小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『2022年はOMOで店舗回帰せよ』
(2022年01月06日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 コロナ禍ではアパレル業界の救世主となったECだが、EC比率が3割、4割ともなると弊害も無視できなくなる。OMOと言ってもECが主役なのか店舗が主役なのかで在庫の運用も組織体制も真逆になるから、PLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)視点で先を見据える必要がある。コロナが収束して店舗に顧客が本格的に回帰してくる明日に備え、顧客利便第一のOMO体制確立を急ぐべきだろう。

※OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ウェブルーミングから店取り置き、EC注文品の店受け取りや店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを圧縮するリテール戦略。

 

■EC拡大でOMO格差が広がった

 オーバーストアと過剰供給で店舗販売の効率が悪化してコスト倒れとなり、格段に人件費など固定費の軽いECへシフトを急いでいたところをコロナ禍が襲い、雪崩打つようにEC拡大に突き進んだアパレル業界だが、そろそろ頭を冷やして次の局面に備えるべきではないか。

 経済産業省の電子商取引統計に拠れば、コロナ禍の20年は衣服・服飾雑貨のECが16.25%(19年は7.74%)も伸びて22,203億円に達し、EC比率も19.44%(同13.87%)と大きく伸びた。大手アパレルの直近本決算EC売上も、21年8月期の国内ユニクロが前期から17.9%増の 1269.2億円(EC比率15.1%)、ベイクルーズが6.9%増の545億円(同推定55%)、21年2月期のアダストリアが23.4%増の538億円(同30.6%)、TSIが11.9%増の406.8億円(同30.3%)、21年3月期のワールドが15.4%増の389.1億円(同21.9%)、ユナイテッドアローズが11.7%増の326.3億円(同32.0%)と伸びたが、EC比率(各社とも国内売上ベース)は格差が開いた。

グローバルSPAでも20年11月決算のH&Mが39%増の520億SEK(EC比率27.8%)、21年1月決算のINDITEXが77%増の66億ユーロ(同32.3%)と、店舗の多くが休業を強いられる中、ECが急伸してEC比率も大きく伸びたが、両社の格差は一段と広がった。H&Mの21年11月期全社売上は6%増(速報)でECは第3四半期までで17%増(同期間の全社売上は13%増)だったのに対し、INDITEXの22年1月期全社売上は第3四半期までで37%増、ECは上半期で36%増(19年比は137%増)と、コロナ禍からようやく回復しつつある今期も全社売上/EC売上とも両社の格差は更に広がっている。

 国内大手各社の格差もINDITEXとH&Mの格差も、店受け取り・店出荷を軸としたOMO体制の格差を反映したものと思われる。有明自動倉庫からの出荷に拘った国内ユニクロのEC比率はコロナ禍で急伸しても15%強にとどまるが(21年10月8日からようやく店在庫引き当ての店受け取りを開始)、先んじて店在庫引き当てのOMO体制を確立した中国ユニクロは25%に達している。倉庫からの出荷から店舗在庫引き当ての店受け取り・店出荷に全面的に切り替えたINDITEXに対し、H&Mは各国の倉庫に在庫を積んで出荷する旧態なEC体制を脱していない。

倉庫在庫出荷のECと店舗在庫出荷・店受け取りのOMOでは、顧客利便も在庫効率も物流コストも圧倒的な格差がある。倉庫在庫出荷で宅配利便を高めようとすれば各消費地に倉庫を配置せざるを得ず、在庫が分散して在庫効率が悪化し、物流コスト削減のメリットも相殺されてしまう。もう答えは明確に出ているのだ。

※顧客利便の格差・・・・国内ユニクロは倉庫出荷では注文から店受け取りまで3〜7日も要していたのが、店在庫引き当てで最短2時間に短縮された。

 

■OMO体制を欠くEC肥大の弊害

 店舗拠点OMO体制に転換しないままECを拡大すると様々な弊害が広がり、EC拡大のメリットを食い潰してしまう。それは以下の5点だ。

 

1)在庫の分散と店舗品揃えの弱体化

 倉庫出荷型のECを拡大すれば倉庫に在庫が偏って店舗在庫の奥行きが浅くなり、機会損失で店舗売上が減少する。その弊害に逸早く気付いたのがINDITEXで、コロナ前19年の6月には各国の出荷倉庫を廃して店在庫を引き当てる方針に転換している(21年末までに転換を完了)。

