小島健輔の最新論文

ファッション販売2004年7月号
『SC出店で成功する秘訣』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

本格的RSC時代が到来

 昨年の新設47SCの平均面積は28,708平米と前年から44.6%も拡大し、3万平米超の大型物件は20SC、4万平米超に限っても15SCを数えたが、今年もダイヤモンドシティのアップグレードRSC開設連打を筆頭にイオンモールなどの大型SC開設がめじろ押しで、本格的なRSC時代の幕開けが実感される。
 3万平米超級SCの開設はダイヤモンドシティのソレイユ(広島/64,500平米)、アルル(橿原/39,000平米)、イトーヨーカドー核のステラタウン(埼玉/45,100平米)など、4月末までで既に6SCを数え、夏以降もダイヤモンドシティのルクル(福岡糟屋/69,000平米)、キリオ(木曽川/48,500平米)、堺北花田SC(55,000平米)、イオンモールの姫路大津SC(45,000平米)、浜松志都呂SC(67,000平米)、イトーヨーカドーアンカーの宇都宮ベルモール(42,000平米)、甲子園SC(46,300平米)等が控えており、最終的に20SCを突破する勢いだ。
 SCの大型化とともに出店テナント数も急増しており、03年の新設47SCの総テナント数は3492店と前年から730店(26.4%)、01年からは1214店(53.3%)も増加。大型SC開発ラッシュで出店機会が拡大する中、ファッションテナントの出店気運も確実に高まっているが、落とし穴はないのだろうか。  

SC選択ミスと甘い売上予測が招く大量撤退

 当社が主催するSPAC研究会のアンケート調査(04年4月実施)によれば、メンバー企業が過去1年間に出店した店舗のうち、売上予算対比実績(実績÷予算)が+−10%に収まる店舗のシェアは半分に満たず、90%未満の店舗が3割近くも存在する。これら約3割の初期からの失敗店舗に加え、老朽化や商圏環境の変化等で不採算化した店舗が撤退に追い込まれていく。
 過去のメンバーアンケートによれば、過剰出店の処理に追われた97〜98年は退店数が出店数を上回り、スクラップが沈静化した00年以降も出店数の半分前後は退店。10年間を合計すれば、出店数4916店に対して3470店(70.6%)も退店している。出店検討時の甘い売上予測やコストから逆算した売上目標設定に加え、ハナから勝てないSCを選択した事が巨額の除却損をもたらしたのだ。
 日本SC協会によれば、03年末時点で郊外SCは大小合わせて1297SCに達しており、もはや他SCと商圏がかぶらない立地は相当のルーラルでなければ存在しない。昨今の開発動向を見ても大型SC同士が至近距離で激突するケースが急増しており、商圏の食い合いによる販売効率低下が深刻な問題になっている。
 開設時は予算をクリアしていても、ほんの1〜2年で商圏内に大型SCが新設され、売上が一気に落ち込むケースさえ出て来ている。SCの選択も先の開発計画まで見据え、慎重にならざるを得ない。
 では、どうすればSCの戦闘力を予測できるのだろうか。様々な手法があるようだが、十年間に渡って数百のSCを検証してきた当社の売上予測システムでは、既に相関係数0.995という精度でSCの売上を予測できるところまで来ている。  

