小島健輔の最新論文

繊研新聞2022年07月28日付掲載
『値引き販売のチキンレースをやめ、 分別回収で「キレイな古着」リサイクルを確立しよう』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 素資材や物流費の高騰に劇的な円安まで加わってアパレル製品の値上げは必定だが、限界まで調達原価を切り詰める「チキンレース」を仕掛けていたアパレルチェーン事業者はどうするのだろうか。

 ここで言う「チキンレース」とは、調達原価率をギリギリまで切り詰めて大幅な「値入れ」を確保し、高い販管費率を支えるとともに値引きの原資とするもので、商業施設の多くのアパレルチェーンが希望小売価格の30%台でオリジナル商品を調達する中、「チキンレース」に走るアパレルチェーンは30%を割り、タイムセール商品など20%割れで調達して来た。流通素材活用など有りそうな技はもちろんだが、ギリギリ品質の激安素材を使って縫製始末もギリギリに手抜き、サプライヤー(商社やOEM事業者)の手数料もゼロ同然に切り詰めて実現していると推察される。

 玄人目には「キワモノ」でも流石に今風のインスタ映えする外見は外してないから、素人さんも「ヤバソウ」とは薄々感じながらも「安いんだからまあいいか」と購入してしまう。何回か洗濯乾燥機を通せば見る見る風合いが窶れ、いずれ解れや色落ちなど不具合が出てくるが、その頃には「償却済み」と納得してゴミ箱に捨てられてしまう。「ゴミ箱に捨てる」とわざわざ言ったのは、分別回収されてリユースされる「来世」など期待できそうもないからだ。

 

■プラ仕分けより衣類仕分けが先だ

 渋谷区は22年7月からプラスチック系資源ごみの仕分けを細分化したが(ペットボトルに加えてプラマーク付きプラスチック製品を別途に仕分ける)、レジ袋や食品トレイなど流通プラスチックの大半を分別再生する意図は高く評価されるも、慣れないと正しい分別は難しい。そこまでやるのなら、再使用・再生可能衣類と衣類ごみ(「可燃ゴミ」)を仕分け、再使用・再生可能衣類も「綿百%衣類」「合繊衣類」「混紡衣類」と仕分けるべきではないか(衣類ではないが「綿百%タオル類」も仕分けたい)。

衣類やタオル類を「可燃ゴミ」とごっちゃにせず清潔に分別し、中古衣類としてリユースするのはもちろん、ウエス仕分けや反毛、マテリアルリサイクルを容易にすることも、トータルなリデュース※効率を高めて廃棄するゴミを削減するには不可欠だ。アパレル産業の聖地「原宿」を擁する渋谷区としてはプラ仕分けより衣類仕分けの方が先だったのではないかと思いたくなる。渋谷区の現状は指定11ヶ所の区施設に持ち込まない限り(持ち込む曜日や時間帯も制約される)、家庭回収では衣類は図表のような生ゴミ、紙ゴミ、油ゴミと一緒の「可燃ゴミ」に分類されてしまう。

 こんなことを言うのは、欧米と同様に再利用を前提とする放出衣類と衣類ゴミを端から別ルートの別物と認識してもらいたいからだ。寄付や分別回収が主流の欧米では「ゴミから仕分けた古着」という疑念は存在しないが、我が国では衣類ゴミから仕分けた古着が堂々と流通している。放出段階の仕分けが出来ていないのだから止むを得ないが、「ゴミから仕分けた古着」が流通している以上、「ゴミとは無縁な清潔な古着」という欧米の認識とは距離があり、「汚い、臭う」といった古着への偏見も消えることはない。それゆえ一部のマニアを超えたメジャーなマーケットになりきれず、とりわけ女性の利用が限られる(古着店顧客の二割程度に留まる)のは痛恨の現実だ。

※リデュース・リユース・リサイクル(Reduce・Reuse・Recycle)・・・Reduceは物を大切に使いゴミを減らすこと、Reuseは使える物は繰り返し長く使うこと、Recycleはゴミを資源として再利用すること(環境省地球環境局)。

 

■「ゴミから仕分けた古着」と「ゴミとは無縁の清潔な古着」

 焼却されるはずの可燃ゴミから分別するリユース・リサイクルについては環境省の研究報告でも不透明な部分が残り、中古衣類の供給実態から逆算すれば11万トン程度が可燃ゴミから古着として分別され流通していると推計される(2021年12月22日、本紙に掲載された私の寄稿『衣料品の供給と消費・廃棄・リサイクルの真実 サステナブルな無在庫販売を目指せ』を参照されたい)。この不透明な部分は同時に不潔なイメージの源泉でもあり、清潔な衣類放出・分別ルートの確立によって廃絶すべきと思われる。

