小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ストック室は店の魔窟だ』 (2018年06月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_cedceaf87c160667d523e3b774b75e294191327

 百貨店の売場は小奇麗に維持されていても、後方ストックはとんでもない無法地帯だったりする。綺麗にお化粧した売場とは裏腹に在庫やパッキンが階段室まであふれる様は、所轄消防署にご注進したくなるほどだ。百貨店に限らず、後方ストックには店舗運営の質も規律も露呈する。

後方ストックの盗難防止は抜け穴だらけ

 商業施設バックヤードの在り方は、第1に消防法の順守(なぜか入る日時が事前に知らされる消防検査のときだけ片付ける癒着体質はどうかと思う)、第2にピッキング効率(在庫探しが速く正確にできる分類配置)、第3が商品の品質維持(皺や汚れの防止)だが、実はそれ以上に基本的かつ重大な課題が放置されている。

 それは在庫の盗難防止だが、百貨店も駅ビルやSCも積極的ではない。というか『当社の管理責任ではない』という逃げの姿勢が強いのだ。駅ビルやSCでは在庫はテナントのものだから管理責任もテナント側にあり、百貨店でも消化仕入れ商品は販売時点まではブランド側の所有だから管理責任もブランド側にあるという論理になる。

 百貨店のバックヤードではベンダーごとにラックを分け、監視カメラを付けているケースもあるが、IDカードとパスワードや指紋認証で出入りを管理しているわけではないから盗難事件は少なからず発生している。高額ブランドは独自に鍵が掛かる区画を設けているが、一般商品では例外的だ。社員通用門で手荷物検査があっても身に着けてしまえば誰でも持ち出せるし、客を装った仲間に店内で渡してしまえばフリーパスなのが現実だ。

 駅ビルのバックヤードは各テナントのロッカールームがキーやパスワードロックで守られているが、多くはテナントのスタッフが自由に出入りできる集合ロッカーでパスワードの盗み見も容易だから、15年2月の新宿ルミネエスト盗難事件などが発生している。テナントやブランドが独自に防犯対策しない限り、百貨店や駅ビルのバックヤードなど『ご自由にお持ちください』的な無法地帯に近いのではないか。

フェイシング管理と入室管理の徹底が不可欠

 個々の店舗でも、出入りできる社員を限定してIDカードで出入りを管理しているケースは極めて稀で、当社が主宰するSPAC研究会メンバーアンケートでも『施錠してキーを持つスタッフを限定している』のは回答34社中1社しかなく、IDカードで入室管理している企業は1社も無かった。少なからぬメンバー企業が本社オフィスの出入りをIDカードやパスワードで管理していることと比較すれば、『商品は現金と同じ』という基本の崩壊が嘆かれる。

 フェイシング管理を励行していれば営業中のストック室出入りは限られるはずで、フェイシング管理時間帯以外の出入りが多いのはフェイシング管理の精度が低いか何らかの不正が行われていると見るべきだ。不正といってもスマホいじりから喫煙までさまざまで盗難とは限らないが、放置すれば店舗運営の規律が崩れ、不正の温床になってしまう。ガバナンスの崩れた小売業は後方ストックヤードを見れば即、分かる。

 フェイシング管理を朝夕励行し、ストック室の出入りをIDカード管理すれば、フェイシング管理時間帯以外の出入りが多い部門や個人を掌握できるから、フェイシング管理精度の改善はもちろん不正の予防も果たせる。レジの金銭管理はうるさくてもストック室の在庫管理が甘いのは『商品は現金と同じ』という基本が徹底されていないからで、店舗運営の規律も甘くなる。店舗運営の基本に戻ってストック室の管理体制を見直すべきだろう。

論文バックナンバーリスト