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WWD 小島健輔リポート
『ワークマンの業績下方修正に見る「すれ違いの構図」』
(2024年02月09日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 バロックジャパン、TSIに続きワークマンも業績予想を下方修正し、アパレルの業績下方修正が広がる気配だが、その背景は外部要因に加えてマーケティングやマーチャンダイジング、出店政策など内部要因も指摘される。業績失速の構図は事業環境や顧客との「すれ違いの構図」と言っても良いのではないか。

 

■ワークマンは何故、業績の下方修正に追い込まれたのか

 ワークマンは2月5日、2024年3月期の業績予想を下方修正した。チェーン全店売上高は1758億8800万円と前回予想から2.8%、営業総収入は1349億9300万円と同1.2%、営業利益は234億4000万円と同8.9%、経常利益は239億5500万円と同8.6%、当期純利益は160億3000万円と同8.7%引き下げ、小幅増収ながら前回予想から一転して2期連続の減益となる。

 下方修正は第3四半期累計(4〜12月)の計画未達を受けたもので、チェーン全店売上高は計画に45億円(3.1%)届かず前年同期比2.5%増にとどまり、既存店売上高は同2.1%減少、客数も同4.7%減少した(客単価は2.7%、商品単価は4.4%上昇)。12月単月では既存店売上が前年同月比15.4%減少、客数は同15.5%も減少し、決算までの修復は困難と見たと思われる。

「ワークマンプラス」への改装店は一年目は売上が伸びても2年目以降は減少、既存店売上も4.3%減少、「ワークマン女子」新店は初年度は勢いがあるが2年目以降の落ち込みが大きく、既存店売上は11.8%も減少している。それでも「ワークマン女子」新店の売上寄与度は一番高いから(開店初年度売上平均は3億円弱、SC店舗は5億円を大きく超える)、積極出店を継続することになる。祖業「ワークマン」の既存店売上も2.5%減少しているのは「職人離れ」を推察させる(下方修正のヤフー記事には職人たちの批判コメントが殺到していた)。

 『暖冬でアスレジャー向け防寒商品が伸び悩む一方、プロ向けは堅調』と説明しているが、部門別に見れば「ワーク・アウトドアウエア」売上は前々期から減速して今第3四半期は前年を割り、「作業用品・レインウエア」も同様に減速して今期は前年を割り込んでいる。「レディス・ユニフォーム」だけは減速しても二桁増、「インナー・ソックス」も減速ながら二桁近い伸びを維持している。PB別に見れば、最もハードな「イージス」が急失速して前年同期比76.0%に沈み、ワーク&アウトドアの「フィールドコア」も急減速して一桁増に落ち、ワーク&スポーツの「ファインドアウト」は前期に急失速して水面を割り、今期はかろうじてその水準を維持している。

 コロナ明けによるアウトドアブームの冷却という環境要因があったとは言え、職人客に特化したローカル立地のFCビジネスから一般客(「ワークマンプラス」)、さらにはメトロエリアの女性客(「ワークマン女子」)を狙っての出店立地とマーチャンダイジングの一気呵成のドメイン転換がいくつもの「すれ違い」を生じさせ、運営スキルやマネジメントではギャップを埋めきれなくなったと見るべきだろう。

 ホットなファッション性を高めたアスレジャーアイテムがクールなメトロエリア(大都市圏郊外)客の嗜好とすれ違って失望を買い(「ワークマン女子」既存店売上の落ち込み)、プロ向け品揃えの縮小や滞店時間の長い一般客の増加に失望して長年の顧客だった職人層が離れても(「ワークマン」既存店売上の減少)、ホームセンターに慣れ親しんだローカル中高年層の支持は変わらない、というのが今のワークマンの実態と思われる。「ワークマン女子」既存店売上の落ち込みを痛感したからこそ、ローカルの小商圏(人口5万人以下の自治体)に顧客層もカテゴリーも限定しない大型店(500平米の「ワークマンプラス II」)を多店化するという方針に転じたのではないか。

 

■ワークマン2期連続減益の背景にあるもの

 チェーン全店売上(−2.8%)や営業総収入(−1.2%)の修正幅に比べて営業利益(−8.9%)の修正幅が大きかったのには幾つか理由がある。

第3四半期累計で前年同期から金額で18.2%、営業総収入対比で1.9ポイント、チェーン全店売上対比でも1.8ポイントも上昇した販管費の増加分については、「ワークマン女子」SC店舗の増加に伴う店舗運営業務委託料(SC店舗は販売代行であって直営ではない)と地代家賃(SC店舗は定期借地権のロードサイド店に比べ売上対比賃料負担率が3倍近い)が大きく、運賃と減価償却費が続く。上昇したとは言え、いずれもアパレル業界の水準を大きく下回っており、ローコストなローカルのロードサイドから高コストな都市圏のSCへ出店立地を上ることで生じる必然的なコスト増と受け止められる。

