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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『イオンリテール「iC」の離陸要件』 (2018年12月10日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 イオンリテールのGMS改革は幾度も取り組んでは挫折してきたが、専門店ユニット複合の「イオンスタイルストア」の次は子供関連の「キッズリパブリック」、住居関連の「ホームコーディ」、インナーカジュアルの「iC」という大型カテゴリーキラー業態の複合を目指しているようだ。先行する「キッズリパブリック」に続いて業態開発を急いでいるのが「iC」で、10月20日にイオン船橋店、11月2日にはイオン板橋店を開設している。多店化するプロトタイプに近いという船橋店を取材して実像と課題を探ってみた。

「iC」とはどんな業態か

 売場面積はほぼ400坪で、インナーが200坪、レッグウエアが50坪、ルームウエア/ナイティが50坪、ホームカジュアルが100坪という構成。ウィメンズが60%、メンズが40%でキッズは扱っていない。

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 165cm高と240cm高の黒で統一した大型規格什器を並列したエッジーな売場環境とはいえ、カテゴリーとウィメンズ/メンズを縦横に割った配置はGMSインナー売場の定型を踏襲している。90cmピッチ背面両サイドガチャ方式の両面規格什器をレイアウトによって2〜4連結+エンドユニットに組み、ガチャに接続したバーにハンガーブラケットを組み付けるシステムもイオンリテールのインナー売場を踏襲している。

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 エスカレーターで売場が前後に分かれており、モール側は「PEACE FIT」(暖か機能下着PB)の大規模集積を前面に打ち出し、その後方にショーツ、エスカレーター前に同ソックス/タイツを配置。ソックスでは3足880円(税別)の訴求が目立つ。エスカレーター後方は、ウィメンズがホームカジュアル→ルームウエア/ナイティ→パンスト→ティーンズインナー→ミセスインナー→機能性カジュアルインナーと並ぶのに対し、メンズはホームカジュアル→ルームウエア/パジャマ→ソックス(NB中心)→肌着(ショーツを含む)と並ぶ。

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 前後の売場でメンズのソックスとショーツ、ウィメンズもショーツの重複があり、どちらの売場にもNBが点在するから、ちょっと混乱してしまう。モール側は若向きなデザインものと価格訴求品、後方側は大人向きなコンサバものという区分があるのかもしれないが、前後の売場で類似した商品もあるから交通整理が必要だろう。

 ぱっと見は「ユニクロ」のインナー/レッグウエア売場と似ているが、各カテゴリーにNB商材のフェイスも組み込まれており、PB比率は現段階でウィメンズが80%、メンズが70%とリリースされている。イオンリテールのインナー/レッグウエア/ルームウエア/ナイティ売場は通常250坪(ブランドランジェリーを含まず)ほどだから、ホームカジュアルを除いて2割程度拡充?されている。

解決すべき課題が山積

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「iC」の売場を見て、まず引っかかるのがMDの重複と水増しだ。前後の売場でカテゴリーの重複があるのに加え、各ユニットのSKU構成とフェイシング量にも無駄が目立つ。

『背高什器の採用で店頭在庫は従来売場より4割増えたが品番数は7掛けに圧縮した』と公表しているから、品番当たりフェイシング量は倍増したことになる。その要因の大半はカラーバリエーションの拡充だが、フェイシング量が不自然に多いSKUも目立つ。カラーの拡充とフェイシング量の積み増しは在庫回転の低下とロスに直結するから、坪売上げも在庫回転も改善を図るという目論見には疑問符が付く。

 重複を検証し、不要なカラーバリエーションも絞り込み、適正なフェイシング量に是正すれば、250坪程度でも十分な品揃えが可能なのではないか。販売効率と在庫回転の改善を目論むなら適正在庫と適正規模の検証が急がれる。

 在庫回転と消化効率という点ではPBの開発体制とサプライチェーンにも不安が残る。「iC」のPBは従来の「トップバリュ」の延長で、MDの組み方も “品番絞り込み×SKU拡充”という「ユニクロ型」に一段と踏み込んでいる。商品開発も素材や糸まで踏み込んで工場直の開発を一段と進めるという方針だから、完成度が高まり調達コストも圧縮できる半面でリードタイムは長くなり、中間で需給を擦り合わすベンダーもメーカーも存在しないから在庫の過不足は避けられない。

 工場直のPB生産でも店頭のフェイシング量をミニマムに抑えて週サイクルの補正生産を行うメーカーズシャツ鎌倉やそれを学んだユニクロの擬似受注生産システムなら需給ギャップを避けられるが、コストの低い海外遠隔地工場でのバッチ生産ではリードタイムが長過ぎて週サイクルの補正生産は不可能だ。売り減らしのダム型補給になって機会ロスと滞貨の狭間で苦闘することになる。メーカーやベンダー抜きの工場直生産にこだわらず、開発・生産制御に優れたメーカーやベンダーと組むセブン-イレブン型のVMIも組み合わせるのが離陸の早道ではないか。

 20年度までにはPB100%のSPAに移行して分社し、25年度までにはイオンスタイルストアの全店を「iC」に移行するとしているから、「ユニクロ」型のインナーウエアSPAを目論んでいると受け取れるが、ドップバリュで繰り返して来た“ユニクロ病”に陥らぬよう柔軟な発想が必要だと思う。

VMDにも課題があるが期待の有望分野 

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 “ユニクロ病”はVMDでも心配される。大型規格什器のフェイス展開でスケール感を訴求するセルフ販売VMDは補充や試着品の戻しに人手を要し、大型テーブルでの畳み陳列単品集積VMDはそれに加えて畳み直しの手間が膨大になる。加えて、パッケージ商品ではお試しサンプルをつるさないとパッケージの開封と戻しという手間が生じる。それらを検証してVMDが組まれているとは言えず、売上げが伸びると運営人時量がかさんだり、フェイスのメンテが崩れるリスクが指摘される。

 セルフ購入のプロセスを考えれば姿見やフィッティングルームの数と配置、レジカウンターの位置にも改善の余地がある。とりわけ姿見の配置と接客空間、フィッティングルームとレジの配置関係には抜本的な見直しが必要だと思う。

 インナー/レッグウエア/ナイティ/ホームカジュアル分野は「ユニクロ」や「無印良品」のドル箱であるにもかかわらずバラエティが限られ業態化もされておらず、数少ない空白有望分野であることは間違いない。しかも苦戦が続くGMS衣料部門の中で唯一、収益性を保っている優良分野でもある。固定概念にとらわれず現場の運用で分かった課題を実直に修正していけば、顧客にも売場スタッフにも優しい効率的に回せる業態に育てられるのではないか。「iC」がイオンGMS改革の三度目の正直になることを期待したい。

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