勝てるSCの見分け方

 SCの戦闘力は様々な要素が絡み合って決定されるが、成功SC/失敗SCにはそれぞれ共通する要素がある。今春までの1年間にSPAC研究会メンバー企業は17のGMSアンカー大型SCに計156店を出店しているが、メンバー店舗の予算対比実績を基準にすれば、高評価7SC/低評価6SCが浮かんでくる。デベロッパーや出店立地等の6つのチェック項目について、高評価SCと低評価SCを比較してみた。
 (1)成功率の高いデベロッパー
 17SC中の13SCをイオン系が占めるとは言え、高評価7SCはいずれもイオン系。逆に非イオン系4SC中3SCが低評価で、開発数でも戦闘力でもイオン系の優位は動かない。イオン本体が手掛けたメトロポリスサバーブ型では失敗例も目立つが、イオンモールが開発したルーラル型や地方都市サバーブ型は成功率が突出して高い。巨額の授業料を払って実績を積み上げ、ノウハウを確立して来ただけの事はある。
 同様にノウハウを確立して成功率が格段に高いデベロッパーとして、アップスケールRSCのダイヤモンドシティ、アウトレットモールのチェルシーが挙げられる。これらは“ブランドものデベロッパー”と言うべきで、三井不動産もライフスタイルセンター分野でブランド確立を急いでいる。「安物買いの銭失い」という格言があるが、少々、条件が高くても成功率の高い“ブランドものSC”を選択するのが賢い出店戦略なのではないか。
 (2)失敗の少ない出店立地
 高評価SCは地方都市サバーブ5SCに対してメトロポリスサバーブ2SC、低評価SCはメトロポリスサバーブ5SCに対して地方都市はアーバンエッジの1SCのみと、地方都市サバーブ立地の方が格段に成功率が高い。イオン系の低評価3SCは、いずれもイオン本体の手掛けたメトロポリスサバーブ立地だ。  この結果を見る限り、商圏が肥沃でも競合の激しいメトロポリスサバーブより、商圏が薄くても競合が少なく広域商圏が取れる地方都市サバーブの方が好結果となる確率が高い。但し、商圏密度の薄い地方都市ではライバル施設が出来れば商圏は一気に狭まってしまうので、周辺のSC開発計画の確認が不可欠だ。
 (3)勝てるSC構造
 高評価7SC中6SCがモール型で、ハコ型は1SCのみ。逆に低評価6SCでは半数の3SCがハコ型で、「ハコ型のアンカー棟+オープンモール」を加えれば4SCを占める。郊外商圏におけるモール型SCとハコ型SCの集客パワーの差は明白で、同じテナントでもモール型SCとハコ型SCでは販売効率も伸び率も大差がある。多層駐車場からの流入や昇降導線の充実でSC内ロケーションによる客流格差の少ないモール型SCに比べ、ハコ型SCはSC内ロケーションによる客流差も大きく、出店には慎重さが求められる。
 今日でも閉鎖店舗のリモデル物件やスーパーセンター志向のGMSアンカーSC、イトーヨーカドー系のSCはハコ型で開設されているが、SC内ロケーションによる格差もあって苦戦するテナントが目立つ。とりわけ百貨店撤退後物件は高層ハコ型で駐車台数も少なく、SCに仕立て替えるとフロア間の客流差が大きく、テナントの販売成績に極端な格差がつく。館全体でも売上予算に遠く及ばない失敗物件がほとんどだ。
 (4)総SC面積による明暗
 高評価SCの総SC面積平均値(共有部分含む)は49053平米に達し、うち3SCは6万平米を超える。対して低評価SCのそれは32879平米と前者のほぼ3分の2で、3SCは3万平米に満たない。統計的に見ても、商圏密度の薄いルーラルやローカルで4万平米以上、競合の激しいメトロサバーブや有力な地方都市サバーブでは5万平米以上ないと必要な商勢圏を確保できないようだ。しかも最近は将来の競合に備え(ライバルSCの新設を抑止する意味も)、前者で4万5千平米以上、後者では6万平米以上を確保するケースが増えている。
 上記の下限スケールに満たない3〜4万平米級の疑似RSCタイプは商圏拡張力が弱く小商圏対応にも徹し切れず、失敗率が最も高い。3万平米以下なら定期借地権方式などの軽装備のライフスタイルセンターに徹し、低コストで足元商圏を確保する方が勝ちだ。 SCスケールは商圏拡張力や対ライバル戦闘力を左右する重要な要素で、将来の拡張余力やその計画の有無も確認すべきであろう。
 (5)駐車台数は充分か
 高評価SCの駐車台数平均値は2958台で、3SCが3000台を超えている。対して低評価SCの駐車台数平均値は1768台と高評価SCの6掛けで、5SCが2000台未満。総SC面積100平米当り駐車台数も、高評価SCの平均6.07台に対して低評価SCは5.68台と、ひと回り少ない。
 商圏環境やSCスケール、テナント構成に問題がなくとも、過少駐車台数やアクセスの悪さが慢性的な渋滞を招いて車客を遠ざけ、売上が低迷するSCも少なくない。ルーラルや地方都市サバーブでは駐車台数の多寡は決定的要素で、総SC面積100平米当り6台が下限、広域狙いでは同8台が必要と言われる。
 駐車台数は足りていても周辺の交通事情が悪く、ドライブタイム商圏が物理的商圏より小さくなる場合は売上の足が引っ張られるから、出店検討時の確認が不可欠だ。
 (6)売場面積占拠率が売上を決する
 商圏内総売場面積に占める当該SC面積の占拠率はSC売上を左右する決定的な指標であり、商圏内総売上にこの占拠率と適切な係数を掛ければ、極めて精度の高い売上予測が可能だ。
 地方都市サバーブ型では、高評価SCの5km圏内売場面積占拠率が平均18.4%と20%近く、10km圏内も10.4%と10%を超えるのに対し、同立地の低評価SCでは5km圏内が10%に留まり、10km圏内は6%を割っている。
 メトロポリスサバーブ型では、高評価SCの5km圏内売場面積占拠率が平均9.4%と10%近く、10km圏内でも4.5%を確保しているのに対し、同立地の低評価SCの5km圏内平均は8.3%とひと回り低く、10km圏内は2.4%と半分強に留まる。
 商圏密度が濃い都市サバーブでは商業集積も厚く、不動産コストも高い。広域商勢圏を確保しようとすれば巨大施設が必要だが、交通渋滞などでアクセスが制約されがちだ。逆にローカルやルーラルでは商圏密度は薄いが商業集積も薄く、広域からの集客が可能で不動産コストも低い。
 売場面積占拠率の高さこそが成功に直結する最大要素であり、出店検討物件の売場面積占拠率は必ず検証しなければならない。メトロポリスサバーブでは2km圏/5km圏/10km圏、地方都市サバーブでは5km圏/10km圏/20km圏、ルーラルでは10km圏/20km圏/30km圏、いずれもドライブタイム15分圏/30分圏の検証も必要だ。
 これらの検証には“ターゲティング・マシン”などの商圏分析ソフトが不可欠だが、活用するには最新データの追加入力などのメインテナンスが必要で、その費用もばかにならない。大量出店する企業なら充分に元がとれるから必装備だが、中小には負担がつらいだろう。誠実な(自信がある)デベロッパーはこれらのデータを公開しているから必ずチェックすべきだが、多くのデベロッパーは都合のいいデータだけを発表しているのが実情だ。
 当社では“ターゲティング・マシン”を常時、フル・メインテナンスで活用しており、新規開設予定の大型SCはすべて検証して売上を予測している(最新の判定結果の一部を、当社のホームページで公開しています)。

