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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ロープレコンテストはもう止めませんか?』 (2018年06月08日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 不人気に少子高齢化や異分野の活況も加わってアパレルの販売員不足が一段と深刻化しているが、本質的課題を放置したままロープレコンテストなどで免罪符的にごまかしてきたツケは大きい。低報酬と立ちっ放しの長時間勤務、試着販売用衣服の社割購入負担に加え、スキルアップによる生産性の向上が限られること(だから給与が上がらない)、スキル評価が曖昧でキャリアアップが限定されることが指摘される。

ロープレコンテストの弊害

「ロープレコンテスト」(ロールプレイングコンテスト)とは商業施設やアパレルチェーンが接客のスキルを実演させて販売員を表彰する啓発イベントだが、接客の会話や振る舞いしか評価しないから「販売員」本来の業務を誤解させ、「あおり販売」を推奨するかの誤解さえ与えかねない。

「あおり販売」とは、かつて呉服業界で蔓延して顧客の離反を招いたチームプレイによる販売方式で、接客役、試着サポート役、お褒め役の3人で取り囲んで顧客を舞い上がらせ(長時間拘束する「押し込み販売」はもっと悪質)、必要以上の多額購入に誘導するものだ。テレビショッピングも似たようなチームワーク(キャスト/モデル/ゲスト)で販売しているが、その分、20〜30%という返品率を招いている。

 接客スキルで顧客を高揚させ買い上げをかさ上げても後悔と返品と疑念を招くだけで、売る側にもメリットがない。顧客の冷静な物品選択を専門知識でサポートするのが小売業の接客であって、キャバクラやホストクラブなど接待業の接客とは本質的に異なる。紳士服専門店の一部では3人以上のチーム接客が行われているようだが、私が「販売マニュアル」に関与する場合は「あおり販売」を回避すべく3人以上による接客を禁止している。

 より本質的な問題は、「販売員」の業務が「接客」であるかのような誤解を与えていることではないか。小売業の「販売員」には接待業の「ホスト/ホステス」と「黒服」のような分業がなく(百貨店には上から目線の「黒服」がいるが)、「販売員」は接客フロントとバックヤードの両面の業務を担うからだ。

「販売員」の4つの業務

 販売員のスキルはロープレコンテストの氾濫もあって「接客テクニック」と捉えられがちだが、現実には以下の4業務からなる。

1)品出し・補充・棚整理・在庫管理から再編集・陳列演出まで付加価値マテハン業務(これが本当のVMDです)

2)顧客の購買ニーズを適確につかんで商品を推奨し購買決定までサポートする接客業務(「おもてなし」は本質ではありません)

3)顧客の体型や着こなしと商品のパターンや物性をすり合わせるフィッティング〜修理採寸業務(知識とスキルが不可欠です)

4)精算と包装のクロージング業務(セルフ化/自動化が可能)

 店長ともなれば、これに5)レイバーコントロールと勤怠・意欲管理というマネジメント業務も加わる。これらのスキルをそれぞれに評価すべきで、ばっくり「接客」と捉えられてはたまらない。愛想良く接客するのは苦手でも、フィッティングやVMDの達人もいるはずだ。

生産性を高め、待遇を改善するには

 接客業務はスキルアップに限界があるし(限界を超えては弊害もある)、ECと店舗販売が一体化してウェブルーミングやショールーミングが購買プロセスに定着し、飲食店のようなエントリーシステムが普及すれば役割は限定されていく。高級店では販売員によるタブレット精算が主流になるにしても、量販的な店ではセルフ精算やAI自動決済が広り、クロージング業務も販売員から外れていく。となれば、販売員の生産性を高めるのは1)付加価値マテハン業務、3)フィッティング業務になるのではないか。

 ECと店舗販売が一体化し店舗がショールーム化すれば、マテハン業務は高付加価値なサンプル陳列中心になり(店受け取りとサイズピッキングは自動化される)、絵画や生け花などアートな素養が問われるようになる。顧客一人一人に対応するフィッティング業務はITではカバーしきれないから、素材の物性やパターン、縫製仕様に通じた修理加工のピン打ちも一段と重要になる。

 販売員の生産性を高め、待遇を改善していくには、店舗運営のシステム改革に加え、低付加価値業務を自動化したり切り捨てて高付加価値業務に集約し、1)〜5)業務それぞれに評価すべきだ。ならば誤解を招くロープレコンテストはもう止めた方がよいだろう。

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