小島健輔の最新論文

ファッション販売2006年12月号掲載
小島健輔の経営塾12
『ブランド再生の極意』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 行き詰まった、あるいは壁にあたって伸び悩んでいるブランドの再生を任されるのはCOO名利に尽きる。異分野ではファンド型やコストカッター型も見られるが、ファッションビジネスの本道はやはり農耕的ブランディング型であろう。もちろん、現実のブランド再生は様々な手法を組み合わせ、短期的対策から中長期的再構築へとステップを踏んでいくものだが、小売店舗という農耕的現場を中核とする限り、荒っぽい狩猟的手法は一時しのぎにしか使えない。とは言え、スピードを欠いては勝機を逃してしまうから、両者の巧みな使い分けが求められる。ブランド再生という舞台に立ったCOOがどうステップを踏んで最速・最適な再生を果たすべきか、そのシナリオを提示しておきたい。

まず現状を鋭く掴め

 再生を要する状態に陥ったブランドはマーケットサイドかサプライサイド、業務プロセスや組織に深刻な病根を抱えているから、その因果関係を掴んで治療の優先順位を適確に診断しなければならない。それぞれ独立しているように見える病根も根底では必ず絡み合っているから、対症療法だけでは成果を得難い。根底の病根を見極め、対策手順を固める必要が在る。
 マーケットサイドでは価格と品質、フィットと面、テイストなどのポジション、MD展開サイクルと鮮度、さらに店舗布陣と競合関係を検証する。想定顧客と価格/品質/フィット/面/テイスト/店舗立地は噛み合っているか、競合ブランド群の中で優位がとれるMD展開やポジションか、顧客層は増加傾向か減少傾向か等をデータやマッピングで確認したい。各店舗の販売効率や前比、客数/客単価の推移、在庫回転や損益を立地パターンや人員配置との相関で検証する必要もある。
 マーケットサイドの問題点を洗えばサプライサイドや組織と業務プロセスの病根が読めて来る。コストや品質、ロットなど開発・生産背景の適否、射程距離や投入サイクル、それらに直結する業務プロセスや内外の分担関係などがそうだ。店頭在庫運用の流れを洗えば、投入サイクルやサプライ業務/運営業務プロセスのミスマッチも露見する。
 これらの病根がどう繋がっているか、どこから手をつければ絡んだ糸が解れていくのか、突破口を読み切る事が肝要だ。対症療法のもぐら叩きを繰り返していては消耗戦に陥ってしまうから、全体を眺望して突破口を見い出す必要がある。

対症療法と戦略的工作を組み合わす

 現実の対策は即、効果が目に見える対症療法から手を付け、現場がそれに熱中している間にゴールに繋がる戦略的突破口を開くという二段構えになる。前者は即、効果という対症性に加え、現場に目先の目標と手応えを与えて活性化するという目的がある。
 即効的売上アップ策としては在庫の積み増しと投入頻度アップ、店舗人員の増強・適正配置とVMD運用の精度・頻度アップ等があり、コストアップを売上アップが吸収して良循環が回りだす公算が高い。これを確実なものとするには、店頭の活性化と同時にインパクトあるプロモーションを仕掛ける事が不可欠だ。有名モデルやセレブを核とした雑誌キャンペーンやイベントの仕掛けを店頭やネットと連動し、ブランドへの注目度を一気に高める必要がある。現場に確実な手応えを実感させる上でも効果絶大なのではないか。
 即効的利益アップ策としては在庫と調達コストの圧縮、本部人員の削減等が考えられるが、品揃えの弱体化や品質の劣化、業務プロセスの混乱、売上と志気の低下といった副作用も大きく、悪循環に陥るリスクが大きい。現場に目先の目標と手応えを与えるというマネジメントを考えれば、よほど崖っぷちに追い詰められない限り、売上アップ方向の対症療法を選択すべきであろう。
 戦略的突破口は店舗布陣の再構築だったり調達背景の再編だったりと時間や費用がかかるものだから、対症療法でキャッシュフローを高め現場や取引先に期待感を盛り上げて時間を稼ぎ、その間に資金調達と突破工作を進める必要がある。この対症療法と突破工作の時間的リレーションが上手く行くか否かがブランド再生を決する事になる。COOとCEOの適確な連係が問われる局面だ。

離陸局面は大胆細心に

 突破口を開く局面に到達したとして、どう動くかで結果は大きく異なる。離陸局面の情況を慎重に判断し、全力疾走するか修正に動くか判断しなければならない。過去の実例を見ると十中八九は一旦、修正に動き、照準を訂正してから全力疾走に転じている。修正に手間取れば勝機を逸するし、修正しないまま疾走すれば挫折は免れない。修正不要でそのまま離陸というケースは極めて稀なのだ。  万全を期して突破口を開く時、イケると錯覚して修正が遅れ離陸に失敗する事もあるし、初期の結果がダメでも修正を重ねるうちに加速度がついて離陸出来る事もある。その情況判断と修正速度が事の成否を決めるのが実情なのだ。商品面では立ち上げから次シーズンまでの半年(実質2〜3ヶ月)が勝負と言ってよいだろう。店舗布陣では結果が出るまで時間がかかるし、そこからの修正(新規出店)も半年以上の射程ラグを要する。リスクは大きいが数店舗を一時に出して早く結果を出す必要が在ろう。  照準を修正すると言っても事は慎重とスピードを要する。短い間に結果を読み、何を外したのかどう訂正するのか判断しなければならない。滑走路上での判断は大きなリスクを伴うから、COOの真の力量が問われるのだ。

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