 調達コスト上昇をカバーすべく閑散期生産を狙った海外直接仕入れ比率を60.8%(前年同期比13.2ポイント上昇)に高めたことで、他社に比べ値上げを抑制しても(第3四半期累計の商品単価は4.4%上昇)チェーン全店売上高に対する原価率は47.6%と前年同期から0.7ポイントの上昇に止めることが出来たが、その分、販売までのリードタイムが長くなってDCの保管在庫が積み上がり、暖冬による防寒商品の伸び悩みも加わって、第3四半期末の在庫(本部在庫+加盟店勘定)は前年同期末に比べ31.9%も積み上がった(チェーン全店売上高は2.5%増)。

計算上の在庫回転日数は128.4日と同27.1日も延び、マークダウンが増加して店舗粗利益率は直営店で33.5%と同0.6ポイント、加盟店で36.2%と同0.1ポイント低下した。これは12月末段階の数字であり、1〜2月に在庫処分が進めば通常のアパレルチェーンなら期末までに数ポイントも切り下がることがあるが、継続定番の多いワークマンでは23年3月期も0.1ポイントの低下で済んでいる。継続定番品は持ち越せば良いとは言っても第3四半期末の積み上がった在庫を丸々持ち越すこともできないから、今期末は例年より多少、粗利益率が切り下がると見ているのだろう。

同盟型のVMI※でサプライヤーに補給在庫を分担してもらっていたかつての「ワークマン」なら期末の在庫処分は無縁だったかもしれないが、PB比率が67.7%に達して海外直接仕入れ比率が60.8%にも及べば在庫は自ら抱えるしかなく、「ワークマン女子」でホットなファッションアイテムも増えたから、持ち越せない商品も無視できない量になっているのではないか。

加盟店にとっても年々、売上が増える(収入も増える)のが当たり前の感覚になり、在庫を抱えて苦慮した体験もない世代が増えていると思われるが、17年3月期以来の既存店売上減少に直面して不安を抱く加盟店もあるに違いない。在庫リスクを丸々抱える直接調達のPBや次シーズンに持ち越せないファッションアイテムが増えてくれば、VMI時代の「ワークマン」とは次元を画した在庫コントロールや在庫運用(移動や集約)の仕組みとスキルが必要になるのではないか。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

 

■出世魚戦略が陥った「すれ違い」の構図

 ローカル生活圏の職人層を顧客とする継続定番主体の地味ながら安定したローコストFC事業「ワークマン」から、地域圏商業施設(SCやパワーセンター)の一般客にも間口を広げた売上も大きいがコストも嵩む直営・FC事業「ワークマンプラス」(SC店舗は販売代行委託)に手を広げ、ついにはファッション性を訴求して広域圏商業施設(ファッションビルや大型モール)の女子客(アラフォー以上が多いが)まで取り込もうという直営・FC事業「ワークマン女子」(SC店舗は販売代行委託)と、出店立地を昇るワークマンの戦略はあたかも出世魚のようだが、立地と顧客の変化に適応してマーチャンダイジングとサプライ、ストアオペレーションやディストリビューション、コストマネジメントも相応に変態しないと「すれ違い」が広がって経営効率が悪化しかねない。

フランチャイズビジネスであって直営のチェーンストアビジネスではないワークマンの場合、先頭を走る直営店は出店立地を上っても、大半を占めるFC店はローカルの生活圏立地を出られないから、地域圏業態「ワークマンプラス」はともかく広域圏業態「ワークマン女子」を広げるのは無理がありすぎる。

直営店とて実態は販売代行委託であり、直営店のレイアウトや陳列、マテハンを見てもワークマンにチェーンストア運営の見識とスキルが本当にあるのか疑わせるから、立地の大きく異なる多数の店舗のマーチャンダイジングやディストリビューションを上手くコントロール出来るとは思えない。「ワークマンプラス」のSC店舗は9店に止めても、「ワークマン女子」のSC店舗は前期末の11店に加えて今第3四半期末まで10店を新設する一方、ロードサイドにも前期末の15店に加えて8店を新設しているから、効率の低下とコストの上振れは避けられないだろう。

ローカルのワーキングウエアに発したワークマンのファッション感覚は人口が疎なローカルのライフスタイルに立脚しており、人口が密集するメトロエリア生活者のライフスタイルともファッション感覚とも乖離が大きい。その現実に目を背けたまま派手な仕掛けで煽っても、顧客の定着は難しい。国内外の試行錯誤を経て出店立地の壁を越える普遍的な「ライフウエア」に到達した「ユニクロ」のように、ワークマンも幾多の試行錯誤を経て立地の壁を越える「アクティブライフウエア」に到達するしかないのではないか。

私は「ワークマンプラス」がデビューした時、かつて「スポクロ」※が挫折した「ユニクロ」を脅かすライバルになると期待したが、初期の画期的な成功の勢いに乗って仕掛けが荒くなり、SPAチェーンストアとしての仕組みやスキルの緻密なステップアップが後手に回った感がある。立地の客層とマーチャンダイジングのすれ違い、業態展開とFCシステムのすれ違いを解決して成長軌道に復帰することを期待したい。

※スポクロ・・・97年に「ユニクロ」をファミリーカジュアルの「ファミクロ」とスポーツカジュアルの「スポクロ」に分割する実験に着手したが、98年にはどちらも撤収して「ユニクロ」のSPA進化に賭け、98年秋冬のフリースのブレイクで国民的カジュアルSPAと認知されるに至った。筆者の旧著「ユニクロ症候群」をご一読ください。

 

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