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ブログ(アパログ2018年05月07日付)
『緊急提言 商業施設デベはECの脅威を理解していない』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 SPAC研究会で05年来、毎年4月に行っている「商業施設デベ評価ランキング」では年々、駅ビル/都心施設デベに人気が集中する一方、郊外SCデベの人気凋落が止まらない。今年もベスト3をルミネ、アトレ、パルコが占める一方、07年までトップに君臨していたイオンモールは16位に落ち込んだ。

 

■郊外SC不調の背景

 その要因として、アベノミクス以降の大都市への人口と投資の集中、その一方での地方の過疎化進行、女性就業率の急上昇がもたらす店舗購入(品揃えが限られ時間を取られる)からECへの移行が大きいが、郊外SCデベなかでも量販店系デベの視野狭窄的SCづくりの弊害も指摘される。
 物販とりわけ衣料品の販売不振を補うべくフードサービスやエンターテイメントを強化して“時間消費”で集客を図る施設も増えたが、支出も時間もフードサービスやエンターテイメントに流れて購買客数も売上も増えず、却って物販店舗を追い詰めているのが現実だ。
 人口減少や競合の激化にECへの流出も重なって郊外SCの多くはジリ貧で、衣料品に関する限り小商圏のSCほど落ち込みが大きい。品揃えの物理的制約がないECでのショッピングが広がるに連れ、商業施設での買物は品揃えのバラエティが第一義に問われるようになった事も郊外SC、とりわけテナントのバラエティが限られる中小規模のSCにはダメージとなっている。

 

■地域顧客対応のバラエティが問われる

 消費の主流がECへと移る中、衣料・服飾など買い回り商品ではバラエティを欠く商業施設はECに対抗出来る利便性が無く、客足が遠のく傾向が見られるが、郊外SCとりわけ量販店系SCは親会社のGMSに大面積を取られて専門店のバラエティが限られる。GMSを入れない同規模のSCと比較すれば60〜100店も少なくなるから“致命的欠陥”と言わざるを得ない。
 そのバラエティも地域の客層とズレてしまえば空回りしてしまう。『同じ日本人だから全国一律で良い』などとまさか思ってはいないだろうが、欧米の「エスニックマーケティング」ほどリアルに客層対応を変えている訳ではない。衣料品の好みは世代はもちろん地域の生活文化や個人のライフスタイルが色濃く反映されるから、様々な客層が存在する。当社が掌握しているだけでも婦人で34タイプ、紳士で24タイプの好みがあり、商圏毎にその割合には大差がある。
 加えて、同一地域でも通りによって客層は一変する。同じ原宿でも表参道と明治通り、竹下通りとキャットストリートは人種が違うのかと思うほど異なるではないか。それはほとんど「テロワールマーケティング」の域だ。それを交通整理出来てないSCやファッションビルなど、フロアや通路で売上がバラついてテナントが定着しない。バラエティは地域顧客対応の実効性が問われるのだ。

 

■デベに対する最大の不満はオムニチャネル対応

 デベに対し最も評価が低い項目が「オムニチャネル販売への姿勢」で、店舗/EC一体の販売支援や課金ルールの統一など具体的なアクションを見せる三井不動産とパルコを除く全社がマイナス評価。マイナスポイントは家賃や共同販促費など費用負担に対する不満の7倍にも及ぶから、ECに圧されるテナント側の危機感は相当なものだ。
 テナントバラエティにせよオムニチャネル対応にせよ、商業施設デベの大半はEC対策を本気で考えてはいない。ECへの売上流出を恐れてタブレット接客を規制しても、館とECモールの二重課金負担を解消するプラットフォーム(三井不動産の&モールはそれに近い)を用意してくれる訳ではない。家電や家具がEC主体の販売に移行するのはともかく、主力の衣料品や服飾雑貨までECが主流になる日が迫るなど、恐らく想像だにしていないのではないか。が、英国では既に現実になり、中国や米国でも遠からず現実になるとしたら、商業施設デベはECデベと正面から利便とコストを競わざるを得ない。

 

■ECと共生へ商業施設デベの進化を問う 

 ECモールに較べてテナントも品揃えもバラエティが限られ、コストが高く利便も劣り、顧客に時間消費と物流労働を強いる商業施設は、「エスニックマーケティング」「テロワールマーケティング」を駆使した緻密な地域対応とEC一体のオムニチャネル利便を確立しない限り、ECに抗して生き残るのは困難だ。なのに大半の商業施設デベは事の本質を直視せず旧態依然な開発を続けている。このままではテナントチェーンも商業施設デベも共倒れになり、シャッター街化する商業施設が広がることになる。
 SPAC研究会では開業予定の商業施設を検証して延べ315施設の売上を予測し、開業後も出店メンバーの実績や施設全体の成績を検証して延べ556施設の推移を掴み、メンバー企業の出店と退店の判断を支援して来たが、商業施設総体が競合の過熱とECの拡大で効率を落としていく中、デベ側が謙虚に反省して進化しない限り、出店の抑制と退店整理を勧めざるを得ない。テナントチェーンにも商業施設デベにもSPAC研究会への参画とEC時代への適応を求めたい。

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