小島健輔の最新論文

販売革新2007年6月号掲載
『最新SCを格付け評価する』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

昨春以降開業主要SCを総括する

 昨年は前年を18上回る79SCが開業し、商業施設面積4万平米超物件は21、5万平米超物件は15と大型SCの開発も加速した。07年は11月末の改正都市計画法施行を控えて駆け込み開発が殺到しており、3万平米超級だけでも33SCが開業を予定。08年も既に同28SCが計画されている。07年11月末までに着工していれば現行都市計画法で開発が可能で、08年いっぱい駆け込み開業が続く事になりそうだ。
 SC開発が過熱する中、従来のGMS核SCに加えてライフスタイルセンターと称されるGMS核抜きSCや百貨店核も含んだ大型SC、HCやカテゴリーキラーを核としたパワーセンター的SCなど多様化も進み、駆け込み開発もあって玉石混交が否めない情況となっている。
 実際、昨春から今春にかけて開業した主要大型SCの販売成績を出店したテナント企業のアンケート回答(当社SPAC研究会加盟のファッション関連34社336店舗)から集計してみても、SCによって「期待以上」級から「失望」級まで明暗が大きく別れている。デベロッパーが売上を公表するケースが減って外部から実情を掴むのが難しく、公表していてもSC全体の売上傾向とテナントの評価は必ずしも一致しないから(デベの公表数字には大本営発表を疑わせるものもある)、出店したテナントの生の声を集計するのが確実なのだ。
 集客力評価ベスト5は1)ららぽーと横浜、2)ラゾーナ川崎、3)イオン浦和美園SC、4)静岡パルコ、5)ダイヤモンドシティ・エアリ/イオンナゴヤドーム前SC、売上評価ベスト5は1)ラゾーナ川崎、2)ららぽーと横浜、3)静岡パルコ/アリオ亀有、5)ゆめタウン佐賀/イオン高崎SC、利益評価ベスト5は1)ラゾーナ川崎/ららぽーと横浜、3)アリオ亀有、4)イオン高崎SC、5)静岡パルコ/ダイヤモンドシティ・エアリ/ゆめタウン佐賀。トータルすればラゾーナ川崎とららぽーと横浜が突出と、三井不動産物件が上位を独占。これに続く静岡パルコ、アリオ亀有、イオン浦和美園SCまでがベスト5だが、イオン高崎SC、ダイヤモンドシティ・エアリ、イオンナゴヤドーム前SC、ゆめタウン佐賀も僅差で評価されている。
 集客力評価ワースト5は1)イオン札幌発寒SC、2)モレラ岐阜、3)イオン盛岡南SC/イオン神戸北SC、5)イオン福岡伊都SC、売上評価ワースト5は1)イオン札幌発寒SC、2)モレラ岐阜、3)イオン盛岡南SC/イオン神戸北SC、5)イオン福岡伊都SC、利益評価ワースト5は1)モレラ岐阜、2)イオン札幌発寒SC、3)イオン盛岡南SC、4)イオン神戸北SC、5)イオン福岡伊都SC。トータルすればイオン札幌発寒SC、モレラ岐阜、イオン盛岡南SC、イオン神戸北SC、イオン福岡伊都SCがワースト5だが、ニューポートひたちなか、イオン奈良登美ケ丘SC、オリナス、けやきウォークも評価が低い。
 経験の浅いデベの物件に低評価物件が目立つが、手慣れたイオン系でも玉石混交が否めない。物件で評価が割れるGMS核SCに対してGMS核抜きSCや百貨店核SCの評価は総じて高く(例外もあるが)、GMS核抜き論が高まるのは必至であろう。
 各SCの評価は開業1年ほど前に当社で行っているSC格付け(SC売上と衣料テナント坪効率を予測し、はっきり○×を出している)と大差なく、言わずもがなの結果となっている。SCの販売力はきちんと統計的に検証すれば、ほぼ+−5%程度の精度で予測できるもので、当社ではほぼ総べての大型SCについて精密な商勢圏分析をして格付け情報を提供している。
※参考資料はこちら