コロナ禍ではEC売上の拡大を急いで出品するモールを広げたアパレル事業者も多かったが、複数のモールに在庫が分散すれば在庫効率は一段と悪化する。システム上で在庫引き当てを一元化しても、欠品を恐れて在庫を確保したいモール側の要求も根強く、物理的な一元化は困難なのが現実だ。出品するアパレル事業者としてはEC在庫を一ヶ所の倉庫に集中し、各モールの受注にドロップシッピング(出品者が顧客に直接出荷)で対応するのが理想だが、有力モールには在庫を預けて積まざるを得ない。

自社ECに集中するにしても、出荷倉庫に積み上げれば店舗在庫を圧迫することに変わりはない。同一倉庫に店舗向けとEC向けの出荷エリアを並べ(ピッキングの手順や機器が異なるので一体化は無理)、相互に在庫を融通する体制ならある程度回避できるが、ECの出荷規模が大きくなると現実の運用は難しくなる。

 

2)物流コスト負担の肥大

 倉庫に在庫を積めば保管やピッキングのコストが嵩むし(受注先行ならピッキング不要でスルー仕分け出荷できる)、中央または東西の出荷倉庫から全国に宅配委託すれば宅配物流費も嵩む。EC顧客に近い店舗からの出荷や店受け取りに比べれば、倍以上のコストを要するのは歴然だ。

 店在庫は大量一括のB2B物流でスルー仕分け出荷も可能だから、倉庫出荷の個別B2C物流に比べ物流コストもピッキングコストも二桁下がる。店出荷の宅配も載せ替えのないローカル直送だから、全国区の遠距離宅配の半額程度で済む。

 

3)顧客利便の限定

 EC受注に近隣店舗の在庫を引き当てれば、早い時間帯の注文なら当日宅配が可能だし、店受け取りなら最短、30分後から受け取れる。取り置きすれば現物を確認して試着もできるから、顧客にとっては利便性も安全性も高い。なのに中央倉庫からの出荷だと宅配到着は最短でも翌日以降になるし、試着もできないから返品率も高くなる。店在庫引き当てなら物流コストも格段に下がるから、店受け取りはもちろんローカル宅配も無料にしようと思えば可能だ。顧客利便の格差は歴然ではないか。

 

4)在庫運用の非効率化

 ECの販路間では当初の割り振り以降は受注引き当ての融通にとどまり、各販路在庫の硬直性(一旦、モール側の倉庫に入れると機動的な移動が難しい)もあって販路間の偏在補正移動はよほどの場合に限られるが、店舗間では初期配分・補充のあと、偏在補正移動と切り替え期の集約消化移動がルーチンに行われる。EC販路在庫は機動的運用が難しいことに加え、売れ残り品のロングテール販売もあって在庫が積み上がりがちで、店舗在庫より回転が遅いのが現実だ。ECモール依存度が高まれば全体の在庫回転が減速し(自社ECでは回避できる)、店舗の品揃えもバランスを崩し、在庫効率が悪化するリスクが指摘される。

 

5)顧客と店舗のエンゲージメント希薄化

 ECと店舗の顧客購買履歴を一元化しても、EC商品が店舗をスルーして顧客に届けば、店舗と顧客のエンゲージメントは薄れてしまう。EC購買履歴を販売員が共有しても、アンドロイドではないのだから接客中に逐一、データベースにアクセスできるわけでもない。商品情報にしても、顧客の側からスマホでアクセスしてもらうことは出来るが逐一、タグをスキャンしてもらう訳にもいくまい(後述するささげ情報を印刷した大型タグという手もある)。店舗ではフェイス・トゥ・フェイスの人的コミュニケーションが不可欠で、ECから取り置いて店舗で試着したりEC購入品を店舗で受け取ったりする触れ合いがエンゲージメントを高めていくことは疑う余地もない。

 

■顧客利便第一のOMOとは

 ECの顧客利便を第一に考えれば「速い、安い、安心」の三拍子が不可欠だ。「速い」は注文から受け取りまでの時間が短い、「安い」は送料が無料、「安心」は手に取って試着して確かめられることに加え、近くの見知った店舗で対面のコミュニケーションができることが大切だ。米国メイシーズの事例でも、店舗を閉鎖するとその地区のEC売上も落ち込むことが報告されている。BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)利便が失われることに加え、商品を見て試し対面でコミュニケーションできる安心感が損なわれることも大きいと思われる。

