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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『衣料品はなぜ叩き売られるのか?』 (2018年07月23日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 衣料品の過剰供給と需給ギャップは年々ひどくなり、値引き販売を繰り返しファミリーセールやアウトレットまで駆使しても供給量の過半が売れ残るという惨状が定着している。当社主宰SPAC研究会メンバーアンケートでも歩留まり率(※1)は年々低下し、今年5月のアンケートではアパレルメンバー平均69.3%、リテイラーメンバー平均76.9%だった。リテイラーメンバー平均の方がやや高いのは、在庫消化運用のスキルとサイクルの差に加え、仕入れ商品については何らかのリスク分担があるゆえと推察される。

 定価で半分が売れ、残りが平均5割引で売れたら歩留まりは75%だから、定価で売れたのは半分強だったと推察される。SPACメンバーはかなり好成績な方で業界平均はアパレル/リテイルそれぞれ5ポイントほど低いと思われるから、定価で売れる率は百貨店や商業施設のカード会員優待を含めても4割前後に留まるのではないか。

 こんな状況が続けば消費者側も定価で買うとだまされた感を否めないから、キックオフやセール、ファミリーセールやアウトレットなど何らかの値引き販売で買うのが当たり前になっていく。それがさらに定価販売を追い詰め、売る側は利益確保のために調達原価を切り下げ、それがまた顧客を定価から遠ざけてしまう。この悪循環はどうにかならないものだろうか。

(※1)歩留まり率:総定価投入額に対する結果総販売額の比率で、その差は値引きと残品だ。ちなみに5月のSPACメンバーアンケートでは期末バーゲン後の残品率はアパレルメンバー平均11.3%、リテイラーメンバー平均9.2%だったが、業界平均はもう一回り多いと推察される。

衣料品が定価で売れない訳

 衣料品の定価販売が崩れた最大の要因は過剰供給と需給ギャップだが、その背景として以下の5点が指摘される。

(1)需給調整なき特攻調達

 発注者が利益もリスクも抱え込む水平分業型のSPA流通が主流になり、需給調整が効かなくなった。80年代まで主流だった垂直分業型の卸流通では素材段階と製品段階で需給調整が効いていたから衣料品の最終消化率は100%近かったが、SPA流通が大半の今日では50%にも届かない。受注が少なければ生産量を抑制し、ロットに達しなければ生産を取りやめるという当たり前の需給調整が効かないSPA流通の硬直性が指摘される。

(2)値引きと残品を前提とした過剰投入

 半期/年間の予算を立てる段階で、売上げを確保するため値引きと残品のロスを上乗せして投入予算を組むのが定石だが、年々ロスが肥大する中、初めからロスを上乗せして過剰に投入すれば値引きと残品を予約するようなものだ。ばかげた定石とは分かっていても売上げを確保するには止めるわけにもいかず、経営政策レベルで決断する必要がある。

(3)販売力を超えた過大ロット調達

 調達原価抑制を志向した生産地の南アジア移転が販売力を超えた調達ロットを強い、残品の山を築いた。国内⇒中国沿海部⇒中国内陸部⇒南アジアの順に人件費が安くなる分、非熟練労働者による分業の細分化で工場の規模が大きくなり生産ロットも桁が上がる。13年以降、中国の人件費高騰にあおられて数百枚の販売規模のブランドが数千枚、数千枚の販売規模のブランドが数万枚という“狂気”に走った結果、店頭にも出ないまま倉庫で腐る衣料品が大量に発生。それがECやアウトレットに氾濫したことも値崩れをあおったと思われる。

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(4)調達リードタイムの長期化がリスクを拡大

 調達ロットの桁が上がり生産地と消費地の距離が開けば調達のリードタイムが伸び、その分、需給ギャップも大きくなる。衣料品の生産は大ロットで分業するほど生産期間が長くなり、生産地が遠くなれば物流に要する日数もかさむ。発注段階と販売段階の時間差が開くほど、トレンドが変化したりライバルが類似品を仕込むリスクも大きくなる。

 国内や韓国、中国沿海部なら小ロット週サイクルの時間差リスクの少ない調達が可能だが、コスト抑制を狙った南アジア移転が時間差リスクを肥大させ、値引きと残品がコストメリット以上の損失を招いてしまった。

(5)顧客を見ない見切り企画・発注

 調達リードタイムが長くなれば、顧客の嗜好変化をつかめないまま欧米トレンドオフィスの情報などに依存した見切り企画・発注を強いられる。顧客の嗜好変化は前シーズンの流れを追わないとつかめないから、半年以上前の発注だと周回遅れになって外れるリスクが極端に高くなる。半年を切ればリスクは半分に、3カ月を切ればさらに半分に、6週前ならさらにその半分になるという感覚だろうか。

