小島健輔の最新論文

マネー現代
『ユニクロ、ZARA…プロが教える「めちゃお得な商品」「じつは損する商品」の見分け方』
(2020年10月22日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

判断は「同クラス・同アイテム・同時期」ですべし!

アパレル商品の「お値打ち」は品質と価格のバランスで必然的に決まるように思われがちだが、現実にはピンからキリまであるから同じようなクラスの中でないと比較にならないし、需給関係や値崩れ状況にも左右され、肝心の「品質」についても様々な価値観がある。

消費者が「お値打ち」を比較するのは自身が購入するクラス内であり、ショッピングモールでお手頃なブランドを比較するときに、プライスタグのケタが違うハイブランドと比べたりはしない。同時期の同じクラスの同じアイテムなら価格も半ライン〜ワンラインしか違わないし、素材やディティールもワンクラスの差しかないから、一般消費者でも直感的に「お値打ち」を比較できる。

「同時期の」と断ったのは、シーズンの初期→中期→末期と「市場価格」が下がっていくからだ。

店舗で「見るべきポイント」

アパレル製品も季節の鮮魚や野菜と同じで、出始めは高くても潤沢に出揃えば価格が手頃になり、季節の末期になれば値崩れしていく。売り手側は鮮度や需給関係による値頃の変化に遅れて在庫を残したくないから、細かくライバルの売価変更(値下げ)をチェックしているし、過剰在庫を抱えれば早々に値下げに踏み切る。

店頭やECサイトで気に入ったらアイテムを見つけたら、キーワード検索(類似画像検索アプリもある)して類似ブランド/ストアの値頃を知り、割安かどうか判断すれば良い。

「直感的」な判断力というのは「人間力AI」のことで、類似のブランドやストアをネットや店頭で一周して目当てのアイテムを比較すれば、いまの相場と差別化ポイントは容易に掴める。

ワンライン安い方を選ぶか、ワンライン高くても「差別化ポイント」が抜け出ている方を選ぶか、個人の気分と懐具合によるが、両方が揃ったアイテムが見つかれば迷うこともない。

お値打ちが納得できなければ、値崩れするまで待つか、アウトレット店やオフプライス店、あるいは古着店で旧シーズン品を探せば良いが、ネットでの価格検索が難しく、実際に店舗を買い回る必要がある。

「真っ当な品」と「手抜き品」の分かれ目

前項で価格と比較する「差別化ポイント」と書いたが、「品質」はデザインやディティール、シルエットや物性感と並ぶ一つの要素に過ぎないし、受け取る側の価値観にも左右される。

数百回の洗濯にも堪える堅牢さを「品質」と見るか、丁寧に手洗いしてもワンシーズンでヨレたりほつれたりする華奢さを「品質」と見るか、合繊使いのイージーケアを「品質」と見るか、自然素材の風合いを「品質」と見るか、価値観は様々だ。

実際、「ユニクロ」は堅牢で洗濯を繰り返しても何シーズンも持つが、高価なイタリア製のハイブランドなど繊細で洗濯に弱く悲しいほど持たない。

「品質」の価値観は様々でも類似したアイテムに限れば、作り手側が意図した「品質」が真っ当に実現されているか、コストを落とすべく手抜かれているかは、消費者でも直感的に分かる。

縫製の不良品は検品段階ではねられるから、市場に流通するアパレル商品の縫製には裏地や縫い目の始末、柄の合わせを除けば(これらは一見で分かる)、素人が分かるほどの大差はない。素人目にもはっきり差が出るのが素材とパターンによる物性感とシルエットで、作り方が丁寧かどうかが露呈する。

縫製は生産ロットを大きくするか工程数を減さないとコストを削れないが、素材は質を落とせば確実にコストを削れる。実際、大手商社は毎シーズン、一見はそっくりに見える素材をクラス別に三段階(価格は3倍も違う)用意している。