特待条件で誘致されるには

 勝てるSCを選択しても、デベロッパーが評価してくれなければ有利な出店は成り立たない。魅力のない業態では門前払いされてしまうし、定価で出店しては“カモねぎ”を演じるだけで利益は望めない。が、大手企業の人気業態ならいざ知らず、全国区では無名のローカルチェーンが特待条件でモールの一等地に招かれるケースも少なくないのだ。
 ブランドものの大型SCともなれば、大手でも不人気業態は門前払いを食いかねない。そんな中でデベロッパーが特待条件で誘致する業態とは、いったいどんな条件を備えたものなのだろうか。一言で言って、『モールの構成上で必要不可欠だが、存在しないか都心立地にしか出ない業態』がそれだ。つまり、現在足りている業態からは次の特待テナントは出て来ないという事だ。
 一連の新設SCには、どの様なファッション関連業態が出店しているのか。それを知れば足りつつある業態、不足している業態の目安になるのではないか。
 03年以降にオープンした24の郊外大型SCのファッション関連テナントを集計すると大量出店が目立つのがファミリー業態で、「ハッシュアッシュ」の19店を筆頭に「グローバルワーク」が16店、「組曲ファム」が14店、「コックス」が12店、「avv」と「ライトオン」も11店と10店を超え、「3CAN4ON」「オリンカリ・ザ・ショップ・オゾック」「コムサイズム」も9店を数える。合計すれば28業態で173店/1業態当り6.18店と突出しており、郊外SCにおけるニーズの大きさを示しているが、そろそろ食傷気味の業態も多い。
 レディス+メンズ業態も「ザ・ショップTK」の16店を筆頭に13業態で52店/1業態当り4.00店を数えるが、シャツのシングルライナー業態なども含まれており、まだ充足感はない。メンズ業態は旧世代が消えた後、百貨店ブランド系と「ハイドウェイズ」(ニコル)を除けば斬新な新業態がほとんど登場しておらず、不足感が強い。
 レディスは類似狙いの業態が乱立気味で10店を超える業態はなく、雑貨比率の高い「ジ・エンポリアム」の7店が最多。187業態で297店と総出店数は多いものの、百貨店ブランド系と「ローリーズファーム」などを除けば突出した業態がなく、1業態当りは1.59店に留まっている。
 生活雑貨業態は「ワンズ」の10店を筆頭に、なごみ系雑貨の「マザーガーデン」とホームリネン系の「ローラアシュレイ」が9店を出店。38業態で102店/1業態当りは2.68店とレディスを上回っているが、カテゴリー/テイストが多様で、米国のRSCやライフスタイルセンターと比較すれば、まだまだ新手業態の登場余地は大きい。
 レディスは大手アパレル系を除けば多業態/少数出店に留まっており、顧客はおろかデベロッパーの認知も限定されている。都心型ブランド/業態の進出を除けば新たな潮流は見当たらず、閉塞感が強い。逆に言えば既存テナントにパワーがないわけだから、斬新なコンセプトの新鮮業態を投入すれば短期での離陸も可能だ。
 狙い目は過剰供給の団塊ジュニアの上の世代(キャリア〜ニューミセス)、モールに充満するアパーポピュラープライスの上の高質ゾーン(モデレート〜ベター)で、レディスウエアにランジェリーやコスメティックス、癒し系生活雑貨などをワン・カテゴリー加え、斬新かつ共感を呼ぶ店舗環境と提供方法で訴求すればチャンスが開けるのではないか。モールの不動産費を吸収するにはキーカテゴリーたるレディスウエアのコアはオリジナル開発が必要だが、不動産費の軽いライフスタイルセンターなら必ずしもその必要はない。
 レディスウエアに限らずSCで成功する条件は、1)ニッチなコンセプトで独占(不足している)ポジションを確保する、2)コンセプトを増幅する斬新な店舗環境と提供方法で集客する、3)顧客を軸にカテゴリーの際を超える購買慣習を確立する、4)不動産費を吸収できる高粗利益体質を確立する、の4点ではないか。
 1)〜3)を実現して当座のチャンスと特待条件を手に入れれば、4)は後付けで実現できる。高い志を持ってチャレンジすれば、顧客もデベロッパーも一度はこちらを向いてくれる。その機会を活かせるか否かは運と実力の 勝負だ。 

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