SC格付けの計算方法

 SCの販売力は量と質の両面から検証する必要があるが、量は実勢商圏内の人口と購買力にスライドする。デベロッパーの公表している商圏は実距離円形商圏がほとんどで、ライバル商業施設や地勢条件を考慮した実勢商圏を公表しているケースは限られる。実勢商圏が公表されていても希望的観測が加わっている事が多いから、鵜呑みにすべきではない。
 実勢商圏はライバル施設との規模とアクセス時間距離による吸引力計算をして商圏の境界(ハフモデル境界)を割り出し、その中の人口と購買力を算出するもので、売上予測の基準として高い精度が期待出来る。地勢条件も考慮して境界を設定するには高度な技術と経験が必要で、統計処理には高価なソフトウェアも不可欠だ。水面下で開発が進んでいる新手ライバル物件も漏らさず検証しておかないと予測が狂って来るから、ローカル新聞や商業施設開発専門紙などのチェックが欠かせない。
 質的な面では1)人口増加率、2)所得水準や所得帯別世帯分布、3)世代構成や世代別男女構成、4)持ち家比率や集合住宅比率などの世帯定着性、5)乗用車普及率、などを検証する必要がある。開発運営にあたるデベロッパー企業と核テナントも質を左右する重大な要件で、過去の実績を検証して係数化している。
 当社のSC売上予測は、百近い既存SCの商業施設面積と売上実績を基準に、各SCの3km圏/3〜5km圏/5〜10km圏/10〜15km圏の小売総売上と当該SCの売場面積占拠率のクロス計算から各層商圏の係数α(3km圏)/β(3〜5km圏)/γ(5〜10km圏)/θ(10〜15km圏)を立地タイプと核店舗タイプ別に割り出し、計算の基準としている。これは大型SCを前提としたもので、SM核などの小商圏SCの売上予測には適さない(1km圏/1〜2km圏/2〜3km圏といった設定が必要)。BR>  新規開設予定SCの売上を予測するには、1)当該SCの実勢商圏をハフモデル境界設定によって算出、2)実勢商圏の3km圏/3〜5km圏/5〜10km圏/10〜15km圏人口カバー率を算出、3)基準係数のα/β/γ/θに各層の人口カバー率を掛けて当該SCの実勢α/β/γ/θを算出、という手順を踏む。
 3km圏/3〜5km圏/5〜10km圏/10〜15km圏の各小売総売上にそれぞれの当該SC売場面積占拠率と実勢α/β/γ/θを掛けて積算すれば、ニアイコールな売上が推計出来るという訳だ。これにデベロッパーや核店舗の実績係数を加味すれば、かなり正確な売上予測が成り立つ。
 この予測売上を商業施設面積で割って大型SCの平均賃貸面積率で除せば賃貸売場面積当たりの販売効率が割り出せる。これに業種別の係数を掛ければテナントの平均的な販売効率が推計出来る訳だ。
 今秋から来冬にかけて開設される主要大型SCも既にこれらの手順を踏んで検証済みで、その中から幾つかの高評価SCを例示しておこう。

これから開設される高評価SC

  ●イオン大高SC
 JR東海道本線大高駅から約2kmのメトロポリスサバブ立地の09年春新駅開設予定駅前に08年春の開業を計画しているモール型CSC。5km圏内人口32万人/10km圏内人口116万人と足下密度は濃く拡がりも十分。商圏の成長力は豊かで、広域のカーアクセスもよい。ニューファミリーが多く子供も多い新興住宅地で、乗用車普及率も高い。デベロッパーはイオン本体で、ジャスコと大型専門店を3層モールで繋ぐ標準型。総店舗面積は63,500平米。駐車台数は3,600台とやや不足気味で、09年春の新駅開業を当て込んでいる。
 当社で算出した実勢商圏人口は42,4万人、市場規模は2,815億円と郊外百貨店でも成立可能なスケール。SCの予測売上は360億円、衣料品テナントの平均月坪売上は16,5万円が見込める。北約7kmに08年秋以降に開業を計画しているダイヤモンドシティ新端橋が開業しても、実勢商圏人口34,2万人、市場規模2,271億円、SC売上347億円、衣料品テナント平均月坪売上15,6万円が見込める恵まれたSCだ。
  ●イオン土浦SC
 JR常磐線土浦駅から約2.5kmのローカルサバブ立地に08年春の開業を計画しているモール型RSC。5km圏内人口13.1万人/10km圏内人口32.4万人と足下密度は薄く拡がりも限られ、商圏の成長力も全国平均並みだが、広域のカーアクセスは良好。ニューファミリーと子供に加えて20代も多いローカル新興住宅地で、世帯流動性も強い。乗用車普及率も極めて高い。デベロッパーはイオン本体で、ジャスコと大型専門店を3層モールで繋ぐ標準型。総店舗面積は62,300平米。駐車台数は4,200台と不足はない。
 当社で算出した実勢商圏人口は26,8万人、市場規模は1,593億円とやや小さいが占拠率が高く、SCの予測売上は343億円、衣料品テナントの平均月坪売上は16万円が見込める。

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 この他、アリオ北砂もまずまず評価出来るが、少なからぬSCに疑問符が付いている。要注意SCについては詳細を伝え難いが、今回検証した14計画SC中、高評価SC/準高評価SCは4SCのみで、要回避SCが4SC、残りはやや問題ありという結果であった。改正都市計画法施行を控えた駆け込み開発で玉石混交が加速しており、SCの選択には一段と慎重さが求められる。

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