だから、「安かろう悪かろう」「わけあって安い」商品は見るからに素材がぺなぺなだったり粗雑だったり、パターンが単純で(縫製工程数を削っている)シルエットが雑だったりする。

一般消費者が「直感的」に受け取る「真っ当な品」と「手抜き品」の分かれ目はそんなところにある。

「お値打ち」は作り方で決まる

アパレル商品の生産・調達方法で最も品質を追求できるのが「自社工場生産」で、ラグジュアリーブランドや高級プレタブランドでは定石とされる。シャネルやディオールは自社のアトリエで生産しているし、我が国でも三陽商会のコートは国内の自社工場生産だからハイブランド並みの品質が期待できる。

次に品質が高いのが「外注工場・自社管理・工賃払い調達」で、ブランド側がパターンや生産仕様を細かく詰めて裁断した素材と付属品を工場に渡し、工程と仕上げを管理して工賃を支払って製品を引き取る。高級ブランドでは必須の方式だが、素材を渡して裁断や細かい仕様は工場に任せるブランドもある(横流しや不良品が発生しやすい)。

お手頃価格でも「ZARA」のスペイン・ポルトガル生産見せ筋ドレスアイテム(全体の10%強しかないが)はこの方式で、素材も上質でプレス仕上げも自社工場で行なっているから見た目も良くお値打ちが高い。

「ZARA」でもカジュアル単品や値頃ドレスアイテムは「H&M」と大差ない次に示す「外注工場・製品買い上げ」だから、売場でこの工賃払い調達品を見分けられるなら超お得だ(上写真で例示した)。

品質が工場任せになりがちなのが「外注工場・製品買い上げ」で、要となる生産工程はブランド側のスタッフが管理しても基本は工場側の縫製仕様になるから、ブランド固有の味付けや品質管理は望み難い。百貨店の平場ブランドや駅ビルブランドの大半はこの方式だが、同じブランドでも価格を抑えた商品は次に示すOEM調達が多い。

ブランド側が生産工程を管理せず商社やOEM業者に任せっきりになるのが「OEM外注生産・製品買い上げ」で、ブランド側は何処の工場で作っているのか掌握しないことも多い。商社やOEM業者が独自の品質基準で請け負うから、大手商社ではブランド側の品質基準を上回ることもあるが、素材同様に工場も3ランク用意されるから、コストを切り詰めると品質は相応に落ちていく。

駅ビルやSCの手頃なチェーンは大半がこのOEM調達だが、さすがに「ユニクロ」は自社の生産管理者が工場に張り付いて工程と品質を管理する「外注工場・製品買い上げ」だ。

素人の「直感力」は正しい

一般消費者が生産・調達方法を見分けるのは難しいが、見て触って裏を見て直感的にしっかりとした品質感を感じれば間違いはない。逆に如何にもペナペナでかっちり感がなく、縫製始末もシルエットも雑で怪しげに感じる場合は、手抜きを疑ってかかるべきだろう。

素材が上質でパターンが立体的でプレス仕上げが丁寧だと上質な商品に見えるし、安手の流通素材を適当なパターンで作ってプレス仕上げが雑だと如何にも手抜きの安物に見える。その直感と価格のバランスで「お買い得」か否かを判断すれば良い。

アパレル業界は消費者を甘く見てはいけない

著名なブランドやアパレルチェーンでも、生産・調達方法や原価率は大きく異なる。

商社任せのOEM調達でギリギリまで品質を落として20%にも届かない原価率で作り、値引き販売を繰り返しても売れ残るブランドもあれば、自社工場や外注工場でも工賃払いで品質を追求し丁寧に作って原価率が50%にもなり、ほとんどが正価で売り切れるブランドもある。

どこが前者でどこが後者か、値引き販売の頻度や比率で消費者にも想像がつく。

値札が割高に感じられるかお値打ちに感じられるか、一般消費者の「直感力」という人間力AIをアパレル業界は甘く見てはいけない。素人の「直感力」は正しいのだ。

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