 原点的ファストファッションたるキャリーSPA(※2)など、週末の販売動向を見て数日で商品化して持ち帰り、次の週末には店頭に並べて圧倒的鮮度を訴求するが、ロットが小さくリードタイムが短いゆえの離れ業だ。無理にロットを増やして調達コストを下げても値引きと残品で食いつぶすチキンレースに四苦八苦するより、原点に回帰するのが賢明ではなかろうか。

(※2)キャリーSPA:韓国の東大門市場などで素材を調達して一晩か二晩で作らせ、ハンドキャリーで持ち帰る究極の小ロット短サイクルSPA。韓国の地方ブティックは毎週、夜行バスや自家用車で東大門に通うキャリーSPAが多い。わが国では80年代で消滅した小ロット短サイクル見込み生産ファスト・テキスタイラーの存在が背景となっている。

POS依存が売り切り編集スキルを損なった

 定価販売が崩れた背景は過剰供給と需給ギャップだけではない。売れた売れないを結果の数字だけで見て売場を見ないPOS依存経営の弊害も大きかったのではないか。

 毎月、主要商業施設を一周して数百ブランドの店頭MDとVMD運用を点検していると、『何で賞味期限前の商品まで値引きするのか』と暗澹とさせられることが多い。恐らくはPOSデータで消化進行が計画より一定以上遅い品番をAIがアルゴリズムで自動判断して警告し、本部のMDかDBが値引き指示を出しているのだろうが、全店ベースでは消化不振でも店舗によっては売り切れそうな範囲に収まっている場合もあるし、SKU(色/サイズ)によって消化が偏る場合もある。

 ゆえに店間移動で偏りを解消したり、売れ残りそうなSKUの売れ残りそうな点数だけ2次展開店舗に移動して値引き処理し、元店舗に残したSKUは定価で売り切るなど巧緻なDBテクを駆使すれば値引きロスは4〜8ポイントも圧縮できるが、そんなスキルがあるアパレルチェーンは極めて限られる。

 売場で見てもっと深刻な問題だと思うのが、『売れるはずの商品が売れないよう陳列されている』という現実だ。それで売れないからといって値引き処理しては利益が残るはずもない。店舗に『売れるはずの商品を売れるように陳列し、売れない商品も売れるように陳列する』編集陳列スキルがあったら、POSデータだけ見て叩き売って利益を食いつぶす、という愚かな慣習は広がらなかったはずだ。

 恐らくは経営陣のPOS過信が店舗の編集陳列スキルを衰退させたというのが実態だったのではないか。稼ぎ頭だった全盛期のイトーヨーカ堂衣料部門が見る見る赤字転落していった過程など、その最たる例だと思う。

失われた編集陳列スキルとは

 高度な編集陳列スキルは文書に書いても伝わらないから(売場で実践して見せれば分かる)別の機会に譲るとして、売場でどう陳列したら売れるのか、当たり前の基本だけでも列記しておこう。

〈1〉分類配置を定型化して顧客の購買プロセスを慣習化する。シーンやテイスト、カテゴリーの配置が混乱すると顧客が選びにくく、在庫消化も読めなくなり、在庫管理も在庫探しも手間取る。チェーンストアでは什器配置とカテゴリー配置を定型化してアドレス管理するのが基本だ。

〈2〉壁面より島面、元番地より出前打ち出しの方が桁違いに販売機会が多い。ましてやストックに寝かせては販売機会が無いから、朝夕のフェイシング管理を励行し、出前を増やし多頻度に入れ替えて多くの商品にチャンスを与えたい。壁面在庫を抑制して島面の出前を増やせば、販売効率も在庫回転も容易に高められる。

〈3〉小畳みより大畳み、スリーブアウトよりフェイスアウトの方が販売機会が格段に多い。姿置きでない限り、畳みよりハンギングの方が販売機会が多く陳列整理の手間もかからず、何よりさまざまな編集スキルを駆使しやすい。

〈4〉在庫状況に即して型/色/サイズのSKU誘導を組み替える。在庫がそろっていても型⇒色⇒サイズがベストとは限らず、紳士スーツなどサイズ優先、ニットなど色優先の陳列の方が売りやすい(お客さまは買いやすい)。補給が絶えて色切れしたら色優先陳列、サイズ切れしたらサイズ優先陳列に組み替えるのは衣料品売場運用の定石だ。

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 これらの基本に加え、立ち上げ⇒実需ピーク⇒末期売り切りの編集シフト、消化が滞ったときの「シーズン強制シフト」や「ルック再編」「カラーストーリー組み換え」など、編集陳列VMDは数字を動かす実効性がある実務スキルだ。

 春秋の公開セミナーで体系的に教えているが、組織の実務体系に定着させるには毎月の現場指導が欠かせず、最低でも3周(3年)を要する。手間はかかるが、編集陳列スキルが店舗に定着して承継されるようになれば、POSデータだけ見て叩き売る愚かな慣習から解放され、歩留まり率は飛躍的に向上する。衣料品の店舗販売で利益を出す玄人技とは何か、原点から考え直すべきではないか。

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