小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔が警告「衣料品の価格はもっと下がる!」』 (2019年02月01日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_664d57f7aafa81f8668f9d6b1fd4da3a342498

 慢性的な過剰供給でデフレが止まらないアパレル商品だが、一段とデフレが加速する兆候が広がっており、調達コストの逆ざやと消化率の底割れも加わって15〜16年の“アパレル氷河期”の再燃が懸念される。

販売単価と購入単価の乖離が広がっている

 上場アパレルチェーンは毎月や四半期ごとに既存店売上高の前年比とともに客数と客単価の前年比も公表しているが、その客単価と家計支出の衣料品購入単価の乖離がジリジリと広がっている。

 上場アパレルチェーン平均の客単価前年比と家計支出の購入単価前年比は13〜14年はほぼ一致していたが(0.1ポイント差)、15年は0.7ポイント、16年は1.2ポイント、17年は2.0ポイント、そして直近の18年は3.4ポイントと乖離が広がってきた。家計購入単価が下がり続けているのに対してアパレルチェーンの客単価は16年以降、ほとんど変化していないからだ。

 家計支出の衣料品購入単価は18年(1〜11月)も低下が止まらず、婦人服は平均4.3%、紳士服と子供服は同2.1%低下し、衣料品全体では3.0%とリーマンショック直後の09年以来の下げ幅に広がっている。購入数量は0.6%の微増に留まり、衣料品支出は2.4%減少している。業界側が思う以上に消費者の価格志向は強まっており、単価を下げないと客数が減ってしまうというジレンマが推察される。

 70年代は50%近かった正価対比の原価率が80年代の委託シフト、90年代のSPA化を経て、00年代の定期借家シフトと過剰供給の加速で今や百貨店流通で20%前後、駅ビル・SC流通で30%前後まで切り下げられ、お値打ち感が雪崩打つようにデフレしたのだから、消費者が価格に抵抗感を抱くのは無理もない。その分、セールやアウトレット、リセールに流れるのは必然なのだ。

二次流通が購入単価を引き下げている

 家計支出の購入単価は店頭やECはもちろん、アウトレットや中古衣料店、メルカリやフリマなどC2Cリセールまで全ての購入手段が含まれる。プロパーやセールの一次流通のみならず、アウトレットやディスカウントストアなどの二次流通、B2CやC2Cのリセールなど全ての購入単価の平均で、二次流通とリセールが単価を引き下げるから一次流通の上場アパレルチェーン平均より当然に低くなる。問題はその乖離が年々広がっていることで、家計購入における二次流通とリセールの比率が上昇していると推察される。

 メルカリの18年6月期の国内流通総額は3468億円と前期から49.5%も伸びて衣料・服飾だけでも1630億円に達するし、楽天ラクマの流通総額も17年12月期は1400億円に急増している。店舗主体B2Cのトレジャーファクトリーは32.8%、ゲオは13.8%、ECのZOZOユーズドも16.1%(19年3月期上半期)伸びている。

 実際、着用期間が限られる子供服はメルカリなどリセールの活用が一般化し、かつてはブランド品主体だった大人衣料のリセールもユニクロやしまむらなど大衆品まで大量に流通するようになった。リセールの販売価格はコンディションや人気にもよるがB2Cで新品の3分の1前後、C2Cではそれ以下だから、一次流通品より格段に手頃で、家計購入単価を引き下げている。

 二次流通はオフプライス流通が6兆円を超える米国と比べるとまだ黎明期だが、総供給量の過半が売れ残って処分されるわが国の実情を考えれば成長余地が大きく、遠からず爆発的急成長が始まると考えられる。二次流通やリセールの購入比率が高まれば家計購入単価はさらに下がり、一次流通単価との乖離が広がって販売価格を引き下げる圧力が高まる。

逆ざやと倒産ラッシュの悪夢が再燃する

 12〜15年にかけて生産地のコスト上昇と円安が重なってアパレル製品の輸入単価は38%も高騰したが、この間に家計購入単価は7.5%しか上昇せず、アパレル業界は逆ざやに収益を圧迫された。アパレル製品の輸入浸透率は18年度で97.7%と100%に迫るから、輸入単価の動きは調達単価の動きとニアイコールと見てよい。それに加えて15年、16年と続いた“アパレル氷河期”の購入数量減少(計10%)で最終消化率が48%にまで落ち込み、リーマンショック以来という倒産ラッシュとなったのは記憶に新しい。

img_8f7cda7a998c2e79061e2e70a99862b6685302

 そんな悪夢を想起させるのが18年(1〜11月)に再び拡大した逆ざやと最終消化率の底割れだ。為替は110円前後の円安基調が続いて輸入単価は3%の上昇に留まったものの、家計購入単価が3%下落したため逆ざやは8ポイント近くに広がった。家計購入数量は1%強回復したものの業界の総供給数量が4.6%も増えたため、最終消化率は46.5%まで悪化したと推計される。

 逆ざやは15〜16年の“アパレル氷河期”ほどではないものの最終消化率は当時より悪化しており、人件費や物流費、地代家賃のインフレにも直撃されて収益の悪化は当時より深刻な状況になっている。アパレル業界の平均経常利益率は0.9%と“アパレル氷河期”前の14年と比べれば半分以下に凋落しており、在庫リスクを考慮すれば実質赤字状態の企業が多数を占めると推察される。18年秋冬商品の販売不振が期末決算を直撃する2月、3月、悪夢が再燃するリスクは大きく、慢性的な過剰供給からの抜本的脱却が急がれる。

img_c1d6f6dc0a0c9163e05108054dddb399394843

論文バックナンバーリスト