リサイクルはゴミ行政とリサイクル業界の地域単位の協力関係と生活者の理解・協力で成り立っており、解消には相応の手順が必要だろうが、「ゴミから仕分けた汚い臭う古着」というイメージを一掃しない限り古着マーケットの本当のメジャー化はあり得ないし、衣類のリデュース効率も高まらない。ゴミからの仕分けを放置すれば「分別放出された清潔な先進国古着」というグローバルマーケットから日本放出古着(全450万トンの6%弱を占めるが単価から見れば廃棄品に近い)が締め出されかねず、輸出が閉ざされれば国内で廃棄される古着が急増してしまう。日本のアパレルビジネスがサステナブルであるために、早急に解決すべき課題ではないか。

 話は「チキンレース」の「キワモノ」商品に戻るが、ギリギリまでコストを落とせば物性的な耐用期限はもちろん感性的な賞味期限も短くなってしまう。思い入れの入らない商品は分別されない衣類ごみ(「可燃ゴミ」)として捨てられてしまうことが多い。大切に作られず叩き売られる「キワモノ」商品ほどリユース率は低く、コストを無理やり落とした素材は中途半端な合繊混になることも多くてウエスにも使えず、マテリアルリサイクルするのも難しくなる。「チキンレース」はリユースにもリサイクルにもリデュースにも影を落としているようだ。

 

■ブランドアパレルからホールセールアパレルへ主役が代わる

「チキンレース」の果てはどうなるのか。調達原価が希望小売価格の二割を切っても割高感が出るだけで、百貨店アパレルに見るまでもなく、すぐに経営が傾くわけではない。多くの百貨店アパレル同様、最終的に茹でガエル的破綻に至るにしても、破綻までの時間はたっぷりある(あった)。気が付いた時は手遅れだろうが、限界値ははっきりしている。直販コストが嵩んで販管費率が小売売上対比55%を超えたら、その事業は終わっていると腹を括るべきだ。

そんなアパレルメーカーやアパレルチェーンは決して少なくないが、「終わっている」という自覚はほとんどないだろう。「自分達は付加価値を極めている」という心地よい錯覚から醒めぬまま、販管費が肥大して破綻へとひた走っているのだ。そもそも販管費が嵩んで付加価値(粗利益率)が肥大している状況を「サステナブルでない」と認識しない感覚も相当に時代ズレしている。

北米のアパレルメーカーで高付加価値志向のD2C(直販)経営がもてはやされたのはひと昔前の話で、近年は直販コストが嵩んで粗利益率を嵩上げしても追い付かなくなるブランドアパレルが目立っている。ラルフローレンなど07年から21年で販管費率が13.2ポイントも肥大し、直近2期で45%も値上げして収益を確保しているし、PVH(「カルバン・クライン」や「トミー・ヒルフィガー」)も同12.5ポイント、リーバイ・ストラウスも同13.9ポイントも肥大して収益を圧迫している。

その一方、「チャンピオン」や「ヘインズ」で知られるヘインズブランズやカナダのギルダンアクティブウエアなど、卸に徹して低販管費に抑制するホールセールアパレルの方が却って高収益になる逆転現象が見られる。ヘインズブランズは同期間に販管費率が3.8ポイントしか嵩まず営業利益率は11.7%と3.0ポイント上昇したし、ギルダンアクティブウエアは逆に販管費率を7.8ポイントも圧縮して営業利益率を22.3%と8.8ポイントも高めている。

それは日本でも同様で、百貨店販路主体の高付加価値・高販管費ブランドアパレルからチェーン販路主体の低販管費ホールセールアパレルへ、アパレルの主役が交代しつつある。しかもOEM/ODM供給主体だから北米のホールセールアパレルより手離れよく在庫が回転し、CCC(Cash Conversion Cycle)も格段に速い。その詳しい事情は22年6月3日の本紙に掲載された私の寄稿『ダム型サプライから倉庫レスのOMOと下剋上のVMIへ』を読み返せばご理解いただけると思う。

新たなアパレルの主役となる高回転・低販管費ホールセールアパレルが本意ならずアパレルチェーンから「チキンレース」を担わされ、アパレルPLC(製品ライフサイクル)のサステナビリティが損なわれることが無いよう、最後に釘を刺しておきたい。

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