 店舗の顧客利便で必須なのが品揃えの豊富さと十分な商品情報で、ECに負けない豊富な品揃えと奥行、欠品なき迅速な補充に加え、手間なくECと同等の商品情報が得られることが必要だ。豊富な品揃えは大型の売場を必要とし、迅速な補充は中央の倉庫からではなく近隣店舗からのテザリング(融通)、商品情報は二次元コードのスキャンを要さず二つ折りの大型吊りタグ(ECのささげ情報をほぼ網羅できる)で表示したい。ならば、限られたサンプル商品を試してECで発注してもらうショールームストアは、試着サンプル取り回しの煩雑さに加え、品揃えの限定と受け取りまでの日数で顧客利便を損なうからOMOの回答とは言い難く、顧客の購買慣習も定着しないのではないか。

 品揃え豊富な大型の店舗も、出荷倉庫を兼ねる店舗からのテザリングも、家賃の高い駅ビル/ファッションビルや大型広域商業施設(モール)ではコストに合わないから、コミュニティ型やパワー型のLCC型商業施設、あるいはロードサイド店舗と組み合わせて布陣する工夫が必要だ。店受け取りや試着の来店利便を図るにも、テザリングや集約消化を図るにも、エリア内での計画的出店布陣が問われよう。

※LCC型商業施設・・・LCC(Low Cost Carrier)は単一機材の連続運用と乗り換えなしのローカル直行、必要最低限の機内サービスで低コスト低料金を実現する旅客機事業者。LCC型商業施設とは、重投資・フルサービス・高家賃なエンクローズド型広域モールに対して、低投資・低コスト運営・低家賃なオープンエア型生活圏商業施設を指す。

 

■OMOはローカル運用が要

 もうお判りだと思うが、OMOはECやSNSと店舗が一体となってエリアの顧客に応えるもので、ECもSNSもローカルな運用が必要だ。

 店舗とECの顧客データを一元化してエリア顧客の店舗とECの使い分けを掌握し(アプリが確実)、店舗布陣や顧客アプローチの参考にするのはもちろん、店舗発のローカルSNSやライブコマースで顧客のエンゲージメントを高め販売機会を広げていく。エリア店舗発なので出演する店舗スタッフにも親しみがあり、店舗集客効果も期待できる。エリア店舗在庫引き当てだから注文商品の宅配も速く、店受け取りなら格段に速くエンゲージメントも高まる。積み替えなしで直行するローカル宅配業者に委託すれば全国区の宅配業者より速くて安く、店舗間テザリングのルート便と一括契約すれば使い勝手も高まる。

 OMOは全国区でなくローカルエリア毎に運用するものであって、店舗とEC、SNSを連携してエリアの顧客に直接、アプローチするものだ。ならばOMOを運用する組織もローカルに分権するべきだろう。

 

■OMOへ組織体制も変わる

 自社企画商品を調達、販売するアパレルチェーンでは企画段階、調達・生産段階、配分・補給段階、偏在補正段階、集約消化段階と、PL各段階の手順を追って円滑な消化を図る必要があるが、本部集中の縦割り組織では段階毎、商品毎の個別最適になってPL総体の円滑な連携が出来ず、値引き依存で粗利益が損耗しがちで、個店やエリアへのローカル対応も手薄になる。

それを補正してローカル対応力を高めるのがエリアマネージャーへの分権で、エリア各店舗のマネジメントに加えて本部DB.と擦り合わせる在庫運用を委任する。ローカル発のライブコマースをやるにも在庫の確保が必要だし、逆にライブコマースやSNSで消化を促進したい在庫も掌握しているはずだ。

半期毎に本部DB.とエリアマネージャーが店別のカテゴリー構成フロー(予算)を擦り合わせるのは必須で、クラスター(カテゴリーと品番の間の運用単位)レヴェルの週次配分枠やSKU単位の欠品予防移動は自動計算に任せ、月度の店舗間偏在補正(一般に第3週)では両者がきめ細かく擦り合わせてエリア内の移動を決める。売り切り段階の集約消化移動はエリアマネージャーが主導するが、エリア内で消化しきれない場合はDB.と協議してエリア間移動を図る。

 このように在庫運用でもOMOでもエリアが経営単位となるから、エリアマネージャーを支配人格に位置付けて店長に対する指揮とエリア内の在庫運用を委任し、エリアの損益達成責任を問うべきだろう。エリアのローカルマーケティング、店舗布陣や出退店の意見具申、催事の企画・運営に加え、ローカルSNSやライブコマースを軸とした地域顧客とのエンゲージメントも統括する。地域顧客に寄り添う店舗軸のOMO体制を確立するには、組織もエリア分権型に変わる必要がある。

 

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