンショック以降の消費冷却に激安ファストSPAの上陸が加わって衣料品の単価は急ピッチで低下しているが、外資ファストSPAの急速な多店化と国内SPAや量販店の迎撃、百貨店の低価格対応が単価ダウンを加速すると覚悟しなければならない。
 「H&M」は2店で年商110億円ペースに乗せ、「フォーエバー21」は1店で年商100億円近くを叩き出し、矢継ぎ早の出店で来年中には両社で年商1000億円を視野に入れると見られる。迎撃する「フリーズマート」も「フリーズショップ」の3〜4倍という販売効率で好調なスタートを切っており、他にも少なからぬファストSPA開発が進んでいる。内外のファストSPAが競って多店化して行けば衣料品価格のさらなる低下は避けられず、それがマーケット総体の萎縮に繋がってファッションビジネスの淘汰は加速せざるを得ない。
 法外な価格を押し通して来た百貨店でも低価格ブランドや低価格PBの導入が加速しており、既存ブランドの価格訂正も加わって秋物の販売単価は軒並み9掛け前後まで低下して売上を圧縮している。上場チェーンの販売単価推移を見ても、単価ダウンが売上を圧縮しているのは間違い無い。実際、91年以降の市場縮小は衣料品輸入単価の低下とほぼスライドしている(今年上半期の輸入品浸透率は96.3%!)。NBジーンズの特売は1990円、PBジーンズの激安合戦は880円までエスカレートし、ジーンズ業界は壊滅寸前まで追い詰められているではないか。

低コスト/高スピード体質に再生せよ

 単価ダウンと市場縮小が加速すれば、コストが高くスピードの遅い旧世代ビジネスは悉くマーケットから脱落せざるを得ない。‘コストが高い’とは、家賃や歩率などの不動産費や運営コストが高く、あるいは調達コストや組織コストが高いという事。‘スピードが遅い’とは、企画サイクルが低頻度で開発射程が長く、商品回転やキャッシュフローが遅く、業務プロセスが停滞して経営の意志決定も遅いという事。70年代型のライセンスビジネス、80年代型のデザイナー/キャラクタービジネス、90年代型の百貨店SPA、古典的な百貨店や量販店など、もはや絶滅が避けられないだろう。
 この大量絶滅に生き残るには画期的に低コスト/高スピードな事業体質に生まれ変わるしかない。それには調達でも販売でもコストが高くスピードの遅い、体質転換の足を引っ張る取引先や内部組織をすべて切り捨てるしかありません。茹で蛙的絶滅を回避したいなら、高コスト/低スピードな取引先と内部組織を躊躇なく切り捨て、ネットを含む低コスト/高スピードな販売チャネルと調達チャネルに軸足を移して新天地へ船出すべきであろう。

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